ヒヒーン
俺はオフシーズンに北海道の日高に来ていた。
そこで各地の牧場を巡って、購入した幼駒を眺めていたが、最後にラムタラファームを見ると、設備自体は悪くない。
資金難に陥っているけど、経験ある牧場スタッフが残っていたりするし、繁殖牝馬も25頭ほどとまずまず。
土地的にも余っていて、拡張の余地あり。
ただ繁殖牝馬の質が正直古いので、ここらへんは俺が馬を購入して委託して質を上げる必要があるが……。
代表の日立さんも直感で悪い気はしなかった。
いや、どちらかといえば良縁よりである。
(うーん、直感で強い子供を産んでくれそうな牝馬をラムタラファーム以外で購入したのだと集めたけど、ラムタラファームの仔馬も期待できそうなのがいるんだよなぁ)
なんとなくだけど早く走れて、強い仔馬を輩出できそうな仔馬がいた。
「この子……名前を決めても?」
「ああ、電話君ですか。あの子の名前ですか?」
「ええ、あの子には期待してますよ。というか凄い血統ですよね……血統が……オグリキャップ、ミホノブルボン、ラムタラ、ピルサドスキー、トーセンジョーダン……」
ちなみにであるが、今名前が上がった馬は失敗種牡馬と呼ばれるほど、産駒がろくに走らなかったことで有名な馬達である。
現役時代の実績が凄いだけに、よくここまで酷い血統の馬が生産された訳だが……まぁ現役実績の割に種付け料金が格安ってのがあったり。
電話君というのは額にある流星と呼ばれる毛の柄が電話の受話器に似ていたから電話君と牧場では言われていたらしい。
「冠名(馬主が所有馬が分かりやすいように同じ単語を名前に付けること)はメシアで、この子は電話君って言われているからコールにしよう。頑張って走ってくれよ」
俺がメシアコールと名付けた仔馬はすくすく成長していくことになるのだった。
1月の新人合同練習の様子を聞いたが、鈴原は練習にはついていけているらしいが、強豪校出身ってわけじゃないので、毎日ぐったりしている様子。
コーチ陣もまずは体力を付けるところからだなって言っているらしい。
そんな中、春季キャンプと合同練習の合間に1週間ほど休みがあるので、その時にヤクエナの寮を訪れて、鈴原含めた、今年のドラフト指名者と挨拶を行った。
「は、初めまして大久保さん! 鈴原です! スタッフの方に聞きましたが、大久保さんがドラフトで自分のことを勧めてもらったと聞き、感謝してます」
「君が鈴原か。うんうん」
身長は175センチで右投げ右打ち。
下半身は投手として走り込みをしっかりしていたから比較的がっちりしているが、全体的に線は細い。
「ちょっと鈴原の部屋で喋ってもいいか?」
「は、はい」
鈴原の部屋は奇しくも俺が使っていた部屋だった。
そこら辺も球団側は考慮してくれたのかも?
俺は部屋に入ると、鈴原に向かって、
「鈴原は俺と同類な気がするから指名した」
「ど、同類とは……」
「不思議な能力を持つってことだ。何か不思議な経験とかないか?」
「大久保さんはそういうスピリチュアル系な感じなのですか……ちょっと意外です」
「うーん、力が無いわけじゃないけど、まだ覚醒前なのか……ちょっと手を握ってくれるか?」
「は、はい」
俺は鈴原と握手をしながら、俺の超能力の源となるエネルギーを送り込む。
鈴原は目に見えてゾクゾクと手が痺れる感覚を覚えたのだろう。
すると目を見開いて俺に尋ねてきた。
「す、凄いです……え? なんですかこの感覚は?」
「何か感じたか?」
「いや、思考が流れ込んできます」
どうやら俺とは違って読心術の様なものに鈴原は超能力として才能を開花することができたらしい。
「もしかして……大久保さんが物理的に不可能と言われる野球ボールでのライズボールを投げれたり、170キロの剛速球が投げられるのもこの不思議な力によるんですか?」
「ああ、超能力って俺は言っている。君をたまたま見た時に、同類の感覚を感じてね。だから上層部にお願いして取ったんだけど」
「……大久保さん、その力もしかしてですけど、投球以外でも使ってません?」
「投球以外とは?」
「去年もそうですけど、今年も野手で大久保さんがベンチに居ると得点力が上がるってネットで噂になってましたけど……」
「相手投手が投げた反発係数を多少いじって高反発にしてる。俺の超能力は同時に2つ使うことができないから、相手の球をバットに当てさせるようにするとかまでは制御できないから」
「自分が言うのもあれですが……その選手のためにならないと思うのですが」
「というと? 反発係数をいじっても、実力が無ければ成績を残すことはできないが?」
「そうなんですか?」
「ちなみになんで選手のためにならないと?」
「自分の力じゃともかく、大久保さんから与えられた力で成績を残しても大久保さんがメジャーに行ったりしたら……悲惨な事になりません?」
「それは……確かに……」
そう考えてみると、チーム勝利のことを考え過ぎて、各選手の将来を犠牲にしているとも言える。
これを新人生意気なって一喝してもいいけど、そういう簡単な問題ではない気がする。
(チーム勝利のために他人の人生を歪めてしまってもいいのか? ……いや、超能力を使って打者を苦しめている時点で今更か……)
「チーム勝利が何よりも優先されるけど、鈴原の言いたいことは分かった。多少控える事にするけど、勝利が掛かっている場面では容赦なく使うし……俺のやり方が気に入らないなら俺が能力を使わなくても良いくらい鈴原が強くなれ。超能力の扱い方は教えるから」
「は、はい!」
こうして超能力者としての弟子である鈴原に、時間がある時は超能力を教え始めるのであった。
自宅の部屋に戻って、俺は鈴原に言われたことを俺は考えながらリビングのテーブルで突っ伏していた。
「いや、そうだよなぁ……チーム勝利を考え過ぎて、他の人に対しての人生をぶっ壊している可能性が高いことは……頭から抜けていたなぁ」
高校野球の時に自分が頑張らないと勝ち進めないっていう経験やプロとして生きていくために、使える能力は全て使ってプロ野球界を生き抜くって考えていた。
「もう利通は野球界で伝説的な存在になってきているんだから、今後はチームだけじゃなくて野球界の事を考える段階に入ってきたんじゃないの?」
俺の事情を知っている静香がお茶を煎じてくれて、ぬるい緑茶を出しながら、俺の愚痴に付き合ってくれた。
「気づけたならいいじゃん。今後自重すれば。それにチーム勝利について自分のできる範囲は全力でやるけど、チーム編成や作戦面は監督やコーチなんかの首脳陣が考えることじゃん。利通は自分の手の届く範囲でやれば良いんじゃないかな?」
「そうかな……そうかも……」
「まぁ鈴原君の気持ちも分かるよ。超能力使って味方選手にバフをかけてたっていうのは、大きく影響が出てくる。言ってしまえば、自チームだけ高反発バット使っているようなもんだからね」
「静香も反対なのか?」
「いや、ガンガン使っていいと私は思うけど、ただもう少し仲間を信用してあげれば? そんな力を使わないとチームメイト達は活躍できないほど弱くないじゃん。というかその力は高校時代に使えたらな〜、そしたら貧打で苦しまなくて、夏も甲子園いけたんじゃないかな?」
「うーん……」
静香に言われて、バフをしても結果を出せない人も多い。
「そうだな……皆のことをもっと信じてみることにするよ」
「うん!」
静香とそんな話をし、来年は仲間をもっと信頼してみることにするのだった。