海防艦 犬島   作:重装甲空母信濃

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地殻変動で水深が海図よりも浅くなっており座礁した事故。
今後も犬島公式SNSに投稿した反応は確実に入れて。
単語単語に分けることを減らして


犬島地殻変動による座礁事故

海防艦・犬島

 

――海図より浅かった海――

 

沖ノ瀬航路・海底隆起座礁事故

 

犬島が座礁した。

 

その報告が軍令部へ届いた時、最初に確認されたのは操艦ではなかった。

 

「海図は最新だったのか」

 

答えは、最新。

 

「指定航路から外れたのか」

 

外れていない。

 

「潮位計算は」

 

正常。

 

「見張りは」

 

正常。

 

「測深は」

 

航路基準内。

 

それでも犬島は、海底に乗り上げていた。

 

後になって分かった原因は、操艦でも海図の読み違いでもなかった。

 

海図が作られた後に、海底そのものが持ち上がっていた。

 

---

 

一 沖ノ瀬航路

 

午前十時四十六分。

 

犬島は小型輸送船三隻を護衛し、沖ノ瀬航路を北上していた。

 

天候は薄曇り。視程約八海里。風は西北西から毎秒五メートルほどで、波も一メートルに満たない。

 

荒れてはいない。

 

機関も正常。

 

舵も正常。

 

通信も正常。

 

使っていた海図も、二か月前に改訂された最新版だった。

 

航路中央部の海図水深は八・七メートル。

 

犬島が通過するには十分な余裕がある。

 

犬島は艦橋で海図と前方を交互に見ながら、小さく確認した。

 

「航路中央、よし。潮位も問題なしです」

 

輸送船三隻は犬島の後方を縦列で航行している。

 

先頭輸送船との距離は約六百メートル。

 

犬島は速力十二ノット。

 

何もおかしなところはなかった。

 

---

 

二 最初の違和感

 

午前十時五十三分。

 

犬島が少しだけ眉をひそめた。

 

「……何でしょう」

 

船体の下から、ごく微かな振動。

 

推進器ではない。

 

機関でもない。

 

舵でもない。

 

艦底。

 

犬島は速力を十一ノットへ落とした。

 

後方輸送船へも連絡する。

 

「犬島です。少し減速します。後続も間隔を広げてください」

 

『了解』

 

犬島は測深値を見る。

 

まだ異常表示は出ていない。

 

しかし、感覚としては妙だった。

 

「海底、近いような……」

 

次の瞬間。

 

艦首下部から。

 

ごりっ。

 

鈍い衝撃。

 

犬島の身体が前へ揺れる。

 

「っ!」

 

直後、もう一度。

 

今度は長い。

 

ごごごごっ。

 

船体下部を何か硬いものが擦る感覚。

 

犬島は即座に叫んだ。

 

「両舷機関停止!」

 

機関停止。

 

だが、十二ノット近い前進慣性は残っている。

 

犬島の艦首がわずかに持ち上がり、そのまま速度を失った。

 

午前十時五十三分二十八秒。

 

海防艦犬島。

 

停止。

 

犬島は数秒間、自分の状態を確認した。

 

そして。

 

かなり嫌そうな顔で言った。

 

「……これ、座礁しました」

 

---

 

三 後続船を止める

 

自分の損傷確認より先に、犬島は後方を見る。

 

輸送船三隻。

 

まだこちらへ来ている。

 

「全船停止!」

 

すぐ無線。

 

「犬島が座礁しました! この航路、そのまま来んでください!」

 

先頭輸送船。

 

『座礁!? 海図では――』

 

「うちもそう思っとりました!」

 

輸送船団。

 

全船減速。

 

停止。

 

犬島から約五百メートル後方で、最初の輸送船が止まる。

 

結果として、座礁したのは犬島だけだった。

 

提督から通信。

 

『犬島、状況』

 

「艦首から中央寄りまで海底に触れとる感じがあります」

 

『浸水』

 

犬島は各区画を確認する。

 

「前部二か所で少し。でも、増えてません」

 

『機関』

 

「正常です」

 

『推進軸』

 

「たぶん大丈夫です」

 

『海図は』

 

犬島。

 

少しだけ声が強くなる。

 

「最新版です」

 

『航路』

 

「中央です」

 

『分かっている。責めているわけではない』

 

犬島は少し黙った。

 

「……はい」

 

それから、かなり困った声で付け加える。

 

「提督」

 

『何だ』

 

「海図より海が浅いです」

 

---

 

四 海図八・七メートル、実測四・四メートル

 

最寄りの水路測量艇が到着。

 

犬島周辺。

 

ソナー測深。

 

最初の結果。

 

測量員。

 

「……おかしい」

 

犬島。

 

「何がですか」

 

「犬島の真下、四・五」

 

「四・五?」

 

「少し前は四・四」

 

犬島。

 

海図を見る。

 

「八・七って書いとります」

 

測量員。

 

「書いてある」

 

再測定。

 

結果。

 

ほぼ同じ。

 

犬島の座礁地点を中心に、幅約百八十メートル、長さ約二百六十メートル。

 

海底が周囲より大きく盛り上がっている。

 

最大。

 

海図記載値との差。

 

約四・三メートル。

 

犬島。

 

しばらく黙る。

 

「……四メートルも?」

 

測量員。

 

「最近何かあったな」

 

その言葉から、本格調査が始まった。

 

---

 

五 犬島公式SNS・第一報

 

事故から約一時間。

 

犬島はまだ座礁したまま。

 

軍令部広報部が動くより先に、犬島本人が公式SNSへ投稿した。

 

«本日10時53分ごろ、輸送船団護衛中に沖ノ瀬航路で座礁しました。

 

使っていた海図は最新版で、犬島は指定航路中央を航行していました。

 

海図では水深8.7mの場所ですが、現在の実測では約4.4〜4.5mしかありません。

 

後続の輸送船3隻は停止しており、座礁していません。けが人もいません。

 

犬島は前部に少し浸水がありますが、増えていません。

 

海底がどうして浅くなったのか調査中です。»

 

投稿。

 

一分もしないうちに反応が増える。

 

«「海図より4m浅いって何?」»

 

«「それ避けようがなくない?」»

 

«「犬島また事故だけど今回は海の方が変わってる」»

 

«「最新版の海図で指定航路中央ならどうしろと」»

 

«「後続止めたの早い」»

 

そして。

 

かなり拡散された返信。

 

«「犬島、ついに海底の方から事故を起こしに来たのか」»

 

犬島。

 

それを見る。

 

「海底が来たわけじゃないです」

 

提督。

 

『今回は犬島が海底へ行ったな』

 

「提督まで言わんでください」

 

---

 

六 地殻変動

 

原因が見え始めたのは、その日の夕方だった。

 

事故海域。

 

過去十日間。

 

周辺観測所。

 

小規模な群発地震を記録。

 

最大震度は小さく、陸上ではほとんど問題になっていなかった。

 

しかし。

 

海底測地データ。

 

事故地点の地下。

 

断層。

 

ゆっくりとした変位。

 

さらに海底地形調査。

 

局所的な海底隆起。

 

最大約四・二メートル。

 

地震のような一度の大きな変動ではなく、数日間に段階的に進行。

 

海上からは見えない。

 

航路標識にも変化なし。

 

潮流にも大きな異常なし。

 

そのため、誰も航路水深がそこまで変わっているとは考えていなかった。

 

犬島が使った海図は、発行時点では正しかった。

 

問題は。

 

発行後に海底が変わったこと。

 

---

 

七 離礁

 

犬島を無理に後進させることはしなかった。

 

艦底。

 

どの程度岩盤へ載っているか不明。

 

推進器を使えば。

 

損傷拡大。

 

可能性あり。

 

そこで。

 

燃料。

 

一部移送。

 

前部重量。

 

軽減。

 

満潮。

 

待機。

 

タグボート。

 

二隻。

 

左右後方。

 

犬島自身。

 

機関は使わず。

 

曳航力だけ。

 

午後七時十九分。

 

満潮。

 

タグ。

 

ゆっくり後進。

 

犬島。

 

少しずつ。

 

動く。

 

艦底。

 

ごり。

 

短い音。

 

犬島が顔をしかめる。

 

「もう少しです」

 

さらに。

 

数メートル。

 

その瞬間。

 

船体が。

 

わずかに沈む。

 

浮力。

 

戻る。

 

犬島。

 

「浮きました!」

 

離礁成功。

 

周囲。

 

拍手ではなく。

 

まず安堵。

 

犬島は。

 

自分の艦底を確認できないので。

 

少し不安そう。

 

「下、どれくらい削れとりますか」

 

タグ船長。

 

『ドック行ってからだな』

 

犬島。

 

「嫌な答えです」

 

---

 

八 損傷

 

翌日。

 

ドック。

 

艦底確認。

 

損傷。

 

艦首底部。

 

擦過。

 

約十六メートル。

 

外板。

 

複数箇所。

 

浅い変形。

 

一部。

 

最大約十四センチ。

 

前部二重底。

 

局部座屈。

 

前部小区画。

 

二か所。

 

軽微浸水。

 

第一主砲。

 

問題なし。

 

中央十二糎砲。

 

問題なし。

 

機関。

 

正常。

 

推進軸。

 

正常。

 

舵。

 

正常。

 

船体中央。

 

大きな構造損傷なし。

 

修理期間。

 

十四日。

 

工員。

 

「思ったより軽い」

 

犬島。

 

「大したことないですね」

 

工員。

 

「四メートル浅くなった海底に十二ノット近くで乗って十四日修理なら、まあな」

 

犬島。

 

少し考える。

 

「海底も」

 

「柔らかいところが多かったんですかね」

 

「岩もあった」

 

「……じゃあ」

 

犬島。

 

艦底を見る。

 

「頑張りました」

 

---

 

九 事故調査結果

 

最終調査。

 

犬島。

 

航路。

 

指定中央線から最大偏差十一メートル。

 

許容範囲。

 

速力。

 

規定内。

 

使用海図。

 

最新版。

 

水路通報。

 

確認済。

 

潮位。

 

適切に補正。

 

見張り。

 

異常なし。

 

測深装置。

 

故障なし。

 

ただし、浅所発見時にはすでに停止距離を下回っていた。

 

犬島側に。

 

予見可能性。

 

ほぼなし。

 

結論。

 

«海防艦犬島に操艦上の過失は認められない。»

 

主原因。

 

«事故海域直下の地殻変動による局所的海底隆起。»

 

また。

 

犬島が即座に後続船を停止させたことで。

 

輸送船団側の座礁。

 

ゼロ。

 

調査官。

 

「犬島」

 

「はい」

 

「今回は、本当に海図が悪かったわけでもない」

 

「はい」

 

「水路部も悪くない」

 

「はい」

 

「犬島も悪くない」

 

「はい」

 

少し間。

 

「海底が動いた」

 

犬島。

 

「海底に過失って付けられます?」

 

調査官。

 

「付けない」

 

「ですよね」

 

---

 

十 犬島公式SNS・調査結果

 

犬島。

 

正式結果受領後。

 

投稿。

 

«沖ノ瀬航路の座礁事故について調査結果が出ました。

 

事故地点の海底が、最近の地殻変動で最大約4.2m隆起していました。

 

犬島が使った海図は発行時点では正しく、航路・速力・潮位計算にも問題はありませんでした。

 

犬島側の過失なしという結果です。

 

海図が間違っていたのではなく、その後に海底が変わったそうです。

 

後続の輸送船が座礁しなかったので、そこは良かったです。

 

犬島は14日ほど修理します。»

 

反応。

 

«「海図じゃなくて地形が更新されたの強すぎる」»

 

«「そんな事故あるのか」»

 

«「犬島、地殻変動まで事故原因に追加された」»

 

«「これは本人にどうしようもない」»

 

«「後続船をすぐ止めたの偉い」»

 

そして。

 

また。

 

よく伸びた投稿。

 

«「犬島が正しい航路を走っていたら、正しい航路の方が変わっていた。」»

 

犬島。

 

「これ」

 

提督。

 

「何だ」

 

「かなり正しいです」

 

少し間。

 

「嫌ですけど」

 

---

 

十一 海図改訂

 

事故海域。

 

即時。

 

航行禁止。

 

水路測量。

 

全面実施。

 

新しい浅所。

 

確認。

 

航路。

 

約四百メートル。

 

東へ移設。

 

新海図。

 

発行。

 

事故地点。

 

旧。

 

八・七メートル。

 

新。

 

四・四メートル。

 

犬島。

 

新旧海図。

 

並べて見る。

 

「ほんまに変わっとります」

 

水路部職員。

 

「海は同じに見えるけどな」

 

犬島。

 

窓から。

 

水面を見る。

 

普通の海。

 

何も。

 

盛り上がって見えない。

 

「下だけ変わるの」

 

「困りますね」

 

「そういうこともある」

 

犬島。

 

「次から」

 

「どうするんですか」

 

職員。

 

「地震活動があった海域は」

 

「臨時測量を早める」

 

犬島。

 

「それがええです」

 

---

 

十二 妙なSNS投稿

 

当然。

 

一部。

 

こんな投稿も出た。

 

«「犬島が海底を隆起させた可能性は?」»

 

ネット。

 

今回は。

 

軍令部も。

 

犬島も。

 

何も言わなかった。

 

一般ユーザーだけで。

 

処理された。

 

«「もうやめろ」»

 

«「犬島にプレートテクトニクス操作能力を追加するな」»

 

«「海防艦に地殻変動起こさせるな」»

 

«「犬島万能説でも限度がある」»

 

«「本人が座礁して一番困ってるだろ」»

 

犬島。

 

後から見る。

 

「反論せんでも」

 

「みんな言ってくれますね」

 

提督。

 

「ああ」

 

犬島。

 

「SNS作ってよかったです」

 

「今回は投稿しているぞ」

 

「事故の説明だけです」

 

少し間。

 

「地殻は説明できません」

 

---

 

十三 修理完了

 

十四日後。

 

艦底。

 

修理。

 

完了。

 

外板。

 

交換。

 

二重底。

 

修正。

 

浸水区画。

 

再検査。

 

推進器。

 

軸。

 

舵。

 

問題なし。

 

犬島。

 

ドックから。

 

出る。

 

その日。

 

公式SNS。

 

写真。

 

修理された艦首付近。

 

投稿。

 

«座礁したところ、直りました。

 

艦底も二重底も問題ありません。

 

新しい海図も受け取りました。

 

今度は水深4.4mのところを通らない航路になっています。

 

また護衛に戻ります。»

 

返信。

 

«「おかえり」»

 

«「今度は海底動かないで」»

 

«「犬島より海底に言ってくれ」»

 

«「新しい海図大事」»

 

«「直ってよかった」»

 

犬島。

 

最後。

 

少し笑う。

 

「『海底動かないで』は」

 

「うちもそう思います」

 

---

 

十四 事故地点の横を通る

 

数週間後。

 

新航路。

 

犬島。

 

輸送船団。

 

護衛。

 

旧事故地点。

 

西側。

 

通過。

 

犬島。

 

海図。

 

確認。

 

新航路。

 

水深。

 

十分。

 

ソナー。

 

正常。

 

犬島。

 

少し遠く。

 

旧航路を見る。

 

水面は。

 

何も変わらない。

 

犬島。

 

「前は」

 

「そこ通っとったんですよね」

 

提督。

 

『ああ』

 

「今見ると」

 

「何も分かりません」

 

『海底だからな』

 

犬島。

 

「怖いですね」

 

少し間。

 

「でも」

 

後ろ。

 

輸送船。

 

三隻。

 

全部。

 

ついてきている。

 

「調べて」

 

「新しい航路作って」

 

「今度は通れます」

 

提督。

 

『そうだな』

 

---

 

十五 その日の「良かったもの」

 

帰投。

 

夕方。

 

犬島。

 

SNS。

 

事故報告ではない。

 

写真。

 

新航路から見えた。

 

夕暮れの海。

 

投稿。

 

«今日は前に座礁した場所の近くを、新しい航路で通りました。

 

何も起きませんでした。

 

帰りの海がきれいでした。

 

海底は見えませんけど、海の上は良かったです。»

 

反応。

 

事故投稿より。

 

多かった。

 

«「何も起きませんでしたが一番いい」»

 

«「無事帰投お疲れさま」»

 

«「夕焼けきれい」»

 

«「普通の日投稿好き」»

 

犬島。

 

それを見る。

 

少し。

 

嬉しそうに。

 

端末を閉じる。

 

海図が。

 

正しくても。

 

海底が変わることはある。

 

見張っていても。

 

見えないものはある。

 

犬島は。

 

その事故で。

 

それを知った。

 

だから。

 

調べる。

 

測る。

 

海図を直す。

 

そして。

 

もう一度。

 

同じ海へ出る。

 

「壊れたら、また直しゃあえ」

 

船も。

 

海図も。

 

航路も。

 

必要なら。

 

直して使えばいい。

 

犬島は。

 

そう考えることにした。

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