TS外道人外ロリは怖すぎ聖女に遊ばれる   作:適当うなぎ

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ワタちゃんの日常
1. 『記憶喪失作戦?』


 

 俺は柵に(ひたい)を擦り続けて、だらだらと血を流している。これで完璧だ……全てを取り戻してやる。

 

 重い扉の音がして、女がゆっくりと入ってきた。

 

 「ワタちゃ〜ん。ご飯の時間ですよ! トイレは上手にできていますか?」

 

 ……ここに放置されてるからできるわけないだろ。柵から外に出られないんだぞ。俺は女に見えないように歯を食いしばる。

 

 作戦決行だ。

 

 「あ、あの……お姉さんは誰ですか?」

 

 これから俺は記憶喪失を装う。まずは無垢な少女を演じて、()を治してもらうのだ。

 

 「どうしてっ、俺の足が……全部ないんですか? なんにも、わかんなくて」

 

 泣きながら聞く。本当にどうしてだよ、クソ。俺は少し前までは生きることを諦めていたが、今は違う。

 毎日コイツが笑いに来ていると、ある日に絶望を完全に怒りが塗りつぶした。

 

 女を殺してやらないと、きっと俺に次なんてない。これは神様が与えた試練だ……そうじゃなきゃおかしい。

 

 女は口を手で隠すと、ゆっくり震えて喋り始めた。

 

 「頭でも打って忘れちゃったんですかね? ふふっ、一匹で二度も楽しめるなんて、最近の魔物はお得です」

 

 …………人間じゃない。おかしい、絶対に歪んでいる。こんなに弱そうな少女の姿で、泣きながら短い手足を動かしているんだぞ?

 

 「また躾をするのもめんどうですが」

 

 そんなに心が動かないか? なんで? 俺が人間じゃないからか?

 

 作戦は中止だ、この女には意味がない。もう言葉で伝えるしかない……そっちのほうが意味はないのかもしれないが。

 

 「すみません、演技でした。許してください、逃がしてください」

 

 それは残念。そう言った女は杖を柵に叩きつける。

 

 ……そこまで怖がらせるのが面白いか。どんな環境で育てば、お前みたいなのが出来上がるんだ。

 

 「そのままで森に帰りたいですか? 他の魔物に食べられちゃいますよ」

 

 お前に飼われるより何倍もマシだよ。

 

 「実はあんまり頭も良くないんですかね? というか、演技も下手すぎます……」

 

 「ふふっ、毎日お願いさせた成果でしょうか。『足が全部ない』って……実は、みんなは前の方を『手』って言うんですよ」

 

 クソ、その表情に腹が立つんだよ……見下しながら煽られるのは、今の精神状態の俺には大ダメージだ。

 

 「ああああ! もう出してよ!! 殺すなら殺せよ!」

 

 俺は叫ぶ……尻尾を腕の代わりに叩きつけ、感情を発散する。女の手が柵の中まで伸びて、乱暴に俺をつまみ上げた。

 

 「かわいいペットを殺すなんて、できません。せっかく捕まえたのに」

 

 床に放り投げられる。女が歩いて近づいてくる、耐えろ。耐えろ耐えろ耐えろ。

 

 視線を合わすために、しゃがみ込んだ瞬間が最後だ。首を食いちぎってやる。

 

 「また、反抗的な目」

 

 女が杖を取り出して、立ちながら俺に向けている。怖がらせたいだけだろ、もう効かない。ただ近づいて来た所を殺す。

 

 空気が震えている。あ、本当だこれ……

 

 俺の腹に、太い光の柱が立った。

 

 「あがっ……!」

 

 あつい、熱い痛い痛い痛い痛い。絶対に穴が空いてる。間違いなく腹を空気が抜けている気がする……やっと死ねるかも。

 

 「いつになったら分かるんだろう」

 

 そんな甘い考えは、すぐ光と一緒に消えた。俺の腹を覗くと、ワンピースに円形の穴が見えるだけだ。

 

 「私、なんでも治せますよ。絶対、死ぬことなんてできませんからね」

 

 ……女が杖を振り回して、俺に何度も光の柱が立った。何度も治されて、ただそれを繰り返す。

 

 「弱って死ぬこともありません。やはり素晴らしい力です」

 

 そんなわけないだろ。死ぬに決まってる。こんなに、苦しくて痛いんだから。その内すぐにショックで死ぬはずだ。

 

 殺せなかったのは最悪だが、死ねるならもうどうでもいい。痛みから解放されたい。

 

 声を出す余裕すらなくなった頃には、女はしゃがみ込んで、俺を覗きながらやるようになった。

 

 「苦しそう。あー、とってもお顔が可愛いですね♡」

 

 嬉しくない。ただ、痛い。苦しい。このままじゃ終われない。

 

 俺は首元に目を合わせ、飛びつくことにした。

 

 「ああっう!!」

 

 噛みちぎろうとした瞬間、俺の身体が上下に割れた。

 横向きになって小さくなった的を、光の柱が貫いたのだ。

 

 「ひあっ……」

 

 死ぬ。これは絶対に死んだ。

 

 「まあ、大変です。そこまで傷つけるつもりはありませんでした」

 

 死ななかった。粘土を繋げるように、簡単に俺はくっついている。

 

 おかしい。おかしい、おかしい、おかしいおかしい。命への冒涜だ、こんなの絶対に許されない。こんなの、普通じゃありえない。

 

 ……なんか一周回って冷静になってきた。

 

 杖を振ると光が出るのも、俺の身体が再生するのも、まるで……そうだ。

 

 まるで『魔法』みたいだ。

 

 よく考えれば、光の柱や傷を治すのだって『魔法』として何かの作品にありがちな気がする。

 

 多分、空気が揺れるのだって何か仕掛けがあるからで……

 

 どうして思いつかなかったんだろう、俺が人じゃない『魔人』なんてものに産まれた時に察していたら、何か変わってたのかな。

 

 考えている俺の頭を、優しく女が撫でてきた。かわいそうだと……謝ってきた。

 

 どこまでも舐めやがって。普通ならもう諦めてるだろうが、俺は違う。もう絶対に女を殺さないと納得できない。

 

 「これも必要な躾ですからね。いつか安全にお散歩できると良いですね」

 

 チャンスはまだまだあるはずだ。狙ってやる……何かそういう力が、この世界にはあるんだろ? 俺は口を開く。

 

 「ひかっりを、だすやつもぉ! わたしの身体……を治すやつも! 何か仕掛けがあるんだな?! 分かった。分かった。分かった! 絶対、同じ事をしてやる!」

 

 できるだけ、大きな声で叫んだ。お腹が苦しすぎて、実際の音は弱々しいものだろうが……確実に意志は伝わるはずだ。

 

 「えっ……『魔法(マジア)』のことを知らないんですか?」

 

 女が心底、驚いた顔をする。その力をマジアって言うんだな。知った。覚えた。それで必ず……

 

 「……もしかして本当に子供なんですか。え、凄い。すごく興奮してきました!!」

「食べたのは本当に三人だけ?」

「何歳ですか?」

 

 唐突に質問がいくつも飛んできた。

 

 「とっても賢いから、幼いのは見た目だけだと思ってました」

 

 何歳かなんて知らねぇよ、森の中でどうやって数えるんだ……だが、何となくの感覚で答えるか。

 

 女は興奮していて、目を輝かせている。これは何かのきっかけになるんじゃないか?

 

 「どっちも、三」

 

 「三!?」

 

 女は露骨に嬉しそうだ。口に手を当て、震えている。

 

 「そんなちっちゃい子をいじめれるなんて……え、信じられない。魔物では本当に無垢な方じゃないですか」

 

 ブツブツと何か言っている、こいつロリペド女か? イカれたサイコパス野郎でロリコンとか救いようがないな。俺が殺してやる。

 

 「本当にお腹を満たすためだけに食べたんですよね?」

 

 女が叫ぶように俺に言う。

 

 「ほかに……どんな理由が」

 

 まさか、そこに何かあるのか?

 

 「わー! 本当に魔法も知らないし使えないんですね……私、感動しました」

 

 「そんな魔物が人前に出てくるなんて珍しいです……自分の弱さが理解できなかったタイプでしょうか」

 

 なんだコイツ? 俺を撫でるスピードが速くなってきた。

 

 髪をくしゃくしゃと、混ぜるように触ったかと思えば、力強く掴んでくる。

 

 「親は? 何も教えてくれなかったんですか?」

 

 「痛っ……多分、産まれた時には死んでたから…………どっちも食べた」

 

 「もしかして三人食べたってのに、入れてますか?」

 

 「……当たり前だろ」

 

 女は掴んだ髪を優しく離し、俺を持ち上げて後ろから抱きついた。

 

 「本当にかわいい。少しだけ良い子に見えてきました。人間を食べたのは一回だけなんですね……」

 

 確かに人間は一人かもな。もうどうでもいいことだが……

 それにしても何だ? コイツは発言の真偽を見分けられる能力でもあるのか? この件だけはやけにすぐ信じた様子だが。ただその方が興奮するからか? クソ、失敗したな。

 

 「この賢さは親から吸収したもの? でも魔法は知らない……素晴らしいですね。本当に悪意がなく、ただ生きていただけ」

 

 「ものすごく興奮してきました」

 

 女はそう言うと、俺を強く抱きしめながら、また柵の中にそっと戻した。

 

 「あ、すっかりご飯を忘れてましたね。我慢してください」

 

 そして長々と今までの暴力を謝ってくる。正気か? へらへらしやがって……どうせまた、すぐに痛いことをされる。俺は絶対に許さないからな。

 

 喉が鳴ると、女は上機嫌にクスクスと笑う。

 

 「あー、こんなに可愛いペットになるなんて……ふふっ」

 

 部屋の扉は、閉められた。

 

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