海防艦 犬島   作:重装甲空母信濃

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沖合で輸送船団の護衛中台風で大型貨物船が流され、犬島両側に来て挟まれて、大したことはないがそれでも潰される話。
この事故のことを犬島公式SNSに投稿した反応も。


犬島大型貨物船挟み込み事故

海防艦・犬島

 

――両側から来ました――

 

台風下・大型貨物船二隻による挟圧事故

 

犬島公式SNSが始まってから。

 

事故が起きた時。

 

軍令部広報部が。

 

最初にすることは。

 

かなり減った。

 

以前。

 

事故。

 

犬島。

 

速報。

 

広報資料。

 

記者説明。

 

原因調査。

 

誤情報訂正。

 

SNS上の噂。

 

全部。

 

軍令部が。

 

先回りしていた。

 

今。

 

犬島自身が。

 

書く。

 

そして。

 

今回。

 

犬島が投稿した第一報は。

 

かなり短かった。

 

«台風の中で護衛中、大型貨物船2隻に左右から挟まれました。

 

今は離れています。

 

沈んでません。

 

けが人はいません。

 

犬島は少し潰れました。

 

原因は確認中です。»

 

投稿から。

 

約一分。

 

返信。

 

«「少し潰れました???」»

 

だった。

 

---

 

一 台風接近

 

午前九時。

 

瀬戸内海西部。

 

輸送船団。

 

計五隻。

 

中央。

 

中型輸送船。

 

二隻。

 

大型貨物船。

 

二隻。

 

後方。

 

補給船。

 

護衛。

 

海防艦・犬島。

 

台風。

 

中心。

 

南西海上。

 

直接上陸。

 

まだ先。

 

しかし。

 

外縁。

 

すでに。

 

強風域。

 

風。

 

南南東。

 

十八から二十二メートル毎秒。

 

瞬間。

 

二十八。

 

波高。

 

二・五から三・五メートル。

 

視程。

 

雨で。

 

約二海里。

 

犬島。

 

速力。

 

九ノット。

 

船団。

 

八ノット。

 

艦隊は。

 

予定航路を短縮。

 

最寄りの避泊可能海域へ。

 

向かっていた。

 

犬島。

 

船団中央やや後方。

 

「各船」

 

「間隔広めでお願いします」

 

『了解』

 

「横に並ばんでください」

 

『了解』

 

犬島。

 

自分でも。

 

少し嫌な予感。

 

大型貨物船。

 

二隻。

 

犬島の。

 

左前方。

 

右前方。

 

それぞれ。

 

距離。

 

約五百メートル。

 

十分。

 

離れている。

 

普通なら。

 

問題ない。

 

台風でなければ。

 

---

 

二 左側――東明丸

 

左側。

 

大型貨物船。

 

東明丸。

 

全長。

 

約百七十二メートル。

 

満載排水量。

 

約三万一千トン。

 

積荷。

 

鋼材。

 

機械部品。

 

建設資材。

 

風圧面積。

 

大きい。

 

船体。

 

重い。

 

舵。

 

正常。

 

機関。

 

正常。

 

ただ。

 

横風。

 

強い。

 

東明丸。

 

船長。

 

「右へ少し戻せ」

 

舵。

 

右。

 

機関。

 

微増。

 

だが。

 

波。

 

船尾。

 

叩く。

 

さらに。

 

突風。

 

船首。

 

押す。

 

船体。

 

右へ。

 

流される。

 

犬島方向。

 

東明丸。

 

無線。

 

『犬島』

 

犬島。

 

「はい」

 

『こちら東明丸、風で右へ流されている』

 

犬島。

 

「見えとります」

 

「こちら少し右へ逃げます」

 

犬島。

 

舵。

 

右。

 

ところが。

 

---

 

三 右側――海照丸

 

犬島。

 

右側。

 

もう一隻。

 

大型貨物船。

 

海照丸。

 

全長。

 

約百六十五メートル。

 

満載排水量。

 

約二万八千トン。

 

積荷。

 

コンテナ。

 

一般貨物。

 

こちらも。

 

同じ頃。

 

別の問題。

 

波。

 

左舷後方。

 

大きく。

 

船尾を押す。

 

海照丸。

 

船首。

 

風上へ。

 

回り切れない。

 

横滑り。

 

左へ。

 

犬島方向。

 

海照丸。

 

『犬島!』

 

犬島。

 

今度。

 

右を見る。

 

「……え」

 

『こちらも流されてる!』

 

犬島。

 

左を見る。

 

東明丸。

 

右を見る。

 

海照丸。

 

両方。

 

来ている。

 

犬島。

 

少し。

 

固まる。

 

「ちょっと待ってください」

 

誰に言ったのか。

 

自分でも。

 

分からない。

 

---

 

四 逃げ場

 

犬島。

 

左。

 

東明丸。

 

右。

 

海照丸。

 

前。

 

輸送船二隻。

 

後。

 

補給船。

 

犬島が。

 

急加速すれば。

 

前方輸送船へ。

 

接近。

 

急減速すれば。

 

後方補給船。

 

接近。

 

左右。

 

大型貨物船。

 

犬島。

 

「船団各船!」

 

「前後間隔取ってください!」

 

前方。

 

輸送船。

 

増速。

 

後方。

 

補給船。

 

減速。

 

犬島。

 

ようやく。

 

前後。

 

少し空く。

 

犬島。

 

機関。

 

前進強速。

 

そのまま。

 

前方へ。

 

抜けようとする。

 

だが。

 

台風。

 

波。

 

重い貨物船。

 

横へ。

 

予想以上に。

 

速い。

 

東明丸。

 

距離。

 

百五十。

 

海照丸。

 

百八十。

 

犬島。

 

「両方来んでください……!」

 

東明丸。

 

『こっちも来たくて来てない!』

 

海照丸。

 

『同じだ!』

 

犬島。

 

「知っとります!」

 

---

 

五 最初に左

 

午前九時三十八分十一秒。

 

東明丸。

 

右舷側。

 

犬島。

 

左舷中央。

 

最初の接触。

 

ごん。

 

犬島。

 

「っ!」

 

低速。

 

斜め。

 

だが。

 

質量差。

 

かなり。

 

犬島。

 

右へ。

 

押される。

 

東明丸。

 

すぐ。

 

機関。

 

後進。

 

舵。

 

左。

 

離れようとする。

 

しかし。

 

横波。

 

二隻。

 

接触状態。

 

犬島。

 

左舷中央。

 

外板。

 

押される。

 

犬島自身。

 

脇腹を。

 

強く押されるような。

 

鈍い圧迫感。

 

「うぅ……」

 

それでも。

 

船体破断。

 

なし。

 

犬島。

 

右へ。

 

逃げる。

 

だが。

 

右側。

 

海照丸。

 

来ている。

 

---

 

六 「右も来ます」

 

犬島。

 

右を見る。

 

海照丸。

 

距離。

 

四十メートル。

 

犬島。

 

一瞬。

 

表情。

 

本気で。

 

困る。

 

無線。

 

「提督」

 

鎮守府。

 

『犬島、どうした』

 

「左から」

 

少し間。

 

「東明丸さんに押されとります」

 

『損傷は』

 

「まだ軽いです」

 

「でも」

 

右を見る。

 

「右から」

 

『右から?』

 

犬島。

 

「海照丸さんも来ます」

 

提督。

 

少し。

 

沈黙。

 

『……両側?』

 

犬島。

 

「はい」

 

次の瞬間。

 

右舷。

 

衝撃。

 

---

 

七 挟まれる

 

午前九時三十八分二十九秒。

 

海照丸。

 

左舷前部。

 

犬島。

 

右舷中央。

 

接触。

 

犬島。

 

左右。

 

大型貨物船。

 

その間。

 

七十八・九メートルの。

 

海防艦。

 

両側から。

 

押される。

 

東明丸。

 

三万トン級。

 

海照丸。

 

約二万八千トン級。

 

犬島。

 

満載。

 

千トンを少し超える程度。

 

質量。

 

まるで。

 

違う。

 

犬島自身が。

 

「……うわ」

 

と。

 

小さく言った。

 

それから。

 

ごく真面目に。

 

「これ」

 

「うち」

 

「潰れます」

 

---

 

八 船体が鳴る

 

ぎし。

 

ぎしぎし。

 

犬島。

 

両舷中央。

 

外板。

 

内側へ。

 

押される。

 

甲板。

 

わずかに。

 

持ち上がる。

 

中央十二糎砲。

 

基部。

 

歪み。

 

旋回。

 

停止。

 

通風筒。

 

一本。

 

圧壊。

 

手すり。

 

左右。

 

変形。

 

救命艇架台。

 

一部。

 

曲がる。

 

船体中央。

 

フレーム。

 

荷重。

 

高い。

 

だが。

 

主構造。

 

持つ。

 

犬島。

 

玉野で建造された。

 

中央部。

 

そこが。

 

まさに。

 

左右から。

 

押されている。

 

犬島。

 

歯を食いしばる。

 

「……玉野のところ」

 

東明丸。

 

『犬島!』

 

海照丸。

 

『大丈夫か!』

 

犬島。

 

「大丈夫じゃないです!」

 

少し間。

 

「でも」

 

「まだ持っとります!」

 

---

 

九 犬島は動かない

 

犬島。

 

機関。

 

両舷。

 

微速前進。

 

ただし。

 

無理に前へ抜ければ。

 

貨物船の外板。

 

犬島中央部。

 

擦り続ける。

 

さらに。

 

船首。

 

貨物船側へ。

 

食い込む可能性。

 

犬島。

 

判断。

 

「一回」

 

「動かん方がええです」

 

東明丸。

 

『こちら後進中!』

 

海照丸。

 

『こちらも離す!』

 

犬島。

 

「急に離さんでください!」

 

『え?』

 

「両方同時に離れたら」

 

「風でうちが振られます!」

 

犬島。

 

左右。

 

貨物船。

 

その間。

 

自分を。

 

一時的な。

 

支持物として。

 

使う。

 

東明丸。

 

後進。

 

ごく弱く。

 

海照丸。

 

前進。

 

ごく弱く。

 

互いに。

 

少しずつ。

 

犬島から。

 

圧力を抜く。

 

犬島。

 

「左」

 

「もう少し」

 

「右」

 

「そのまま」

 

「左、止めて」

 

「右、離れます」

 

数十秒。

 

だが。

 

犬島には。

 

長い。

 

---

 

十 解放

 

午前九時三十九分五十八秒。

 

最初。

 

海照丸。

 

犬島。

 

離れる。

 

右舷。

 

自由。

 

犬島。

 

すぐ。

 

右舷機。

 

後進。

 

船体姿勢。

 

維持。

 

次。

 

東明丸。

 

離脱。

 

犬島。

 

両側。

 

空く。

 

犬島。

 

ようやく。

 

自分の船体全体を。

 

確認。

 

「……戻りました」

 

提督。

 

『犬島』

 

「はい」

 

『浮いてるな』

 

犬島。

 

少し。

 

むっとする。

 

「浮いとります」

 

『浸水』

 

犬島。

 

確認。

 

「左中央」

 

「少し」

 

「右も」

 

「少しだけです」

 

「でも」

 

「止められます」

 

『機関』

 

「正常」

 

『舵』

 

「正常」

 

『主構造』

 

犬島。

 

少し時間。

 

確認。

 

「曲がっとりますけど」

 

「持っとります」

 

---

 

十一 護衛を続けると言う犬島

 

提督。

 

『護衛解除』

 

犬島。

 

即答。

 

「まだできます」

 

『犬島』

 

「機関動きます」

 

「舵も」

 

「通信も」

 

『中央部が潰れている』

 

犬島。

 

少し間。

 

「少しです」

 

『少しではない』

 

犬島。

 

黙る。

 

提督。

 

『船団は別護衛を出す』

 

『犬島は避泊港へ』

 

犬島。

 

不満。

 

「……はい」

 

でも。

 

無理を。

 

押し通さない。

 

船団。

 

輸送船。

 

無事。

 

東明丸。

 

海照丸。

 

双方。

 

操船可能。

 

犬島。

 

最後。

 

船団へ。

 

無線。

 

「皆さん」

 

「この後」

 

「気を付けてください」

 

東明丸。

 

『お前が一番気を付けろ』

 

海照丸。

 

『ほんとにすまん』

 

犬島。

 

「波のせいです」

 

「今は」

 

「皆さん離れとるので」

 

「それでええです」

 

---

 

十二 避泊港

 

午後。

 

台風。

 

さらに悪化。

 

犬島。

 

近隣避泊港。

 

入港。

 

タグ。

 

二隻。

 

今度は。

 

かなり距離を取る。

 

犬島。

 

それを見る。

 

「そんな離れんでもええですよ」

 

タグ船長。

 

『今日は挟みたくない』

 

犬島。

 

「それは」

 

少し間。

 

「お願いします」

 

着岸。

 

無事。

 

工員。

 

犬島の。

 

左右。

 

見る。

 

「……」

 

犬島。

 

「何ですか」

 

工員。

 

「細くなった?」

 

犬島。

 

「なってません」

 

「中央部」

 

「左右から押されてるぞ」

 

犬島。

 

少し。

 

自分の実艦を見る。

 

「……少しだけ」

 

---

 

十三 損傷

 

調査。

 

左舷中央部

 

外板。

 

約十三メートル。

 

広範囲。

 

凹み。

 

最大。

 

約三十二センチ。

 

フレーム。

 

三本。

 

変形。

 

通風筒。

 

一本。

 

圧壊。

 

手すり。

 

約七メートル。

 

損傷。

 

右舷中央部

 

外板。

 

約十一メートル。

 

凹み。

 

最大。

 

約二十六センチ。

 

フレーム。

 

二本。

 

変形。

 

救命艇架台。

 

一部。

 

変形。

 

中央十二糎砲

 

基部。

 

局所変形。

 

旋回制限。

 

約二十度。

 

砲そのもの。

 

無事。

 

内部

 

局所浸水。

 

左舷。

 

約十一トン。

 

右舷。

 

約七トン。

 

応急排水。

 

成功。

 

機関室。

 

無傷。

 

燃料タンク。

 

無傷。

 

推進軸。

 

正常。

 

舵。

 

正常。

 

主甲板。

 

局部座屈。

 

主構造。

 

修復可能。

 

沈没危険。

 

なし。

 

修理期間。

 

二十九日。

 

犬島。

 

報告。

 

見る。

 

「大したことないですね」

 

工員。

 

「両側から貨物船に挟まれて」

 

「二十九日修理を」

 

「大したことないと言うな」

 

犬島。

 

「沈んでません」

 

「基準が変だ」

 

---

 

十四 事故原因

 

合同調査。

 

東明丸。

 

過失。

 

なし。

 

海照丸。

 

過失。

 

なし。

 

犬島。

 

過失。

 

なし。

 

船団運航計画。

 

台風接近を考慮。

 

避泊判断。

 

適切。

 

各船。

 

間隔。

 

規定以上。

 

原因。

 

突風。

 

強い横風。

 

港外へ向かう海流。

 

異なる方向からの高波。

 

三つ。

 

ほぼ同時。

 

東明丸。

 

右へ流される。

 

海照丸。

 

左へ流される。

 

偶然。

 

その間。

 

犬島。

 

結果。

 

挟圧。

 

調査官。

 

資料。

 

見る。

 

「犬島」

 

「はい」

 

「なぜ」

 

少し間。

 

「毎回こんな位置にいるんだ」

 

犬島。

 

「護衛位置です」

 

「そうだった」

 

---

 

十五 犬島公式SNS・第一報

 

事故後。

 

犬島。

 

避泊港。

 

医療確認。

 

応急修理。

 

終了。

 

端末。

 

開く。

 

軍令部。

 

何も言わない。

 

本人。

 

書く。

 

«今日9時38分ごろ、輸送船団護衛中に台風の風と波で大型貨物船2隻が流され、犬島が左右から挟まれました。

 

両方とも意図的に寄ってきたものではありません。

 

犬島も指定された護衛位置にいました。

 

人的被害はありません。

 

機関と舵は使えます。

 

中央部が左右から少し凹みました。

 

修理します。

 

詳しい原因は調査中です。»

 

投稿。

 

三十秒。

 

返信。

 

«「左右から?」»

 

«「二隻?」»

 

«「少し凹みましたで済ませるな」»

 

«「犬島サンドイッチになってる」»

 

«「笑っちゃ駄目なんだけど状況がすごい」»

 

«「護衛艦が護衛対象に挟まれることある?」»

 

犬島。

 

最後。

 

見る。

 

「あります」

 

提督。

 

「今回できたな」

 

犬島。

 

「一回で十分です」

 

---

 

十六 写真

 

軍令部。

 

損傷写真。

 

公開許可。

 

犬島。

 

左右。

 

それぞれ。

 

凹んだ中央部。

 

二枚。

 

投稿。

 

«左です。»

 

写真。

 

次。

 

«右です。»

 

写真。

 

そして。

 

三つ目。

 

«両方です。

 

玉野で造ってもらったところなので、ちゃんと直します。»

 

SNS。

 

反応。

 

一気に増える。

 

«「本当に両面凹んでる」»

 

«「『左です』『右です』が淡々としすぎ」»

 

«「玉野部分だったのか」»

 

«「犬島の中央部頑丈すぎない?」»

 

«「貨物船2隻に挟まれてこれで済んだのすごい」»

 

一人。

 

«「犬島、物理的に圧縮されたのに投稿が平常運転。」»

 

犬島。

 

「圧縮って言わんでください」

 

---

 

十七 誤情報より先に本人が出す

 

今回。

 

妙な誤情報。

 

ほとんど。

 

広がらなかった。

 

理由。

 

犬島本人が。

 

事故から。

 

かなり早い段階で。

 

書いたから。

 

誰か。

 

«「犬島が大型貨物船の間に無理に入って事故?」»

 

返信。

 

すぐ。

 

«「本人が指定護衛位置って書いてる」»

 

«「両貨物船が台風で流されたって」»

 

«「調査待て」»

 

別。

 

«「また犬島の操艦ミスじゃ?」»

 

返信。

 

«「機関も舵も正常、護衛位置も正常」»

 

«「犬島公式読め」»

 

軍令部広報部。

 

この様子を見る。

 

広報官。

 

「仕事が」

 

参謀。

 

「減りましたね」

 

総長。

 

「本人にSNSを持たせて正解だったな」

 

---

 

十八 調査結果投稿

 

数日後。

 

犬島。

 

正式結果。

 

受領。

 

投稿。

 

«台風中の貨物船2隻との接触について調査結果が出ました。

 

東明丸、海照丸、犬島の3隻とも操船上の過失なしです。

 

強い横風と波、海流が重なって2隻が犬島側へ流されたことが原因でした。

 

東明丸さんも海照丸さんも、接触前から回避操作をしています。

 

犬島も前へ抜けようとしましたが間に合いませんでした。

 

誰かがわざと挟んだ事故ではありません。

 

修理は順調です。»

 

返信。

 

«「『わざと挟んだ事故ではありません』を書く必要がある犬島公式」»

 

«「SNS対策として必要なんだろうな」»

 

«「3隻とも過失なしであの形になるのすごい」»

 

«「台風怖い」»

 

犬島。

 

最後。

 

「これです」

 

提督。

 

「何が」

 

「台風怖い」

 

「はい」

 

「今回は」

 

少し間。

 

「ほんまにそれだけです」

 

---

 

十九 東明丸から

 

犬島。

 

修理中。

 

東明丸。

 

船長。

 

差し入れ。

 

大きな箱。

 

犬島。

 

開く。

 

果物。

 

犬島。

 

「白桃じゃないです」

 

提督。

 

「そこか」

 

ミカン。

 

リンゴ。

 

梨。

 

いろいろ。

 

手紙。

 

«犬島へ。

 

あの時、間にいたのが犬島で助かったとは言いにくい。

本当にすまなかった。

ただ、沈まずにいてくれてありがとう。»

 

犬島。

 

読む。

 

少し。

 

黙る。

 

そして。

 

SNS。

 

写真。

 

果物。

 

投稿。

 

«東明丸さんから果物をもらいました。

 

事故は東明丸さんのせいではないので、あまり謝らなくていいです。

 

梨がおいしかったです。»

 

返信。

 

«「事故報告アカウントから急に梨」»

 

«「こういうのでいい」»

 

«「犬島、ちゃんと食べて」»

 

---

 

二十 海照丸から

 

翌日。

 

海照丸。

 

差し入れ。

 

工具。

 

新品。

 

犬島。

 

目。

 

少し。

 

輝く。

 

提督。

 

「果物より反応が大きいな」

 

犬島。

 

「新しい工具です」

 

投稿。

 

«海照丸さんから工具をもらいました。

 

かなり使いやすいです。

 

ありがとうございます。

 

でも事故のお詫びはもう大丈夫です。»

 

SNS。

 

«「犬島に工具は正解」»

 

«「めちゃくちゃ嬉しそう」»

 

«「事故の相手と普通に仲良くなってる」»

 

---

 

二十一 修理完了

 

二十九日後。

 

犬島。

 

中央部。

 

修理。

 

完了。

 

左舷。

 

外板。

 

正常。

 

右舷。

 

正常。

 

フレーム。

 

交換。

 

通風筒。

 

新規。

 

救命艇架台。

 

修理。

 

中央十二糎砲。

 

旋回。

 

正常。

 

犬島。

 

写真。

 

一枚。

 

真正面ではなく。

 

中央部。

 

側面。

 

投稿。

 

«直りました。

 

左右とも元に戻りました。

 

中央十二糎砲も動きます。

 

玉野のところも大丈夫です。

 

また護衛に戻ります。»

 

返信。

 

大量。

 

«「おかえり」»

 

«「直ってよかった」»

 

«「次は挟まれないで」»

 

«「左右確認大事」»

 

犬島。

 

最後。

 

見る。

 

少し。

 

むっとする。

 

「左右確認は」

 

「してました」

 

---

 

二十二 良かったもの

 

復帰。

 

最初の護衛任務。

 

天候。

 

晴れ。

 

風。

 

弱い。

 

波。

 

穏やか。

 

大型貨物船。

 

左右。

 

なし。

 

輸送船。

 

前。

 

二隻。

 

犬島。

 

普通に。

 

護衛。

 

夕方。

 

帰投。

 

夕焼け。

 

写真。

 

犬島。

 

投稿。

 

«今日は風が弱かったです。

 

船も全部、ちゃんと間隔を取って航れました。

 

夕方の海がきれいでした。

 

こういう護衛が好きです。»

 

ネット。

 

«「事故なし投稿きた」»

 

«「今日は挟まれてない」»

 

«「普通が一番」»

 

犬島。

 

端末。

 

閉じる。

 

「はい」

 

提督。

 

「何が」

 

犬島。

 

海を見る。

 

「普通が一番です」

 

そして。

 

いつもの。

 

深緑色のスカーフを整える。

 

あの日。

 

左右から。

 

大型貨物船に。

 

挟まれた。

 

中央部は。

 

少し潰れた。

 

それでも。

 

沈まなかった。

 

誰かが悪かったわけでもなかった。

 

直した。

 

戻った。

 

そして。

 

犬島公式SNSには。

 

事故写真より。

 

その日の。

 

穏やかな夕焼けの写真の方が。

 

少しだけ。

 

多く。

 

「いいね」

 

が付いていた。

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