オフシーズンが始まり、俺はスーツを着用して、ヤクエナ本社ビルに来ていた。
「大久保選手だ」
「なんで大久保選手が?」
今日は株主総会。
何故1選手である俺がいるのかと言うと……そりゃ株主だからである。
とは言っても今回は特に要望を言うわけではなく、ヤクエナの株を3%ほど保有しているがゆえに株主総会に出席するだけであるが……。
逆にヤクエナ本社側……というか寮の管理人が一度手紙の整理をするのであるが、俺宛に色々な会社から株主優待券とか株主総会の出席や、決算報告書が届いて、驚いていたが。
「大久保選手……年俸的に君が我が社の株をあの数まで買う金額には足りないはずだが……」
ヤクエナキャッツに関わりある球団代表が俺に近づいて、小声で話始めるが、代表には株や為替取引で大儲けして年俸の100倍くらい資産増え続けていると話すと、腰抜かしてしまっていた。
めっちゃ面白い。
俺は特に発言することはなかったが、ヤクエナ本社の株主総会に俺がいたという情報は拡散することになる。
あとは選手側として無言の圧力である。
関係者なので5%以上株を持つことはできないが、株主であるということを本社側にもアピールすることで、俺の要望を通りやすくしたのである。
今後を見据えての策であるが、株主総会自体は平和裏に終わるのだった。
オフシーズン中、俺は井端と巴の2人を中心にみっちり鍛えていた。
ロビカスとデロスサントスは一時帰国して来春にあるWBCに代表候補として招集がかかっていた。
なので、俺は12月の間は井端と巴の2人をみっちり鍛える。
「ハァハァ……やっぱり大久保先輩はスタミナお化けだ……」
「なんで30キロ近くマスクをしながら走って息を切らしてないんだよ……」
「マスクとかしないと有酸素トレーニングの質が上がらないだろ。ほら、マッサージするから」
「「はーい」」
井端と巴は着実に成長を続けている。
プロで1年間1軍で戦えたこと、7回8回の勝利の方程式に組み込まれたことで、新人ながら緊迫した場面を2人は任された。
井端に至っては最優秀中継ぎと新人王も獲得している。
フル稼働したっていう経験は2人を大きく飛躍させるには十分だった。
それに井端は縦と横のスライダー、ツーシームの他に負荷の少ないサークルチェンジというチェンジアップと同様に打者のタイミングを外しながら少し変化する球を覚え、緩急も身につけていた。
巴は秋季キャンプとこの自主練習でカーブとスクリューを覚えて、フォークとチェンジアップを含めて4球種が実戦で使えるレベルまで育っていた。
それに球速も井端が153キロ、巴が157キロまで出力も伸びていて、コントロールも悪いわけじゃない。
あとはスタミナさえなんとかすれば先発として稼働できるって踏んでいた。
そのため、スタミナトレーニングを自主練習では重点的にやっていたのである。
「さてと、トレーニングも終わったし、肉食いに行くか! しゃぶしゃぶでも行くか?」
「「ゴチになります!」」
「おう!」
というわけで寮からタクシーに乗って移動する。
寮から駅近くの飲食店が多いエリアに出るまで約4キロと徒歩で行けなくはないけど、人目があるので、町に出る時はなるべくタクシーを使うようにしている。
あと今年は球団に許可を取って、1月中に合宿免許を取りに行くことになっていた。
せっかくだからと井端と巴も一緒に同じ合宿に応募していた。
球団側が紹介してくれたところなので色々安心だろう。
タクシーの運転手がサインお願いしても良いですかって言ってきたので、野球ボールにサインをして、渡してあげた。
「帰りもできればお願いします」
俺は多めにお金を渡して、帰りの迎えもお願いすると、しゃぶしゃぶ屋に入っていく。
高校時代はチェーン店のしゃぶしゃぶ屋に静香と部活の帰りに行ったりしたが、なかなか普通のチェーン店に入るのはプライバシーの関係で厳しい。
外食する時は個室がある店で食べるのが普通になってしまった。
「腹いっぱい食べろ〜」
「「ありがとうございます!」」
プロ野球選手では先輩が後輩の分を奢るという暗黙のルールがある。
ただ俺の場合小林さん以外の先輩は1年目の俺に投手としての全負担を押し付けた負い目と、自分と食事が原因で体調不良にでもなられたら責任が取れないとのことで、小林さん以外とは食事する事がなかった。
寺門さんとかは歳上だけど、同期の場合はドラフトと年俸が関わってくるので、タクシー代は寺門さん持ちで、食事代は俺持ちみたいな若干割り勘が同期の間では暗黙のルールになっていた。
いや、稼いでいるから全額奢ってもいいんだけどね。
デロスサントスとロビカスは歳上なのに、年俸が高い俺に奢ってもらうのが普通になっていたから、あの2人はもう少し慎みを持ってほしいが……。
「先輩、日本代表に招集かかってるんですよね?」
「そうだな。井端と巴は来なかったのか?」
「来てますが、1年目の俺達が出ていいのかって思ってます」
「私達ドラフト下位でしたし……」
「あと、チーム事情的に秋季キャンプで怪我人続出で、開幕の投手不足でヤバいからなるべく辞退して欲しいって球団側から言われているんですが……」
「サクセン監督はなんか言ってるか?」
「サクセン監督は行けって言われてます」
「じゃぁ日本代表に来いよ。色々な投手が居るから、勉強になるはずだぞ」
「……そうですよね」
「受けてみることにします」
「おう。じゃぁ日本代表として恥ずかしくないようにみっちり鍛えないとな」
「「お手柔らかに……」」
しゃぶしゃぶを食べながらそんな会話をするのだった。
オフシーズンの最中に球団代表に呼ばれた。
「よく来たね……いや、本社の株を買っていたのは驚いたけど……」
釘刺しに来たのかな?
「いやぁ……本社の株はこれ以上買ってほしくないってのはあるけど、ロビカスを育てて、デロスサントスを見いだした君の直感を頼りたいと思ってね……」
球団代表は幾つかリストを見せてきた。
「投手不足でデロスサントス選手とロビンソン選手以外の助っ人は解雇して新しいのを雇うことにしたんだけど、有力どころのマイナー選手は殆どWBCに出たりするから、今年は選手獲得が困難になっていてね……もうこの際神頼みだってことで、大久保選手に直感で助っ人を2人選んでほしい」
そんな重要な事を俺が選んでいいのか……と思いながらも、20枚近くの選手リストから幾つかピックアップしていく。
1人目はイタリアからアメリカのマイナーリーグで活躍しているマルク・オリマ。
「最速90マイル……144キロのストレートを投げるが、これと言って特徴の無い選手だが……」
「たぶんこの選手は化けますよ」
「そ、そうか?」
「あとこっちも」
韓国人の金正福(キム・ジョンプ)という打者もピックアップした。
年齢は25歳で、韓国リーグでは高い打率が評価されるが、足が速いわけでもなく、守備難という選手で、明らかに地雷臭がする選手だった。
「外野手ならできると思うのと、高い打率はDHが抜けたうちには必要だと思いますが」
「しかし、今年は大砲候補を3人引っ張ってきたが……」
「一応保険で取っておいて損は無いと思いますよ。韓国球界とコネにもなりますし……」
「そうか……」
俺はその2人を推しておいた。
「参考になった。ありがとう」
「いえいえ、オリマ選手はぜひともお願いします!」
俺は念押ししておくのだった。