海防艦 犬島   作:重装甲空母信濃

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潜水艦の艦娘(ランダムで1隻)が非常事態により緊急浮上した所に犬島が存在し艦底部に衝突。潜水艦の艦体は艦種2mの凹み。
犬島の艦体は艦中央部に突っ込まれたことで破断、艦尾側の艦体を喪失(事故後引き上げ回収)。
事故後の写真を犬島公式SNSに投稿する小説。(画像生成の指示ではない)


犬島潜水艦伊58との接触艦体破断事故

海防艦・犬島

 

――下から来ました――

 

潜水艦伊58緊急浮上・犬島船体破断事故

 

犬島はこれまで、ずいぶん妙な方向から事故に巻き込まれてきた。

 

横から貨物船に押されたことがある。

 

左右から大型貨物船に挟まれたこともある。

 

上から味方の艦上爆撃機が落ちてきたこともある。

 

海底が持ち上がり、正しい航路を航っていたのに座礁したことまである。

 

それでも、今回だけは事故が始まった瞬間、犬島自身が何が起きたのか理解できなかった。

 

なぜなら。

 

真下から潜水艦が出てきたからだった。

 

---

 

一 護衛任務中

 

午前十一時二十七分。

 

犬島は輸送船二隻を護衛して沖合を東進していた。

 

天候は晴れ。波高約一・二メートル。視程も良好。

 

犬島は護衛位置として船団左後方約七百メートルを十一ノットで航行していた。

 

海図上に浅瀬はない。

 

他の水上艦もいない。

 

犬島は艦橋から前方の輸送船を見ながら、いつものように周囲を確認していた。

 

「前よし。右よし。左よし……」

 

そして最後に。

 

「後ろもよし」

 

何もおかしくない。

 

少なくとも、水面上には。

 

---

 

二 その真下

 

犬島の直下約百メートル。

 

潜水艦娘。

 

伊58。

 

伊58もまた、自分の実艦を直接動かしていた。

 

本来なら犬島の船団とは別任務で、さらに深い層を通過する予定だった。

 

ところが午前十一時二十六分。

 

伊58の艦内で異常。

 

後部電池区画に海水が侵入。

 

量そのものはまだ致命的ではない。

 

しかし、電池区画へ海水が達した場合、艦内環境が急速に危険になる可能性がある。

 

同時に一部電気系統が不安定化。

 

伊58は通常の浮上手順を続ける余裕がないと判断した。

 

「緊急浮上するでち!」

 

メインタンク。

 

急速排水。

 

艦首。

 

上。

 

伊58はかなり強い浮上角で海面へ向かった。

 

通信で水上へ警告を送ろうとする。

 

しかし異常の影響で、送信設備も一時的に不調。

 

犬島へは届かなかった。

 

そして伊58のソナーも、急速浮上時の自艦雑音で水上目標の位置を十分に把握できなかった。

 

---

 

三 犬島が最初に感じたもの

 

犬島。

 

艦橋。

 

「……?」

 

足元。

 

妙な感覚。

 

海底ではない。

 

波でもない。

 

艦底付近へ、急速に何かが近づいているような感覚。

 

「何でしょう」

 

犬島が下を見る。

 

もちろん、水面しか見えない。

 

次の瞬間。

 

艦底中央部。

 

巨大な衝撃。

 

どんっ。

 

犬島の身体が浮き上がるほどの突き上げ。

 

「っ!?」

 

続いて。

 

船体中央。

 

下から。

 

伊58の艦首が突き込む。

 

鋼板が耐える。

 

肋骨が耐える。

 

しかし、衝撃は局所に集中した。

 

犬島が叫ぶ。

 

「下!?」

 

その言葉の直後。

 

船体内部。

 

低い音。

 

ばきん。

 

犬島の表情が変わった。

 

「……あ」

 

船体中央部。

 

構造材。

 

破断。

 

---

 

四 船体が二つになる

 

伊58はそのまま海面へ浮上しようとしていた。

 

その艦首が犬島の艦底へ当たり、中央部を下から持ち上げる形になった。

 

犬島は全長七十八・九メートル。

 

伊58はその中央付近へ直角に近い形で突き上げた。

 

瞬間的に犬島の中央部が持ち上がる。

 

艦首側と艦尾側。

 

逆方向へ大きな曲げ荷重。

 

犬島自身にも、その異常な感覚が伝わる。

 

「待って……」

 

船体。

 

中央部。

 

裂ける。

 

完全に一瞬ではなかった。

 

数秒。

 

その数秒の間に、犬島は何が起きているのか理解した。

 

「うち」

 

「折れます」

 

そして午前十一時二十八分十四秒。

 

犬島船体。

 

中央後部。

 

破断。

 

艦首側。

 

約四十数メートル。

 

艦橋を含む。

 

犬島本人もそこにいる。

 

艦尾側。

 

約三十メートル余り。

 

機関室後部。

 

推進軸。

 

舵。

 

後部甲板。

 

それらが。

 

犬島から切り離された。

 

---

 

五 艦尾が離れる

 

犬島本人は艦橋の手すりを握ったまま、後ろを見た。

 

自分の艦尾。

 

さっきまで繋がっていた。

 

それが。

 

数メートル。

 

十メートル。

 

離れていく。

 

破断面から海水が入り、艦尾側がゆっくり傾く。

 

犬島。

 

声が出ない。

 

伊58は犬島の破断部付近から海面へ飛び出すように浮上した。

 

その艦首。

 

大きく変形。

 

最大。

 

約二メートル。

 

押し込まれるような大きな凹み。

 

しかし耐圧殻主要部は保持。

 

伊58自身も衝撃でしばらく言葉が出ない。

 

「……犬島?」

 

犬島。

 

伊58を見る。

 

次に。

 

自分の艦尾を見る。

 

「五十八さん」

 

「はい……」

 

「うちの後ろ」

 

少し間。

 

「なくなりました」

 

---

 

六 沈む艦尾

 

艦尾側には人間の乗員はいない。

 

その点だけは救助対象が生じない。

 

だが。

 

犬島にとっては。

 

自分の船体だった。

 

艦尾。

 

さらに傾く。

 

海面下へ。

 

犬島はそれを見ている。

 

「……」

 

提督から無線。

 

『犬島! 応答しろ!』

 

犬島。

 

しばらくして。

 

「こちら犬島」

 

『状況!』

 

犬島は答えようとする。

 

しかし、自分でも説明しにくい。

 

「伊58さんが」

 

「下から緊急浮上して」

 

『接触したのか』

 

「はい」

 

少し間。

 

「それで」

 

犬島はもう一度後ろを見る。

 

艦尾の最後の部分。

 

水面から消える。

 

「艦尾側を」

 

「落としました」

 

提督。

 

沈黙。

 

『犬島自身は』

 

「おります」

 

『艦首側は浮いているか』

 

「浮いとります」

 

『浸水』

 

「かなりあります。でも前部隔壁で止められそうです」

 

『分かった。何も無理するな』

 

犬島。

 

「はい」

 

---

 

七 伊58

 

伊58もひどく動揺していた。

 

「犬島、ごめん……ごめんなさい……」

 

犬島。

 

「五十八さん」

 

「でも、私が下から――」

 

「緊急浮上だったんでしょう」

 

「でも……」

 

犬島。

 

少し強く言う。

 

「まず、自分の艦を見てください」

 

伊58。

 

艦首。

 

大きな凹み。

 

通常の流線形が崩れている。

 

外殻。

 

最大約二メートル。

 

押し込まれている。

 

一部ソナー設備。

 

損傷。

 

前部外装。

 

変形。

 

ただし。

 

耐圧殻。

 

主要構造。

 

保持。

 

浸水。

 

制御可能。

 

犬島。

 

「五十八さんも」

 

「大したことないとは言えんです」

 

伊58。

 

「でも犬島は半分……」

 

犬島。

 

「半分ではないです」

 

伊58。

 

犬島の後ろを見る。

 

「……」

 

犬島。

 

少し考える。

 

「かなりなくなりました」

 

---

 

八 犬島前部の曳航

 

犬島は自力航行不能。

 

理由。

 

推進器。

 

二軸とも。

 

艦尾側と一緒に失われた。

 

舵もない。

 

機関の一部も失われている。

 

残った艦首側は隔壁閉鎖。

 

排水。

 

応急浮力確保。

 

救援タグ。

 

二隻。

 

到着。

 

犬島。

 

曳航索。

 

接続。

 

提督。

 

『気分は』

 

「変です」

 

『痛いか』

 

「それもありますけど」

 

犬島。

 

後ろを見る。

 

本来。

 

艦尾がある場所。

 

海。

 

「後ろが」

 

「途中で終わっとる感じです」

 

以前、艦体そのものを失った経験がある犬島にとって、この感覚は嫌なものだった。

 

ただし今回は。

 

全部ではない。

 

艦首がある。

 

艦橋もある。

 

第一主砲もある。

 

中央十二糎砲は大きく損傷したが、船体前半は残っている。

 

犬島自身もいる。

 

「前はあります」

 

犬島は自分に言うように呟いた。

 

「前は残っとります」

 

---

 

九 犬島公式SNS・第一報

 

救援港へ曳航される途中。

 

犬島は端末を開いた。

 

提督。

 

『今投稿するのか』

 

「事故があったら書くことになっとります」

 

『写真は後でもいい』

 

犬島。

 

少し考える。

 

「でも」

 

「見た方が早いと思います」

 

投稿。

 

一枚目。

 

救援タグから撮影された犬島。

 

艦橋と艦首は残っている。

 

だが、中央後部から先。

 

艦尾がない。

 

破断面は応急防水材で覆われ始めている。

 

文章。

 

«本日11時28分ごろ、輸送船団護衛中に潜水艦伊58さんが非常事態で緊急浮上し、犬島の艦底中央部へ接触しました。

 

衝撃で犬島の船体が中央後部で破断し、艦尾側を失いました。

 

写真の状態です。

 

犬島本人はおります。

 

艦首側も浮いています。

 

人的被害はありません。

 

伊58さんも浮上しており、現在は安全を確保しています。

 

事故原因は調査中です。»

 

SNS。

 

数秒。

 

反応。

 

そして。

 

一気に増える。

 

«「写真見て声出た」»

 

«「艦尾どこ!?」»

 

«「『写真の状態です』が淡々としすぎ」»

 

«「これで本人はおりますって投稿できるのすごい」»

 

«「伊58も無事なのか、よかった」»

 

«「犬島、今回は本当に大事故だぞ」»

 

一人。

 

«「犬島、上からも下からも来るようになったのか」»

 

犬島。

 

それを見る。

 

今回は。

 

返信しなかった。

 

---

 

十 写真に写っていないもの

 

投稿から五分。

 

質問。

 

«「艦尾はどこ?」»

 

犬島。

 

返信。

 

«沈みました。位置は確認できています。後で回収する予定です。»

 

別。

 

«「推進器と舵も?」»

 

«艦尾側にあります。今の犬島にはありません。»

 

«「自力航行できる?」»

 

«できません。タグボートさんに曳いてもらっています。»

 

«「また直せる?」»

 

この質問。

 

犬島は少し長く考えた。

 

そして。

 

«直します。»

 

たった四文字。

 

その返信が。

 

かなり広がった。

 

---

 

十一 伊58の損傷写真

 

伊58側も。

 

事故後。

 

ドック入り。

 

犬島公式SNS。

 

翌日。

 

伊58本人の許可を得て。

 

写真を一枚。

 

投稿。

 

横から見た伊58艦首。

 

先端からやや下側にかけて。

 

大きく。

 

押し潰されたような変形。

 

犬島。

 

投稿。

 

«伊58さんの艦首です。

 

最大で約2mほど凹んでいます。

 

外側は大きく変形していますが、耐圧殻の主要部は持っています。

 

伊58さん本人も無事です。

 

「犬島を壊した」とかなり気にしていますが、緊急浮上が必要な状況だったので、調査が終わるまでは誰が悪いとは書きません。»

 

反応。

 

«「2m!?」»

 

«「潜水艦側も相当な衝撃だったんだな」»

 

«「これが犬島の艦底に入ったのか」»

 

«「そりゃ海防艦側折れる」»

 

«「犬島が伊58を責めないの、いつも通りだけど今回は重い」»

 

---

 

十二 事故調査

 

調査結果。

 

伊58。

 

後部電池区画。

 

配管接続部の予期しにくい破損。

 

海水流入。

 

電池区画への波及危険。

 

一部電気系。

 

障害。

 

通常浮上を継続すれば艦内危険性が大幅に増す状況。

 

緊急浮上判断。

 

適切。

 

ただし。

 

浮上警告通信。

 

同時に発生した電気系障害で送信不能。

 

ソナー。

 

急速浮上時の気泡・機器雑音により水上犬島を十分探知できず。

 

一方。

 

犬島。

 

指定護衛位置。

 

航路。

 

速力。

 

見張り。

 

問題なし。

 

潜水艦の存在。

 

事前通知なし。

 

海面下から急速浮上してくる伊58を、接触前に発見する手段なし。

 

犬島。

 

過失なし。

 

伊58。

 

緊急浮上判断に過失なし。

 

整備。

 

規定通り。

 

配管破損。

 

潜在的不具合。

 

結論。

 

双方に操艦上の過失なし。

 

主原因。

 

伊58の潜航中に発生した予見困難な浸水事故。

 

副次要因。

 

通信喪失。

 

緊急浮上時の水上探知能力低下。

 

そして。

 

単純に。

 

その真上に。

 

犬島がいた。

 

---

 

十三 犬島公式SNS・調査結果

 

«伊58さんとの接触事故について調査結果が出ました。

 

伊58さんは潜航中に後部区画で浸水が発生し、そのまま潜航を続ける方が危険だったため緊急浮上しました。

 

同時に通信設備にも障害が出ており、水上へ警告を送れませんでした。

 

犬島は指定された護衛位置を正常に航行していました。

 

犬島側、伊58さん側とも操艦上の過失なしという結果です。

 

簡単に言うと、伊58さんが上がらんと危ない時に、たまたまその真上にうちがおりました。

 

あの状況なら伊58さんは浮上するしかなかったので、責めんでください。»

 

SNS。

 

«「最後の一文大事」»

 

«「犬島も避けようがないし58も上がるしかない」»

 

«「真上に犬島がいたのが事故原因として強すぎる」»

 

«「事故報告なのに『運が悪かった』以外の言葉がない」»

 

そして。

 

«「犬島、海面だけじゃなく真下まで警戒範囲に入れないといけなくなったのか」»

 

犬島。

 

返信。

 

«そこまで見えません。»

 

---

 

十四 艦尾発見

 

犬島が最も気にしていたもの。

 

切断された艦尾側。

 

事故海域。

 

水深。

 

約九十二メートル。

 

海底。

 

ソナー。

 

確認。

 

犬島の艦尾。

 

左舷側を下にして着底。

 

全長。

 

約三十一メートル。

 

後部船体。

 

推進軸。

 

左右推進器。

 

舵。

 

後部甲板構造。

 

いずれも確認。

 

犬島。

 

報告を受ける。

 

最初の質問。

 

「引き上げられます?」

 

答え。

 

可能。

 

ただし。

 

船体破断部。

 

脆弱。

 

そのまま一点吊り。

 

不可。

 

複数点支持。

 

海中補強。

 

浮力体。

 

使用。

 

犬島。

 

「お願いします」

 

提督。

 

『新しく造った方が早い部分もある』

 

犬島。

 

「分かっとります」

 

『それでも回収するか』

 

「はい」

 

犬島。

 

迷わない。

 

「うちの艦尾ですから」

 

---

 

十五 引き上げ

 

事故から十二日後。

 

海上クレーン船。

 

作業開始。

 

犬島本人。

 

修理岸壁。

 

その場には行かなかった。

 

代わりに。

 

中継映像。

 

見る。

 

海面。

 

ワイヤー。

 

張る。

 

最初。

 

何もない。

 

やがて。

 

海面。

 

泡。

 

そして。

 

暗い船体。

 

姿。

 

現れる。

 

犬島。

 

画面。

 

じっと見る。

 

推進器。

 

舵。

 

変形した後部外板。

 

泥。

 

海藻。

 

でも。

 

犬島には分かる。

 

「うちです」

 

提督。

 

「艦尾だ」

 

「はい」

 

海面から。

 

完全に吊り上げられる。

 

犬島。

 

小さく。

 

息を吐く。

 

「帰ってきました」

 

---

 

十六 犬島公式SNS・艦尾回収写真

 

その日の午後。

 

犬島公式SNS。

 

写真。

 

三枚。

 

1枚目

 

海上クレーンに吊り上げられている艦尾。

 

海水が滴っている。

 

2枚目

 

作業台船へ載せられた艦尾。

 

左右の推進器と舵が見える。

 

3枚目

 

修理中の犬島艦首側と、その横へ運ばれてきた旧艦尾側。

 

完全に切り離された二つの船体が、一枚に収まっている。

 

投稿文。

 

«事故で沈んだ艦尾側を今日引き上げてもらいました。

 

約12日ぶりです。

 

推進器も舵も残っています。

 

破断したところはかなり傷んでいますが、回収できました。

 

写真3枚目の左が今の犬島、右が引き上げた艦尾です。

 

離れて見るとほんまに二つになっとります。

 

でも、これでなくしたままではなくなりました。»

 

投稿。

 

反応。

 

非常に多い。

 

«「3枚目すごいな……」»

 

«「犬島が物理的に前後に分かれて並んでる」»

 

«「推進器と舵ちゃんと回収できたの良かった」»

 

«「『なくしたままではなくなりました』が犬島らしい」»

 

«「修理に再利用するの?」»

 

その質問。

 

犬島。

 

返信。

 

«使える部品は調べてもらいます。使えなくても残せるものは残したいです。»

 

---

 

十七 ちょっとだけいつものSNSに戻る

 

そして。

 

当然。

 

一件。

 

«「事故直後の犬島、艦尾なくて全長何mだったの?」»

 

犬島。

 

«そういう測り方してません。»

 

別。

 

«「前半分だけでも犬島?」»

 

«犬島です。»

 

«「艦尾だけも犬島?」»

 

犬島。

 

少し時間。

 

«うちの艦尾です。»

 

«「じゃあ3枚目は犬島が2隻?」»

 

犬島。

 

かなり長く。

 

返信なし。

 

最後。

 

«一隻です。分かれてるだけです。»

 

ネット。

 

«「その文章を公式艦娘アカウントで見るとは思わなかった」»

 

«「分かれてるだけです、が強すぎる」»

 

犬島自身も。

 

後で読み返して。

 

「変な文章ですね」

 

提督。

 

「事実だ」

 

「そうなんですけど」

 

---

 

十八 伊58が見る

 

伊58。

 

ドック。

 

犬島の艦尾回収投稿。

 

見る。

 

しばらく。

 

何も書かない。

 

そして。

 

犬島へ直接連絡。

 

「犬島」

 

「はい」

 

「艦尾、戻ってきたんだね」

 

「はい」

 

「よかった」

 

犬島。

 

少し間。

 

「五十八さん」

 

「うん」

 

「まだ気にしとります?」

 

伊58。

 

黙る。

 

犬島には分かる。

 

「気にしとりますね」

 

「だって、私の艦首が……」

 

犬島。

 

「調査結果」

 

「見ました?」

 

「見た」

 

「五十八さんは浮上せんかったら危なかった」

 

「うん」

 

「うちは真上におった」

 

「……うん」

 

「どっちも」

 

少し考えて。

 

「位置が悪かったんです」

 

伊58。

 

「でも、犬島の艦が折れた」

 

犬島。

 

「直します」

 

「簡単に言うね」

 

犬島。

 

少しだけ笑う。

 

「簡単ではないです」

 

それから。

 

いつもの言葉。

 

「壊れたら、また直しゃあえ」

 

---

 

十九 修復方針

 

艦尾。

 

調査。

 

破断部。

 

再接合。

 

困難。

 

理由。

 

中央部周辺。

 

塑性変形。

 

大。

 

構造材。

 

多数。

 

損傷。

 

そのため。

 

犬島の修理。

 

方針。

 

新規中央後部区画。

 

建造。

 

艦首側。

 

接合。

 

回収された旧艦尾から。

 

推進器。

 

舵機の一部。

 

軸系部品。

 

後部艤装品。

 

状態確認後。

 

再利用可能なもの。

 

利用。

 

使用困難な部分。

 

保存。

 

犬島。

 

説明を聞く。

 

「全部そのまま戻すんじゃないんですね」

 

工員。

 

「無理に戻すより、新しい構造を入れた方が強い」

 

犬島。

 

「分かりました」

 

少し間。

 

「でも」

 

「使えるものは使ってください」

 

「もちろん」

 

犬島。

 

回収された艦尾を見る。

 

「帰ってきたので」

 

「一緒に直したいです」

 

---

 

二十 SNS最後の写真

 

事故から約二か月。

 

修理中。

 

犬島公式SNS。

 

一枚。

 

新しい中央後部構造。

 

その先。

 

再整備された旧艦尾由来の部品。

 

投稿。

 

«修理途中です。

 

事故で沈んだ艦尾から、使える部品を戻してもらっています。

 

全部が前と同じになるわけではありません。

 

でも、回収したものも一緒に犬島へ戻ります。

 

もう少しです。»

 

返信。

 

«「直ってきた」»

 

«「引き上げた意味ちゃんとあったんだな」»

 

«「新しい部分と昔の部分が一緒になるの犬島らしい」»

 

«「復帰したら伊58と並んで写真撮ってほしい」»

 

その最後。

 

犬島。

 

伊58へ送る。

 

「これ」

 

伊58。

 

「撮る?」

 

犬島。

 

「直ったら」

 

少し間。

 

「並びましょう」

 

伊58。

 

「今度は水面で?」

 

犬島。

 

一瞬。

 

黙る。

 

そして。

 

「お願いします」

 

---

 

二十一 復帰後

 

修理完了。

 

犬島。

 

艦首。

 

中央部。

 

艦尾。

 

一本。

 

再び。

 

全長七十八・九メートル。

 

推進器。

 

二軸。

 

舵。

 

一枚。

 

全部。

 

繋がる。

 

第一岸壁。

 

横。

 

伊58。

 

水上航行状態。

 

二隻。

 

並ぶ。

 

写真。

 

犬島公式SNS。

 

«直りました。

 

伊58さんの艦首も直っています。

 

今日は横に並びました。

 

上下ではありません。»

 

SNS。

 

大反響。

 

«「最後の一文」»

 

«「上下はやめて」»

 

«「二人とも直ってよかった」»

 

«「犬島公式、事故をネタにできるくらい戻ったんだな」»

 

犬島。

 

その中。

 

一つ。

 

«「今度は普通に並べてよかった。」»

 

そこへ。

 

「いいね」。

 

そして犬島は端末を閉じた。

 

前を見て。

 

横を見る。

 

後ろも見る。

 

今度。

 

少しだけ。

 

海面を見る。

 

さらに。

 

足元。

 

「……下は」

 

提督。

 

「見えないぞ」

 

犬島。

 

「ですよね」

 

少し笑う。

 

「じゃあ、五十八さんには」

 

「次は無線で教えてもらいます」

 

伊58。

 

横から。

 

「今度はちゃんと知らせるでち」

 

犬島。

 

「お願いします」

 

二隻は。

 

今度こそ。

 

ぶつからず。

 

同じ海面を。

 

並んで航っていった。

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