Re:ゼロから始めるテイワット生活   作:匿名希望の田中太郎

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エラーコインでさえ役に立たない

──これは本気でヤバい。

 

 固い地べたの感触を顔面に味わい、彼は自分がうつぶせに倒れたのだと気づいた。

 全身に力が入らず、手先の感覚はすでにない。

 ただ、喉をかきむしりたくなるほどの熱が体の真ん中を支配している。

 

──熱い、熱い、熱い、熱い、熱い

 

 魚が餌を求め水面に口を出すように口をパクパクとさせ、酸素を体に巡らせようとするが、喉の奥にたまった血がそれを拒むように吐き出される。血の流れる先を眺めていくと、また別の傷口から流れた血と合流し、大きな血だまりを作り出す。

 

──俺の中に、こんなにも血が流れていたのか。

 

 倒れる体が浸るほどの出血。人間の血の量は全体の約8%、そのうちの三分の一が流れ出すと命に関わるという話だが――これはもう、全部出ているんじゃなかろうか。

 目の前の現実を理解したくないばかりに、そんなどうでもいいようなことばかりが彼の頭の中をめぐり続ける。

 

──なんだ。腹に風穴があいてんのかよ。

 

 傷口を確かめるように腹に手をあてがうと、そこには自宅警備員時代の筋トレによって培った腹筋の感触はなく、手には空を切るような感触しか感じられない。

 

 どうりで、熱いと感じるわけだ。脳みそが『痛み』を『熱』と勘違いしてしまってるらしい。しまいには、血すら打ち止めで、今度は悶えるような『熱』から一転、意識が遠くなりそうなほどの『冷たさ』が訪れた。

 

 つまるところ、人生における『詰み』という局面に直面してしまったらしい。

 

 その事実を理解した瞬間、意識が急激に遠ざかっていく。同伴されるのを許されたのは『魂』だけで、穴が開いてしまった不良品は置いていかれてしまうようだ。それも仕方ない。オレも『魂』だったら五体満足だとしても俺みたいなやつの体は置いてくに決まってる。

 

 そんな、自暴自棄ともいえる思考回路になってしまった彼が望むのは、ただ一つ──彼女が無事でありますようにということだけ。

 

「──バル!!」

 

 艶のある、優しい声がスバルの耳に届く。

 初めて会った時、この世界で一人ぼっちだった時に、初めてできた信頼できる人物。

 

 どんな心配も憂いも吹き飛ばしてくれるような錯覚を覚えるその声に、心地よさすら覚える。

 

 だから──彼女が死ぬことなんてあってはならない。

 

「……っていろ」

 

 遠ざかる『意識』と『魂』を無理矢理つなぎ合わせ、呼吸に使う酸素すら残さない勢いで叫ぶ。

 ここにいるのは、ただの失敗した人間で、負け犬の遠吠えに過ぎない。

 

 それでも、彼。ナツキ・スバルは叫ばざるを得なかった。

 

「俺が……必ず」

 

──お前を救って見せる。

 

 次の瞬間、ナツキ・スバルは命を落とした。

 

 

▲▽

 

 

──これはまずいことになった。

 

 髄まで溶けてしまいそうな炎天下の中、荒野にほっぽり出された少年──もとい、ナツキ・スバルは心の中でそうつぶやいた。

 

「コンビニ帰りに、クソ熱い荒野に放置するのはちと不親切ってもんが過ぎるだろ」

 

 夜食を買うために訪れたコンビ二での帰り道。ふと夜空を見上げながら『今夜はきれいな満月だな』と思いながら少し瞬きをした瞬間、次に目に映ったのは空に煌煌と輝く太陽だった。

 

「所々にある建物に使われてる建材はほとんど石材と木材だけ……文明レベルはそこまで高くない感じか?それよりもここの生態系について知りたいけどな!」

 

 周りには見たことのないような生物もわんさかといる。龍ともトカゲともつかないようなその生物たちは今のところスバルに対して大した反応を示していないが、肉食か草食かすらもわからない以上、近づくのは下策だろう。触らぬ龍にたたりなしだ。

 

「普通、こういうは人里スタートだろ。ていうか召喚ものだったら俺のことを召喚した美少女はどこだよ」

 

 いわばメインヒロインの不在。わざわざ人のことを呼んでおきながら目的も何も話さずに放置とは職務怠慢もいいところである。せめて人と会えたならいろいろ情報収集ができるといいものなのだが。

 

「コミュ力レベル1の俺に期待しすぎだろ……こちとら不登校歴約2年。家族以外に最近会話した人なんかコンビニの店員ぐらいしかねぇよ」

 

 早くも弱音が漏れ始めてくる。こういうのは妄想で、あくまで非現実であるから面白いのだ。何の能力も無しでほっぽり出されたところで野垂れ死ぬのが関の山。常に与えられる環境下に置かれていたスバルにとって今の状況は、急に過去問と違う内容のテストを作ってきた教授に対応できない学生のようなものだ。

 

「さっき棍棒を振り回しながら変なお面をかぶった『Ye dada! 』とか言ってた奴とは会話どころか攻撃されたしな。あれがこの世界における人類だったら笑えねぇ」

 

 人かと思って意気揚々と近づいたのはよかったもの、帰ってきたのは明確な敵意のみ。しかも体のつくりや肌の色を見てみると明らかにスバルが知ってる人間とはタイプが違った。ただ、あいつらから知性はほとんど感じられなかったので、建造物を作ったのは知性がもっと高いタイプ。もしくはちゃんとした人間かのどちらか。

 

「もし人間がいなかったら俺もあの変なお面をかぶって仲間入りか……終わったな。ナツキ・スバルの異世界生活は完!次回作にご期待ください!」

 

 大げさなそぶりで頭を抱えながら叫ぶスバルの表情が急に変わった。

 その理由は音である。不意に物陰から聞こえてくる足音──その音の元を目でたどると、3人ほどの男がスバルの行く道をふさぐように立っていた。

 

 久しぶりの人との遭遇に喜んだスバルだったが、男たちの表情を見てその感情は一瞬でなくなった。男たちの侮蔑と嘲弄まじりの視線。それを受けながらスバルは相手のことを値踏みしていた。布面積の少ない服装に、ぎらついた目つき。明らかにこちらを獲物として見ている目線だ。

 

「やべぇ、強制イベント発生だ」

 

 先ほどの変なお面をかぶってるやつらとは違い、いきなり襲い掛かっては来ない所から知性はあると思われる。だが、悲しきかな。彼らは明らかな「物取り」。早くもこの世界の治安が終わってるかもしれない可能性に泣きたくなるスバルだったが、残念ながらそんな余裕はない。

 

 ここは開き直って思いっきり行動するのが最善。ごたごたしているとどんな目にあわされてしまうか知ったものではない。

 

「それに異世界召喚だぜ。俺無双パターンからすれば、ひょっとしたら俺はこの世界じゃメチャクチャ強いかもわかんねぇ。すでに暑さで体力やられてる分もあるけどやらなきゃやられる!」

 

「なんかぶつぶつ言ってんな。あいつ」

 

「状況がわかってないんだろ。教えてやろうぜ」

 

「おっと、調子づいてられるのも今の内だぜ。言っとくが、俺みたいなタイプはこうやって路地裏でチンピラに絡まれたパターンの妄想も日常茶飯事だ。三日前にみた格闘技系の動画をもとに明日の俺の糧にしてやんよ、経験値どもめ」

 

「何言ってっかわかんねぇが。馬鹿にしてんのは分かった。殺す」

 

「そりゃ……こっちのセリフ!」

 

 とスバルが言い切って、男たちが動くよりも先に先制攻撃が入る。

 

 まずは一番弱そうなチビに向かって懐に潜り込み、渾身のストレートを打ち込む。放った拳は相手の顔面へと当たり、前歯と拳骨がぶつかり合ったことで拳からは血が流れた。

 

「思ったより人殴るのっていてぇな」

 

 スバルはじんじんと痛む拳に顔をしかめながらもすぐさま二人目へと攻撃を繰り出す。初めて本気で人を殴ったドーパミンとアドレナリンにより、興奮状態に入ったスバルはすぐさま隣の奴にキックを打ち込むと、相手のみぞおちへと命中しその場へと倒れこむ。

 

「いける……いけるぞ!やっぱこの世界だと俺は強い方なんじゃ」

 

 勇んで振り向き、最後の男を叩きのめそうと戦闘態勢に入ったとき、男が握っているきらりと光る大ぶりなナイフが目に入った瞬間、高校球児もほれぼれするようなスライディングをしながら相手の足元へと移動すると、

 

「すみません俺が全面的に悪かったです許してください命だけは――!」

 

 日本人が出せる最高峰の謝罪。土下座を披露した。

 

 さっきまで盛り上がっていた気分もどこへやら、全身の血の気が引く音を聞きながらスバルは必死で情けを得るために地面に頭をこすりつける。

 

 刃物は無理。どう考えても無理。刺されたら一瞬でゲームオーバーだし、ナイフ持ち相手のスキルなど持ち合わせていない。

 

 気が付くとさっき倒したはずの二人も何ともない様子で立ち上がっており、スバルが与えたダメージなどほとんどないといった様子だった。

 

「まさかのノーダメージ!?何なら俺の拳の方がよっぽどダメージ受けてるよ!それに召喚物のお約束は!?」

 

「何わけわかんねぇこと言ってやがる。よくもやってくれたな!」

 

 土下座する頭を思いっきり踏みつけられると、地面と額との激しい接吻により血が流れる。

 そのまま丸まった姿勢で亀のように防御姿勢を取るが、抵抗もむなしく、三人組からの激しいリンチによりダメージが蓄積されていく。

 

──やべぇ、クソいてぇ。このままだとガチで殺される。

 

 先に攻撃された彼らは容赦なくスバルに攻撃を与え続ける。この世界において殺人がどのくらいの重さなのか。そもそも法律があるのかどうかすらわからないが、このまま腹いせに殺される可能性も十分にある。

 いっそ玉砕覚悟で暴れるか。ダメージを受ける前ならそれもありだったが、重傷一歩手前の今では一矢報いれるかも微妙だ。だからといっても何もしなかったら死ぬだけ──

 

「動くんじゃねぇよ。ボケ!」

 

「あいたたたた!痛い痛い痛い!」

 

 少し動こうとしただけで、まだ反抗する気があるのか──と手をぐりぐりと踏みつけられ、ゴリゴリと人間の体から聞けてはいけない音が聞こえてくる。

 

「ふざけた真似しやがって。身動き取れ無くしてから身ぐるみはぎとってやるよ」

 

「か、金目の物が目的なら意味ないぜ。価値のあるもんなんてなんも持ってないから」

 

「だったらお前のその珍しい服をはぎとってやるよ。ここでヒルチャールの餌にでもなれ」

 

 聞いたことのない固有名詞を頭の中でぐるぐると回しながら振り下ろされてくるナイフから意識を無理矢理ずらす。

 走馬灯とかは特に見えない。世界がゆっくりに見える現象もなし。そりゃそうだ。ろくな人生を送ってないのだから。あるのは自己嫌悪と後悔にまみれた人生だけ。振り返ることなど我が身の愚かさしかない。だからと言ってこんな終わり方を迎えるのは酷すぎる。

 

 痛み、ではない。

 それ以外のなにかで涙が溢れそうになる。

 終わるのが恐いとか、死ぬのが嫌だとか、そんなレベルの話じゃない。ただ、何もない空っぽのままで終わってしまうのが耐えられなかった。

 

「――そこまでよ、悪党」

 

 凛と済んだ、どこまでも止まることなく響いていきそうな声音が遠くなるスバルの意識をこの世界につなぎとめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 




スバル君はモンドスタートではなく、ナタスタートです。
理由は、スバル君がたくさん苦しみそうだからと、ヒロイン予定の人がナタにいるからです。
ちなみにその人は、エミリアと結構共通点があります。
氷元素を得意にしていて、長寿で、きょうび聞かない言葉を使ってくれる美女です。
一体、誰なんだろう。
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