ピーピーと規則正しい音が鳴り、すぐ側で人がドタドタと走る音が聞こえる。眠気をかみ殺し目を開けるとそこは知らない天井と俺の顔を覗き込む医者の姿があった。
「先生!紅葉君の意識が戻りました!」
「ここどこぉ?」
「まだ意識が混濁しているようですが、もう大丈夫です。安心してくださいお母さん」
「紅葉!紅葉!」
「うごっ?!く、苦しい……」
俺は突然知らない女性に抱きしめられる。あまりの抱擁の強さにびっくりする。なんだろう、これは新手のドッキリだろうか。ていうか、紅葉ってもしかして俺の事か?俺の名前は紅葉じゃなくて……えと、あれ?自分の名前が思い出せないぞ。それに体が妙に縮んでいるような……俺、子どもに戻ってる?!
「と、とりあえず、誰かは知らんが離してくれ!」
「紅葉?どうしちゃったの?お母さんの顔忘れちゃったの?」
俺は抱きつく女性をなんとか引き剥がす。女性は俺の言葉に目をパチクリさせると不安げな表情を宿す。
「まだ意識が混濁してるのね。私はあなた響紅葉のお母さんよ。ほら、そしてこれがあなたのフェイバリットカードジ・アースよ」
「これってデュエルモンスターズのカード?」
俺は差し出されたカードを手に取る。これはE・HEROジ・アースのカードだ。現代HEROデッキでは見る影もなくなったカードだがこれを俺が持っていたのか?
「そうよ。思い出したかしら。ジ・アースと一緒にデュエルの世界チャンピオンになるのがあなたの夢でしょ」
『ニュース速報です。海馬コーポレーションが主催するデュエルモンスターズ世界大会で新たなチャンピオンが生まれました!その名は武藤遊戯!』
「はぁ?!む、武藤遊戯だって?!」
俺は病院のベットの向こうで流れるテレビの光景に目を奪われる。そこにはステージの上に伝説のデュエリスト武藤遊戯が立っていた。あり得ない。彼は漫画の主人公だ。現実にいるはずがない。だが、目の前の光景はそれを否定している。一体どういうことなんだ。
「ほら、紅葉君。これから精密検査をしよう。なんせ、君はさっきまで心臓の病気の発作で死にかけていたんだ。車椅子を用意したから乗ろう」
「あ、はい」
俺は状況を理解できないまま車椅子へと移動させられ精密検査を受けた。検査結果は異常なし。これには先生も驚愕しその後も何度も精密検査を受けて入院が長引いた。
「間違いない。この世界は俺が知ってる現実世界とは別次元の地球だ。あ、母さん。このデュエルディスク欲しいんだけど駄目かな?」
「退院祝いに買ってあげるわ!お母さんに任せなさい!ね、お父さん?」
「ぼ、僕?!今月のボーナスが……とほほ」
「紅葉だけずるいわ!私も欲しい!」
「お姉ちゃんの分もお父さんが買ってくれるって。よかったわね、みどり!」
「ありがとう、お父さん!」
「あはは……お、お父さんに任せなさい……」
俺はデュエルモンスターズ最強デッキ構築論の論文(大学の教授が出している)を読み、最新デュエルディスクを親にねだりながら状況を整理していた。
まず、俺自身のことだが俺には今世の記憶がない。響紅葉として過ごした13年の月日の記憶だけがすっぽりと抜け落ちている。その代わりに前世と言うべき物の記憶があり、前世で俺はマスターデュエルを嗜み、軽く紙に触る程度のエンジョイな遊戯王勢であった。
主に使用するデッキカテゴリはHERO。現代遊戯王に対抗するために捲り札をふんだんに詰め込んだビートダウンデッキだ。
「紅葉!私とデュエルよ!次は負けないわ!」
「みどり姉さん。いいよ、俺とデュエルだ!」
俺は病院のベットの上でカードを出してみどり姉さんとデュエルする。響みどり。漫画版GXにおいて、世界チャンピオン響紅葉の姉でデュエルアカデミアレッド寮の先生だ。
「ジ・アースの攻撃!アースインパクト!」
「また負けたわ!悔しい!」
みどり姉さんがベットの上で大の字に転がる。俺はさっきまで出していたカードを回収してデッキケースに入れた。今世の俺の家族構成は父、母、姉と俺の4人家族だ。
「母さん、父さん。俺、退院したら姉さんと同じデュエルアカデミアに行くよ」
「紅葉も来るのね!なら、私が先輩だわ!」
「いいわね!さっそく入学試験に応募してくるわ!」
「父さんもいいけど勉強はどうするんだ?デュエルアカデミアの試験は実技だけじゃなくて筆記もあるぞ?」
「大丈夫だよ。勉強なら入院中にしたから」
俺は自己採点した過去のデュエルアカデミアの過去問を両親に見せる。一般科目含め全て100点の答案をベットの上に広げると両親はびっくりして笑っていた。
そして、両親を納得させ無事に退院できた俺は迫るデュエルアカデミアの試験に向けて受験勉強に勤しんだ。
「よし、今日の分はこれでいいかな」
俺はデュエルアカデミアの志望動機を書き終え、ペンを机に置く。そして、すっかり暗くなった部屋でベットに寝転んだ。
「それにしても試験まであと1週間か。この世界のカードプールで試験に合格できるかな」
俺の切り札はジ・アース一枚のみ。本当なら前世で組んだデッキがあればよかったんだがない物ねだりはできない。しかし、前世で使ったサンライザー、アブソルートゼロ、ノヴァマスター……使いたいHEROは沢山ある。俺の記憶と一緒にこの世界に連れてこれればよかったのに。
「はぁ……お前たちと一緒に戦いたいよ」
そう俺がぼやいていると突如机の引き出しが眩い光を放ち、俺の自室を照らす。
「な、なんだ?!」
俺は慌ててベットの上から起き上がり、慎重に引き出しに向かう。そして、覚悟を決めて引き出しを開けた。その中には……
「来てくれたか!俺のフェイバリットたち!」
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「それではデュエルアカデミア入学試験を始めます。試験生は前に出てください」
「とうとう始まったか」
「紅葉ー!さっさと合格しちゃいなさい!」
俺はデュエルアカデミアのデュエルスペースで自分の番を待っていると上の観戦席でみどり姉さんが手を振ってきた。俺はみどり姉さんに手を振りかえし笑う。
この日のためにデッキ調整を済ませて最高のコンディションに整えた。いよいよ、デュエルディスクを使った初めてのデュエルが始まる。興奮が、ワクワクが抑えられない。
「試験生3番響紅葉!来なさい!」
「はい!」
俺は試験管に呼ばれて前に出る。俺の相手は誰だろう。
「クックック。君があの響みどり君の弟だね。噂は聞いてるよ。デュエル強いんだって?ま、軽く捻ってあげるよ」
「お手合わせお願いします。しかし、自分は負けませんよ」
「チッ!生意気だな。これだからガキは嫌いなんだ!」
メガネをかけた試験管が舌打ちをする。この試験管、どこかで見覚えがあるような。あっ、この人漫画版GXで不正をしたくせに十代に負けた龍牙じゃないか。
「「デュエル!」」
「私の先攻!ドロー!」
「先攻ドローありか。そして、初期ライフポイントはお互い4000。面白くなってきた!」
「何をぶつぶつ言っている?!私は首領亀を召喚!そして、超進化薬を発動!首領亀を生贄にしサイバー・ダイナソーを特殊召喚!カードを一枚伏せてターンエンド!」
「おー!龍牙先生のマジックコンボだ!」
「受験生相手に大人気ねえな。落ちたなあの受験生」
「紅葉!私に勝っておいて負けるんじゃないわよ!」
オーディエンスの声に耳を傾けつつ、俺はデュエルディスクを構える。俺はこんなところで負けるつもりは毛頭ない。
「俺のターン!ドロー!マジックカード融合発動!手札のオーシャンとフォレストマンで融合!現れろ!サンライザー!」
「なに?!いきなり融合だと?!」
「サンライザーの特殊召喚成功時効果!デッキからミラクルフュージョンを手札に加える!」
俺はデッキからミラクルフュージョンを抜き取り、更にそのまま発動させる。
「ミラクルフュージョン発動!墓地から融合素材を除外し融合召喚!現れろ!絶対零度アブソルートゼロ!」
「馬鹿な……1ターンで2体の融合モンスターが並んだだと?!」
「これが俺のエースモンスターたちだ!」
俺の目の前に赤と白のHEROが並び立つ。その圧倒的な光景に俺は興奮を抑えられなかった。
「行きますよ、試験管殿!アブソルートゼロでサイバー・ダイナソーに攻撃宣言!その時、サンライザーの効果でサイバー・ダイナソーを破壊する!」
「わ、私のエースモンスターが?!」
「攻撃対象を失った事で攻撃の巻き戻しが発生する!アブソルートゼロで龍牙先生にダイレクトアタックだ!」
「くっ?!私がやられるだと?!……クックック。そう単純じゃねえよ馬鹿が!トラップ発動!聖なるバリアミラーフォース!お前のモンスターは全て破壊だ!」
「その効果にチェーンし手札からライフを半分払い、レッドリブートを発動!その発動を無効にする!」
「そ、そんな?!」
「アブソルートゼロ!サンライザー!一斉攻撃だ!」
「ぐぁあああああ?!」ライフ4000→0
「ガッチャ!楽しいデュエルでしたよ」
俺は倒れ伏し気絶した試験管に向けて勝利の宣言をする。
「嘘だろ?!あの受験生1ターンキルしやがった!」
「響紅葉か。あいつは絶対オベリスクブルーに来るな」
「紅葉ー!おめでとうー!」
俺は無事デュエルアカデミアの試験を終えて帰宅した。それから1週間後、俺の元に合格通知が届いた。姉さんから後で聞いた話だが、龍牙先生は素行の問題でデュエルアカデミアを去ったらしい。まぁ、そんなことは置いとこう。
「さぁ、楽しいデュエル生活の始まりだ!」
それから俺はデュエルアカデミアに入学し、オシリスレッドへと入寮した。ちなみにオシリスレッドへの入寮は俺が志願したものだ。先生方からは是非オベリスクブルーに来るよう誘われたが全部断ってオシリスレッドに行った。やはり、赤い制服はかっこいいからな。
「見ろ、響姉弟だ!」
「この間の校内タッグデュエルで優勝した奴らだろ。やばいよな」
「特に響弟は校内デュエリストランキング一位に名を連ねてるんだぜ。早速デュエル申し込んでくるぜ!」
「お、俺も俺も!」
時が経ち、俺はデュエルアカデミアを卒業し、世界に羽ばたいた。世界中を巡り、いろんな人たちとデュエルで心を通わせる旅は刺激の毎日だった。そんな生活をして何年か経った時、俺はデュエルモンスターズの世界大会に出場し、第3回の世界王者となった。
「響紅葉選手!次の目標を教えてください!」
「はい。俺は現役を引退して後進の育成……デュエルアカデミアの教師になってデュエルの楽しさを普及することに貢献したいです」
俺はインタビューでかねてからの目的を伝えた。メディアの間に動揺が走る中、俺はデュエルアカデミアに向かって飛行機に乗った。
この世界を旅して分かったことはこの世界はGXの世界線であることだった。となれば、遊城十代がいずれデュエルアカデミアに入学してくる。俺はそれを見届けたい。そして、強くなった十代とデュエルがしたい。俺の目的はそれだけだ。
「ようこそ、いらっしゃいましたノーネ。Mr.響紅葉!」
「初めまして、クロノス先生。よろしくお願いします」
俺は職員室でクロノス先生に挨拶をする。今日は俺の初出勤の日だ。そして、デュエルアカデミアの入学式でもある。この日に合わせてスケジュールを調整した。
「俺は入学生の出欠確認をしてきます」
「よろしくなノーネ」
俺は職員室から出て教室に向かう。その途中、階段の曲がり角で生徒とぶつかってしまった。
「うおっ!」
「おわっ?!」
俺は倒れてしまった生徒に手を差し伸べる。そこには見慣れた顔がいた。
「アンタもしかして響紅葉さんか?!俺、遊城十代!なぁなぁ!デュエルしようぜ!」
「初めまして、十代。あぁ、望むところだ!」
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