TS外道人外ロリは怖すぎ聖女に遊ばれる   作:適当うなぎ

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長めです。IFは一話完結をゆっくり投稿予定……ぐちゃぐちゃですが、勢いってことでお願いします。



IFルート
 『甘い夢とホウセンカ』


 

 

 気づけば、何かを食べていた。

 

 それは人だろうか、それとも動物だろうか。よく知った形をしているが、耳や尻尾が生えている。

 

 「うっ……え」

 

 なんだこれ。気持ち悪いけど、止まらない。

 

 嫌な音が口から響いて、手には異様な温度が感じられる。

 

 「これが役(・)目(・)だ。私達は食わねば生きられない、それを最初に子に教える」

 

 「妻もそう望み、私も同じことをする。何も恐れることはない……」

 

 後ろに誰か立っていた。知らない声だが、何故かとても安心する。

 

 それは俺が食べている物と、姿が似ている男だった。

 

 「気持ち、悪い。なに、が……」

 

 不快な血の味が俺を満たしていく間、状況だけが飲み込めない。

 

 「! 何故、意味のある言葉を発せる。脳はまだ残っているはずだ」

 

 「うぁっ……」

 

 突然、肩を揺さぶられる。意味がわからない、夢か? なんなんだよこれ。

 

 「私たちは『魔人』、親から子へ継承を続ける存在だぞ。それを……」

 

 「お前は何者だ?」

 

 聞きてぇのはこっちだよ。ここはどこで、お前は誰だよ。

 

 「まさか神子(みこ)とでも言うのだろうか。そうか。この子が、この子こそが……!」

 

 「世界に再び、絶望を!!」

 

 怖い。テンションについていけない、何かのドッキリ? 吐きそう。

 

 そんなことを考えていると、もう俺の目の前には何も残っていなかった。

 

 周囲の緑は赤に染まって……もう一度、知らない声がした。

 

 「……おかあさん?」

 

 多分、俺の声だった。

 

 

 

◆

 

 

 

 吐いたけど何も出なかった。叫んでも助けは来なかった。

 

 意味が分からない。幻覚? 夢? それにしては現実感がありすぎる。

 

 何かの薬物? それとも統合失調症?

 

 理解できない。なんだこれは。

 

 一切、以前の記憶がない。人として俺は生きていた……それだけが頭に残っている。

 

 違う、これが思い込みなのか?

 

 気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い。

 

 「娘よ、何をそこまで悲しんでいるのだ? お前は魂の一片も残していない。妻を完璧に取り込んだ……誇りを感じているはずだ」

 

 こいつがお父さん、さっき食べたのがお母さん。どこかでそれだけ理解している。

 

 「おぇ、気持ち悪い」

 

 口から言葉が漏れた瞬間、俺は喉を掴まれていた。吐き気が強くなる。

 

 「大丈夫だ、恐れるものはない。食わねばお前は凡夫に終わってしまう」

 

 「いたっ……なにすんだよ」

 

 「娘よ、よく聞け。私たちは裏切られた。同胞を殺され、逃げてきたのだ。誓いの薄い森までな」

 

 何を言ってんのか分からねぇんだよ。

 

 俺の目を見て、この感情が伝わったのだろうか。男は俺の口に指を突っ込んでくる。

 

 「まだ分からないだろう。だが、私を食えば伝わるはずだ」

 

 「やめ、ろ」

 

 …………俺はお腹が空いていたのか?

 

 気づけば、一人になっている。

 

 「は?」

 

 激しい吐き気と頭痛がした。頭を抱えて、何か考えようとする。

 

「おぇぇ……」

 

 食べた。何を? 親だ。

 

 俺はこの時、確かな指針を手に入れた。

 

 『種を残すために生きろ』

 

 何か食べるのは仕方がない。だって、生きるためだから。

 

 どうして俺は生きるのか。ただ死にたくないから、それともこれが同胞の、父と母のためだからか。

 

 どうしてこんな……なんで? 何が、どうなって、誰のためにこんなことに?

 

 ただ気持ち悪いまま、たくさんの時間が過ぎた。

 

 

 森の中で過ごしていると、俺は動物の声が聞こえることが分かった。

 幻聴なのかは知らない。だが、それのおかげで寂しくはなかった。

 

 「お腹すいたな」

 

 『食べていいよ。君がご飯をくれたから、僕は息子に会えたわけだし』

 

 お腹が空いて耐えられなくなると、いつも変な動物がやってきた。少しだけ大きいリスみたいなやつ。

 

 何も言わずに素直に手を伸ばして、それをゆっくりと口に運ぶ。

 

 「いただきます」

 

 美味しくはないし、気分も悪い。それでも食べるのは、俺はただひたすらに生きないといけないからだ。

 

 何のためかは分からなくても、きっと何か意味があるから。何も分からず死ぬ理由なんてものは見つからないから……

 

 だが、彼らではお腹も満たされなくなってきた。やっぱり量が必要なんだろうか。

 

 そんな時だ。一人の男が、この森に入ってきたのは……

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 

 「……よかった、ご飯だ」

 

 安心したような、嬉しそうな少女の声が森に響く。

 

 「ありえない」

 

 声が出た。

 

 もうここに魔物はいないはずだ。数年前に森を拠点にする犯罪者達を捕まえるため……

 それを邪魔する魔物は、国の依頼で殲滅されたって話だった。

 

 だが、森に入って仲間の墓まで行こうとした時。私の前にそれはいた。

 

 魔物が言葉を話す。別にそれは珍しいことではないが、なんだあの姿は?

 

 ご飯だと言われるまで、獣人だと思った。

 

 間違いだ。人食いの化物がそこにいる。

 

 「どっか行ってくれない? 心の底では食べたくないかも」

 

 目の前の少女が、ゆらりとその身体を揺らす。

 

 何か、苦しんでいるのが伝わった。

 

 「逃がすつもりは無さそうだが」

 

 いつの間にか肩を掴まれている。かなり強い力で、振りほどくのは難しそうだ。

 

 「お腹、空いてるんだよ。死にたくない」

 

 泣きそうな顔をしている少女は、私を木の幹に押し付けてくる。

 

 「だから本当は……食べたくないけど」

 

 嘘ではない。そんな気がした。

 

 命を奪うことに罪悪感を覚えた目をしている。これは仲間にも同じ奴がいた……間違いないだろう。

 

 自分の生き方を否定する、それはきっと地獄の苦しみになる。

 

 もしかしたら演技かも知れない、私はそんなことを一瞬たりとも考えなかった。

 

 私も苦しんできたからだ。耐えられない恐怖から、逃げたくなるような痛みまで。

 抱えた不安を隠すため、私には常に痛覚を鈍化させる魔法が発動するようになった。

 

 自分がそんなだからか、嘘をつくやつはすぐに分かった。だからこの子は本当に……

 

 「おじさんは病気だ。もうどうせ死ぬから、最後が君みたいな可愛い子に食べられるってなら……案外、悪くないのかもな」

 

 嘘ではない。最近は毎日血を吐いて、痛みが酷いので魔法でごまかし続けている。多分すぐ死ぬだろう。

 

 今まで何のために生きたのか、そんなことは分からない。ただ、死にたくないから他人も騙した。

 

 あまりいい生き方ではなかったが、でも道は選べなかった。運が悪かったんだ。

 

 目の前の少女も……同じなんだろう。

 

 「森からは出ないほうが良い。きっとすぐに殺されてしまう」

 

 何か、救いを与えたい。こんな時だからか、死の恐怖よりも先行するのは同情だった。

 

 嘘だとしても少しだけ気持ちを楽にできるような、そんな甘い考えを。

 

 「この森に来る人間は何も考えず食べるといい。こんな所に来るしか無かった、悪い人間ばかりだから」

 

 悲しそうな顔をされた。首に噛みつきながら、何かをブツブツ言っている。

 

 「なら、俺は……」

 

 疲弊している。何か縋るものが欲しくて、自分を正当化したい声が漏れていた。

 

 それで良い。その方がうんと、君は幸せになれるだろう。

 

 「私は痛くないしな。景色も悪いものではない」

 

 「やっぱりもう良いかも」

 

 突然、少女がそう言った。私から口を離して後ろに下がる。

 

 「これが夢でも耐えられない」

 

 「どうして生きてるのか分からない」

 

 なんだ、そこまで君は人なのか。何も考えずに生きるだけの獣には成れないのか?

 

 「死にたくないから、俺は同じ思いの人を食って殺してもいいのか? そんなの絶対に良くない」

 

 ……まるで人の考え方だ。君は魔物に生まれたんだから、それでは無意味に苦しむだけなのに。生きづらいやつは、見てられない。

 

 私は別に善人ではなかった。他のこれから食われる奴らより、目の前の迷える少女の方が可哀想に感じる。だから俺は口を開いた。

 

 「大丈夫だ。人様に迷惑をかけた悪人しか、こんな場所には来ないんだよ」

 

 「そいつらも同じ思いを無視してる」

 

 適当な言葉だ。今は薬草でも採りに、仕事で来るのもいるだろう。

 

 この子はいつか殺されてしまうだろうから、それまで幸せに生きる権利ぐらいは……与えられても良いはずだ。

 

 聞いてから、その場で頭を抱えた少女は悩んで悩んで悩んだあとに、泣きながら私に歯を向ける。

 

 「仕方ない、悪くない。生きるためなら……当たり前」

 

 そんな声が頭に響いて、私は静かに頷いた。

 

 

 

◆

 

 

 

 必要だった。

 

 死にたくないから。

 

 でも……我慢さえできれば少しの血を飲むだけで生きられるかもしれない。

 

 そう考えると、お腹のあたりが気持ち悪くなる。

 

 「食べないと動けないから……悪いことじゃない。人じゃないから、仕方ない」

 

 俺は脳を食べたとき、記憶みたいなものが断片的に吸収できるらしい。

 

 確かにこの森は犯罪者の拠点になってるみたいだ。大丈夫。

 

 ……そこまで悪いことじゃない。

 

 大丈夫、大丈夫だから。

 

 俺が謝る必要はない。

 

 痛くないし、景色も良いって言っていた。最後に見た顔は笑顔だったし、嬉しかったに違いない。

 

 きっと……そういう趣味なんだ、いや絶対だ。

 

 不安が頭をぐるぐる回って、どうしようもなく死にたくなった。

 

 でも、人を食べてまで生き延びたんだ……もうそんなことはできない。

 

 

 考え続けて、あまりお腹が空いてない時……森に二人目の人間が来た。

 

 白い修道服を来た、とても綺麗な女の人だ。

 

 優しそうだなと思った。

 

 「そうだ、今なら少しで大丈夫かも」

 

 この森は犯罪者しか寄り付かないようだけど、全然悪い人間には見えなかった。

 

 お腹が空いてなかったら、案外冷静になれる気もする。今は満たされなくても生きられるような感覚もある……おじさんを食べてしまったからかな。

 

 俺は恐る恐る近づいて、横から飛び出て声をかけた。

 

 「すみません。少し、お話を」

 

 すぐに杖のようなものを向けられた。

 

 「え〜、小さくて可愛い女の子? 何々、どうしたんですか?」

 

 言われて、何か圧のようなものを感じた。少し背中を見せて逃げるかを悩んだ。

 

 まだお腹はあまり空いていないし、変な賭けはしなくてもいいのかもしれない。

 

 だが、これで生きられることが分かれば……自分の心を保てる気がした。

 

 「その、少しだけ血を飲ませて……貰えませんか。お腹すいてて」

 

 女は黙って俯いている。考えてくれているのだろうか。

 

 「あなたは何人、殺しましたか?」

 

 「え、あの」

 

 急に雰囲気が変わった。身体が何かを警告している。

 

 綺麗な白い服がなびいて、空気が揺れているように感じた。

 

 …………神が裁きにやってきたのだろうか。俺は心からそう思った。膝をついた、全身が震える。

 

 「三人も、食べてしまいました」

 

 女が俺に近づいてきて、顔を覗き込んできた。

 

 「本当に三人ですか? そんなに喋れるなんて、かなり怪しいですよ。何人も食べたんじゃないですか?」

 

 「まず、魔物が友好的な感じで人前に出るのっておかしいですからね。亜人に化ける進化でもしてるんでしょうか……耳とか尻尾もありますし」

 

 「血をくださいなんて言わなければ、別に一般人なら魔物とは思わなそうですけど。ちょっと意味わからないですね」

 

 「草食みたいな見た目なんですから、果物でも食べれたらいいのに」

 

 急にありえない量を喋られた。あまり理解ができない。

 

 亜人の知識はある。似てるらしいし、なんとかなると思っていたが、そうか……

 

 まず普通の食べ物がいける可能性すら思いつかなかった。何か血じゃないといけない気がしていた……

 

 これも親からの知識だろうし、そうなのかもしれないが。

 

 「あれ、近づいても噛んできませんね。あまり臭くない気もします……気の所為ですかね?」

 

 「まぁ可愛い女の子の姿なら、別に悪い気はしません」

 

 そう言った女は、気づけば指から血を垂らしている。

 

 「ふふ、どうぞ!」

 

 そっと口元に差し出された。

 

 ……もしかすると本当に優しい人なのかもしれない。

 

 俺はそれをゆっくり舐めた。

 

 「襲ってくると思ったのに。いもむしさんになる所が見たかったです」

 

 何を言ってるのかは分からないが、話を聞いてくれるかも。そう思い、俺は罪を告白した。

 

 「お母さんと、お父さん……男の人を食べました」

「お腹が空いてて何も考えられなくなって、気づいたら」

 

 「食べていたと?」

 

 優しい声に恐怖した。

 

 「両親……は、人じゃなさそうですけどね。でも人を食べたなら、ね? 私には人って、みーんな家族みたいなものですし」

 

 「たくさんごめんなさいを、しないといけませんね」

 

 自分を受け入れられなくて、誰かに罰してほしかったのか。俺はこの言葉が離れなかった。

 

 「……ごめんなさい」

 

 小さな声しか出なくなるような、さっきより身体が重くなっていく感覚がした。

 

 これが俺の罪だろうか。

 

 「流石に服までは食べてませんよね。遺品とか残ってます? 私が見ます。それもないようなら、人の心もないのでしょう」

 

 女は指を組んで、見下すように俺を見た。

 

 服はどうしたっけ? 引きちぎったような気がする。でも、遺品は一応大丈夫だ。

 

 「あ、あります!」

 

 俺はそれがある場所まで案内を始めた。

 

 

 

◆

 

 

 

 魔物の少女と歩いた先には、小さな木の洞(うろ)があった。

 

 ……食べた人間の持ち物を、そこに置いているようだ。

 

 「すごく賢いじゃないですか」

 

 持ち物を汚さず残す程度には、罪の意識があったのだろうか? 本当に魔物では考えられないような、人に近しい感性を持っているのか。

 

 「でも、たまたまってことですよね。私があなたと出会う時、お腹が空いてたらここに仲間入りですか? そんなの危ないです……今すぐ消さないとですよね」

 

 少し脅すと、身体を震わせて小さな謝罪を繰り返している。

 

 

 (なんか、気持ちよくなってきました!)

 

 

 間違いなく気持ちいい。こんな小さな女の子の見た目だが、人殺しの魔物なわけで……何をしても許されるだろう。

 

 「これ、です」

 

 取り出されたのは、歪な形のペンダント。

 

 「…………」

 

 これは割と大きめの犯罪組織が共通して身につけてるやつだった気がする。

 

 まぁ、良いや。

 

 「ごめんなさいで許されると思いますか? だって、あなたの仲間が食べられるのを想像してください。許せないでしょう?」

 

 少女が泣いて謝るから口が回る。

 

 「あ、家族も食べたんでしたっけ。なんとも醜い存在ですね!」

 

 「俺がっ、受けるのは罰でしょうか!? 何も分からず生きたのは罪でしょうか!?」

 

 なんか可愛いのに喋り方が可愛くない。

 

 でも、自分好みにカスタマイズできる気もしてきた……

 

 「性別とかあまり気にしないんですかね? お父さんの影響かな? 自分のことを言うときは、私って言ってみてください」

 

 「え? あ、え?」

 

 困惑しているが、多分やってくれそうだ。

 

 「許されたいですよね。私の言う通りにすれば、自然と贖(あがな)うことができます」

 

 「お、わっ……私に、何が必要ですか」

 

 うん、可愛い。かなり好きな女の子になった気がする。泣いてる顔が逆にいい。

 

 正直……誰が食べられてようがどうでもいいが、この魔物の少女は何かに縋りたいのだろう。

 

 「私は神の使いのようなものです。皆から『聖女』と呼ばれ、深く感謝をされてきました……ここまで分かりますか?」

 

 「は、はい」

 

 「お仕事で何人もの魂を鎮めています。なので、私に従えば罪は軽くなるでしょう」

 

 いつもなら、とっくに手足とはお別れして貰うけど特別だ。

 

 「まず、私のことは『アリスお姉ちゃん』と呼んでください。そしたら……人のように生きる方法を教えます」

 

 「次に、可愛く必死に媚びるんです! 何故こんな事をするのかは理解しなくても良いですよ。まだ人の心までは分からないと思いますから!」

 

 いい出会いのような感覚がある。きっとこの子は……私の心の穴を埋めてくれるんじゃないだろうか。

 

 そんな気がして、胸が高鳴る。久しぶりに何かを好きになれそうだ。

 

 「え、ありす……お姉ちゃん?」

 

 「はい、そうです。その調子です!」

 

 可愛い。

 

 「あの、こっ、こんなことでっ! 許されるんでしょうか?!」

 

 もっと可愛くできるはずだ。そしたら、もっと……

 

 「もう少し、見た目通りな感じで柔らかく喋ってください。幼女であることが大切ですよ? それなら、清く生きられますから」

 

 きょろきょろして過呼吸になっている。なんか、信じられないくらい興奮してきた。

 

 「自分の名前と年齢はわかりますか?」

 

 「わかっ、んない……です」

 

 たくさん泣いている。凄い、気持ちいい。

 

 「うーん。本当に幼そうにも見えますが……ネオテニー? 的な可能性が」

 

 「きっと三、とか」

「名前は……ないです」

 

 思考が止まった。三? これは嘘だろうか。どうする、本格的に調べる?

 

 いや……本当だと思っている方が気持ちいいのは確実だ。それに、なんだか嘘はついてなさそうな感じもする。

 

 私の魔力を感じ取れていないのだろう。分かっていて逃げない強さの個体なら、とっくに襲いかかってきているはずだ。

 実力差が理解できないのに、すぐに襲ってきていないのは……本当に罪の意識があって、食事をできるだけ控えたいから?

 

 「え、三? ちっちゃ……」

 

 色々考えても、結局のところ口からはそれしか出なかった。

 

 この子は悪くないかも! ちょっと人殺しみたいだけど、仕方ないってことにしてあげよう!! たくさん可愛がってあげて、反省させたら供養でしょ!!

 

 「あー名前、ないんですか。それだと罪を償えませんよ」

 

 とりあえず適当なことを言ってみる。

 

 「え、あ……え? 私、どうしたら!」

 

 焦っている。急に身体に穴が空いたらどんな反応するんだろう……気になってきた。

 

 「まず、食べた人にお供えする花を用意するんです。それを私が清めます」

 

 そう言うと震えながら周囲を見渡して、小さな歩幅で花を探しに行っている。

 

 「これ、で」

 

 少しして渡されたのは、綿毛の塊。これがお供え……?

 

 頭の出来が、感性の全てが魔物だ。逆にそれが良く分かって興奮してきた。

 

 「まぁ、良いでしょう。奪った命を忘れないよう……あなたに供えた花の名を」

 

 ノリで言い過ぎて何にするか迷っている。

 

 白くてすぐに消えそうだから、綿毛のワタちゃんにでもしようかな。

 

 「今日から『ワタ』として生きなさい」

 

 「……わかりました。そ、それで、私はどうすれば」

 

 「せっかく名付けましたよね? 一人称は名前にしてください。これから供養するので、ワタちゃんはそこで見ててください」

 

 私はそれっぽい言葉を並べた。これは珍しいことだ……本当に無垢そうな魔物で見た目も可愛いし、なんだか少し人っぽい。

 

 本格的に気に入ったからペットにしよう。

 

 

 

◆

 

 

 

 全ての遺品を取り出して地面に置いたかと思えば、何かを唱えて祈りのようなものをしている。

 

 目の前に巨大な光の柱が現れた。

 

 「これで魂は天に送られました」

 

 「彼の持ち物も、無事に届いたでしょう」

 

 優しく、頭を撫でられた。

 

 「信じましょう。そして許しましょう」

「あなたはきっと償えます」

 

 光が止むと、確かに遺品は跡形もなく消えている。

 

 神の御業だ。本当に、天まで届いた。

 

 「私に続いて、言ってください」

 

 安心する笑顔でそう告げられる。俺はただ感動していた、もしかしたらこのまま……

 

 「犯した罪には劫罰(ごうばつ)を」

「さん、はい!」

 

 何も考えずに、俺は復唱した。

 

 「犯した罪には劫罰(ごうばつ)を」

 

 「よく言えました! 聞きましたからね」

 

 ……首に何かをつけられた。アリスさんは、ニコニコしている。

 

 「では、これからお家までついてきてもらいますよ! もう私達は家族です!」

 

 なんか急すぎて意味がわからないけど、これが俺の生まれた理由に繋がる気がした。

 

 アリスさんは人を助ける仕事をしているようだし、もしかしたら……このまま俺も奪わない側の何かに!

 

 そんなことが頭にあった俺のへそに、気づけば杖を当てられていた。

 

 突然、熱が俺の身体を貫いた。見てないけどお腹に穴が空いているのが分かった。

 

 「ひぁっ」

 

 倒れ込む。意識は続いている。

 

 何が起こった? 分からない。

 

 いた、痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い。アリスさんに顔を覗かれている……?

 

 「あー、大変です。どこからか攻撃されていますよ……ワタちゃんは魔物なので、きっと殺されてしまいます」

 

 「え、や……やだ」

 

 涙がこぼれた。痛い、怖い。理解できない、何がどうなって……

 

 「わ、泣かないで? 安心してください。 家族は守りますよー。私は、ワタちゃんが大好きですからね!」

 

 抱き上げられた。気づけばもう痛くない。

 

 「私はどんな傷でも治せます。絶対に死なせませんよ」

 

 頭を埋めるように、俺の髪に顔を押し付けてくる。荒い息が漏れた。

 痛かったのは本当だ。まだ、苦しい。

 

 「逃げるので、目を瞑っていてください」

 

 言われるがまま視界を塞ぐ。

 

 何回か俺の身体に穴が空いて、アリスさんからも「いたっ」と声が聞こえてくる。

 

 怖いし痛いし気持ち悪いけど、安心する。この人が全部、どうにかしてくれるらしい。

 

 吐いた気がするけど、分からないぐらい……ぐちゃぐちゃだ。痛い。

 

 「守りますよ。安心して、この程度じゃ死にませんからね」

 

 凄い。神様みたいだ。

 

 身体を長い間揺らしていると、いつの間にか意識を失っていた。

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 

 声が聞こえて目が覚めた。

 

 「ワタちゃん、起きてください」

 

 頭から羊みたいな角が生えた女が、俺の目の前で揺れている。

 

 ふわふわした長くて白い髪が、ゆっくりゆっくり揺れている。

 

 「? ……ひっ」

 

 窓がない、ただ灰色の壁に囲まれた部屋。天井から伸びる縄で吊るされた女が、アリスさんに揺らされていた。

 

 変な匂いがする。

 

 「な、なにが」

「タイミングが悪かったですね。この子はイシちゃん」

 

 「私のペッ……家族でした」

 

 意味が分からない。どういう状況だ? 何で、アリスさんはそこまで冷静にいられるんだ。

 

 「これはイシちゃんが望んだことなんです。人を食べすぎた罪を、いつか自覚できたときにって用意していたものですから」

 

 ……まだ、何も分からない。

 

 「イシちゃんは最初、私を否定していました。いつも叫んで食べようとしてくるんですよ? 『理不尽だ』って怒りをぶつけてきました」

 

 座り込んでいた俺を、背後から抱き寄せてくる。

 

 「でも、良い子になるって言い始めてからは本当に可愛くって……毎日を楽しく過ごしていたんです」

 

 「夜になると、よく泣いているのも知っていました。最近は静かだったんですが……」

 

 「罪を受け入れ、耐えられなくなったのでしょう。悲しいですが、イシちゃんは死ぬしかなかったようです」

 

 分からない。

 

 「……これは自分で?」

「はい、彼女はきっと天国に行けましたよ」

 

 声は出ない。出せなかった。

 

 だって、吊るされた女は手足が短くなっていてどうやったってあの高さには……

 

 

 「そ、っか……」

 

 考えないようにしよう。凄い力を持っていて、全力で俺を守ってくれていたはずだ。

 

 神様の使いで、意味がわからない気持ち悪さを抱えただけの命を……きっとどうにかしてくれる。

 

 信じないと失礼だ。

 

 軽々と持ち上げられて、揺れる女と目が合った。

 

 穏やかな顔をしている。本当に……絶対。

 

 「ワタちゃんは、きっと特別です。死なずとも罪を償えますよ。可愛いですし」

 

 優しい声で囁かれた。

 

 「その顔……異臭を感じますか? これは魔物から発されるものですよ。たくさんの人を食べると、こうなってしまいます」

 

 「でも大丈夫。もう人は食べさせません」

 

 

 

◆

 

 

 

 ワタちゃんに頼られたいな。

 

 妹みたいになってほしい。

 

 苦しい思いをさせるだけじゃなくて、私がいないとダメにしたい。

 

 今までこんなこと、誰にも思ったことがなかった。

 

 これが『性』以外の何かであってほしい。もっと綺麗で、美しくって……私が知らない幸せであってほしい。

 

 

 ワタちゃんを拾ってから、一月程度が経過していた。

 

 深い生への執着や、罪の意識などが重なっているのだろう。

 とても従順で……償うためと、私の理想の女の子になってくれている。

 

 最初は痛いことをしていたけど、大切にしたい思いが強くなったのですぐやめた。興奮するけど、笑顔のほうがそれよりも鋭い何かがある。

 

 可愛いお部屋を用意して、毎日一緒に眠るようになると、すごく懐いてくれた。

 

 「ねぇワタちゃん。今日はお散歩に行きませんか?」

「え、いいの?」

 

 可愛い。袖を掴んできて、目を輝かせて言ってくる。

 

 なんか甘い匂いがするし、ふわふわしてて可愛いから好きだ。

 

 だから、もっとワタちゃんに愛されたい。

 

 罪滅ぼしのためなんかじゃ物足りない。私を見て、もっと心から求めてほしい。

 

 だから今日は少しだけ、酷いことをしてしまおう。

 

 

 「絶対、手を離さないでくださいね」

「……うん」

 

 黒い外套を着込み、今はワタちゃんと商店街を散歩していた。

 

 たくさんのお店を見て興奮していたのか、すぐに手を離して何かを覗き込みに行った。

 

 良かった。全部が上手くいってくれる。

 

 私から離れるなんて選択を、もう二度と取れないように……外は怖い場所だってしっかり覚えさせてあげないと。

 

 ワタちゃんは、少し先のお店で花火を見つめている。

 

 「では、予定通りに」

 

 私は小さく指示を出す。

 

 すると、すぐに二人の人影がワタちゃんに近づいて行った。

 

 「こんな所にいたのか。もう帰るぞ」

 

 細身の優しそうな青年が、そんなことを言いながらワタちゃんの手を掴んだ。

 

 「? え、なに」

 

 困惑しながらも、少し抵抗しようとしている。可愛い。

 

 「……アリスお姉ちゃん! たす」

 

 後ろから追いついた長身の女が、ワタちゃん目線を合わせるようにしゃがむ。

 

 「はいはい。お姉ちゃんの所に行くまで静かにしようね? お菓子食べてていいから」

 

 何かを口に詰め込まれて喋れなくなったワタちゃんは、それを吐こうとしているが口を押さえられている。苦しそうだ。

 

 女が耳元で何かを囁くと、耳と尻尾を激しく動かし始める。

 怖がっているのが伝わってきて、やっぱりすごく可愛い。

 

 青年が膝に手を回して、当然のように持ち上げる。お姫様抱っこされるワタちゃんは、きっと二人の養子か何かに見えるだろう。 

 

 ワタちゃんはこちらに振り返って、明らかに助けを求めている顔をしている。

 

 私は気づかないフリをして、わざとらしく周囲を見渡した。

 

 『連れ去られていることに気づけない間抜け』そんなこと思えないように、しっかり怖い思いをしてもらった後で救助する。

 

 傷つけ方の指示も出したし、変なことを始めたらすぐに殺せばいい。

 

 ああ、早くワタちゃんが私の側にいないと生きられない身体になりますように……

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 

 突然だった。知らない男に痛いくらい手を強く握られた。

 

 「こんな所にいたのか。もう帰るぞ」

 

 人違いだと思ったが、そんなことはない。

 

見下してくる男の目は信じられないほど冷たく、俺に逃さないと伝えてきた。

 

 (あ、これ誘拐だ)

 

 即座に頭が警告を発した。掴んでくる腕を振りほどこうと、必死に力を込めるも意味はない。

 

 一瞬間にアリスさんの存在を思い出す。

 

 名前を呼んで助けを求める。意識したことが無かったし、そんな機会も無かったので分かっていなかったが……俺の声は細くて弱かった。

 

 言葉を結び終える前に、何かが口に押し込まれる。苦くて気持ち悪い。

 

 吐き出そうとしたが、どこからか現れた女に手を当てられてそれができない。というか……すでに吐くものがない。

 

 口の中で溶けて、完全に消えている。

 

 「はぁっ。ぁい、す」

 

 舌と喉に痺れを感じて、助けを求めようにも息が漏れるだけだった。

 

 するとすぐに女に耳打ちをされて、口を開く気さえ起きなくなった。

 

 「そんなの意味ないし、余計に苦しむことになるかも?」

 

 身体が持ち上げられ、目線も上がるとアリスさんの顔がしっかりと見える。

 

 心配そうな顔をしながら、首を左右に振っていた。

 

 『絶対、手を離さないでくださいね』

 

 その言葉が脳内で繰り返され、過去の自分を責め始める。

 

 ゆっくりと、でも確実にアリスさんから離れていって……

 

 いつの間にか、どこかの古びた小屋に着いていた。

 

 

 腕を後ろに縛られて地面に転がされる。

 

 こいつらの目的が分からない。

 

 緑髪の男は何か不快なものを見るような顔で、俺を睨んでくる。

 

 長い黒髪の女は、しゃがんで俺の頭を撫でている。

 

 怖いし気持ち悪い。

 

 これからどうなるんだ……人身売買? 俺に連絡手段なんかないし、助けも呼べなければ身代金も出しようがない。

 

 震えながら考えていると、すぐに答えが返ってきた。

 

 「ガキ、これでお前の腹を捌く」

 

 男がしゃがみ込んで、低い声でそう言う。

 

 言葉の意味が理解できない。

 

 巨大なペーパーナイフのようなものを、そっと腹を当てられていた。

 

 「な、……なんで?」

 

 いつの間にか言葉が出せるようになっていて、不安と恐怖が口から漏れる。

 

 「仕事だ。ガキなのに相当恨まれてるな」

 

 「え? ……?」

 

 何も理解できない。思考が完全に止まって、泣き喚くことすら選択肢に浮かばない。

 

 「小さいのにカワイソー。ごめんね? でも、絶対に死にはしないから安心して」

 

 頭を撫で続ける女が、へらへらと笑顔で俺に言う。

 

 「まずは指を全部(ぜーんぶ)、切り落とすけど……失血死とかはしないからね!」

 

 その言葉と同時に、俺はうつ伏せにひっくり返された。

 

 「なんで」とか「どうして」とか……そんなことしか頭になくて、親指を掴まれていることに反応するのが遅れた。

 

 「まっ、て」

「はいはーい。一本目だよ!」

 

 鈍い痛みが指の付け根に広がったかと思うと、熱さ以外を感じなくなった。

 

 胃液が喉までこみ上げる。

 

 「意識失えたほうが楽だよ? 頑張って」

 

 多分喉が裂けるほど叫んで、「四本目」まで聞こえた後に……俺の記憶はそこで途切れた。

 

 

 

◆

 

 

 

 「よし、終わり。正直、二十は多いね」

 

 痛みと声で目が覚めた。

 

 男に髪を掴まれて雑に起こされる。

 

 「飽きた面をするな。数を数えるのが、お前の仕事じゃないなら……お前の仕事はここからだ」

 

 「言い回しカッコいいと思ってる?」

 

 会話が耳に流れ込んでくる。

 

 「……はぁ」

「だよね。安心して、多分カッコいいよ!」

 

 「君はどう思う?」

 

 女と目が合う。なんかぐるぐるしていて、吸い込まれそうな漆黒の瞳だった。

 

 手足が痛んで、言葉は入ってきても上手く考えられない。

 

 答える代わりに涙が溢れる。

 

 「ねぇ、君はどう思う?」

「無駄な会話をするな。さっさと切れ。そして縫え」

 

 「いや、これは悪趣味すぎて楽しくないんだけど……」

 

 女がそう言うと、男は右手で髪をかき上げながら上を向いた。深く息を吐く音が聞こえてくる。

 

 「金欲しさにお前が受けた仕事のはずだ。次からは内容が拘束の時点で断れ」

 

 何を言っているのか全然分かりたくない。男が得物を回転させ、俺の腹に深く突き立ててきた。

 

 「あふっ……」

 

 息が漏れる。叫ぶ力も残っていない。どうして? 何でこんな目に? 

 

 やっぱり人を殺したのは許されなかった? 罪を償っている気で、何かにしがみつくのは間違っていた? 吐き気がする。

 

 一番、自分で納得感があるのは……アリスさんの手を離したからだろうか。

 

 あの人の隣にいれば、こんな思いなんて絶対にしていない。

 どんな時でも守ってくれるはずだ。初めて一緒に寝た夜に約束してくれた。

 

 助けてくれるはずだ。

 

 「はやくやれ。何故かコイツを切る感覚は不愉快だ」

 

 助けてくれる。守ってくれる。罪を償わせてくれる。

 

 「ごめんなさいでしたっと。流石にちょっと痛いと思うけど、我慢してね?」

 

 女が楽しそうに刃物を動かし始める。

 

 俺の腹が横一文字に切り裂かれている。

 

 なんでこんなやつに? クソ、おかしい。絶対にこんなことをされる理由はない。

 

 痛い、苦しい、腹が立つ。

 

 「じゃあ、ここに具材を詰めましてー」

 

 体内に大量の何かが押し込まれて、異物感で胃液が押し出される。

 

 「整えましたら餃子の……完成、です」

「…………悪趣味な」

 

 何か引っ張り上げられているような感覚がする。

 強引に立たされて、下腹部から伸びる三本の糸を咥えさせられた。

 

 「下は向かないほうが良いよ。口も開けちゃだめ。具材がこぼれちゃうから」

 

 足が震える。指が無いせいで上手くバランスが取れていない気がする。

 

 「このまま誰かが来るまで待機だ。正気とは思えないな」

 

 ……ふらつくと、男にしっかりと支えられた。

 

 男は不機嫌を隠さず、俺を柱のような所へ縄で適当に縛りつける。

 

 首と足に食い込むそれが、不安と痛みを加速させている。

 

 叫びたかった。でも、そうすると……こぼれてしまうらしい。

 

 発散できない恐怖に切り裂かれ、ただ震えて理不尽を受け入れるしかない。

 

 意味がわからない。

 

 何かに祈りながら、ただ時間が過ぎるのを待った。助けが来ることを信じて、ひたすらに。

 

 すると、木製の扉が音を立ててゆっくりと開いた。

 

 光が差して、世界で一番眩しく思えるその声が……部屋を明るく照らしてくれる。

 

 「ワタちゃん、助けに来ましたよ」

 

 俺の横に立っていた男が、素早く腕を動かしてから口を開く。

 

 「くだらない茶番だったな」

 

 必死に咥えていた糸が切られて、全てが垂れ下がる。

 

 自分がはみ出ると分かって、喪失感が俺を支配した。

 びしゃびしゃと音がして、痛くて気持ち悪くて……たくさんの着水音がする。

 

 下を向くと血に浸る指が目に入った。

 

 頭がおかしくなりそうで、ただ死にたくないと強く願う。

 

 意識が遠のいて、アリスさんの顔だけが頭に残った。

 

 どうか助かりますように。

 

 

 

◆

 

 

 

 (……化物の求愛行動を手伝うのが依頼だったか)

「うわ、え? 怖」

 

 ワタちゃんの、指を拾って血溜まりをかき混ぜていると声をかけられた。

 

 「もう帰っていいですよ。お金はすでに払ってるので」

 

 これで分かってくれるはずだ。一人の危なさと、私の凄さ両方が。

 

 少し眺めたら治してあげて、叱って愛して抱き合おう。

 

 「では、これで完遂だ。帰るぞ」

 

 邪魔者が消えて、二人だけの大切な時間がまた始まった。嬉しい。

 

 

 部屋まで優しく運んであげて、目を覚ますのをゆっくり待つ。

 

 「おはようございます」

 

 可愛い顔と目があって気分がいい。

 

 何も言われずに抱きつかれた。小さな身体は小刻みに震えていて、私に成功を確信させる。

 

 「手を離しちゃだめって言いましたよね? 今回はた(・)ま(・)た(・)ま(・)助けれましたけど……いえ。生きててくれて良かったです」

「ごめ……なさい」

 

 小さな謝罪が繰り返される。

 

 「怖かった」

「全部、なくなっちゃうかと思った……」

 

 素晴らしい言葉だ。感動した。

 

 今はきっとそれを私が満たしているのだ。

 

 「次は約束できますか?」

「うん」

 

 服が濡れて湿ってくる。

 

 「ずっと一緒にいたい。もう痛いのも怖いのも嫌だ」

 

 多分、完成した。空っぽの私が本当に必要としていたものが。

 

 これがきっと、『恋』ってやつだ。

 

 これが絶対、『愛』ってやつだ。

 

 やっと普通を手に入れた。

 

 これから毎日が幸せになるはずだ。ワタちゃんと、何か些細なことで笑い合うだけで退屈を忘れられる気がする。

 

 「ワタちゃんが見ていた物、実はあの後で買ってるんです。どんなものかは教えれませんが、凄くいい思い出にできますよ」 

 

 「……怖い」

 

 「私から離れなければ大丈夫です」

 

 ワタちゃんは「そうかな」と下を向いて考え続けた後、耳を畳んで私を見上げた。

 

 可愛い。好きだ。

 

 怖い目に遭ってもらったばかりだけど、少しだけ意地悪がしたくなってしまう。

 

 「私一人で行ってしまいますよ?」

 

 力を込められて、尻尾をベッドに打ちつける音が響く。

 

 「だ、だめっ! ごめんなさい。一人にしないで……」

 

 「あー、冗談です。ごめんなさい。絶対に一人になんてしませんよ」

 

 気持ちいい。私は誰か求められたかったのかな。

 でも、私は常に世界に求められている。

 

 必要とされているのは当たり前のことだ。

 

 「家族ですから。大好きですよ」

 

 だから、ワタちゃんは何か特別なんだ。

 

 見た目が好き。心が弱そうなのも好き。声も、動きも考え方も……

 

 そう。全部がふわふわで大好きだ。

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 

 ワタちゃんを拾った森まで行って、近くの平原で花火を打ち上げた。

 

 最初は音に驚いてしゃがみ込んでしまっていたけど、今はニコニコで上を見ている。

 

 多分、許可とか得ないとダメな派手さをしているが……まぁ良いや。

 

 「きれい」

「良かったです。ワタちゃんの笑顔を見れて嬉しいですよ」

 

 頭をそっと撫でると、嬉しそうに喉が鳴っている。

 

 こういう所も本当に好き。

 

 「えへへ」

 

 ……きっと、この子のために生きてきたんだ。こうやって私を人間にしてくれる。

 

 「私は学校に行かないといけないので、ワタちゃんとどうしても一緒にいられない時間があります」

 

 突然放った言葉を聞いて、初めて花火を視線から外している。

 

 「え、あ……だめ」

「着いてきたいですか?」

 

 抱きついてきて、必死に頷いている。

 

 この子は多分、もう罪を償うとかどうでもよくて……死にたくないのが全部なんだろうな。

 

 私もそんなものは、本当に最初からどうでもいい。幸せになりたいのが全部だ。

 

 「ふふ、仕方ない子ですね? じゃあ頑張って許可を貰います。静かにするのが条件ですからね」

「うん……わかった」

 

 もっと充実した一日を送れるようになるのが楽しみだ。

 

 

 花火が静まってから少しすると、囁くように何かを言われた。

 

 「こっちにきて」

 

 ワタちゃんが私の腕を引っ張って、森の方へと歩かせてくる。

 

 「目を瞑っていてほしい」

「えー、なんですか?」

 

 私は笑顔で瞼を下ろして、ワタちゃんについていった。

 

 何かをちぎる音がして、「プレゼント」と右手に握り込まされた。

 

 「見て」

 

 渡されていたのは、真っ赤に咲いている……たった一輪のホウセンカ。

 

 良い子すぎる気がして、やっぱり少しだけ意地悪もしていきたい。

 

 「一緒にいてね? 一人にしないでね?」

 

 プレゼントとその確認が、私をどこまでも満足させる。

 

 「もちろんです」

 

 考えるまでもなく返事が出て、涙も少し出たかもしれない。

 

 きっと、この幸せは始まったばかりだ。

 

 雲に隠れてしまった月は、私たちを照らさないけど……そんなのは気にならないほどに、ワタちゃんが未来を輝かせてくれる。

 

 

 流れ星が夜を分けて、どこかにある不安を掻き消した。一人にしてほしくないのは、きっと私も同じだろう。

 

 だから、静かにこう祈った。

 

 

 二人でずっと、幸せに過ごせますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




説明不足もノリとする弱さがあります。自分が納得できるものが作れるまで頑張っていきたいです。

今回のえっちポイントは個人的に高めなので、ボツにせずに投稿しました。
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