海防艦 犬島   作:重装甲空母信濃

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玉野造船の資料庫にて犬島の姉妹艦の建造計画があったことを犬島公式SNSに軍令部と玉野造船の許可を貰った上で投稿した。
計画艦番号813号
10000文字を超える小説にして


藍島
犬島第813号艦


海防艦・犬島

 

――第813号艦――

 

玉野造船資料庫に残っていた「もう一隻の犬島」

 

犬島公式SNSに、その投稿が現れたのは午後七時ちょうどだった。

 

事故報告ではなかった。

 

河口でもない。座礁でもない。貨物列車でもない。鹿でもなく、工具でも白桃でもない。

 

添付されていたのは、古い紙の写真だった。

 

黄ばんだ図面。青焼きの線。旧式の活字で打たれた表紙。

 

右上には赤い鉛筆で、

 

「秘」

 

と書かれている。

 

そして中央。

 

大きく、

 

「第八一三号艦 基本計画資料」

 

と記されていた。

 

その横には、現在の犬島が写っていた。

 

白い半袖の水兵服。紺色のプリーツスカート。深緑色のスカーフ。右側には小さな桃の花の髪留め。

 

犬島は資料を持っていない。

 

古い紙なので、触らず、保存ケースの横に立っているだけだった。

 

投稿文は、いつもの犬島公式SNSよりかなり長かった。

 

«玉野造船の資料庫で、うちの姉妹艦として建造する予定だった艦の資料が見つかりました。

 

計画艦番号は「第813号艦」です。

 

まだ名前が決まる前に計画がなくなったため、艦名はありません。

 

今回、軍令部と玉野造船の両方から公開して良いと許可をもらった資料だけ載せています。

 

建造開始前に中止された計画なので、「実際に妹がおった」と言うのは違うと思います。

 

でも、うちの次に玉野で造られる予定だった艦です。

 

うちとしては、妹になったかもしれん艦だと思っとります。

 

少し長い話になります。»

 

SNSの反応は、数秒間だけ静かだった。

 

そして一気に増え始めた。

 

«「813号艦?」»

 

«「犬島に姉妹艦計画あったの?」»

 

«「玉野造船の資料庫から出てきたってすごい」»

 

«「妹になったかもしれない艦……」»

 

«「これは事故投稿よりずっと大きな発見では」»

 

犬島は、その夜、この第813号艦についてかなり詳しく語ることになる。

 

だが、始まりは数日前だった。

 

---

 

第一章 玉野へ帰った日

 

犬島が玉野造船を訪れた理由は、第813号艦ではなかった。

 

元々は、自分の旧部品の保存状況を確認するためだった。

 

前部十二糎砲の旧砲身。

 

交換された旧前部マスト。

 

過去の修理で取り外された外板。

 

使われなくなった機銃架。

 

そして、昔の犬島を構成していた保存部品の一部。

 

犬島は、自分から外された部品を捨てることをあまり好まない。

 

使えなくなった物は仕方ない。

 

だが、残せるなら残したい。

 

それが犬島の考えだった。

 

「使わんでも、うちだったものですから」

 

そう言っていた。

 

その日も玉野造船の保存棟で、一つずつ状態を見ていた。

 

犬島にとって玉野は特別だった。

 

艦の中央部。

 

船体の中でも大きく、構造上重要な部分。

 

それを造ったのが玉野だった。

 

だから犬島は岡山県、特に玉野を強く「故郷」と感じている。

 

保存担当の工員が言った。

 

「犬島、昔の資料も見るか?」

 

犬島は振り返った。

 

「うちのですか?」

 

「たぶん」

 

「たぶん?」

 

「古い資料庫の整理をしとる。犬島関係の箱がいくつか出てきた」

 

犬島の目が少し明るくなる。

 

「見たいです」

 

それだけの話だった。

 

---

 

第二章 旧資料庫

 

玉野造船の旧資料庫は、現在のデジタル管理室とは別の建物にあった。

 

戦前から戦後初期まで使われていた書類庫で、耐火構造の分厚い扉が残っている。

 

内部には紙の匂い。

 

古い木製棚。

 

整理済みの箱。

 

未整理の箱。

 

図面筒。

 

犬島は入室前に白い手袋を渡された。

 

「紙には直接触らんように」

 

「はい」

 

担当者が言う。

 

「犬島の建造関係は、この棚の四段目辺り」

 

「いっぱいありますね」

 

「船一隻造るんだからな」

 

犬島は少し嬉しそうだった。

 

自分がどうやって造られたのか。

 

どの部材がどこで製作されたのか。

 

どう輸送されたのか。

 

どこで接合されたのか。

 

そういう記録を見るのが好きだった。

 

事故記録を見る時とは表情が違う。

 

修理や建造の話になると、犬島はかなり細かい。

 

「この板厚、途中で変わっとります」

 

「よく気づいたな」

 

「今もその辺、分かりますから」

 

「自分の身体みたいなもんだもんな」

 

「艦ですけどね」

 

そんな話をしながら、一時間ほど資料を見た。

 

やがて担当者が、棚の奥から一つの薄い箱を引き出した。

 

表面。

 

ほこり。

 

箱番号。

 

古い墨書。

 

「第八一二・八一三」

 

担当者が止まった。

 

犬島も止まった。

 

「……八一三?」

 

犬島が聞く。

 

担当者。

 

「何だこれ」

 

箱を机へ置く。

 

保存担当。

 

管理番号を確認。

 

未整理資料。

 

閲覧制限区分。

 

不明。

 

そこで犬島はすぐに手を引いた。

 

「勝手に開けん方がええですね」

 

「そうだな」

 

「軍令部に聞きます?」

 

「ああ」

 

犬島は少し名残惜しそうに箱を見る。

 

だが、開けなかった。

 

その判断が、後の公開許可にも影響することになる。

 

---

 

第三章 「813」の意味

 

軍令部へ照会。

 

玉野造船内の旧台帳も確認。

 

翌日。

 

回答。

 

箱の閲覧そのものは許可。

 

ただし、内容によっては外部公開不可。

 

犬島本人。

 

玉野造船資料担当。

 

軍令部記録担当。

 

三者立会い。

 

箱が開けられた。

 

最初。

 

第812号関係。

 

犬島の建造準備。

 

中央部製造工程。

 

重量計算。

 

工作図。

 

そして、その下に。

 

薄い青焼き図面。

 

表題。

 

「第813号艦 基本計画略図 第一案」

 

犬島は動かなかった。

 

担当者が紙を確認。

 

「……犬島」

 

「はい」

 

「これ」

 

図面上。

 

全長。

 

全幅。

 

砲配置。

 

機関区画。

 

艦橋。

 

犬島とよく似ている。

 

ただし、少し違う。

 

前部。

 

波切り形状。

 

機関室通風。

 

中央砲周辺。

 

対空火器配置。

 

担当者。

 

「お前の改良型だな」

 

犬島。

 

しばらく何も言わない。

 

「姉妹艦ですか」

 

軍令部記録官。

 

「少なくとも計画上はそうなる」

 

犬島。

 

もう一度。

 

図面を見る。

 

「うちの次?」

 

「番号上は」

 

「玉野で?」

 

「その予定だった」

 

犬島。

 

「……ほんまですか」

 

---

 

第四章 第813号艦建造計画

 

資料を整理すると、第813号艦は犬島の建造中に作られた後続艦計画だった。

 

犬島を一隻建造したことで判明した工作上の問題。

 

重量配分。

 

部材輸送。

 

艤装工程。

 

機関据付。

 

それらを反映した改良艦。

 

軍令部側の資料には、

 

「第812号艦建造実績ヲ基礎トシ、工程簡略化及ビ量産性改善ヲ図ル」

 

とあった。

 

つまり、第813号艦は犬島を基準にした。

 

単なる同型艦ではない。

 

犬島を造って分かったことを使い、少し造りやすく、少し扱いやすくしようとした艦だった。

 

犬島はその説明を聞いて言った。

 

「うちが試作品みたいですね」

 

造船技師。

 

「言い方は悪いが、実績艦ではある」

 

「失敗多かったです?」

 

技師。

 

「建造中はな」

 

犬島。

 

「事故だけじゃなく造る時からですか」

 

周囲。

 

少し笑う。

 

---

 

第五章 第813号艦の予定諸元

 

基本計画第一案。

 

全長。

 

約七十九・二メートル。

 

犬島。

 

七十八・九メートル。

 

第813号艦。

 

約三十センチ長い。

 

全幅。

 

九・二メートル。

 

ほぼ同じ。

 

基準排水量。

 

犬島より約二十数トン増加予定。

 

満載。

 

約千百トン前後。

 

機関。

 

二基。

 

二軸。

 

出力。

 

犬島とほぼ同等。

 

速力。

 

計画二十ノット前後。

 

兵装。

 

前部十二糎単装砲。

 

一基。

 

中央十二糎単装砲。

 

一基。

 

後部十二糎単装砲。

 

一基。

 

つまり三門。

 

犬島と同じ。

 

ただし。

 

対空機銃配置が少し違う。

 

中央部。

 

通風筒配置変更。

 

弾薬庫。

 

防炎区画。

 

艦橋下部。

 

通信設備空間。

 

少し拡大。

 

さらに。

 

犬島で不評だった整備箇所。

 

点検口。

 

拡大。

 

機関配管。

 

一部移設。

 

犬島。

 

資料を読んで。

 

「こっちの方が整備しやすそうです」

 

工員。

 

「犬島で苦労したからな」

 

犬島。

 

「うちのおかげですね」

 

「そういうことにしておくか」

 

犬島。

 

少し。

 

満足そうだった。

 

---

 

第六章 名前はなかった

 

犬島が最初に聞いたのは。

 

「名前は?」

 

だった。

 

だが。

 

資料。

 

なし。

 

艦名候補。

 

なし。

 

命名内示。

 

なし。

 

第813号艦。

 

それだけ。

 

犬島。

 

「ずっと813号?」

 

「計画段階では」

 

「もし造られとったら」

 

「後で名前が付いたはずだ」

 

犬島。

 

「何になったんでしょうね」

 

誰にも分からない。

 

犬島は少し考えた。

 

「勝手に名前付けたら駄目ですか」

 

軍令部記録官。

 

「歴史資料として扱うならやめた方がいい」

 

「ですよね」

 

犬島。

 

図面を見る。

 

「813号さん」

 

工員。

 

「もう呼んでるじゃないか」

 

「番号です」

 

「さん付け」

 

犬島。

 

「うちの次なので」

 

---

 

第七章 姉妹艦なのか

 

ここで一つ。

 

犬島自身が気にした。

 

第813号艦は。

 

起工していない。

 

鋼材切断記録。

 

なし。

 

竜骨据付。

 

なし。

 

正式建造命令。

 

一歩手前。

 

一部先行調達。

 

検討。

 

そこまで。

 

では。

 

「姉妹艦だった」

 

と言ってよいのか。

 

犬島。

 

軍令部へ聞いた。

 

「SNSに書くなら、どう書いたらええですか」

 

記録官。

 

「『姉妹艦として計画された』が妥当だろう」

 

「妹だった、ではなく?」

 

「実艦として存在していないからな」

 

犬島。

 

少し考える。

 

「妹になったかもしれん艦」

 

記録官。

 

「それなら犬島自身の感想として問題ない」

 

犬島。

 

「そうします」

 

---

 

第八章 なぜ中止されたのか

 

最も重要な資料は。

 

「第813号艦建造延期ニ関スル件」

 

だった。

 

延期。

 

その後。

 

中止。

 

理由。

 

一つではない。

 

資材不足。

 

機関製造枠。

 

造船所工程。

 

他艦優先。

 

さらに。

 

戦況変化。

 

海防艦需要そのものは高かった。

 

だが。

 

そのためこそ。

 

より簡略で、短期間に建造できる艦へ資源を集中する必要が出た。

 

第813号艦は犬島の改良型だったが。

 

犬島に近い複雑さも残っていた。

 

工数。

 

多い。

 

中央部。

 

大きい。

 

輸送。

 

難しい。

 

犬島建造時に問題となった各工程を改善しても。

 

まだ。

 

手間がかかる。

 

資料には。

 

「性能上有用ナルモ、現状生産能力ニ対シ建造期間長期化ノ虞アリ」

 

と書かれていた。

 

犬島。

 

読む。

 

「性能は悪くなかったんですね」

 

「そうだな」

 

「でも時間がかかる」

 

「そうだ」

 

「だから造らんかった」

 

「大きく言えば」

 

犬島。

 

黙る。

 

それは。

 

誰かの失敗ではない。

 

第813号艦が悪かったわけでもない。

 

設計者が悪いわけでもない。

 

犬島が悪いわけでもない。

 

戦時中。

 

時間。

 

資材。

 

人。

 

それが足りなかった。

 

ただ。

 

造られなかった。

 

---

 

第九章 先に造られていたもの

 

完全に何もなかったわけではない。

 

第813号艦用として先行手配された可能性の高い部材記録があった。

 

ボルト類。

 

配管材。

 

一部の形鋼。

 

艦橋内部用の小型金物。

 

通風設備部品。

 

ただし。

 

第813号専用品と断定できるものは少ない。

 

発注後。

 

他艦。

 

工場設備。

 

修理用資材。

 

別用途へ転用。

 

犬島。

 

「813号さんだったかもしれん部品」

 

「そうなるな」

 

「残っとらんです?」

 

資料担当。

 

「特定は難しい」

 

犬島。

 

少し。

 

残念そう。

 

「一個くらい」

 

「何かあればよかったです」

 

---

 

第十章 一枚の工作図

 

午後。

 

資料庫。

 

さらに。

 

一枚。

 

出てきた。

 

中央部フレーム。

 

工作図。

 

犬島用と似ている。

 

だが。

 

右下。

 

「813」

 

赤鉛筆。

 

さらに。

 

作業者の手書き。

 

「812実績ニヨリ補強位置変更」

 

犬島がかなり長く見ていた。

 

「これ」

 

担当者。

 

「第813号用だな」

 

「うちの実績で」

 

「補強位置を変えた」

 

犬島。

 

「ここです?」

 

指は触れず。

 

上から示す。

 

「そう」

 

「うち、この辺ちょっと振動多かったです」

 

工員。

 

「だからじゃないか?」

 

犬島。

 

ほんの少し笑った。

 

「うちが教えたみたいですね」

 

「船がな」

 

「うちです」

 

「はいはい」

 

犬島は。

 

この図面を。

 

一番気に入った。

 

---

 

第十一章 公開するか

 

資料を見終わった後。

 

犬島は最初からSNSへ出すつもりではなかった。

 

軍令部へ報告。

 

玉野造船。

 

資料部門。

 

協議。

 

戦時資料。

 

一部。

 

今でも公開制限。

 

別艦。

 

別施設。

 

関係情報。

 

含む。

 

そのため。

 

犬島。

 

「出していいところだけでええです」

 

軍令部。

 

「公開したい理由は?」

 

犬島。

 

少し考える。

 

「うちの話だからです」

 

「813号艦は犬島ではない」

 

「はい」

 

「なら?」

 

犬島。

 

「うちの次に造られる予定だった艦です」

 

少し間。

 

「今まで誰も知らんかったなら」

 

「このまま箱に入っとるだけより」

 

「こういう艦がおったかもしれんって、知ってもらってもええと思います」

 

軍令部側。

 

沈黙。

 

犬島。

 

続ける。

 

「事故の話はいっぱい知られとります」

 

「河口も」

 

「座礁も」

 

「貨物列車も」

 

「でも」

 

「うちがどう造られたとか」

 

「その次に誰かを造ろうとしとったとか」

 

「そういう話も」

 

少し笑う。

 

「うちの話だと思います」

 

公開審査。

 

始まった。

 

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第十二章 玉野造船の条件

 

玉野造船側。

 

条件。

 

原本。

 

犬島自身でも直接持たない。

 

撮影。

 

指定箇所のみ。

 

図面。

 

寸法の一部。

 

公開可。

 

設備配置。

 

機密性なし確認済み部分のみ。

 

作業者個人名。

 

原則非公開。

 

別計画艦。

 

写り込み。

 

処理。

 

犬島。

 

全部。

 

了承。

 

「紙を傷めんのが一番です」

 

資料担当。

 

「犬島、お前こういう時すごく真面目だな」

 

「事故の時も真面目です」

 

「事故が多いだけでな」

 

「それ言います?」

 

---

 

第十三章 軍令部の条件

 

軍令部側。

 

第813号艦。

 

現在。

 

軍事的機密性。

 

ほぼなし。

 

ただし。

 

当時の運用構想。

 

特定戦域。

 

補給計画。

 

一部。

 

非公開。

 

犬島公式SNSでは。

 

建造計画。

 

予定諸元。

 

中止理由。

 

玉野造船との関係。

 

そこまで。

 

許可。

 

さらに。

 

「第813号艦に正式艦名はない」

 

明記。

 

「建造済みと誤解させない」

 

明記。

 

犬島。

 

「分かりました」

 

そして。

 

数日後。

 

正式許可。

 

玉野造船。

 

許可。

 

軍令部。

 

許可。

 

犬島。

 

投稿準備。

 

---

 

第十四章 投稿

 

犬島公式SNS。

 

最初の投稿。

 

先ほどの文章。

 

さらに。

 

連続投稿。

 

«第813号艦について分かったことを書きます。

 

犬島の建造中に、次の艦として計画されていました。

 

犬島で分かった建造上・整備上の問題を直した改良型です。

 

全長は約79.2m、全幅は9.2mで、犬島より少し長くなる予定でした。

 

十二糎単装砲3基、二軸で、基本的な性格は犬島とかなり近いです。

 

中央部も玉野造船で造る予定でした。»

 

反応。

 

«「本当に妹艦だ」»

 

«「犬島より30cm長いのか」»

 

«「妹の方が少し大きくなる予定だった?」»

 

犬島。

 

返信。

 

«まだ妹とは決まっとりません。あと30cmは誤差みたいなもんです。»

 

さらに。

 

«「身長も妹の方が高くなった?」»

 

犬島。

 

«艦娘になってないので分かりません。»

 

---

 

第十五章 犬島の改良型

 

次。

 

図面写真。

 

公開用。

 

重要部分。

 

«犬島と違うところです。

 

機関室の点検口が広くなっています。

 

通風設備の位置も少し変わっています。

 

犬島の建造後に「ここは整備しにくい」と分かったところを直したそうです。

 

うちを造って分かったことが813号艦に使われています。»

 

ネット。

 

«「お姉ちゃんの経験が妹に反映されてる」»

 

«「犬島が先行量産試験みたいになってる」»

 

«「妹の方が整備性良いのちょっとかわいそう」»

 

犬島。

 

«ええことです。次は良くなった方がええです。»

 

この返信が。

 

かなり広がった。

 

«「犬島らしい」»

 

«「自分より後の艦が良くなるの嬉しいタイプか」»

 

犬島。

 

それには返信しなかった。

 

「いいね」だけ付けた。

 

---

 

第十六章 中止理由

 

次の投稿。

 

犬島は少し時間を空けた。

 

«第813号艦は起工前に建造計画が中止されています。

 

理由は設計失敗ではありません。

 

資材、機関製造枠、造船工程、それと戦況の変化で、もっと短期間で造れる艦を優先する必要があったためです。

 

性能上は使える計画だったと資料にあります。

 

名前が付く前だったので、艦名は残っていません。

 

「建造途中で壊された艦」でもありません。

 

そもそも造り始める前に止まっています。»

 

SNS。

 

«「名前すらないのか」»

 

«「設計はあったけど鉄の船にはならなかったんだな」»

 

«「犬島には存在してる妹じゃなくて、可能性としての妹なんだ」»

 

«「こういう計画艦って切ない」»

 

一件。

 

«「犬島さん、悲しい?」»

 

犬島。

 

しばらく。

 

考えた。

 

そして。

 

«少しです。

 

でも「沈んだ」とか「壊れた」とは違います。

 

最初から海に出てないので。

 

海に出たかったかどうかも、本人がおらんので分かりません。

 

勝手に気持ちを決めるのは違うと思います。»

 

この返信。

 

かなり多く共有された。

 

---

 

第十七章 「妹が欲しかった?」

 

さらに。

 

質問。

 

«「犬島は妹が欲しかった?」»

 

犬島。

 

かなり長く返信しなかった。

 

十分。

 

二十分。

 

三十分。

 

ようやく。

 

«今まで考えたことありませんでした。

 

うちは一隻でおるのが普通だったので。

 

でも813号艦の図面を見た時、隣におったらどんな感じだったんかなとは思いました。»

 

別の質問。

 

«「名前付けたい?」»

 

«付けません。

 

名前は本当に決まってないので、そこは資料どおりに残したいです。»

 

«「813ちゃんって呼ぶのは?」»

 

犬島。

 

«うちは資料庫でちょっと呼びました。»

 

ネット。

 

«「呼んだんだ」»

 

犬島。

 

«ちょっとだけです。»

 

---

 

第十八章 玉野の反応

 

玉野市。

 

造船関係者。

 

地元住民。

 

反応。

 

«「玉野で犬島の次の艦まで計画してたとは知らなかった」»

 

«「犬島だけじゃなく813号艦も玉野生まれになるはずだったんだな」»

 

«「造られてたら玉野にもう一隻故郷を持つ艦娘がいたかもしれない」»

 

元工員の家族。

 

«「祖父の古いノートに812の次の船の話が少しあった。813号だったのかもしれない」»

 

ただし。

 

犬島公式。

 

ここは慎重だった。

 

«個人の古い資料は大事にしてください。

 

813号艦関係かどうかは、資料を確認せんと決められません。

 

もし玉野造船へ相談する場合は、無理に持ち出さず連絡してください。»

 

ネット。

 

«「急に資料保存担当みたいになる犬島」»

 

«「こういう時ほんと真面目」»

 

---

 

第十九章 軍令部上層部

 

軍令部。

 

SNS反応。

 

確認。

 

総長。

 

「かなり反応があるな」

 

参謀。

 

「犬島の事故投稿以外では最大級です」

 

「事故でなくて良かった」

 

「はい」

 

総長。

 

第813号艦図面。

 

見る。

 

「犬島自身は?」

 

「玉野の資料庫へもう一度行きたいそうです」

 

「なぜ」

 

「他にも813号資料がないか確認したいと」

 

総長。

 

少し笑う。

 

「もう姉になっているじゃないか」

 

参謀。

 

「本人に言ったら否定すると思います」

 

---

 

第二十章 犬島、資料庫へ戻る

 

数週間後。

 

犬島。

 

再び玉野。

 

今度は。

 

資料整理の手伝い。

 

もちろん。

 

保存担当者の指示。

 

犬島。

 

箱番号。

 

確認。

 

「これは812」

 

「それ犬島」

 

「これは813」

 

「そっち」

 

「これは別」

 

「触らんで」

 

「はい」

 

犬島。

 

かなり楽しそう。

 

途中。

 

新しい資料。

 

見つかる。

 

「第813号艦 工数見積表」

 

計算。

 

予定。

 

犬島より。

 

総工数。

 

約七パーセント減。

 

犬島。

 

「うちより早く造れる予定だったんですね」

 

「改善案が効けば」

 

「七パーセント」

 

「大きいぞ」

 

犬島。

 

少し考える。

 

「ちゃんと妹の方が進歩しとります」

 

工員。

 

「妹って言ったな」

 

犬島。

 

止まる。

 

「……計画上です」

 

---

 

第二十一章 一番犬島が気に入った資料

 

さらに。

 

例の。

 

補強位置変更図。

 

保存ケース。

 

犬島。

 

その前に立つ。

 

「これが一番好きです」

 

資料担当。

 

「何で?」

 

「うちを造った結果が残っとるからです」

 

「813号は造られなかったぞ」

 

「はい」

 

犬島。

 

図面を見る。

 

「でも」

 

「うちの次はこうしようって」

 

「考えた人がおったんですよね」

 

「そうだな」

 

「それは」

 

少し笑う。

 

「813号さんが造られんでも、なくならんと思います」

 

---

 

第二十二章 SNS第二弾

 

その日の夜。

 

犬島公式。

 

新しい投稿。

 

«玉野造船の許可をもらって、追加で1枚です。

 

第813号艦の中央部補強の工作図です。

 

「812実績により補強位置変更」と書いてあります。

 

犬島を造って分かったことを、次の艦へ使う予定だったそうです。

 

813号艦そのものは造られませんでした。

 

でも、うちを見て「次はここを良くしよう」と考えた記録が残っとるのが、うちはちょっと嬉しいです。»

 

反応。

 

«「これはいい資料」»

 

«「犬島が姉艦になるはずだった証拠みたい」»

 

«「813号艦が存在しなくても設計者の考えは残ってる」»

 

«「犬島本人が嬉しいって言ってるのが良い」»

 

---

 

第二十三章 もし建造されていたら

 

ネット。

 

当然。

 

想像。

 

始まる。

 

«「もし813号艦が完成してたら犬島と同じ呉所属?」»

 

«「玉野で二隻並んで一般公開してほしかった」»

 

«「犬島より少し活発な妹だったかも」»

 

«「姉妹で河口進入してそう」»

 

犬島。

 

最後。

 

即返信。

 

«巻き込まんでください。»

 

さらに。

 

«「813号艦なら河口事故回避できた?」»

 

犬島。

 

«設計が少し違うだけなので、土運船や貨物船は関係ないです。»

 

«「姉妹で貨物列車好きになった?」»

 

«うちも貨物列車好きとまでは言ってません。»

 

犬島。

 

事故。

 

鉄道。

 

河口。

 

全部。

 

いつもの空気。

 

戻る。

 

だが。

 

その中。

 

一件。

 

«「813号艦がいたら、犬島は『お姉ちゃん』って呼ばれたかった?」»

 

犬島。

 

長い。

 

沈黙。

 

その後。

 

«分かりません。

 

でも、犬島って呼ばれるのが一番慣れとります。»

 

---

 

第二十四章 造船所側の正式公開

 

反響が大きかったため。

 

玉野造船も。

 

公式に。

 

資料公開。

 

«当社旧資料庫において、海防艦犬島の後続艦として検討された「第813号艦」関連資料が確認されました。

 

同艦は起工前に計画中止となっており、実艦は建造されていません。

 

資料の一部について、軍令部および当社資料保存部門の審査を経て公開します。

 

なお、犬島本人によるSNS投稿内容は当社確認済み資料と整合しています。»

 

SNS。

 

«「玉野造船公式まで来た」»

 

«「犬島本人が勝手に言ってる設定じゃなくて正式史料なんだ」»

 

«「813号艦、本当に計画されてたんだな」»

 

犬島公式。

 

«許可もらったって最初に書いとります。»

 

---

 

第二十五章 一般公開で展示

 

数か月後。

 

玉野造船。

 

資料展示会。

 

特別展示。

 

「海防艦犬島と第813号艦建造計画」

 

犬島。

 

参加。

 

展示。

 

犬島の中央部建造写真。

 

部材。

 

工程図。

 

第813号艦基本計画。

 

比較図。

 

建造中止文書。

 

来場者。

 

多い。

 

一人。

 

犬島へ。

 

「813号艦が造られなかったこと、今でも寂しいですか」

 

犬島。

 

少し考える。

 

「今でもって」

 

「知ったの最近ですから」

 

周囲。

 

少し笑う。

 

犬島。

 

続ける。

 

「寂しいというより」

 

第813号艦の図面を見る。

 

「見てみたかったです」

 

「実艦を?」

 

「はい」

 

「一緒に航れたら」

 

少し間。

 

「どんなだったかなって」

 

---

 

第二十六章 子供の質問

 

小学生。

 

「犬島ちゃん」

 

「はい」

 

「813号艦は犬島ちゃんの妹?」

 

犬島。

 

しゃがまず、そのまま少し目線を下げる。

 

「妹になる予定だったかもしれん艦です」

 

「妹じゃないの?」

 

「船として造られてないので」

 

「じゃあ、おばけ?」

 

「違います」

 

即答。

 

周囲。

 

笑う。

 

犬島。

 

「計画です」

 

子供。

 

「計画?」

 

「こういう船を造ろうって」

 

図面を示す。

 

「紙の上で考えたところまで」

 

「じゃあ紙の妹?」

 

犬島。

 

困る。

 

「……それは」

 

少し考える。

 

「ちょっと近いかもしれません」

 

その場。

 

笑い。

 

SNS。

 

«「犬島、第813号艦を小学生に『紙の妹?』って言われて否定しきれず」»

 

犬島公式。

 

後で。

 

«正式な言い方ではありません。»

 

---

 

第二十七章 犬島が残したいもの

 

展示終了後。

 

犬島。

 

玉野造船資料担当。

 

「813号艦の資料」

 

「はい」

 

「ちゃんと残ります?」

 

「もちろん」

 

「今までみたいに箱の奥で分からんくなったり」

 

「今回は目録化した」

 

「デジタル化もする」

 

犬島。

 

安心。

 

「よかったです」

 

担当者。

 

「何でそこまで気にする」

 

犬島。

 

少し考えた。

 

「うち」

 

「昔の艦体なくしたことあるでしょう」

 

担当者。

 

黙る。

 

犬島。

 

「残っとるものは」

 

「残せる時に残した方がええです」

 

「艦でも」

 

「部品でも」

 

「紙でも」

 

少し間。

 

「なくなってから探すの、大変ですから」

 

---

 

第二十八章 犬島公式SNS・長文の最後

 

第813号艦の存在を最初に公表した長文投稿。

 

犬島は最後に、こう締めくくっていた。

 

«第813号艦は造られませんでした。

 

海へ出たこともありません。

 

名前もありません。

 

艦娘にもなっていません。

 

なので、今のうちが勝手に「こういう子だった」と決めるつもりはありません。

 

ただ、玉野で犬島の次に造ろうとした艦があったことは本当です。

 

犬島で分かったことを使って、次は少し良くしようとした図面が残っています。

 

それを見つけられたのは、良かったと思います。

 

813号艦が妹だったかもしれん、と言うくらいは許してもらえたら嬉しいです。

 

あと、正式な名前はありませんので、勝手に艦名を付けて史実みたいに広めんでください。

 

資料は玉野造船で大事に保管されます。

 

うちも、また見に行きます。»

 

反応。

 

数万。

 

その中。

 

一番多く共有されたもの。

 

«「第813号艦は海に出られなかったけど、犬島が見つけたことで、少なくとも『計画された艦』としてもう一度知られることになった。」»

 

犬島。

 

その投稿を見た。

 

長いこと。

 

「いいね」を付けなかった。

 

提督。

 

「気に入らないのか」

 

犬島。

 

「いえ」

 

「じゃあ何だ」

 

「ちょっと考えとりました」

 

「何を」

 

犬島。

 

画面を見る。

 

「813号さんは」

 

少し間。

 

「知られたかったかどうか」

 

提督。

 

「答えは出ないな」

 

「はい」

 

犬島。

 

小さく笑う。

 

「じゃから」

 

「うちが良かったと思うだけにします」

 

そして。

 

「いいね」。

 

---

 

第二十九章 その夜の玉野

 

資料展示の後。

 

犬島。

 

宇野港。

 

夕方。

 

実艦。

 

静かに係留。

 

犬島は前甲板に立っていた。

 

玉野の灯り。

 

造船所。

 

遠く。

 

提督。

 

「何を見ている」

 

「玉野です」

 

「いつも見ているだろう」

 

「今日は」

 

少し。

 

違う。

 

犬島は自分の艦中央部へ意識を向ける。

 

ここを。

 

玉野で造った。

 

そして。

 

同じ場所で。

 

もう一隻。

 

造る予定があった。

 

第813号艦。

 

名前。

 

なし。

 

進水日。

 

なし。

 

竣工日。

 

なし。

 

艦歴。

 

なし。

 

事故歴。

 

もちろん。

 

なし。

 

河口進入。

 

なし。

 

SNS。

 

なし。

 

何もない。

 

でも。

 

図面はある。

 

工作図もある。

 

工数表もある。

 

「次はここを良くしよう」

 

と考えた人の筆跡がある。

 

犬島。

 

「提督」

 

「何だ」

 

「もし813号艦ができとったら」

 

「うん」

 

「うち」

 

「事故の時」

 

少し考える。

 

「相談できたんですかね」

 

「姉妹艦ならな」

 

「機関のこととか」

 

「振動とか」

 

「ここ壊れやすいとか」

 

「いろいろ話せただろう」

 

犬島。

 

少し笑う。

 

「うちより整備しやすい艦に」

 

「教えてもらうことになったかもしれません」

 

「妹に?」

 

「計画上です」

 

---

 

第三十章 翌朝の投稿

 

翌朝。

 

犬島公式SNS。

 

写真。

 

宇野港。

 

朝日。

 

犬島の実艦。

 

その向こう。

 

玉野。

 

文章。

 

短い。

 

«おはようございます。

 

昨日は第813号艦の資料をたくさん見ました。

 

今日は普通に呉へ帰ります。

 

813号艦は一緒には来ません。図面なので。

 

でも、玉野にちゃんと残ります。

 

それでええと思います。»

 

反応。

 

«「図面なので、が犬島らしい」»

 

«「また見に帰っておいで」»

 

«「813号艦の資料も犬島の部品と同じように大事にされるんだな」»

 

«「妹になれなかった艦じゃなくて、次を良くしようとした記録として残るのいい」»

 

犬島。

 

最後の投稿。

 

読む。

 

そして。

 

小さく。

 

「はい」

 

---

 

終章 犬島と第813号艦

 

犬島には。

 

姉妹艦はいない。

 

少なくとも。

 

実際に海へ出た姉妹艦は。

 

いない。

 

第813号艦は。

 

造られなかった。

 

名前もない。

 

進水もしない。

 

艦娘にもならない。

 

それは変わらない。

 

だが。

 

「何もなかった」

 

とも。

 

少し違う。

 

犬島を造った。

 

その結果。

 

ここを変えよう。

 

ここを広くしよう。

 

ここを補強しよう。

 

工数を減らそう。

 

もう一隻。

 

造ろう。

 

そう考えた人がいた。

 

紙。

 

線。

 

数字。

 

計算。

 

赤鉛筆。

 

その中に。

 

第813号艦は残っていた。

 

犬島は。

 

それを見つけた。

 

そして。

 

軍令部と玉野造船に許可をもらい。

 

世間へ。

 

伝えた。

 

事故速報ではない。

 

誤報訂正でもない。

 

「今日は何もありませんでした」

 

でもない。

 

犬島自身の歴史。

 

その続きになるはずだった。

 

もう一隻の計画。

 

犬島は。

 

第813号艦を。

 

妹とは断定しない。

 

だが。

 

たまに。

 

資料庫。

 

行く。

 

保存ケースの中。

 

第813号艦。

 

見る。

 

そして。

 

誰もいない時だけ。

 

小さく。

 

「813号さん」

 

と呼ぶ。

 

それ以上。

 

何も言わない。

 

返事もない。

 

当然。

 

図面だから。

 

それでも。

 

犬島は少し。

 

嬉しそうだった。

 

自分は。

 

一隻だけだった。

 

でも。

 

最初から。

 

一隻だけにするつもりではなかったらしい。

 

自分の次に。

 

もう一隻。

 

玉野で造ろうとした人がいた。

 

それを知れただけで。

 

犬島にとっては。

 

十分。

 

「良いなと思ったこと」だった。

 

だから。

 

犬島公式SNSにも。

 

事故ではない日の投稿として。

 

残った。

 

第813号艦。

 

海に出なかった。

 

名前もなかった。

 

それでも。

 

確かに。

 

犬島の次に。

 

造られる予定だった艦だった。

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