なんだ? 腹を触られている感覚がある。くすぐったいな、妙にいやらしい動きをされていて……俺はすぐに目が覚めた。
当然のように女が俺の服に手を突っ込んで、ニヤニヤしながら撫で回している。
「ワタちゃん、可愛い寝顔でしたよ」
そう言いながら、女の手はゆっくり上へ移動してきた。俺は不愉快なので、優しく腕をつかんで止めた……ゆっくりと外に出す。
「おはよう。くすぐったい」
朝から俺を触りたい欲求が爆発している女は、興奮気味に口を開いた。
「ちっちゃくて温かいお腹好き……今は酷いことしないので触りたいです」
相変わらず気持ち悪いな、ずっと寝てろよ。この俺がお前なんかと寝てやってるんだからな……女は、どうにかして触ろうとめちゃくちゃ手を動かしている。
「わた、ねむい」
俺は女の腕を胸あたりに押し付けて、顔を見つめて囁いた。抱きついてきて、ありえないぐらい吸ってくるが、気持ち悪い動きを封じれるなら俺的に問題はない。
「え? ワタちゃんに誘われてる」
俺はそのまま寝ることにした……
再び目覚めると、女が俺の胸に顔を押しつけている。そんなことあるか? 最悪の起床をしてしまった。
「……何を、してるの」
「ふーっ……嗅いでるだけです。もしかして無自覚ですか? わざとですよね」
「こんなに私を誘惑してきてっ! 最近、えっちな匂いがしてます!! 痛いの嫌だからって媚びてるの分かってますよ!!」
気持ち悪すぎる。俺はどうしてこんなに不愉快な生活を送っているんだ。意味が分からない。
当然、俺には何をしても良いと思っているので……可愛がっていても、女の要求は普通に過激ではあるし、理不尽だ。
悲しい気持ちになってきた……クソ。
「……」
何が正解だ。言葉が出ない……痛いのが嫌なのは当たり前だろ。
確実に面倒な方に進まれる気がする。
「違う。私は……ワタはアリスが好きだから、ね?」
「優しい方が、嬉しいのは当たり前だよ」
……失敗した。寝起きで脳が腐っていた。
考えられる中で最悪の文章構成だ。全てを否定しなければならなかったのに、『誘惑』『媚び』の部分が……いやこれ不可避だろ。
「素晴らしい笑顔も大好きですけど、だからこそ……絶望してるお顔がより効きます」
「ワタちゃんが、泣いて乱れて助けを求めているのが見たいんです」
「きょ、今日は約束通りに『魔法《マジア》』を教えてほしい」
話題を変更しなければ、俺の身が危ない。
「そうやって逃げようとする所も
無理だ。何か起死回生の一手はないか? 足掻かなければ、最悪の暴力が俺を支配しようとしてくるはずだ。
俺は女を突き放して起き上がる。
「アリスのいじわる」
背中を向けて言い放った。
「うわ、それ余計に興奮します!」
最悪からの最悪……意味が分からない。お前は嫌われたくないはずだろ? 関係を修復できなくなるとか考えもしないのか? 相当『ワタちゃん』を気に入ってるだろお前は。
俺は二度寝してしまったことを後悔している。どうしてそんなことも許されないんだ。
クソ、女が許すことが増えてきたので甘えが出たのだろう。こいつは俺を癒しのペット兼、性的対象にしているようだ……しかし露骨に態度を変更もできない。
そんなことを考えていると、そっと抱きつかれる。
「でも嫌がられすぎるのも悲しいです。だからまずは、約束通り魔法から教えますよ」
あまり意味が分からない。だが、拷問までのタイムリミットが設定されている。それは確かだろう。
「……うん」
クソ、教わった瞬間に覚醒して殺せたりしないのか?
◆
どうやら、魔力とかいうものが存在しているらしい……その程度しか分からなかった。なんか世界を構成する要素の一つで、それは俺にも扱えると。
そしてこの女は魔法関連は超エリートで、良い学校にも通っているとのことだ。こんなやつが?
「ワタちゃんは賢いし魔物なので、感覚的に使えると思いますけど」
使えねぇよ。自分の中には何もない気がするし、特に感覚なんて……
そうだ、こいつが光を出すときの予兆。それを口に出す。
「光る時、空気が揺れてた」
「あー、魔力の共鳴を感じてるんですかね。本当ならすぐできると思います」
「ワタちゃん、そんなに魔法に興味ありますか?」
当たり前だろ、お前に同じことをしてやりたいからな。
「でも残念ですが、ワタちゃんは少ないと思いますよ。魔力」
「使えても、指先から何か漏れる程度になりそうです」
そういう感じなのか?
「ここらへんのを扱えたりしないの」
「ものすごくお勉強しないと無理ですね。魔物はみんな蓄えたものを使ってます」
蓄えたものだと? それはつまり……
「魔物は大抵、人を食べることで魔力を蓄えますから……可愛いワタちゃんには足りないんですよ」
なら何だ。俺には使えないってか? クソ、考えが甘かったのか。
こいつを殺すために魔法を使えるようになろうとしても、人を食わなきゃいけない……それはペットにされたままじゃ不可能だ。そもそも感覚的に使えるかも怪しいときた……
「もしかして、私に反撃しようとしてました?」
女はニヤニヤしながら、俺の顔を見つめている……そこまで分かりやすいか。いや当たり前の思考か?
「そんなことない。アリスのが、綺麗だったからで……」
腹立つな。適当なことを言うのは……黙り込むのが正解だった可能性もあるが、この答えは全くの空振りでもなかった。
「ふふっ、悪い子ですね。こういう時だけはすごく分かりやすいです」
「まぁ良いです。私は愛してますからね」
謎の寛容さを見せた女は、俺の左手の薬指に何かをはめた……何だこれは? 指輪?
「少しでも魔力を放出することさえできれば、これでもう魔法は使えますよ。この中には私の魔法が込められていますからね」
本当かよ、怪しいな。そう思いつつ指輪に目を向けると……少し輝き始めた気がする。
「せっかくですし補助してあげますね」
そう言った女は俺の後ろに回って腕を掴んでくる。その瞬間、身体中に何かが流れ込んでくる感覚に襲われた。
「おぇ……」
気持ち悪い。車酔いに近いものが押し寄せる。するとすぐに、指輪が強く震えたように見えた。
目の前に、細い光の柱が立った。
「どうですか? 少し分かりましたかね」
確かに……何か自分の中を流れているような気がしなくもない。
なるほど、これが補助輪ということだな。俺だけでは発動できないであろう女の魔法、使いこなせたらこれで殺せたりしないか?
流石にそんな物を渡してはこないか……
「なんかちょっとだけ」
俺が女に振り返って伝えると、嬉しそうに笑っている。お前、そんな優しい顔ができたのか……
「約束、守りましたよ。私はご飯を食べてくるので……その後はお願いしますね?」
死ねよ。前言を撤回する、悪辣な顔だ。
女が出ていった部屋の中でふと思い至る。もしかして学校に通っているということは、やけに長く
なら、長期休みなんてものがあったらどうなるんだ。
最悪だ。何も考えないようにしよう……
俺がアリス人形と大量のクマを戦わせていると、扉が開く気配がした。即座に攻守を逆転させてクマをやられ役にする……
「すごい、可愛い! 私はこういう瞬間を何度も見逃しているんですか?!」
当たり前だ、やることがないからな。そう思ったが、よく考えたら指輪とかいう新しい玩具も与えられていた。
俺はお人形遊びを優先する一般幼女……そんな綺麗な存在に見えたに違いない。興奮している女は駆け寄ってくる。
「今日は、すごいこと思いつきました」
カスが何かを渡してくる。
それは……
「短剣?」
女は目を輝かせながら、笑って言う。
「それで自分のお腹を刺してください!」
「今日は、私が満足するまで続けてもらいますよ。可愛くおねだりしてもダメです」
……は? こいつ、正気かよ。気持ち悪くなってきた。すでに手が震えている、悪趣味すぎるだろ。
「えっと、冗談だよね?」
「そのお顔が好きなんですよ。これからもっと可愛くなるなんて、最高すぎます」
女が泣きそうな俺に抱きついてきて、短剣を手からこぼす。
かくして地獄は始まった。
誤字脱字報告、めちゃくちゃ助かります。ご都合指輪も喜んでます