心に残る幕引きを。
『パレイドリア』
お人形が一つ増えたみたいだった。
ワタちゃんはどうしてか、何日経っても起きてくれない。
何も足りないなんてことはない……全てが完璧で、私に間違いはないはずだ。
もし足りないなら何が足りない?
「教えてくれないと分かりませんよ」
頷いて、喋って、起き上がって。泣いて、笑って、叫んで、倒れて……
…………足りなかった? 伝え方はあれでよかった? もう分からない。
「最近、嫌な夢ばかり見るんです」
「ワタちゃんが、私に悲しいことを言って消えてしまいます」
「あー実はお友達が欲しかったんですか? 買いましょうか……ねぇ」
教えてくれないと、また間違ってしまう。
大丈夫。「あんなこともあったね」そうやって笑える日がきっとくる。
だから思いを伝えたい。
「……ごめんなさい。ねぇ! ごめんなさい!!」
身体を揺さぶっても、ワタちゃんは起きない。ずっと私の心だけが……
「謝っても、意味ないですか? やっぱり行動が大切なんですよね。分かってます」
光が私を貫いた。何度も何度も、全身を。
痛くない、別に何も思わない。
目を抜いた。腹を刺した。ワタちゃんにやったことなら何だってやった。
……この程度でワタちゃんが起きるなら、そんなに楽なことはない。
「ねぇ、ワタちゃんは謝る私も見てくれないんですか?」
「…………ワタちゃんのことをもっと知らなきゃ、きっと目覚めてくれないんですね」
私は絵本を手に取った。
楽しいお話だって、そう言っていた。大丈夫。きっと本当の意味があるんだ。
「素敵な絵ですよ! ほら、この色とか……」
何で空をこんな色にしたんだろう。
緑に光るのは星だろうか。
「やっぱりセンスがありますよ! ワタちゃんは凄いです」
この言葉に意味なんてあるのだろうか。
ダメだ。人生で初めて吐きそうだ。
「あー、どうしてでしょう」
見れない。見れない、見れない見れない見れない見れない見れない見れない見れない。
最後のページが……どうしても。
「違う、私は一人じゃない。だってワタちゃんがいますから」
本当はお水が欲しかったのかな? 違うかも。昔のお家に帰りたかった? ここの方が絶対に良いのに。
きっと、覚悟が必要なんだ。これが見れないならワタちゃんは起きてくれない。
「好きだから大丈夫です」
めくった。
「おぇ……」
悲しい絵だ。綿毛が散ってしまった茎を、真っ赤な両手が支えている。
「不思議な色ですね。どんな意味があるんですか? ねぇ、私に教えてください」
「本当の意味はなんですか?」
あ、今なにか分かりそうだ。
吐き気の奥に答えがある。この絵本の違和感……それが知りたい。
もう一度最初から読み直した。
分かった。
「…………なんで?」
「どうしてワタちゃんは、花火を知ってるんですか……?」
見たことなんてないはずだ。少なくとも……ここ五年はあの森にも届くほどの花火は上がっていない。
私は投げ捨てていた透明のケースを探しに行った。
説明書にでも絵が描いてあったのか……そう思った。違う。
拾いに行ったそれは、安全装置のことしか書かれていない。ワタちゃんに読んであげたのも覚えている。
「……」
■
わずかな魔力に反応し、確実に誤爆を防ぎます。
■
嘘つき。私はくしゃくしゃにして、川に捨てた。
こんな時間は無駄だった。どうして?
ワタちゃんはどこで花火を見たんですか?
私もそこに連れて行って。一緒にあなたとその光を……
分からない。分からない、分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない。
どうして、起きてくれないの。
少し、強引なら良いのかな。
「こんなことはしたくないんですよ?」
私は寝ているワタちゃんを、優しく丁寧に抱き上げた。
膝の上に乗せて、大好きな髪を手に取った。長い長いその髪で、ワタちゃんの首をゆっくり絞めた。
「起きて起きて起きて起きて……」
起きない……お腹に何か悪いものが入ったのかな。
治すとき、普通は体内の異物は押し出されるし、大丈夫なはずだけど……ワタちゃんは魔物だし違う可能性もある。
開いた、抜いた。水で洗っても、起きてくれない。
「どうして?」
生きてるはずなのに。こんなに目が覚めないはずがないのに。
何でこんなことになったんだ。意味が分からない。
ワタちゃんの形が変わっても、心さえ変わらなければ……私はそれすら愛せるのに。
そうだ。外を見せてあげよう。
壁に触れて、そっとカーテンを開く。
「ほら、ワタちゃん。綺麗ですよね」
まだ起きてくれてないけど、二人で時間を過ごせるのは幸せだ。
身体を預けてくれているし、私が嫌いならこうはしてくれないはず……
『静かだね』
声が聞こえた気がした。
「……! 私も今はそう思います! あの時は、全然わからなかったけど!! ワタちゃんのことをもっと知ろうとして、それで!! だから!!」
…………だから私は一人なの?
違う、違う違う違う違う。絶対に、絶対に何があっても、二人で一緒に笑うんだ。
ずっと隣にいて、ずっと愛を囁いて、私が疲れたら癒してもらって、ワタちゃんが疲れたら慰めてあげる。
そうならないと納得できない。
「喋ってほしいってことですか? もしかして逆ですか?」
「…………」
黙っていよう。
「ちょっと、気持ち良くなりたかったんです。でも、ワタちゃんが笑顔のほうが嬉しくなってから……」
黙っていよう。
「無理をしていたんですよね。分かりました、もう酷いことなんて絶対にしないです」
言葉が響いて、部屋に馴染むと何も残らない。ああ、こんなに苦しい思いをしたことはない。
きっと、ワタちゃんもこんなに苦しんでは……違う。そんなことない。
大丈夫。私は分かっているから、そっと触るだけで伝わる。
「うん。そうですよね。たくさん疲れたから寝たいんですよね?」
そう言ってる。
「おしえてくれて ありがとう」
「ふふ、私はしっかり覚えていますよ。ワタちゃんの声も、涙も笑顔も匂いも全部」
『うれしい』
ほら、思い出せる。
ベッドに優しく戻してあげて、優しく抱き合いながら寝た。
ワタちゃんが前にやってくれたみたいに、一つになるみたいに絡ませて……
「朝起きたら、絶対に毎日たくさん撫でて? 顔を見ながら好きって言って? クマさんで囲んで、一緒に踊るのが楽しいかも」
久しぶりに、良い夢を見た。
夢じゃない。
絶対に、そう。
「おはようございます。ワタちゃん」
撫でる。優しく、何度も何度も。
「可愛い、好き。大好きですよ」
本当に大好きな顔。声が聞けたらもっと嬉しい。
「クマさんも応援してくれてます」
「オキテー! ワタチャンモイッショニオドロウ」
楽しんでくれてますか?
そう言葉にして……優しく手を取って、エスコートするように腕を振る。
「本当は、ずっとしてみたかったです」
少し恥ずかしいけど、きっとそれはワタちゃんも一緒だ。
私の手を握ってくれている気がする。大丈夫。続けていれば、たくさん時間を……愛を重ねていけば! 伝わったときに起きてくれる。
だから、ずっと楽しいことをしましょう。
「いっつも遊べば、起きてるほうが楽しいって分かりますよね?」
何日も、何回も。夜が沈んでも日が昇るまで。
声が枯れても勇気が湧くまで。
歌を歌って、二人で過ごして、明日をまって幸せを呼ぶ。
大人になっても、いつか時間が足りなくなっても…………
「私と一緒に遊びましょう!」
◇
あれから何日が経っただろうか。
一瞬だった気もするし、数え切れないような気もする。
ワタちゃんは全然大きくならなくて、ずっと綺麗で可愛いままで……私もちっとも変わらない。
こんなに素敵な日常を、もっと素敵にできるまで……私は永遠を過ごしたい。
「身体の動かし方も忘れてしまいますよ! ほら、起きて? 私はダンスを練習しだして、とっても上手くなりました」
「全部あなたと笑うためです」
「毎日、絵本を読みました」
「……私が言ったことなのに忘れていましたね。真っ赤な手は血ですよね? 私がワタちゃんを殺そうとしたって解釈で合ってますか? 表紙の裏も確認しましたよ」
「びっくりしました。ワタちゃんの言葉がたくさん書いてあって……本当に伝えたかったことを知れて、嬉しかったです」
『おまえさえいなければ』
『ころしてやりたい』
『どうして』
悲しいと思ったけど、それすら乗り越えた先には……きっと誰も知らない愛がある。
「でも、私はあの言葉だけ消してあげたいです」
『はんせいしました』
「違いますよ。ワタちゃんは何も悪くありません! 生きるために必要だったものを、謝るなんて間違ってます」
「あなたのおてては、こんなに白くてとっても綺麗」
優しく笑いかける。ベッドで寝ている小さな女の子に、安らかな笑顔を感じてほしい。
頭を撫でて、髪を嗅いで、たまにお風呂に連れて行って二人で寝る。
退屈なほどに幸せで、つまらないほど愛おしてくて……たまに静けさが這い寄ってくる。
それでも私はあなたとずっと、こんな生活を続けていたい。わがままを言えば、しっかりと目を開けて……優しい声と生活を。
そう望みながら、おはようのキスをしていた時だ。ずっとずっと待っていたから。
きっと、色んな感情で声が漏れた。
「……あ」
【ここまで読んでくれたあなたへ】
余韻を潰したくなくて、これすら書くか迷いました。ですが感謝を伝えたいです。
たくさんの作品がある中で、あなたがこの作品を読んでくれたことに感動しています。
本当は、ぐだぐだやって終わらせたくない気持ちもありましたが……
今はゆっくり『IFルート』でも投稿したい気分です。コメントも感情が爆発するので返せていませんでしたが、時間があるときに返信します。
エタるという不義理はできない。そう強く考えながら、毎日一話ずつ完成させていましたし、(作品説明に不定期投稿なんて保険をかけるぐらいです……)自分の癖をみんなに少しでも伝えたかったから本気でした。
小説を投稿するのは本当に初めてで、色々と合ってるのかよく分かりませんが……週間4位が取れて泣いてます。
応援してくださり、本当にありがとうございました。
長々と書きましたが、言いたいことはここからです。
えっちだったら教えてね!!! またね!!!