WBC……世界一を決める大会で、メジャースカウトも多く見に来ている中、俺の異常な投球が披露された。
決勝ラウンド第1戦……強豪国メキシコとの対戦で、先発のマウンドには俺がいた。
多田野監督からは中1日ルールとなる50球未満で俺は降ろすというのが約束になっていて、強力なメキシコ打線を何としても勢いを与えないでくれ……という要望を貰っていた。
「えー、内野手の皆さん、今日は打たせて捕るピッチングを心がけますので、よろしくお願いします」
「「「おう!」」」
その宣言通り、俺はグラビティボールを多投。
バッターからしたら打ちごろの棒球が真ん中付近に来るので、思いっきりスイングするが、グラビティボールは球の重さが倍以上になっている。
ブンブン振り回すメキシコ打線の打球は殆どが内野のポップフライかボテボテの内野ゴロとなり、打ったバッターは手首を滅茶苦茶痛そうにしていた。
メキシコ打線が早打ちしてくれるし、こっちは真ん中付近に投げるだけなので、見逃してくれればストライクのカウントが進む。
ファールで粘ろうにも、重い球なので、手首の方が先に悲鳴を上げる。
結果、8回を47球で締めるという超省エネピッチング。
解説者達も打ちごろのボールに見えるのに、何故か打てない……と首を傾げており、三振は一切無いのにアウトだけが積み上げられて、あっという間に8回に。
ちなみに日本打線は俺がボールの反発係数いじっているから、ピンポン玉みたいに飛んでいく。
メジャー組がスタンドに叩き込みまくったお陰で、10点の大量リード。
準々決勝もコールドゲームは成立するので、8回でコールドが成立し、歴史に残る圧勝劇で準決勝に進出。
準決勝ではデロスサントス率いるドミニカ代表と激突。
デロスサントス以外にも強力メジャーリーガーが複数いるチームだったので、ホームランが飛び交う空中戦が展開されていたが、日本代表がギリギリ制して勝利を勝ち取る。
そして決勝はアメリカ代表との試合。
銀河系軍団と呼ばれ、日本代表と比べると総年俸が10倍も違うというとんでもない集団だったが、先発は俺が投げる。
『クレイジー』
『ジャップの新兵器かよ!』
『なんでボールが浮き上がるんだよ!』
初見殺しのライズボールにより、アッパースイングが多いアメリカメジャーリーガーはボールが全くかすらない。
今日は超能力も絶好調で、上昇幅が50センチを超えており、浮き上がる球に手も足も出ない。
奪三振ショーを展開。
一方で日本打線もアメリカ代表の投手攻略に手間取り、三振が積み上がっていくが、村神様が値千金の3ランホームランを打ち込み、動揺した時に代打で出場した寺門さんが追加のホームランで4点差。
それで流れを引き寄せた俺は、最後まで投げ抜き、日本代表は8年ぶりの世界一を達成。
メジャースカウトからは俺の注目度は跳ね上がり、俺に対して早くメジャーに来るようにという争奪戦が展開。
俺自身メジャーの25歳ルール適用中にはメジャーには行かないときっぱり。
一番評価してくれる球団に移籍するとも伝えておいた。
WBC世界一を達成したことと、大会を通して無安打無失点ピッチングを行った俺の人気は日本国内で爆発。
ペナントが始まってからも、俺が投げる日は敵チームのファンが来なくて、客数が減る傾向があったが、日本代表を優勝に導いた球界のエースと見られるようになると、球場は連日満席へ。
そして今年のヤクエナは去年のような圧倒的な強さではなくなっていた……。
まず投手整備が緊急で行われ、先発が怪我人続出で崩壊したため、中継ぎや抑え起用されていたロビカス、井端、巴の3人を先発に配置転換。
新助っ人のダンディーな髭が特徴的なオリマと昨年ドラ1位の笹木でなんとか先発6枚にして、中継ぎは俺達こと炎上癖のある1.5軍の選手をかき集め、抑えに江西さんが担うことに。
『この角度でスイングするとキムの打球角度は上がるんじゃないかな?』
『おお、WBCで活躍していた選手が複数いるチームに加入できてキム感激っす!』
中距離砲とされていた韓国から助っ人として来たキムにデロスサントスと寺門さんが色々教えると、2人とすっかり仲良くなり、3人でよく焼き肉に行くようになる。
『日本で生きる伝説って言われてる大久保投手と話せてキム感激っす!』
「キムは面白いな」
『任せてください! 北の国がミサイル打つ本数以上にホームラン打ちますから!』
「ナイスブラックジョーク」
金正福とも仲良くやりつつ、オリマとも親睦を深める。
最初はパスタを折るような民族の飯は食いたくないって言っていたが、海鮮丼食べたらどハマりしたらしく、寿司と海鮮丼、魚の煮物が大好きな面白外国人化していた。
「オリマ調子はどうだい?」
『絶好調〜! オオクボが教えてくれたスライダーの握りがしっくり来て、今日もよく曲がってるよ! あとまた練習後にマッサージしてくれよ!』
「あ! オリマまた先輩にマッサージ頼んでる!」
『ダメか井端』
「ダメじゃないけど……」
井端とオリマが言い争い始めたら、ロビカスも入ってきて、
「オリマ、先発で投げ抜かないと大久保のマッサージ受けないってボクたちでルール決めたじゃないか! 約束守れ!」
いつの間にかそんなルールができていたらしい。
というわけで、チーム雰囲気は良くなっていたが、なんか俺が中心の派閥みたいなのが自然と出来上がっていた。
それが気に入らない先輩も出てくるわけで……少しずつチームに分断の兆しができていた。
ペナントが始まり、ヤクエナキャッツことネコちゃんズは開幕6連勝で上々のスタートダッシュを決めたものの、井端と巴、それにロビカス、笹木の4人が完投できるスタミナが不足していた為に中継ぎが投入されるのであるが、中継ぎがだいたい炎上。
かと言って4人を完投まで引っ張ると痛打される傾向が強くて、負けが増えていってしまった。
一方で打線は1番にセンターの床田さんが固定されて、2番に西住、3番に金、4番デロスサントス、5番寺門さんの上位打線を形成。
その破壊力は去年並みであり、多少高不調の波はあれと、クリーンナップの金、デロ、寺門さんの3人がホームランを量産してくれるので、点は取ってくれるのだが、6番から9番までの4人が固定化に失敗し、打線の穴になってしまっていた。
去年の穴の無い打線に比べると歪であり、得点力は減少。
それと去年のヤクエナに喰らいついていたノブナガーズが今年は絶好調。
新加入の織田(信)投手が新人離れした成績で引っ張り、それを左右のエースである毛受と津田投手が支える。
それに3割以上打つ打者が5人もいるし、下位打線も普通に打ってくるので、ノブナガーズが独走。
その後をジャイアンズ、猛虎、ヤクエナの3チームが追う展開。
今年も俺こと戦術大久保は効いているが、じんわりと1勝1敗ペースでゲームを消化してしまい、交流戦に突入していくのだった。
交流戦は俺に散々痛めつけられたマリーンズが覚醒。
というか全体的にパ・リーグが強かった。
俺も2対1でマリーンズにまさかの敗戦をしてチームが4連敗を喫したこともあり、交流戦は9勝8敗1分で勝ちを加算することができず、2位だったジャイアンズが大型連敗したことで2位に浮き上がることはできたが、猛虎とゲーム差は0.5、ジャイアンズとも2.5ゲーム差で予断は許さない。
夏場になってくると、日本の暑さに他の投手陣の疲労がピークになってきたことによりサクセン監督は苦渋の決断を下す。
「大久保、中2日いけるか?」
「任せてください!」
俺は久しぶりに中2日が解禁されるのだった。