目が覚めると、女が俺を覗き込んでいた。気持ち悪いな。
「あ、起きた。寝起きの不機嫌そうなお顔も可愛いですね♡」
不機嫌なんだよ。
「私、昨日のお風呂で分かりました。ワタちゃんは賢くて良い子です」
急にどうしたんだ……この女は。何かあるのかと警戒していると、そっと持ち上げられて床に置かれた。
「きっと、トイレも自分でいけない子じゃないですね」
は?
「それに……ワタちゃんからも抱きしめてもらいたいなって、思っているんです」
「だから私の前で、ちゃーんと上手にトイレができたら、それは
女は笑顔でそう言った。戻す? 何を? そんなの、手足に決まっている。来た、これがチャンスだ。
「食べなくてもお水は飲むから、いっつも漏らすじゃないですか……」
当たり前だろ、お前が柵の中に放置するんだから。だが、俺は上機嫌だ。
「実はそれ、恥ずかしいことです。賢いペットなら、自分で決まった位置にするものなんですよ」
その程度で手足が戻るなら喜んでやる。お前の寿命と引き換えになるがな。
「可愛い白いの脱ぎましょうね」
俺を持ち上げて、下着を取り上げた女は呼吸を乱している。救いようのないロリペド野郎のようだな……すぐに処分してやるよ。
青いシートに乗せられた俺を、女が後ろから見つめている。
「……これで手足を戻さなかったら自殺してやる」
俺は女に静かに言うと、デカい声で返ってくる。
「約束しますから! はやく!!」
気持ち悪すぎるだろ。
◆
「いいものを見ました。やっぱりワタちゃん、見た目だけは良いですね」
……すぐに戻せよ。俺は女を見つめている。
「拭くために擦り付けたのも美しいです」
死ねよ。戻してから死ね。すぐに俺が殺してやる。
「約束通り、戻してあげますよ」
女は俺を持ち上げると、切断された手足の側面に、何か鉄の輪のようなものを取り付けた。冷たくて気分が悪い。
「反抗的だと……本当にすぐ取り上げますからね?」
女が杖を俺の頬に押し当てながら言う。また俺はそっと地面に置かれ、女に杖を向けられる。
熱さを感じた瞬間だった。俺の手足が生えていた。だが、少し立ち方を忘れているのか起き上がれない。
「今つけたのは、奴隷や囚人につける特殊な拘束具です。見せたほうが早いのでやりますけど、驚かないでくださいね」
女がそう言って、鉄の輪が少し光ると……揺れるように手足が消えた。感覚もない。
「は?」
「安心してください。ちゃんとあります」
女がそう言うと手足の感覚が戻っており、目をやると元通りになっている。
「もう四足歩行はしなくてもいいです。今のワタちゃんは立ってるほうが可愛い気がしたので」
「女の子らしく振る舞って、可愛くお返事できる子なら……痛いことも減らします」
何だこいつ。関係ない、お前は今から死ぬんだよ。
「自由に動けるからって、私を襲うのはやめましょうね? ワタちゃんは弱いので意味ないですよ」
……確かに、今は力が足りなくて殺せないのか……? 体力は、森で女に会った時と同じかそれ以下……すぐに行動するのは得策じゃない可能性が高い。
怒りで自分をコントロールできない所だった。冷静になると、分からないことが多すぎるのでまだ耐えだな。
「分かってそう……賢いですね」
女の子らしかったら痛いことも減らす……つまり俺の体力も無駄に消費されないだろう。なんなら、コイツを喜ばせたら食事も増えるんじゃないか?
俺はゆっくり立ち上がる。懐かしい感覚に、俺は涙が溢れそうだ。
今だけは喜ばせてやろう。確実に吠え面かかせるためにな。
俺は女にそっと腕を伸ばして、手を握る。わざとらしく尻尾も振って、敵意を抜いた声を出す。耳もピコピコさせるおまけ付きだ。
「……ありがとう。ちょっと好き」
「え! え!」
女は今までにない笑顔を見せている。間抜けが、そんなわけないだろ。
「ぎゅって、してもいい……よ」
俺は握っていた手を離し、腕を広げる。女は震えて口を押さえていた。
好きなんだろ? この変態は俺みたいな子供に愛されたい様子……関わり方も最悪だし、向けてくる感情も露悪的。こういうのにも興奮するようだ。
『加害欲』をただ愛でる方向にシフトさせれば最短で女の命に届く気がする。
「可愛い……え、本当に良いんですか? 嬉しい。幸せです」
「すごい、いい匂いがします。青い髪も長くて綺麗……」
女は膝をつき、俺を抱き寄せる。ありえない嗅ぎ方をしてきて心底気持ち悪いが、許してやろう。
あれだけ狙った首が目の前にある。
多分、殺せない。油断しているように見えて警戒してるはずだ……また手足を失うわけにはいかない。
「うわ、攻撃もしてきませんね。我慢してるんでしょうけど、普通は我慢できる魔物なんていませんよ……」
試されていたのか? 知能テストみたいなふざけたことしやがって。
より強く抱きしめてきた。痛いぐらいだ、指が身体を刺してきている。
反射で喉が鳴っていた。
まずい……
「もう、かわいいですね。今日も泣いて欲しいです」
俺は女の肩を押さえて突き放した。
「……さっき、痛いことしないって言った。やめて」
できるだけ柔らかい言葉にする。不愉快だが、やり方が分かってきた。
「あ、我慢できません。減らすだけです! こんなに可愛いのに酷いことしないなんてダメです!!」
は? やばい。知っていたがクソ女すぎる……だが、ここで諦めたら意味がない。
「落ち、ついて……あ、名前」
ここで完璧な
お前としか呼んでいない俺が、いきなり名前で呼ぶのは……この女にとっては凄まじい破壊力だろう。
「名前おしえて」
「あ、そういえば知らないんですね。確かにワタちゃんなら覚えられそうです」
「……私の名前は『アリス』ですよ」
「アリス、酷いことしないで」
「はぅわっ!」
決まった、確実に射止めた。女は気持ちよさそうに震えている。分かりやすく態度を変えすぎなんだよ……
良く考えたら可愛いばっかり言ってたしな。そんなに好みならそうしてやるよ。
「そしたら……もっと好き」
上目遣いで言う俺を、気持ち悪いお前が無視できるのか?
答えはすぐに返ってきた。
「こんな良い子を泣かせるなんて、戻れなくなってしまいます!」
杖を向けてきて、すぐに俺の腹が横に裂けた。
は? ありえないだろ……耐えろ。せっかく作ったキャラを崩すな……
「いたっ……アリス、やめて」
しゃがんで腹を押さえる。めちゃくちゃ血が出てる……痛い。痛い痛い痛い。クソ女が。
「あー、ぐちゃぐちゃにしたい」
全身を見えない何かに浅く切られる。これも
多分殺されないんだろうが、半分になっても治せる力だ。身体も精神もどこまで削られるか分からない……
「やめっ」
喉を切られた。無を吐いた。何なんだコイツは、絶対に許さない。
俺は小さく
「ちゃんとしたじゃん。痛いことしないでよ……」
小さく声が漏れた。自分でも信じられないほど弱い声だった。
切られる感覚がなくなり、少し身体が痒くなる。きっと傷が治っている。床の血溜まりもいつの間にか消えていた……
頭を撫でられる。最悪だ、悍ましい。
「あっ、そうですよね。もうやめました、これでもすごく我慢したんですよ……?」
こいつ謝らないんだよな。
「ワタちゃんのことを考えました……今までで、一番気持ちよかったのにです」
「まだ好きでいてくれてますよね?」
一回も好きになった覚えはねぇよ。だが、今はこいつの気分を下げても良いことはないだろう。
「うん。ちょっと……好き」
「あー、気持ちいいです」
……勝手に気持ちよくなってろ。
「もっとちゃんとした寝る所を用意しますね。前の悪い子がこの部屋だったので」
俺以外にも被害者がいたのか。安心しろ、こいつは殺す。
「ご飯もたくさんあげます」
女は恐らく魔法で人差し指を切ると、それを俺に向けてきた。
「床なんて、ばっちいですからね」
……ふざけるなよ。俺はその血を静かに舐める。
「ふふっ、可愛い♡ 音を立てないなんて、上品ですね」
音ではなく歯を立てたい気持ちを殺し、俺は飲み込み続ける。少しして、指は口元から離された。
「明日は、絶対ワタちゃんにとっていいことがありますよ」
女はそういって、部屋からゆっくり出ていこうとする。いいことだと……?
なんだ? 死んでくれるのか?
「うれしい。ばいばい」
俺はできるだけ可愛い声を作って言う。馬鹿みたいに跳ねる女を、心のなかで見下して……俺は床で寝ることにした。
ご都合四肢ワープ拘束具くんと、メス堕ち(演技)ワタちゃん