ソラは別に強くなどなかった。
それでも彼女に助けられた少年にとって、クラピカにとってソラは、誰よりも何よりも強い、自分が欲する「一人で戦い抜ける力」を持つ者だったのだろう。
「死は全く怖くない。
一番恐れるのは、この怒りがやがて風化してしまわないかということだ。
だから、どうか教えてくれ。オレには、一人で戦い抜ける力が必要なんだ」
強くなりたいと彼は言った。
魔術を教えて欲しいと、憎悪の業火を宿した緋色の瞳で懇願した。
今にもその瞳が溶けだして、血の涙になってしまいそうな悲痛な顔で、覚悟を語った。
もうそれだけが、クラピカにとっての「生きる理由」だったのだろう。
帰りを待っていてくれたはずの父母も、外の世界を忌避しながらも、自分の気持ちを汲んで後押ししてくれた同胞も、同じ夢を懐いていた親友ももういないクラピカにとって、復讐だけが、それだけが彼らに与えられる唯一だから、何としても果たしたい目的だったことを理解したうえで、ソラは答えた。
13,4歳の少年が抱くべきではない、あまりにも悲痛な呪縛と化した覚悟に対して、ソラは夜空のような瞳で真っ直ぐ彼を見据え、言い放った。
「じゃあ、今死ねば?」
クラピカは思わずと言わんばかりの顔で、目を見開いてソラの顔を見返していた。
あまりにも衝撃的な返答に、滾っていた憎悪が混乱困惑によって鎮火して、クラピカの眼は緋色から普段の赤みかかった茶色に戻っていった。
その変容をソラは、夜空色の眼で見届けてから、眼差しと同じく真っ直ぐに言葉を続ける。
「死ぬのが怖くなくて、その怒りが風化してしまうのが怖いのなら、風化する前に死ねばいいよ。
どうせいつかは必ず絶対に、どんな結果を残そうが、何も残せなかろうが、行きつく先は一緒なんだから、失う前に終わらせた方が、後悔は少なくて済む」
何かを言いかけたクラピカの開いた口から、言葉は出てこなかった。
バカなことを言うな、それじゃあ意味がないだろう、などといった反論は、ソラの浮かべる表情、少し困ったような苦笑によって消えてゆく。
まだ出会って数日程度だというのに、理解できてしまった。
彼女は自分の無謀さに、怒って皮肉で言ったわけではない。
魔術を教えたくないから、極論を吐いて自分を怒らせ、話をはぐらかそうとしているわけでもない。
彼女自身、本当は言いたくないのだろう。言いたいわけがないに決まっている。
だけど、本気でそう思っている。今ここで死ぬ事こそが、一番失うものも後悔も少なくてマシかもしれないと、彼女自身が自分の体験談として学習して、思ったからこその言葉だと、クラピカはこの数日間、真摯に彼女と向き合っていたからこそ、理解してしまった。
だからこそ、悲しくて仕方がなく、また感情が昂って赤みが増す瞳に涙が滲む。
自分の思いが共感されなかったことではなく、「死ねばいい」という結論を出すような生を歩んだ彼女に、その結論を否定する言葉が何一つとして出てこないことが、悔しくて悲しくて、今こそ死んでしまいたいくらいに嫌だった。
そんな泣きそうになっているクラピカを見て、ソラは「え? ちょっ、泣かないでクラピカ!」と狼狽え出し、慌てて言葉を探す。
クラピカがソラのことを理解しているように、ソラだってクラピカを理解している。
むしろ本人が思う以上にわかりやすい性格をしているので、クラピカが自分の覚悟をバカにされた、否定されたと思って泣きそうになっているのではないことくらい、ソラは最初からわかっている。
彼を傷つけたいわけではないのに、否定しきれずに苦笑を浮かべるしかない、そんな答えを出したのは、ソラの体験談という式に彼が気づいてしまったからからこそ、その式の間違いを指摘できない無力感による涙だと、ソラは知っていた。
だからこそ、ソラを手を伸ばして触れる。
クラピカの、まだ子供らしい曲線を描く頬に触れて、そのまま目尻に溜まった雫を指先で拭う。
その瞬間、彼は目を見開いて一瞬息を飲んだのを、ソラはその眼に写す。
それからまた、自分など死ねばいいと言わんばかりに顔を歪め、かすれた声で「……ち、違う! 違うんだ、ソラ! 違うんだ!!」とソラに縋りついた。
これも、わかっている。
直死を得て間もない彼女は、文字通りうっかり手が滑った拍子で、あらゆるものを殺してしまう。
だからこそ、クラピカを絶対に殺したくないから、ソラは明度を、精度を上げて、絶対にそこにはない、触れることはないと確認をしていたことくらいわかっているのに、彼女は自分のためにしてくれたのに。
それなのに、彼女の眼が青くなることで鷲掴まれて引き摺り出されるような、己の「死の気配」に恐れ、息を呑んで怯えてしまった。
「違う……違うんだ……ソラ……オレは……オレは……」
ソラの眼を、同胞の面影を見たからこそ、自分が縋りついた、共にいるきっかけである彼女の眼を恐れたこと、怯えたこと、その怯えた事実を怯えられた本人よりもショックを受けて悔やみ、必死になってソラに、「違う」と訴え続ける。
涙を拭ってくれた手を掴み、否定を続けるが、何が違うのかは言葉にならない。
怖くなかったとも、怯えてないとも言えなかった。そんなわかりきった嘘、何の意味もないから。
傷つけたくないという本音は、傷つけたと思っているからこそ、罪悪感で言えなかった。そんなの、自分が楽になる為だけの言い訳だから。
彼女につけた傷を癒す言葉が欲しいのに、何も浮かばない自分が嫌で、赤い瞳の涙はついに決壊する。
「ごめんクラピカ!」
しかし幸いというべきか、不幸というべきか、クラピカとソラにはヒートショックによる突然死が起こりそうなほど、温度差があった。
別にソラは、クラピカが怯えたことに関して、傷ついてない。本気で何も気にしてない。
「死にたくない」彼女にとって、自分の眼から引き摺り出される「死の気配」に怯えるのは、当たり前の反応。自身への忌避や否定ではなく、ジャンプスクエアによる悲鳴のようなものという認識である。
「配慮不足だったなー」という反省こそあれど、それは傷として残るようなものではない。
なのでボロボロ泣き出したクラピカに、ソラは完全にテンパって、謝り倒しながらついでにカミングアウト。
「さっきの嘘! いや言ったこと自体は嘘じゃない思ってることだけど、私は絶対に死にたくないし、君に死んでほしくないから!!
本気にしないでぶん殴っていいから突っ込んで!!」
「………………は?」
そもそもソラはこの話題、真面目に話してはいるが、あの「今死ねば?」は割とツッコミ待ちのボケぐらいのつもりで発言していた。
茶化す気もはぐらかす気もないが、暗い空気は消しとばしたかったので、わざとクラピカが怒りそうな言い方をして突っ込ませて、一旦空気をリセットさせようという魂胆だった。
話をはぐらかすつもりはないという点では、クラピカの読みは当たっていたが、ソラが思うよりクラピカがソラの「今まで」を察していたこと、そして自分の環境が異常であると自覚はしているが、その自覚が圧倒的にソラには足りていなかったことで、お互いに話の深刻さを読み違えた。
つまりはこの状況、クラピカが被害者な大事故である。
そのことに気づいた事故の元凶は、涙は止まったが今度は怒りで赤みが更に増した眼で睨みつけるクラピカを前に、土下座で謝った。
「ごめん! 本当にごめん! 話聞いてんのか!? ってツッコミを期待してた! っていうか突っ込んで! 怒って!! 死なないで!!
死ぬんなら最低でも80年後くらいに子供と孫とひ孫、あとどうせなら玄孫にも囲まれてベッドの上で『いい人生じゃった』とか言いながら、ピンシャンコロリで大往生して!!」
謝りながら、クラピカの境遇関係なくなかなか難易度が高い要求をするソラに、クラピカの怒りはまだ治らないが、それよりも沸き立ったものがあった。
だからその沸き立ったものを、浮かび上がったものを、そのまま言葉にする。
「……ソラは、オレに生きていて欲しいのか?」
「当たり前だろ!!!!」
土下座するソラの前にしゃがみ込んで、クラピカが尋ねると、ソラは頭を急に上げて食い気味に言い切った。
そしてその勢いに一瞬ビクついたクラピカに、そのまま畳み掛ける。
「私が言ったこと、本気といえば本気だよ!
私が『死にたくない』のは、この世の生きる上での辛苦や痛みよりも、あの深淵に行きついて融けてしまう事の方が怖いから、ただ単に苦痛や恐怖を天秤にかけて、軽い方を選んだだけなんだから、『死』が怖くないのならいっそ死んだ方が楽なんじゃないのかなーと本気で思ってるよ! 理解は出来ないけど!!
でも嫌だ! 否定して! 納得しないで! 君も生きて!!
私は、君が幸せに生きてくれるならどんな選択をしても否定しない、肯定する! どんな選択肢だって用意するし、君が選ぶまで守っていくよ!!
……けど……これだけは……嫌だ……」
出会ってまだたったの数日で、しかもクラピカが助けられてばかりだというのに、ソラの方が献身的という言葉すら軽いほど、あらゆるものを与えてくれる。
そんな彼女が、つい先程までのクラピカと同じように、夜空の眼に涙を溜めて、唯一与えられないものを告げた。
「クラピカが死ぬのだけは……嫌だ」
常日頃、自分だけが生き残ったことによる孤独と罪悪感によって苛まれる希死念慮が、間違いなくこの瞬間は完全に消えていた。
自分が生きているだけで、この涙がこぼれ落ちないのならば、生きてゆこうと思えた。
生きたいと、望んだ。
自分の望みを相手が受け取ってくれたことを、ソラはほんのりと色づいた頬で、気づいたのだろう。
まだ瞳に涙の幕が張っているが、それでもソラは笑って、その名に相応しい晴々とした笑顔で、再びクラピカに手を伸ばす。
彼の両頬を包み込むように手を添えて、こつんとクラピカの額に自分の額を当てる。
熱を測るように、熱を確かめるように、互いに今生きている証を確認し合うように、あまりに近い距離でソラは、弟に……家族になろうと互いに望んだ相手に言葉を送る。
「クラピカ。死ぬのが怖くないとか言って、未来を諦めないで。生き抜いた先に向き合わないで、逃げるのはやめなさい。
そんなんじゃ、無事復讐を終わらせた後も後悔しかない。目的を果たして、燃え尽き症候群になる気?」
ようやく、ソラがあんなことを言い出したら理由を理解した。
この女は初めからそう言いたかったのに、ただひたすらにクラピカの未来を守ろうとしていたのに、それなのにきっと自分は、最初に同じことを言われても罪悪感で受け取れない。
だからこそ、思い詰めていた自分から良くも悪くも、背負っていたものを下ろしてやってから、与えたかったのだろう。
結局、被害者は自分だが割とクラピカの自業自得でもあった事故だと完全に理解し、だからこそ八つ当たりだと自覚した上で、腹が立ったのでクラピカは睨みつける。
額を合わせたまま、自分の頬に添えられた彼女の手に、自分のことでを重ねて。
「……最初に言え」
「素直に受け取ってくれるなら、いくらでも」
「……真面目に話すなら、受け取ってやる」
八つ当たりの非難と、軽やかに受け流すやりとりをしながら、緋色に変容する瞳と、空に変幻する瞳が互いに相手を映す。
色も、成り立ちも、何もかも違うのにあまりに似ていると感じた眼を、ただまっすぐにクラピカは見つめた。
この眼を恐れてしまった。
けれど、この眼があったから、何もかもを奪われて人間不信の塊だった自分がまた、人を信じようと思えたことを、クラピカは思い出す。
同胞を色濃く想起させて、色褪せずに記憶に刻み付ける、もう自分一人だけの「クルタ族」の面影を持つ瞳の持ち主だからこそ、クラピカは彼女を求めた。
今ではそんな眼の類似点などどうでもいいぐらい、彼女自身に惹かれているが、始まりは間違いなくあの蒼天の眼だ。
だから、恐れも怯えも否定もしたくないから、真っ直ぐに眼を見据えるクラピカに、相手はどこまでわかっているのか、夜空の瞳のままに応えた。
「クラピカ。君は君のしたいことをすればいい。しなくちゃいけない義務なんかない。あるとするなら、君のしたいことこそが義務だ。
その為の選択肢を、自分から減らすよう真似はするな。死んでもいいから、たった一つの目的の為に全てを犠牲になんかしないで、もっと貪欲になりなよ。どうせ死んだら、何もかもが意味をなくすんだから、それなら生きている間に手に入るものは全部手放すな。欲しいものに手を伸ばせ」
真面目に話すならと言われたから、本当に真面目に、クラピカよりもずっと相手の全てを肯定して、恐れず受け入れ、そして望みを口にする。
きっと他の誰かの言葉なら、「綺麗事をほざくな」と言って耳を塞ぐ。
同胞は、両親や親友は自分が生き残ったことを喜びこそすれど、責やしないことも、復讐に人生を費やすよりも、自分たちのことなど忘れて、幸せに生きて欲しいと望んでくれることも、わかっているからこそ、クラピカは罪悪感に苛まれる。
だから、数少ないが稀にいたおせっかい、自分の事情を察して「復讐なんかよせ」と説得する人の言葉など耳には入らなかった。本心であろうが偽善であろうが、その言葉が正しいことはわかっていたのに、自分を責め立てる罪悪感が決して許さなかった選択肢。
なのにソラの言葉だと、大切な人が、家族が、親友自身が自分に言っているような気がして、罪悪感に縛られてもつれた感情や望みがほどけてゆき、「復讐」しか目に入らなかった世界を再び広げてくれる。
それはソラ自身の人柄のおかげでもあるが、やはり始まりが同胞の面影を見たからこそ、彼女の優しい言葉が、記憶の中の同胞を鮮明に思い出させることで、「己の罪悪感から逃げる為の甘え」という不安を消し飛ばす。
「家族になろう」と、失ったものとは別物でも、再び与えてくれようとする人がまた、何も返せない無力な子供に過ぎない自分に与えてくれる。
「一人で戦い抜くなんて言わないで。私が寂しい。
手伝ってやるからさ、だからクラピカは『しなくちゃいけない事』じゃなくて、『したいこと』を探して、向き合いなよ。何がしたいのかすらわからないなら、とりあえず私が選択肢を増やしてやるし、君のしたいことを邪魔する障害物は、罪悪感だろうが迷いだろうが、何だって殺してやるから、私に頼って欲しい」
復讐も無益で不毛なものとして否定しないで「手伝う」と言って、そのうえでさらにその先を、その次を見据えろという言葉をくれたことが、どうしようもなく嬉しかった。
親友を喪うことで見失った夢を蘇らせて、もうそんな夢を抱いてはいけないんだという罪悪感を殺してくれる人が、はっきりと宣言する。
「君の幸せを殺す相手なら、神様でも私が殺してやるから。
だから、クラピカは生きて欲しい」
ソラの宣言と望みに、クラピカは応える。
「……努力はしよう」
結局、素直にはなりきれない答えを。
ただこれは、罪悪感による幸福に手を伸ばせないのではなく、13歳の少年らしい意地。
ソラに頼りっぱなしにはなりたくないという意地から出せる、精一杯の答えにソラは笑う。
「期待してるよ」
笑って、額を離してクラピカの頬からも手を下ろす。
クラピカもソラの手から自分の手を離し、代わりにガシッとソラの頭を両手で鷲掴んだ。
「え? クラピカさんこれは何事?」
「……ある意味ではオレに気を遣ったんだろうが、本当にお前はよりにもよって、あの流れで言うことがあれはどういうことだ?」
ソラの真意は理解したし、自分がだいぶ悪かったとも思っているが、しかしそれでもあの「今死ねば?」が「ツッコミ待ちのボケ」という、最悪すぎるエアブレイクを許すつもりなど、クラピカには毛頭なかった。
なので、すっかりその事を忘れていたバカの頭に、思いっきりクラピカは頭突きをかまして、互いに悶絶しながらも、ソラに「どうしてお前は空気をその眼以上に殺し尽くす!?」と叱りつけた。
痛みで涙を滲ませながら、お互いにどうしようもなく可笑しくて笑いながら、クラピカは怒って拗ねて、ソラは謝り倒した。
どう見ても、気心のしれた家族のようなじゃれあいを、「死」からはあまりに遠い日常を思い出す。
彼に与えると約束したものを、彼に与えたい日常を、自分自身が何を殺してでも守ると決めたものを、ソラは思い出した。
* * *
「バカじゃん、私。頭に血が上り過ぎた」
光球を蹴り飛ばし、闇が満ちる美術館の床に降り立ったソラが、前髪を掻き上げて一人勝手に語り出す。
「今ここで、私が勝手に殺したらあの子の『選択肢』が減るじゃん」
復讐も肯定したから、それさえも手伝うと約束したから、だから自分の手で勝手に
ソラの知る弟は、クラピカは、たとえ憎い仇であってもその死を割り切れず、いつまでたっても罪として背負い続けるタイプだと記憶しているので、出来れば彼が知らないところで知らないうちに自分が始末してしまいたいが、それは出来ない。
ただ一つ、ソラが彼に望み、願ったのは彼の幸せ。
彼にとって「復讐」は、幸せに至る為に必要な過去の清算なのか、罪悪感による強迫観念でしていることなのかどうかの答えを、まだ聞いていない。
それを聞かない限り、ソラは
選択肢を与える約束をしたから。
過去の清算として、たとえ罪を背負ってでも自分の手でしなくては前に進めないというのなら、ソラの手で旅団を潰すことなどできない。
それは他者の幸せを勝手に決めつけて、強要する、最悪のおせっかいに他ならない。
「と、いう訳でやっぱ殺し合いはなしっつーことで」
「何が『という訳』なのか、さっぱりわからんわ」
クロロの背後に降り立ち、振り返って言い放ったソラの笑顔は、実に名前にふさわしい晴れ晴れしさだったが、彼女の言い分が理解されるわけは当然なく、呆れた様子のクロロに突っ込まれる。
が、ソラの空気を完全粉砕する一方的なボケのおかげで、彼女の眼に魅せられていた熱が若干下がり、クロロにいつもの計算高さが蘇る。
ソラの方に向き直り、呆れを全面に出しながらも彼女に対する警戒を怠らず、同時にクロロはペラペラと本をめくって確認する。
爪先で死の点を貫いて、消滅した
この光球によって作られた自分の影から、念獣を生み出して使役する能力なので、光球が消えたら残っていた念獣も消えるのは当然だが、今現在クロロが捲る
能力の本来の持ち主が死なない限り、失われることなどない、除念でも相手に掛けたものではなく奪い取るタイプである為、クロロ本人をどうにかしないと取り戻せないはずの能力が消失したことに、さすがに危機感を覚えた。
遠くの方でパトカーのサイレンらしき音も聞こえてくる。
能力者でもない警官なら何人来ようがどうにでもなるが、可能性は低いが警官の中に念能力者がいたら、もしくは賞金首ハンターやクライムハンターと連携を取られていたら、相手のレベルや人数によるが、さすがに他の能力者とこの女を相手取るのにクロロとシャルナークの二人では、少々厳しい。
(……まぁ、収穫がなかったわけでもないから、今日のところは退くか)
ソラの能力どころか宝石も盗めなかったが、それでもあの眼の存在を知ったことと、自己申告なのでどこまでが事実か確証はないが、「直死の魔眼」の情報だけでも、クロロにとっては良い収穫となった。
巻き込んだ団員には少しばかり悪いと思いながら、だからこそ今日のところは撤退しようと判断し、彼は本を閉じて言う。
「まぁ、いいだろう。今日のところは……」
「え?」
「ちょっ!?」
クロロが撤退を口にしたタイミングで、ソラからはきょとんとした声、シャルナークから切羽詰まった声が同時に聞こえ、そしてクロロも目を見開いて、危うく具現化を解除しかけていた本を再び開く。
が、さすがに即座にテレポート系や飛行系の能力のページを開き、能力を引き出すことよりも、ソラが床にボールペンで床の「死点」を突く方が早かった。
この女、やめたのは「殺し合い」だけであって、戦いそのものをやめる気はなかったらしい。
戦いはやめる気がないくせに、そもそも自分たちが戦う理由、仕事の存在を完全に忘れ去っているソラが、躊躇なく床にボールペンを突き刺す。
ペンは柔らかい粘土に刺したかのように、全体が沈み、同時に美術館全体が音もなく
壁が、床が、柱が、天井が無造作に何の法則性もなく、おそらくはソラだけが見える「線」の通りに亀裂が入って、バラバラに崩れる。
崩壊や切断というより、初めからどこも溶接をしないでこういう形の積み木を重ねて、奇跡的なバランスで保っていたものが崩れ落ちるように、美術館そのものが解体されて、死んでゆく。
クロロもシャルナークも死にゆく美術館の崩壊に巻き込まれて死ぬほど、ぬるい世界で生きてはいない。
重力など無視して崩れ落ちる床や壁、天井のがれきを足場に跳躍し、脱出を図る。
「どこまで無茶苦茶で空気を読まないんだ、あの女は!?」
「だから、退こうって言ったじゃん! 何で今日は妙な意地を張ってたんだよ!!」
クロロの愚痴はシャルナークの正論で完封されて、さすがにあの眼に執着しすぎたことを反省したが、次の瞬間、クロロはソラ=シキオリという女に関わったことを本気で後悔した。
「エーデルフェルト家当主直伝!!」
自分たちが今この崩壊から脱出できるのなら、常に死の淵に立たされて紙一重で逃げ続ける女も、脱出できない訳がない。
むしろ自分たちと違って、どこがどう崩れるかがわかっているのだから、少しばかりの余裕はあったはず。
ソラは自分たちと同じように崩落する瓦礫を足場に、生きることに執着して逃げて回っていたくせに、こんな時に限って実に楽しそうに、自分たちの仲間の強化系最強と同じ笑みを浮かべながら、追って来ていた。
腕や頭部に回していたオーラも両足に回して、ほとんど“硬”状態の右足を振りかぶられた時はさすがにクロロも顔色を変え、本を閉じて具現化を解除し、自分のオーラを左腕から肩、わき腹にかけて集中して纏って叫んだ。
「ちょっと待てお前ーっ!!」
「淑女の、フォーークッ、リフトォッ!!」
もちろんソラはクロロの叫びを無視して、プロレス好きの姉弟子直伝の技名を、実に無邪気に楽しそうに笑いながら叫び、空中でソバットを思いっきり決めた。
強化系のソバットと、特質系の防御。
どちらが勝って結果がどうなったかは言うまでもない。
* * *
「やっぱあれは、ちゃんと足場があるとこでやらなくちゃダメだ。あと、“硬”でソバットは強力すぎて、そのままぶっ飛びすぎるからやめとく。
あのドラゴンボールみたいにぶっ飛んでいくのは、ちょっと面白かったし爽快感もあったけど、ソバットからのジャイアントスイング、バックドロップのコンボを決めるなら、初めのソバットはやっぱし手加減すべきであだだだだっ!!
師匠! ギブギブギブアップ!! 折れる折れる関節外れるどころか関節が逆方向にボキッと折れる!!」
腕ひしぎをビスケに決められてなお、美術館崩壊についての反省ではなく、クロロに淑女のフォークリフトを完全に決められなかったことに関しての後悔を語っていた弟子の悲鳴が、ホテルの一室で迷惑なくらいに響く。
そんな弟子の反応を眺めながら、ビスケは「限界まで悲鳴を上げるのを我慢して、言いたいことをほとんど言ったのだけは尊敬するわさ」と呆れながら、さらにソラの腕の関節の逆方向に力を掛ける。
「すみません! 仕事だったことは綺麗さっぱり忘れてましたごめんなさーい!!」
「うるさい!」
ようやくソラが素直に謝ったところで、腕ひしぎから解放してやる代わりに、頭に拳骨を落として、ベッドにビスケは腰かけた。
そしてそのまま足を組んで、ソラに「正座」と命じる。
腕を押さえながらも素直に正座する弟子の白髪を見下ろしながら、まずは溜息。
言いたいことは山ほどあった。
あれほど言ったのに、美術館をやっぱりぶっ壊したこと、その所為で宝石が完全に全滅したことを師として説教するなら丸一日、私怨も含めれば三日三晩はぶっ続けで言えただろう。
が、それらは何だかんだで襲ってきたのが「幻影旅団」であったため、美術館崩壊はビスケが彼らに責任を全面的に転嫁したので、案外こちらに火の粉がかからずに済んだから、後回しにしてやってもいい。
ビスケが何よりも許せない弟子の行動は、ただ一つ。
「ソラ。あんたは何で、わざわざ敵にあんたの『眼』の事を話したの?」
ソラの「直死の魔眼」は強力だが、無敵でも万能でもない。
ソラ本人が線や点に干渉しなければ効果が発揮されないのて、基本的に接近でしか使えない。
能力の名称や効果だけではなく、その欠点までほとんど包み隠さず語ったことに対して、ビスケは怒っていた。
が、当の本人は予想していたが、やはり真顔で言い放つ。
「この眼の唯一の利点は、この中二病全開のかっこよさなんだから、かっこつけて説明がしたかったから」
「さすがにもっと他にあるだろ利点!」
なんとなくだの、その場のノリという答えを予想していたが、ビスケの予想以上にアホな答えが返されて、思わずソラの頭をぶん殴りながら、ズレた突っ込みをかましてしまった。
「あいたたたた……。いや、けどぶっちゃけ説明したからって、そんな痛手になると思わないからしたんだけど、なる? この眼の性能と私の戦闘スタイル」
「……確かにあんたは割と、その眼の欠点を克服してるからあんまり問題にはならんけど、情報は与えない方がいいに決まってんでしょ」
涙目で頭を押さえながら、妙に幼い表情で聞き返されたら、もうどこから説教すべきかわからなくなってきて、ビスケの方も頭を抱えた。
実際、ソラの言うとおり彼女の魔眼は、タネが知れたらもう終わりという類ではない。
接近戦を避けられたら不利ではあるが、彼女にはガンドに宝石魔術という、中遠距離対応の攻撃手段があり、戦う相手が距離をとっても「念能力」そのものを殺せるのだから、おそらくソラが殺しきれない念能力は、殺す暇なく打ち出されるオーラの散弾くらい。
しかしそれも、防御方面が苦手とはいえ、ソラの系統は強化系。遠距離から彼女の装甲を貫通できるほどの能力者は少ないし、そもそもこの女は相手が距離を取っているのなら、これ幸いと普通に逃げることを優先する。
「だから、距離とって私が逃げやすくなるようにとか、向こうからこいつの能力、性質悪いなーとか思って退いてくれることを、どっか期待してたのかもねー。頭に血が昇ってたから、自覚ないけど」
正座こそはしているが、完全リラックスモードでのうのうと言い切る弟子にもう一発拳骨を落とそうと拳を固めた直後、ソラは笑って言った。
「それに、なんかあのデコ十字はどうも私の眼に御執心だったみたいだから」
自信満々に、誇るように彼女は笑って言い切った。
「さらにすげーレアだって教えとけば、
その言葉で、ビスケは殴る気はおろか完全に言葉を失う。
自分の命が大事だけど、大切な人を命がけで守りたい。
それは実に真っ当な価値観で、生き方だ。だから浅い付き合いでソラという女を知れば、バカな変人でややお人よしがすぎるが、普通の善人と評価するだろう。
けれどこれは、真っ当や普通からはかけ離れた、二重の狂気の産物だ。
「死」から逃げる為、常に「死」を想定して「壊れかけているからこそ、今は壊れていないと実感できて安心する」という人間性を食いつぶして、ただ原始的な「死にたくない」という本能のみを優先させた狂気。
その狂気に呑まれてしまうのは、常に世界が「死」に満ち溢れているということを思い知らされる眼を持つから、そんな視界でも「死にたくない」という願いを捨てられず、その願いを実行する為には、この狂気に呑まれるしかなかった。
なのにソラは、出会ってしまった。
命に代えても守りたいと思える大切な人に出会って、誰かを守ることに価値を、意味を見出してしまった。
それは、生き物の中で特に人間が持ちうる
自己犠牲という、生存本能に反する
ソラがここまで狂い果てているのに、一見まともに見えるのは、マイナスの掛け算がプラスになるようなもの。二つの相反する狂気が奇妙なバランスを保って、ソラを真っ当に見せているだけ。
だから彼女は、あまりに危うい。
「死にたくない」という
大それたものなどソラは何も望んでいないのに、ただ当たり前のように、ごく普通に生きてゆきたいだけなのに、それはここまで狂い果てて、奇跡のようなさじ加減でバランスを保っていなければいけないことが憐れで、けれど何もしてやれることなどないことを、彼女よりも長く生きてきたビスケは知っている。
どんなに強くなっても、結局自分にできることなどほとんど何もないと思い知らされるビスケに、ソラは勝手に立ち上がって、背筋を思い切り伸ばしながら言った。
「そんな顔すんなよ、ババア。頭がいかれた奴に感情移入したって頭痛がして、同じくミイラ取りがミイラになるだけだよ。あ、ミイラの方が本来の姿か」
「なっ!?」
いつものように師匠を師匠と思っていない暴言を言い放ちながら、彼女は笑う。
狂気などどこにも見当たらないからこそ狂い果てている証明のような、晴れやかで穏やかな笑顔で彼女は言う。
* * *
ビスケと同じような顔をした人を、ソラは知っている。
弟も、クラピカも、ソラとケンカの皮を被りきれていないじゃれあいからしばらくして、唐突に言った。
「お前は、狂っている」と。
侮蔑や恐れはなく、憐みというには言った本人が痛みに耐えるような、あまりに悲痛な顔をしてソラに告げたが、言われた当の本人はクラピカにそんな顔をさせたことを悔やむ以外、思うことなどなかった。
そしてクラピカも、相手が自分の指摘に何一つとして傷ついていないことを、今度は理解していた。
だからこそ、悔しくて仕方がなかった。
あの「今死ねば?」と言った理由が、彼女自身は受け入れてはいなくとも、それも真理だと思っていることも。
自分が彼女の眼を恐れ、怯えたことを、全く気にしていないことも。
「狂っている」と言われても、それは自分の髪の色を改めて指摘されたように、当たり前のわかりきったこととして、認識していることも。
そのどれも、死にたくなるほど傷ついていいはずのもの全てを、もう傷などつかないほど受け入れてしまっている彼女が、あまりに傷ましくて、何も出来ない、痛みを思い出させることすら出来ない自分が、クラピカは悔しくて仕方がなかった。
悔しくて、悔しくて、悔しくて仕方がないその悔しさを飲み込む。
彼女の狂気は、消し去ることなど出来ないから。
直死の魔眼を普通の眼に戻せても、むしろそれこそ彼女を破滅に追いやるということも、クラピカは既に理解している。
世界の脆さを目にして、その線や点を避けて逃げて生きる彼女に、普通の視界を今更与えても、見えないだけで存在する「死」に耐えきれないことくらいわかっていた。
「今死ねば?」は、それこそクラピカが言うべきセリフだった。
彼女は生きているからこそ死を常に恐れて、休む間もなく狂い果てるほどに逃げなくてはならないのだから、死んでしまった方がきっと本当は楽なはず。
……だからこそソラは、困ったような苦笑を浮かべていたのだろう。
とっくの昔、ソラ自身が考えて思い至った選択肢、彼女が否定出来ないが選ばなかったものの一つだったから。
だから、クラピカは彼女に伝えた。
「それでもいい」と、肯定した。
復讐さえも肯定して「その先」をくれた人だから、クラピカも彼女が選んだものを否定しない。
憐れまない。かわいそうだとか、救いたいとか、何とかしたいなど思ってはいけない。
彼女の狂気こそが彼女を生かし、そして自分と出逢ったのだから。
「お前がどんなに狂っていようが、狂い果てていようが、そんなのどうでもいい。
ソラがソラであるのなら、それさえ変わらなければ、いい。それだけでいいんだ」
だから、クラピカは彼女の狂気を肯定した。
そして、自分がソラに与えられる、渡せる精一杯の「その次」を口にした。
「ソラ。オレは自分が本当にしたいことが何であるかは、まだ見つけられない。
でも、オレは君が……ソラも幸せであってほしい。何があっても生きぬいて、ソラがしたいことをして、幸せであってほしいという思いだけは、今確かに願うことだ」
その言葉がなければきっと、もっと前にソラは破綻していた。
正気になりたい、普通に戻りたいという願いこそ、彼女の少なくとも表向きは普通を取り繕えている狂気のバランスを大きく崩す。
普通なら死ぬ以外なかったところを生き延びた彼女が、普通に戻るということは、本来ならあの日に起こるはずだった破滅を受け入れるということに他ならないのだから。
だから、彼女は自分の狂気を肯定する。
自分の異常を受け入れて、自分が望んだものの大半が手に入らないことに、少しだけ寂しく思いながら、何をしてもしなくても、いつか必ず訪れる終焉で後悔するとわかっているからこそ、だからこそ生きているうちは後悔をしないように生きようと決めたから。
だからソラは、地獄の中でも穏やかに笑って言いきる。
「救いたいとか、何とかしたいなんて思うなよ。
そんなんしなくたって私は、生きているだけで、目覚めてるだけで幸せなんだから」
ソラの言葉に、ビスケはまたしても言葉を失う。
今度は憐みや無力感ではなく、逃げ場のない地獄で時間稼ぎに逃げ続けるしかない自分の生を、本心から「幸せ」と言い切る弟子に、思わず素で感心してしまった。
それも結局は、狂気の産物だろう。
が、確かに口出しは余計なお世話にすぎない。
狂気から生まれたものでも、常人には理解できないものであっても、偽りの、嘘にまみれた幸せは存在しても––––
幸せだと感じている瞬間に、嘘や偽物なんてありはしないのだから。
* * *
「ぎゃはははははっ!」
「吹っ飛んだのかよ! 団長もフェイタンも、女相手に吹っ飛ばされたのかよ!」
「おいおい、相手はどんなゴリラだったんだよ!?」
「黙れ」
「黙るね」
骨をバッキバキに折られて左腕を三角巾で吊るしている団長と、肋骨と内臓に大打撃を喰らって、実は話すどころか呼吸も辛いフェイタンが、爆笑する強化系トリオに不機嫌オーラをぶつけながら命じた。
もちろんそう言われて、素直に黙る奴らではない。それくらいで黙るのなら、「暇なら来い」という招集命令では来なかったくせに、「団長とフェイタンが女にブッ飛ばされた」とシャルが送った連絡で、わざわざ笑いにホームまでやってこない。
結局3人が黙ったのは、マチとパクノダがやや疲れた顔で、「……私たちの方は、ちょっと本気でゴリラだった」という言葉を聞いてからだった。
ビスケの方に向かっていた3人は、別に相手の姿で舐めたり油断なんてしていなかったが、さすがにビスケが旅団の強化系トリオレベルのパワータイプであることは予想外だったらしく、まさかのフェイタンが能力発動前にブッ飛ばされた挙句、意識を手放すという珍事に見舞われて、敗走を余儀なくされたそうだ。
それを聞いて、ノブナガたち3人はとりあえずフェイタンには謝っておいた。
「俺には謝らないのか」
「だってそもそもはクロロのわがままじゃん」
同じく女にブッ飛ばされたクロロが不満の声を上げるが、シャルナークが呆れをもう隠す気もなくさらけ出して突っ込んだ。
「明らかにヤバいから忠告したし、退こうって言ってんのに何でか知らないけど変に意地張っちゃって、あれなんだったの?
もう弾丸みたいな勢いでブッ飛ばされた時は、心配で心臓が止まりそうだったんだけど」
「その割には、俺が蹴り飛ばされた時爆笑していたな」
「あ、ばれてた?」
いけしゃあしゃあと、「心配」なんて気色の悪い発言をするシャルナークを横目でにらみつけるが、そんな視線は痛くもかゆくもないと言わんばかりに彼は舌を出す。
お前は俺がリーダーであることを忘れてないか? と若干本気で問いただそうかと思ったが、ウボォーギンが相手は怪我人であることも忘れているのか乱暴に背中を叩き、「しかし、団長も災難だったな!!」と励ましなのかトドメなのかよくわからないことをやらかす。
「で、どっちの方が強そうなんだ?」
どうも、励ましでもトドメでもなく、ただの獲物の物色だったらしい。
団員一の戦闘狂が団長と戦力トップクラスのフェイタンを吹っ飛ばす女二人と聞いて、血が騒がない訳がなかったなと、クロロはわかっていたが集団なのに自由気ままな連中に、そんな所が昔から愛おしいが今はちょっと放っておいて欲しかったなと思う。
しかし自由気ままだからこそ、自分の意思でクロロの下につくウボォーに、そんなことを望むのはバカらしくなって、最低限のことだけ伝える。
「ウボォー、師匠の方はともかく弟子の方は殺すなよ」
「え? まだクロロ諦めてないの?」
クロロの言葉にシャルナークは心底驚いて声を上げると、クロロの方もただでさえ童顔なのがさらに幼く見える表情で言い返す。
「何故、諦めなければならない?」
その返答に、シャルナークだけではなくその場にいた全員が絶句して、クロロは団員の反応が理解できず首を傾げた。
先ほどまでいつものクールさはどこに行ったんだと言わんばかりに、自分をソバットでブッ飛ばした女が、いかに面倒くさい空気を読まない訳のわからない女だったかを語っていたのに、未だに彼女の「眼」を諦めるつもりはない、むしろ諦めるのがあり得ないと言い切るクロロに団員は、率直に言ってドン引いていた。
強化系トリオと同じく団長がブッ飛ばされたと聞いてやって来たのに、そのことを笑いもしなければ団長を心配もせずマイペースに本を読んでいたシズクが、そんなクロロにシャルナークが「……まさか」と思いつつも恐ろしくてとても聞けなかったことをサラッと訊いた。
「団長、一目ぼれですか」
勇者の発言に、クロロは即答した。
「それはない」
真顔だった。そして、真顔のまま続けた。
「あの『眼』に対してならまぁ肯定してもいいが、あの女に対してならそれはない。マジでない。
あれは、マジで、ない」
* * *
「……なんか急に、あのデコ十字に玉天崩をぶちかましたくなった」
「一体急にどうしたんだわさ? 去勢する気?」
ソラがクラピカ大好きすぎて、初期のキャラブレをまっったく許してくれなかった結果、予定外予想外の大幅改変が起こった……。
この人、マジでクラピカに関しては作者より妥協してくれないんですけど。