High-Sky-Fields   作:紺野遍音

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エピローグ:ゼロ気圧の海

――Welcome to the Ground Pacific Earth Port at New-Isabela, the Galapagos islands. The Earth Station is your left side……

 

 入場アナウンスと波の音が響く。

 ざぱん。ざぼ、ちゃぷん。

「まだかなぁ、奈佐ちゃん」

 今日は、奈佐ちゃんが地球に下りてきてくれるらしい。あの天から何万キロも伸びるワイヤーを伝って、ここガラパゴス諸島のニューイザベラ島にある地球拠点(アースポート)、人類が最初に作り上げた軌道エレベータのふもとへ。

 ここにはわたしたちの島とは違って、天然の砂浜がある。

 そして、ここが空と地面を行き交うわたしたちが巡った最後の砂浜だった。

 わたしたちは、もう25歳になってしまった。

 

 それでも。

「誰でしょう!」

「わ!……その声、メガネのレンズ部分に触らない、優しい奈佐ちゃんだね」

「はい。優しい奈佐ちゃんです」

 視界が晴れると、あの島と同じように、奈佐ちゃんはまっすぐ立っていた。

「ちょっと焼けた?」

「まあ、いくら壁とか窓とかが紫外線を反射するって言っても、宇宙は紫外線の多いところだから」

 奈佐ちゃんは涼しい顔をしているようで、髪の毛先を指先でくるくるいじっている。

 もう。隠さなくていいのに。

「窓から地球をよく眺めてたから、でしょ」

「アリアにはお見通しだね」

「……まあ、わたしもそうだったからね。職場の人に心配されるくらいには空を見てた」

 空の反対側にいても、結局はおあいこなのだった。

 

「で、これからの予定は?」

「まずは、久々の砂と、久々の重力を楽しむ」

「そう来なくっちゃ」

「それから、十分ゆっくりしたら――」

 奈佐ちゃんは、先週居た場所(静止軌道ステーション)よりもさらに上を見上げる。

「――ゆっくりしたら、()()行こう」

「……そうだね」

 わたしたちは、いよいよ地球からも、ワイヤーの鳥かごからも飛び立つ。

 あの遥か彼方の海へ。

 あの()()()()()

「……浮き輪、持ってけないかな」

「いいけど向こうだと割れちゃうよ」

「そっか、じゃあこっちで使おっか」

「うん。それは青い海のために」

「いいね、青い海のために!」

「青い海のために……乾杯?」

「乾杯!」

 わたしたちは笑いあった。

 またあの時みたいに、自由に潜って、漂って、浮かび上がろう。 

 

 ゼロ気圧の海でも、水がなくても、浮力が味方をしてくれなくても。

 あなたといれば、きっとどこでも、どこまでも。

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