貨物列車の情報は犬島公式SNSからの発信
横須賀から呉までの運用
海防艦・犬島
――今回はほんまに貨物列車と関係あります――
横須賀発・呉行き「犬島部品輸送列車」
犬島公式SNSが始まってから、事故以外の投稿も少しずつ増えていた。
夕焼け。白桃。工具。一般公開。
だが、その日の朝に投稿された内容は、過去の犬島を知る人ほど二度見するものだった。
写真には、横須賀の軍港貨物地区に並ぶ数両の貨車。
その上には厳重に固定された長い砲身、分割されたマスト、梱包された機銃類、そして「海防艦犬島 呉鎮守府行」と書かれた輸送札。
犬島公式SNS。
«今日はうちの部品が貨物列車で横須賀から呉まで運ばれます。
交換した前部十二糎砲の旧砲身、旧前部マスト、機銃類などです。
横須賀で検査と保存処置をしてもらった後、呉で保管・整備します。
今回はほんまに犬島と貨物列車が関係あります。
うちは乗ってません。
脱線もさせません。»
投稿から十秒。
SNSがかなり騒がしくなった。
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一 「ついに本物が来た」
最初に多かった反応は、当然これだった。
«「待って、本当に犬島関連の貨物列車だ」»
«「ついに犬島と貨物列車が公式に接続した」»
«「昔の『犬島が貨物列車脱線させた』投稿が妙な形で回収された」»
«「本人が『脱線もさせません』って先回りしてるの好き」»
«「今回は関連なしじゃなくて関連あり!」»
さらに、
«「犬島公式が『今回はほんまに関係あります』と言う日が来るとは」»
という投稿が大きく拡散された。
犬島本人もそれを見ていた。
提督が横から尋ねる。
「感想は?」
犬島は少し複雑そうな顔をした。
「貨物列車と関係するだけで、何でこんなに喜ばれとるんですか」
「過去の経緯だろう」
「うちはあの貨物列車、ほんまに何もしてません」
「皆知っている」
犬島は少し考えてから言った。
「今回は部品だけですからね」
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二 何を運ぶのか
その約三十分後。
犬島公式SNSは、珍しく鉄道貨物の詳細まで投稿した。
«運ぶものについて質問が多いので書きます。
・前部十二糎砲の旧砲身 1本
・旧前部マスト 分割状態
・二十五粍機銃 複数基
・測距・信号関係の旧部品
・旧通風筒、架台などの保存対象部品
全部、今の犬島では使っていない交換済みの部品です。
捨てるものではなく、呉で保管・一部再整備します。
砲弾や弾薬は積んでません。»
添付写真。
長物車。
その中央。
巨大な木製支持台。
そこへ固定された十二糎砲身。
別の貨車には、横倒しにされた前部マスト。
さらに有蓋貨車には小型部品。
SNS。
«「砲身を貨車で見るとでかい」»
«「犬島本人が小さいから余計にサイズ感がおかしい」»
«「マスト単体で列車に乗ってるの不思議」»
«「『弾薬は積んでません』まで書くの犬島公式らしい」»
一人。
«「これ全部犬島の部品ってことは、ある意味犬島が分割されて列車乗ってる?」»
犬島。
珍しく返信。
«そういう言い方はちょっと嫌です。»
投稿者。
«「ごめんなさい」»
犬島。
«大丈夫です。部品はうちのです。»
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三 特別貨物列車
列車は軍需物資専用の臨時貨物扱い。
横須賀の軍港専用側線から出発し、幹線を西へ向かう。
編成は十一両。
先頭。
電気機関車。
続いて、
緩衝用空車。
長物車。
長物車。
低床貨車。
有蓋貨車三両。
資材貨車。
整備用機材車。
緩衝用空車。
後部確認車。
犬島公式SNS。
«今日の列車は11両です。
横須賀から西へ向かって、途中で機関車の交換と運転整理をしながら呉まで来ます。
犬島の砲身とマストが長いので、急な扱いをしない特別貨物です。
到着は明日の予定です。
細かい通過時刻は安全のため載せません。»
これに鉄道好きが猛烈に反応した。
«「犬島公式から貨物列車運用情報が出てくる世界」»
«「犬島、貨物列車詳しくなったな」»
«「昔『貨物列車は長い、荷物を運ぶ、機関車がおる』だった子が11両編成って書いてる」»
その指摘。
犬島。
かなり早く返信。
«今回はうちの部品なので調べました。»
さらに。
«「成長してる」»
犬島。
«貨物列車全般にはまだ詳しくないです。»
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四 横須賀出発
午前十時十二分。
横須賀。
機関車。
ゆっくり。
動き始める。
砲身。
マスト。
機銃。
犬島の旧部品。
西へ。
犬島本人は呉。
当然。
列車を直接見ていない。
しかし横須賀側の担当者から送られてきた写真を、犬島公式SNSへ投稿した。
«横須賀を出ました。
写真は出発前です。
砲身もマストも固定確認済みです。
呉で待っとります。»
SNS。
«「犬島がお迎え側なのいいな」»
«「部品が本人のところへ帰る列車」»
«「横須賀→呉ってかなり走るぞ」»
«「砲身の里帰り列車」»
犬島。
最後だけ返信。
«砲身の故郷はそれぞれ違うと思います。呉へ来るだけです。»
ネット。
«「真面目」»
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五 東海道を西へ
列車が東海道方面へ入ると、沿線で目撃情報が増え始めた。
もちろん正確な通過時刻は公開されていない。
それでも特徴的な積荷なので分かる。
«「さっき変わった貨物列車来た」»
«「これ犬島部品列車?」»
«「長物車に砲身らしきもの載ってる」»
«「軍令部公式じゃなくて犬島公式で運行概要知ったの面白い」»
写真付き投稿も出る。
ただし、撮影可能な公共場所からのものだけ。
犬島公式SNSからも注意。
«沿線で見てくださっている方へ。
駅や線路の立入禁止場所には入らんでください。
列車を追いかけるための無理な運転もしないでください。
普通に見えるところから見てもらえたら十分です。»
反応。
«「本人から撮り鉄注意喚起」»
«「犬島に心配かけるな」»
«「犬島の部品見に行って事故ったら一番洒落にならない」»
犬島。
それには、
«ほんまにそれはやめてください。»
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六 ついに「貨物列車の現在地」を見る犬島
犬島は第一岸壁で、軍令部から提供された運行管理画面を見ていた。
提督。
「今どこだ」
犬島。
画面を見る。
「もうかなり西です」
「分かるようになったな」
「表示がありますから」
「貨物列車に興味が出た?」
犬島。
少し考える。
「自分の砲身が乗っとると思うと」
また画面を見る。
「ちょっと気になります」
「何両か数えたい?」
「今回は十一両って最初から知っとります」
提督。
「以前は途中で分からなくなったな」
犬島。
「覚えとるんですか」
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七 山陽本線
列車。
西進。
山陽方面へ。
ここでネットが一段と騒がしくなった。
犬島と山陽本線。
過去に。
意味不明な誤情報。
「山陽本線の貨物列車を犬島が脱線させた」
があったため。
今回。
本当に。
犬島関連貨物列車が。
山陽本線を走る。
«「例の山陽本線に本物の犬島貨物が来たぞ」»
«「前回:犬島無関係」
「今回:積荷が犬島」»
«「これなら『犬島関連貨物列車』って言っても怒られない?」»
犬島公式。
«今回は大丈夫です。»
さらに、
«「脱線させた?」»
犬島。
«させてません。»
その一言。
十万近い反応。
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八 何事も起きない
列車。
横須賀から。
順調。
速度制限箇所。
慎重。
長物積載。
固定。
異常なし。
車軸。
異常なし。
機関車。
異常なし。
信号。
正常。
天候。
多少の雨。
問題なし。
事故。
なし。
脱線。
なし。
遅延。
小規模。
犬島。
夜。
公式SNS。
«現在、列車は順調です。
固定状態にも異常ありません。
今日はもう遅いので、うちは寝ます。
列車の方は運転担当の方に任せます。
おやすみなさい。»
反応。
«「貨物列車より先に本人が寝た」»
«「まあ本人乗ってないからな」»
«「犬島寝てる間も砲身は西へ進む」»
«「明日起きたら部品近づいてるの面白い」»
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九 翌朝
午前六時四十八分。
犬島公式SNS。
«おはようございます。
起きたら列車がかなり近くまで来とりました。
予定どおりです。»
返信。
«「宅配便みたいに言うな」»
«「犬島の大型配送」»
«「砲身配送中」»
犬島。
«宅配便ではありません。»
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十 呉へ
最終区間。
列車は山陽側の貨物拠点で編成確認を受けた後、呉方面への軍港貨物運転へ入った。
ここからはさらに低速。
マストや砲身を積んだ長物車。
曲線。
分岐。
慎重。
呉鎮守府内。
軍港専用線。
犬島本人。
待っていた。
提督。
「来たぞ」
犬島。
遠く。
機関車。
その後ろ。
貨車。
十一両。
犬島。
じっと見る。
「ほんまに列車で来ました」
「最初からそう言っていただろう」
「分かっとりましたけど」
少し笑う。
「自分の砲身が貨車に乗っとるの、変な感じです」
列車。
ゆっくり。
停止。
輸送。
完了。
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十一 到着投稿
犬島公式SNS。
写真。
一枚目。
呉に到着した貨物列車。
二枚目。
貨車から吊り上げ準備中の旧砲身。
三枚目。
横倒しの旧マストを見ている犬島本人。
«横須賀から来た貨物列車、呉に到着しました。
途中の事故・荷崩れ・脱線はありません。
旧砲身、旧マスト、機銃類も全部無事です。
これから降ろして点検します。
運んでくださった方、ありがとうございました。
今回は貨物列車とちゃんと関係ありました。»
SNS。
大反応。
«「無事到着!」»
«「犬島と貨物列車、ついに平和な関係を築く」»
«「『脱線はありません』を到着報告に書かないといけない海防艦」»
«「旧マスト見てる犬島の写真いい」»
«「自分の部品を列車から受け取る艦娘」»
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十二 鉄道好きからの感想
鉄道側のファンからは、かなり細かい感想も出た。
«「長物車の積載方法めちゃくちゃ興味深かった」»
«「砲身の重量を分散する支持台がちゃんとしてる」»
«「急曲線区間で速度落としてた理由が犬島のマストなの面白い」»
«「軍用輸送だけど弾薬なしの保存部品輸送だから見た目ほど物騒じゃない」»
そして。
«「犬島公式のおかげで普段艦艇しか見ない人も貨物輸送を見るし、鉄道好きが犬島の砲身を見るし、変な交流が生まれてる。」»
犬島。
それを読む。
「これは」
提督。
「どうした」
「ちょっと良いですね」
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十三 艦船好きからの反応
今度は艦艇側。
«「旧十二糎砲身保存するのありがたい」»
«「旧マストまで残すの犬島らしい」»
«「交換部品でも本人にとっては自分の一部なんだろうな」»
«「犬島、前から外した部品を捨てたがらないもんな」»
犬島公式。
その一件に返信。
«使わんようになっても、うちだったものなので、残せるなら残したいです。»
反応。
一気に増える。
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十四 そして例の質問
当然。
誰かが聞く。
«「犬島さん、貨物列車について詳しくなりましたか?」»
犬島。
少し時間を置く。
«前よりは少し。»
«「今知ってることは?」»
犬島。
«機関車が引きます。
貨車に種類があります。
長い物を載せる貨車もあります。
重い物は載せ方が大事です。
今回は11両でした。»
返信。
«「めちゃくちゃ成長してる!」»
別。
«「コンテナは?」»
犬島。
«四角いです。»
ネット。
大笑い。
犬島。
«そこは前から変わってません。»
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十五 軍令部公式SNS
軍令部からも輸送完了報告。
«【特殊貨物輸送完了】
横須賀地区から呉鎮守府への海防艦犬島旧装備・保存部品輸送は、予定どおり完了しました。
輸送中の事故・積荷損傷はありません。
関係各機関の協力に感謝します。»
ところが反応数。
犬島公式の方が。
圧倒的に多い。
総長。
「今回もか」
参謀。
「はい」
「我々も同じことを書いている」
「犬島本人の写真がありますので」
総長。
「なるほど」
少し間。
「公式広報として負けていないか」
参謀。
「同じ軍令部系統なので勝敗はありません」
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十六 保存庫
翌日。
旧砲身。
マスト。
機銃。
呉鎮守府内。
保存整備区画。
並ぶ。
犬島。
見て回る。
砲身。
触れない。
ただ近くから見る。
「長いですね」
工員。
「お前のだっただろ」
「付いとる時はこんな見方せんので」
マスト。
犬島。
上から下まで。
見る。
「これも」
「前は立っとったんですよね」
「そうだ」
「横になると」
少し笑う。
「列車に乗れますね」
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十七 最後の投稿
その日の夕方。
犬島公式SNS。
写真。
保存庫。
旧砲身。
旧マスト。
機銃。
そして端に犬島本人。
«横須賀から来た部品の点検も終わりました。
全部、呉で保管します。
貨物列車で長い距離を運んでもらいましたけど、傷も増えてませんでした。
前に「貨物列車を犬島が脱線させた」という関係ない投稿がありました。
今回はほんまに関係ありましたが、何も起きませんでした。
こういう関係なら良いと思います。»
SNS。
«「綺麗にオチた」»
«「犬島と貨物列車、和解」»
«「そもそも喧嘩してない」»
«「貨物列車側は最初から犬島と無関係だったからな」»
«「今回は犬島の部品を無事届けてくれた」»
そして、一番多く拡散された反応。
«「犬島が貨物列車に関係しても、普通に何も起きないことが証明された。」»
犬島。
その投稿へ。
「いいね」。
少ししてから返信。
«はい。これでお願いします。»
横須賀から呉まで。
旧砲身。
旧マスト。
機銃。
十一両の貨物列車。
長い距離を走った。
脱線なし。
荷崩れなし。
事故なし。
犬島本人は乗っていない。
それでも今回は、間違いなく。
犬島に関係する貨物列車だった。
そして犬島にとっては、それが何事もなく呉へ到着したこと自体が、かなり嬉しい「良かったもの」の一つになった。