「大久保さん、うちの会社の株を買いませんか?」
うちの馬が出走するからと、年末の中山に静香と一緒に出かけていたら、他の馬主の人に声をかけられた。
年末の中山と言っても、大きなレースに俺の馬が出るわけじゃなくて、未勝利戦に出走するだけなのだが、今日の夕方には大きなレース……G1のホープフルステークスというレースがあるので、関係者が大勢集まっていたのだが、上流階級の人達が集まるので、結構会社の裏話とかが普通に聞けたりするし、一種のサロンみたいな社交場となっている。
で、持ちかけられたのは関東で鉄道を経営している会社の幹部の人だった。
ここ数年千葉で大雨が度々降って、何度か電車の車両ステーションが水没して列車が駄目になったというニュースを前に見た気がするが、水害と脱線事故で経営が大打撃を受けているらしく、融資を募っているらしい。
公的資金の投入は最終手段にしたいらしいし、株価も底値になっているから買い目ではあるが……。
「どれぐらい求めているのですか?」
「最低30億、できれば50億程の再建費用がかかると……」
「流石に一気に購入は憚られる金額ですね……というか自分は一介の野球選手ですよ」
「またまた……御冗談を」
まぁ直感的にも悪い取引じゃないので、馬主的な繋がりもあるし、球界には関係無い会社なので株を後々購入する事になる。
そんな話を聞いていたのか、うちにも融資しないですか……とゲーム会社の役員が声をかけてきた。
直感がビビッと凄い反応し、そのゲーム会社に融資すれば数十倍に成りそうと俺は判断。
そのゲーム会社とは幾つか条件を付けること(融資した金で大きなゲーム会社のゲームを製造するライセンス契約を結ぶこと、漫画の出版社と野球漫画の関係で伝手があるからそこから契約してゲーム作ってくれ)等をした。
小規模のゲーム会社で社員も20人程度らしいが、資金繰りが悪くて困っていたらしいので、この際ゲーム自由に作っていいから俺の会社に吸収されない?
なんて持ちかけたら、そのゲーム会社の社長も経営よりも自由にゲーム作りたい職人気質な人だったらしく、ホイホイ話が進んで、何故か俺はゲーム会社を持つことに。
俺も経営なんかできるわけ無いので、静香の伝手で経済学部で信頼できる人を俺の面談した後に採用して、ゲーム会社に放り込んだ。
「20億まで赤字は許容するから~」
俺の条件はこんな感じで、初期融資で20億を社員20人規模の会社に与えたら、フィーバータイムよ。
予算の都合で取れなかったライセンス料金は支払えるし、機材一新しても余る。
社員も新卒で何人か引っ張ってきて、経営シミュレーションゲームを開発。
日本だとパッとしなかったんだが、ドイツではシミュレーションゲームが大人気ってことで、ドイツ語版を発売したら爆発的な人気になり、馬主、トラック運転手、農業、スーパーの店員、野球選手、国家運営と色々なシミュレーションゲームを開発する日本企業なのに、ドイツからの収益が9割というわけ分からない事になるのだが……この時発売した野球ゲームに感化されたドイツの少年が後々日本に来ることになる。
その少年はモンテナ・フォン・シュトロハイムと言う名前だった。
そんな未来で大きな影響が起こったことに俺はこの時気にせず、馬主として調教師の居る美浦の厩舎を訪ねた。
「いやぁ、大久保さんがうちに馬を預けてくれたお陰でうちの経営も一息つくことができましたよ」
「いやいや、毛利先生の手腕のお陰ですよ」
「そうですかな?」
毛利先生は元々騎手をしていたが、鳴かず飛ばすで障害競争の免許を取ったり、色々したのだが、結局重賞を勝つこともできずに28歳……騎手生活10年目で落馬時に目を怪我して引退。
視力はある程度戻ったらしいが、大きな傷があって、最初見たときはヤクザにしか見えなかった。
今年の春に開業して、長い付き合いになるだろうからと半数以上の9頭で特に期待しているメシアコールや繁殖牝馬として買った5頭とかを預けていた。
「おっちゃん、調教付けたよ〜」
「おお、服部。馬主様が来てるぞ」
「あ、どうも大久保さん! サイン貰っていいですか!」
「こら、今日は馬主として来てるんだから慎め」
「いやいや、サイン1つで喜んで貰えるなら全然書きますから」
「やったー!」
「本当にすみませんね」
「いやいや」
そんな毛利先生の下で騎手として修行している服部君。
この子は18歳で今年騎手免許を取って毛利先生と同じくピチピチの1年生。
服部君は競馬関係者出身じゃないので、伝手が全然無くて、調教師の先生もたらい回しにされたらしく、毛利先生が引き取ったのだとか。
俺が関わればこの2人の運気は良くなるな〜って直感で感じたので、俺は特にこの2人に気にかけていた。
「メシアコールの調子はどう?」
「絶好調ですよ。年明けのシンザン記念に出そうと思ってます。いや、もし勝てればクラシックレースにも賞金的に出れますからね」
メシアコールは2歳新馬と1勝クラスを勝利して、世代重賞に出走できるだけの賞金は積み重ねていた。
まぁ2勝クラスは生憎2着だったが、その馬がホープフルステークスの勝利馬になっていたので、格は全く落ちてない。
ちなみにメシアコール以外にもメシアマリアと言う牝馬がアルテミスステークスと言うG3の重賞を勝利していて、毛利先生にとっても、服部騎手にとっても初重賞となっていた。
あと毛利先生の厩舎には期待馬を集めたお陰か9頭中6頭が勝ち上がっており、全体で11勝を稼いでいた。
他の厩舎に預けた8頭も併せた全17頭で18勝。
普通に馬主としては滅茶苦茶勝ててる部類に入る。
「今年は1頭新しく馬を買ったって聞きましたが」
「うん、父親がエピファネイアのメシアエスパーって子が今度入るけど、毛利先生にお願いしても良いですかね」
「そんな良血をうちで良いんですか?」
「先生自信持ってください。先生は今年重賞を勝てた数少ない調教師なんですから」
ちなみに毛利先生は今年重賞を勝ったお陰で俺以外からも入厩の依頼が来たらしく、来年も5頭前後馬を預かれるらしい。
調教師とその下の従業員である厩務員は預けられる馬が居なかったら食い扶持に困るため、馬が集められることが大前提である。
数を集められる厩舎は50頭前後馬を集めて、馬房上限である30頭まで同時に育てることができるが、毛利先生は期待されていたわけでもバックに大きな牧場が付いているわけでも無いので12馬房程。
来年は15頭前後の馬数を預かるけど、全頭がいつも厩舎にいるわけじゃないので、12馬房だったら20頭くらいは育成することができる。
「あ、メシアエスパーなんですけど、滅茶苦茶頑丈な馬なんで、連闘とかしてもピンピンしてると思うんで、滅茶苦茶走らせてあげてください」
「え? 良いんですか?」
「メシアエスパーに聞いたんで」
「聞いたって……馬は喋れませんよ?」
「メシアエスパーは人間の言葉くらい理解できますよ」
「そんな賢い馬なんですか……期待させてもらいますよ」
その後、メシアコールは無事にシンザン記念を勝利、春にはスプリングステークスも勝利。
本番の皐月賞や日本ダービーといった大きいところは3着、5着と惜しい結果になったが、秋にはセントライト記念を勝利し、菊花賞に向かうが、菊花賞は2着で敗退。
ただステイヤーズステークスという最長距離の重賞をメシアコールは勝利して重賞4勝を達成、その翌年には春の天皇賞を勝利して、重賞8勝、G1を1勝の成績で屈腱炎という怪我により4歳引退する事になるのだった。
メシアコールはその後、俺がラムタラファームに出資して作らせた種牡馬施設で種牡馬として繋養されることになるが、全くと言っていいほど人気が無くて、初年度は俺が集めた繁殖牝馬5頭と他3頭という有様。
その後3年近くは俺がメシアコール用に集めた繁殖牝馬十数頭に種付けさせるだけになるが、産駒が滅茶苦茶走るようになるのだが、それは少し先の話。