海防艦 犬島   作:重装甲空母信濃

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メインストーリーとは別。
突如として、久瀬川河口に突っみかけた犬島に比べて30cmほど長い海防艦が現れてSNS次ではまた犬島が久瀬川河口に突っみかけたと盛り上がりを見せていると犬島公式SNSから犬島は今第一岸壁にいると投稿された。
30cmほど長い海防艦は813号艦(艦名藍島)艦娘も犬島より少し(3cm程度)大きく犬島と似ている艦娘がいた。


犬島藍島 第4次久瀬川河口進入事故

海防艦・犬島 別世界線

 

――犬島は第一岸壁におります――

 

突如現れた第813号艦「藍島」

 

その日の午前十時十二分、SNS上に投稿された一枚の写真が、最初のきっかけだった。

 

写真そのものは、それほど鮮明ではなかった。

 

久瀬川河口の沖合。薄曇りの空。穏やかな海面。その中央に、小型の海防艦らしい艦艇が一隻いる。

 

艦首を河口方向へ向け、かなり近い位置まで来ていた。

 

投稿文。

 

«「久瀬川河口に犬島いるんだけど」»

 

三分後。

 

別角度。

 

«「また犬島じゃない?」»

 

さらに。

 

«「第11回?」»

 

そこからは速かった。

 

犬島。

 

久瀬川。

 

河口。

 

その三つの言葉が揃ってしまった。

 

過去十回の河口進入事故を知っている人々にとって、あまりにも分かりやすい構図だった。

 

«「犬島また河口行ってる」»

 

«「第11回きた?」»

 

«「本人あれだけ『ありません』って言ってたのに」»

 

«「久瀬川じゃん」»

 

«「しかも今度は何に押されたんだ」»

 

«「犬島公式の事故速報待ち」»

 

そして、

 

«「第11回河口進入事故、発生か」»

 

という投稿まで現れた。

 

だが。

 

その頃。

 

犬島は。

 

久瀬川にはいなかった。

 

---

 

一 第一岸壁

 

呉鎮守府。

 

第一岸壁。

 

犬島は自分の実艦の艦橋で、工具箱の中身を整理していた。

 

朝の点検は終わっている。

 

この日の出港予定は午後二時。

 

午前中は整備。

 

機関停止。

 

四本の係留索。

 

陸電接続。

 

犬島本人も実艦から離れていない。

 

提督が艦橋へ上がってきたのは、午前十時二十分だった。

 

「犬島」

 

「はい」

 

「お前、久瀬川にいるらしいぞ」

 

犬島の手が止まった。

 

「……はい?」

 

「SNS」

 

端末。

 

犬島。

 

見る。

 

写真。

 

確かに。

 

海防艦。

 

船体形状。

 

艦橋。

 

前部十二糎砲。

 

中央十二糎砲。

 

後部十二糎砲。

 

配置まで。

 

かなり似ている。

 

犬島。

 

数秒。

 

動かない。

 

提督。

 

「どうだ」

 

犬島。

 

「似とります」

 

「犬島か?」

 

犬島。

 

自分の実艦の甲板を一度見る。

 

次に。

 

岸壁。

 

係留索。

 

さらに。

 

写真。

 

「うち」

 

「今ここにおります」

 

「知っている」

 

犬島。

 

かなり困った顔をする。

 

「じゃあ」

 

もう一度写真を見る。

 

「誰ですか、これ」

 

---

 

二 犬島公式SNS

 

午前十時二十三分。

 

犬島公式SNS。

 

更新。

 

写真。

 

第一岸壁。

 

係留中の犬島実艦。

 

艦橋上。

 

犬島本人。

 

投稿時刻入り。

 

文章。

 

«今SNSで「犬島が久瀬川河口にいる」と言われていますけど、うちは今、呉鎮守府の第一岸壁におります。

 

実艦もここです。

 

今日は午後まで出港予定ありません。

 

写真の艦は、うちではありません。

 

うちも誰なのか分かりません。»

 

ネット。

 

一瞬。

 

止まった。

 

そして。

 

爆発した。

 

«「え?????」»

 

«「じゃあ久瀬川にいるの誰?」»

 

«「犬島じゃない!?」»

 

«「犬島が犬島のアリバイを出してきた」»

 

«「実艦まで第一岸壁にいるなら別艦じゃん」»

 

«「待って、じゃああの船何?」»

 

さらに。

 

一件。

 

«「犬島が2隻いる。」»

 

犬島公式。

 

即返信。

 

«うちは1隻です。»

 

---

 

三 近くで見ると違う

 

久瀬川側。

 

海上保安担当。

 

港湾局。

 

軍令部。

 

一斉確認。

 

謎の海防艦。

 

最初は河口方向へ十二ノット前後で接近。

 

しかし、河口まで約四百メートルのところで急減速していた。

 

そのまま右へ変針。

 

河口進入は回避。

 

久瀬川第11回。

 

成立せず。

 

ただし。

 

問題は。

 

その艦。

 

所属不明。

 

艦番号表示。

 

なし。

 

国籍標識。

 

日本。

 

通信。

 

応答あり。

 

だが。

 

最初の交信。

 

『こちら久瀬川港湾管制。不明艦、艦名を知らせよ』

 

数秒。

 

返事。

 

若い少女の声。

 

『……艦名』

 

少し間。

 

『分かりません』

 

管制。

 

『艦番号は』

 

『八一三』

 

管制室。

 

誰も。

 

すぐには反応できなかった。

 

『もう一度』

 

『第813号艦です』

 

---

 

四 813

 

その番号。

 

軍令部。

 

即座に反応。

 

第813号艦。

 

玉野造船旧資料庫。

 

犬島後続艦計画。

 

犬島より約三十センチ長い。

 

全長。

 

約七十九・二メートル。

 

全幅。

 

九・二メートル。

 

十二糎単装砲。

 

三基。

 

二軸。

 

犬島の建造実績を反映した改良型。

 

しかし。

 

起工前。

 

計画中止。

 

実艦。

 

存在しない。

 

はずだった。

 

軍令部総長。

 

報告を聞く。

 

「813?」

 

「本人がそう名乗っています」

 

「本人?」

 

「艦娘と思われる人物も艦橋にいます」

 

「外見は」

 

参謀。

 

写真。

 

置く。

 

総長。

 

しばらく見る。

 

「……犬島?」

 

「似ています」

 

「犬島本人は」

 

「第一岸壁です」

 

総長。

 

「知っている」

 

---

 

五 謎の艦娘

 

監視艇。

 

接近。

 

そこで初めて。

 

謎の艦橋上にいる少女の姿が。

 

はっきり。

 

確認された。

 

犬島と。

 

よく似ていた。

 

髪。

 

黒に近い濃紺。

 

ただし犬島よりわずかに長い。

 

丸みを帯びたボブ。

 

瞳。

 

犬島と同じ。

 

瀬戸内の夕暮れを思わせる琥珀色。

 

白い半袖の水兵服。

 

紺のプリーツスカート。

 

襟。

 

淡い水色。

 

スカーフ。

 

犬島より少し青みの強い深緑。

 

右側。

 

花の髪留め。

 

ただし。

 

犬島の桃の花とは違う。

 

小さな藍色の花。

 

身長。

 

犬島より。

 

約三センチ高い。

 

ほんの少し。

 

だが。

 

並べば分かる程度。

 

実艦。

 

犬島より。

 

約三十センチ長い。

 

誰かが後に言った。

 

「全部、ちょっとだけ大きい犬島」

 

犬島本人はその表現を気に入らなかった。

 

そして。

 

謎の艦娘も気に入らなかった。

 

---

 

六 河口に入りかけた理由

 

第813号艦。

 

なぜ。

 

久瀬川にいたのか。

 

本人も。

 

分からなかった。

 

それより。

 

本人が最初に覚えていたもの。

 

海。

 

機関。

 

舵。

 

自分の艦。

 

そして。

 

一つの地名。

 

玉野。

 

午前十時少し前。

 

第813号艦は、久瀬川沖約三海里地点に突然現れた。

 

航跡。

 

それ以前。

 

なし。

 

レーダー。

 

ある瞬間までは何もない。

 

次の走査。

 

艦が一隻。

 

そこにいる。

 

第813号艦自身も。

 

気づいた時には。

 

航行していた。

 

速力。

 

約十五ノット。

 

機関。

 

正常。

 

舵。

 

正常。

 

ただ。

 

海図。

 

持っていない。

 

航路情報。

 

ない。

 

自分がどこにいるのかも。

 

最初は分からなかった。

 

目の前。

 

広い水面。

 

河口。

 

本人は。

 

それを。

 

港湾入口だと思った。

 

そこで。

 

艦首。

 

久瀬川へ。

 

向く。

 

しかし。

 

約四百メートル手前。

 

河口標識。

 

鉄道橋。

 

河川標識。

 

複数。

 

見えて。

 

違和感。

 

第813号艦。

 

減速。

 

「……ここ」

 

「港じゃない」

 

右転。

 

その直後。

 

港湾管制から。

 

不明艦として呼び出された。

 

つまり。

 

もし数十秒。

 

気づくのが遅ければ。

 

本当に。

 

久瀬川河口へ。

 

進入していた。

 

SNS。

 

この事実が判明。

 

«「犬島じゃないのに河口入りかけてるの何」»

 

«「813号艦、初登場から河口」»

 

«「犬島型の宿命なの?」»

 

犬島公式。

 

«型のせいにせんでください。»

 

---

 

七 名前

 

軍令部は。

 

第813号艦を。

 

安全な泊地へ。

 

誘導。

 

本人。

 

大人しい。

 

命令。

 

理解。

 

操艦。

 

問題なし。

 

接岸。

 

かなり上手い。

 

第813号艦本人は。

 

艦橋に立ったまま。

 

周囲を見る。

 

軍令部担当官。

 

「第813号艦」

 

「はい」

 

「艦名は」

 

少女。

 

首を少し横へ。

 

「分かりません」

 

「記憶にない?」

 

「番号は分かります」

 

「813」

 

「はい」

 

「建造所」

 

少女。

 

少し。

 

考える。

 

そして。

 

「玉野」

 

それだけ。

 

軍令部。

 

さらに確認。

 

艦体の構造。

 

第813号艦基本計画と。

 

ほぼ一致。

 

機関室。

 

点検口。

 

犬島より広い。

 

通風配置。

 

改良案通り。

 

補強位置。

 

「812実績ニヨリ補強位置変更」

 

と書かれた。

 

まさに。

 

あの設計。

 

違い。

 

一つ。

 

艦内銘板。

 

そこには。

 

第813号艦。

 

そして。

 

その下。

 

漢字二文字。

 

藍島

 

と刻まれていた。

 

---

 

八 「藍島」

 

軍令部。

 

玉野造船。

 

緊急協議。

 

資料に。

 

その艦名。

 

ない。

 

犬島が発見した旧資料にも。

 

候補名。

 

ない。

 

それでも。

 

目の前の実艦。

 

銘板。

 

「藍島」。

 

そして。

 

艦娘本人へ聞く。

 

「藍島という名前に心当たりは」

 

少女。

 

数秒。

 

黙る。

 

「……あります」

 

「自分の名前?」

 

「たぶん」

 

少し。

 

考える。

 

「藍島」

 

もう一度。

 

自分で言う。

 

その瞬間。

 

ほんの少し。

 

表情が変わった。

 

「はい」

 

「うちは」

 

「藍島です」

 

---

 

九 犬島へ伝わる

 

第一岸壁。

 

犬島。

 

提督。

 

犬島は。

 

第813号艦の資料。

 

すでに何度も見ている。

 

だから。

 

報告。

 

信じにくい。

 

「ほんまに813号なんですか」

 

「構造が一致している」

 

「全長」

 

「79.2メートル前後」

 

犬島。

 

「うちより三十センチ」

 

「ああ」

 

「中央部」

 

「玉野計画図と一致」

 

犬島。

 

黙る。

 

「艦娘もいる」

 

犬島。

 

「……どんなですか」

 

提督。

 

写真。

 

見せる。

 

犬島。

 

見る。

 

長い。

 

長い。

 

沈黙。

 

写真の少女。

 

自分に。

 

似ている。

 

でも。

 

違う。

 

犬島。

 

「……うち」

 

提督。

 

「何だ」

 

「こんな顔しとります?」

 

「かなり近い」

 

犬島。

 

少し不満。

 

「もうちょっと違うと思います」

 

---

 

十 犬島公式SNS・第二報

 

軍令部。

 

公開可能範囲。

 

決定。

 

犬島本人。

 

投稿。

 

«久瀬川河口にいた艦について、軍令部から公開許可が出た範囲で書きます。

 

あの艦は犬島ではありません。

 

玉野造船の資料庫で前に見つかった、犬島の後続姉妹艦として計画されていた「第813号艦」と構造が一致しています。

 

艦の銘板には「藍島」とあります。

 

艦娘本人も自分を藍島と認識しています。

 

犬島より実艦が約30cm長く、艦娘の藍島さんも、うちより3cmくらい大きいです。

 

何で実艦ごと現れたのかは、うちも軍令部も分かってません。

 

あと、久瀬川には入りませんでした。入りかけただけです。»

 

ネット。

 

大混乱。

 

«「813号艦?????」»

 

«「紙の妹が実体化した!?」»

 

«「藍島!?」»

 

«「本当に妹来た?」»

 

«「犬島より30cm長い」»

 

«「艦娘も3cm高いの細かい」»

 

«「それより久瀬川入りかけてるの笑う」»

 

犬島。

 

«そこを一番にせんでください。»

 

---

 

十一 「妹」

 

SNS。

 

当然。

 

一番増えた言葉。

 

妹。

 

«「犬島に妹ができた」»

 

«「犬島お姉ちゃん」»

 

«「紙の妹が本物になった」»

 

«「姉妹艦並べてほしい」»

 

犬島。

 

困る。

 

提督。

 

「嫌なのか」

 

「嫌じゃないですけど」

 

犬島。

 

端末。

 

見る。

 

「まだ会っとらんです」

 

「そうだな」

 

「本人が妹だと思っとるかも分かりません」

 

「犬島は?」

 

長い沈黙。

 

「……会ってからです」

 

---

 

十二 初対面

 

翌日。

 

呉鎮守府。

 

藍島。

 

入港。

 

第一岸壁。

 

犬島。

 

待つ。

 

藍島の実艦。

 

ゆっくり。

 

近づく。

 

横から見ると。

 

本当に。

 

似ている。

 

犬島の後続艦。

 

少しだけ長い艦首。

 

通風設備。

 

点検口。

 

補強位置。

 

でも。

 

全体。

 

犬島。

 

藍島。

 

姉妹。

 

そう見える。

 

犬島本人。

 

第一岸壁。

 

藍島本人。

 

自艦艦橋。

 

視線。

 

合う。

 

藍島。

 

岸壁へ。

 

降りる。

 

犬島。

 

近づく。

 

そして。

 

二人。

 

正面。

 

立つ。

 

三センチ。

 

藍島。

 

高い。

 

犬島。

 

上を見るほどではない。

 

ほんの少し。

 

視線。

 

違う。

 

藍島。

 

「犬島さん?」

 

犬島。

 

「はい」

 

「……似てます」

 

犬島。

 

少し。

 

固まる。

 

「それ」

 

「うちが言おうと思っとりました」

 

藍島。

 

小さく笑う。

 

---

 

十三 並ぶと分かる

 

時雨。

 

秋月。

 

雪風。

 

瑞鶴。

 

大和。

 

何人も。

 

見に来ていた。

 

雪風。

 

「ほんとに似てます!」

 

犬島。

 

「そこまでです?」

 

秋月。

 

「姉妹艦と言われれば納得します」

 

藍島。

 

犬島。

 

横並び。

 

髪色。

 

似る。

 

瞳。

 

似る。

 

制服。

 

近い。

 

スカーフ色。

 

微妙に違う。

 

髪留め。

 

犬島。

 

桃。

 

藍島。

 

藍。

 

身長差。

 

三センチ。

 

時雨。

 

「犬島を少し縦に伸ばしたみたい」

 

犬島。

 

「時雨さん」

 

藍島。

 

「うちも、その言い方はちょっと」

 

二人。

 

同時。

 

言う。

 

一瞬。

 

沈黙。

 

瑞鶴。

 

吹き出す。

 

「やっぱ姉妹じゃん」

 

---

 

十四 藍島は犬島を知っているのか

 

犬島。

 

一番気になっていたこと。

 

「藍島さん」

 

「はい」

 

「うちのこと」

 

「知っとりました?」

 

藍島。

 

考える。

 

「名前だけ」

 

「犬島?」

 

「はい」

 

「どういう艦かは」

 

「分かりませんでした」

 

「812号艦って」

 

藍島。

 

そこで。

 

犬島を見る。

 

「分かります」

 

犬島。

 

「……うちです」

 

藍島。

 

少し。

 

目を大きくする。

 

「じゃあ」

 

「はい」

 

「うち」

 

ほんの少し。

 

迷う。

 

「妹なんですか」

 

犬島。

 

困った。

 

周囲。

 

全員。

 

黙る。

 

犬島。

 

藍島。

 

見る。

 

「計画上なら」

 

少し。

 

間。

 

「たぶん」

 

藍島。

 

「たぶん?」

 

「うちも姉になるの初めてなので」

 

藍島。

 

それを聞いて。

 

少し笑った。

 

「うちも妹になるの初めてです」

 

犬島。

 

「それはそうです」

 

---

 

十五 公式の扱い

 

軍令部。

 

最終的に。

 

藍島。

 

正式確認。

 

第813号艦「藍島」

 

実艦。

 

計画図面との整合率。

 

極めて高い。

 

ただし。

 

一部。

 

原計画では未決定だった艤装。

 

完成状態。

 

存在。

 

建造記録。

 

なし。

 

進水記録。

 

なし。

 

竣工記録。

 

なし。

 

いつ。

 

どこで。

 

どう建造されたのか。

 

不明。

 

玉野造船。

 

現実には。

 

造っていない。

 

なのに。

 

艦内。

 

製造刻印。

 

玉野。

 

犬島。

 

資料担当者と一緒に。

 

その刻印を見る。

 

「……玉野です」

 

藍島。

 

「はい」

 

犬島。

 

「でも玉野では造ってないって」

 

「らしいです」

 

二人。

 

刻印。

 

見る。

 

犬島。

 

「変ですね」

 

藍島。

 

「変です」

 

---

 

十六 SNS上の最大の盛り上がり

 

そして。

 

公開された。

 

犬島と藍島。

 

並んだ写真。

 

第一岸壁。

 

後ろ。

 

二隻の実艦。

 

左。

 

犬島。

 

右。

 

藍島。

 

実艦でも。

 

約三十センチ。

 

差。

 

艦娘でも。

 

約三センチ。

 

差。

 

犬島公式SNS。

 

«藍島さんが呉へ来ました。

 

実際に会いました。

 

似とるとは思います。

 

でも同じではありません。

 

藍島さんの方が3cmくらい大きいです。実艦も約30cm長いです。

 

計画上は、うちの後に造る予定だった姉妹艦です。

 

本人と話した結果、今のところ妹ということでええそうです。

 

うちもそれでええです。»

 

SNS。

 

完全に。

 

祭り。

 

«「犬島がお姉ちゃんになった!!!」»

 

«「『うちもそれでええです』好き」»

 

«「藍島ちゃんかわいい」»

 

«「3cm差なのほんと姉妹」»

 

«「実艦の30cm差と艦娘の3cm差が対応してるみたいで面白い」»

 

«「紙の妹じゃなくなった」»

 

そして。

 

もちろん。

 

«「妹の初登場が久瀬川河口なの、犬島型すぎる。」»

 

犬島。

 

すぐ。

 

«そこは関係ありません。»

 

藍島。

 

自分の新しい公式SNS。

 

まだ。

 

開設していない。

 

だから。

 

犬島の端末を借りて。

 

一言。

 

«藍島です。あそこが久瀬川だとは知りませんでした。»

 

さらに。

 

«「姉から河口事故の説明受けた?」»

 

藍島。

 

«さっき10回分聞きました。多いです。»

 

犬島。

 

横。

 

「藍島さん」

 

「はい」

 

「多いですけど」

 

「はい」

 

「うちも多いと思っとります」

 

---

 

十七 久瀬川の現場では

 

一方。

 

久瀬川。

 

地元。

 

大騒ぎ。

 

最初。

 

「また犬島」。

 

次。

 

「犬島じゃない」。

 

そして。

 

「813号艦」。

 

最後。

 

「藍島」。

 

河口近くの作業員。

 

SNS。

 

«「犬島だと思って『また来た』って言っちゃった。別人だった。」»

 

別。

 

«「遠目だと本当に犬島にしか見えなかった」»

 

港湾管制。

 

内部。

 

担当者。

 

「犬島さんじゃないですか?」

 

藍島。

 

『違います』

 

「失礼しました」

 

という。

 

通信記録まで。

 

残った。

 

犬島。

 

後で聞く。

 

「間違われたんですか」

 

藍島。

 

「はい」

 

「嫌でした?」

 

「まだ犬島さん知らなかったので、誰だろうと思いました」

 

犬島。

 

「これからも間違われそうです」

 

藍島。

 

犬島。

 

見る。

 

「じゃあ」

 

「はい」

 

「髪留め違うので」

 

犬島。

 

自分の桃。

 

藍島。

 

藍色の花。

 

「そこ見てもらいましょう」

 

犬島。

 

「遠くから見えんです」

 

---

 

十八 性格は少し違う

 

似ている。

 

でも。

 

性格。

 

違う。

 

犬島。

 

静か。

 

実務的。

 

少し慎重。

 

事故。

 

多い。

 

工具。

 

好き。

 

藍島。

 

同じく穏やか。

 

ただし。

 

犬島より少し。

 

好奇心が強い。

 

知らないもの。

 

すぐ見る。

 

聞く。

 

触れる前に確認。

 

そして。

 

少しだけ。

 

犬島より。

 

言葉が柔らかい。

 

藍島。

 

犬島の工具箱を見る。

 

「これは何ですか」

 

犬島。

 

「ラチェットです」

 

「使っていいです?」

 

犬島。

 

一瞬。

 

嬉しそう。

 

「はい」

 

五分後。

 

二人。

 

工具。

 

話。

 

止まらない。

 

時雨。

 

「やっぱり姉妹だね」

 

犬島。

 

今回は。

 

否定しなかった。

 

---

 

十九 813号艦の改善点

 

犬島。

 

藍島実艦。

 

見学。

 

中央部。

 

犬島で。

 

整備しにくかった箇所。

 

藍島。

 

広い。

 

犬島。

 

「……ええですね」

 

藍島。

 

「何がですか」

 

「ここ」

 

点検口。

 

「うち、狭いんです」

 

藍島。

 

「そうなんです?」

 

犬島。

 

「資料で分かっとりましたけど」

 

少し。

 

羨ましそう。

 

「実物見ると」

 

藍島。

 

「交換します?」

 

犬島。

 

「できません」

 

藍島。

 

「残念です」

 

犬島。

 

少し笑う。

 

補強位置。

 

通風配置。

 

通信設備。

 

犬島の不便。

 

藍島では。

 

少し。

 

改善。

 

犬島。

 

「ちゃんと次が良くなっとります」

 

藍島。

 

「犬島さんのおかげですか」

 

犬島。

 

一瞬。

 

止まる。

 

そして。

 

小さく。

 

「そうかもしれません」

 

---

 

二十 姉妹として最初の夜

 

第一岸壁。

 

犬島。

 

第二岸壁。

 

藍島。

 

二隻。

 

並ぶ。

 

夜。

 

艦橋。

 

犬島。

 

藍島。

 

岸壁。

 

真ん中。

 

二人。

 

海。

 

見る。

 

藍島。

 

「犬島さん」

 

「はい」

 

「うち」

 

少し。

 

考える。

 

「どこから来たんでしょう」

 

犬島。

 

「分かりません」

 

「玉野で造った記憶」

 

「あるんですけど」

 

「でも造ってないそうです」

 

「はい」

 

藍島。

 

「変ですね」

 

犬島。

 

「かなり」

 

少し。

 

沈黙。

 

藍島。

 

「いてもいいですか」

 

犬島。

 

藍島を見る。

 

「どこに?」

 

「ここに」

 

犬島。

 

第一岸壁。

 

第二岸壁。

 

呉鎮守府。

 

見る。

 

「軍令部が決めるところもありますけど」

 

少し。

 

間。

 

「うちは」

 

「おってほしいです」

 

藍島。

 

「妹だから?」

 

犬島。

 

困る。

 

「それ」

 

「まだちょっと慣れんです」

 

藍島。

 

笑う。

 

「うちもです」

 

---

 

二十一 翌朝の犬島公式SNS

 

写真。

 

朝。

 

第一岸壁。

 

第二岸壁。

 

犬島。

 

藍島。

 

二隻。

 

並ぶ。

 

«おはようございます。

 

昨日急に第813号艦の藍島さんが来ました。

 

まだ分からんことが多いです。

 

でも、今朝もおります。

 

うちは第一岸壁、藍島さんは第二岸壁です。

 

久瀬川にはどっちもおりません。»

 

ネット。

 

«「最後の確認大事」»

 

«「犬島姉妹かわいい」»

 

«「藍島公式アカウントは?」»

 

犬島。

 

«軍令部が準備中です。»

 

«「犬島が教えてあげるの?」»

 

«事故投稿の書き方は教えたくありません。»

 

SNS。

 

大笑い。

 

«「藍島には事故起きないでくれ」»

 

犬島。

 

その投稿へ。

 

「いいね」。

 

---

 

二十二 そして、問題の質問

 

ある人。

 

«「藍島さん、久瀬川河口に入りかけた時どう思いました?」»

 

犬島。

 

横。

 

藍島へ見せる。

 

藍島。

 

少し。

 

考える。

 

犬島公式経由。

 

«藍島です。港の入口だと思いました。途中で橋と河川標識が見えて違うと思ったので止まりました。»

 

返信。

 

«「犬島より普通の理由だった」»

 

犬島。

 

「どういう意味です?」

 

«「姉は10回全部理由が濃いから」»

 

犬島。

 

返信しようとする。

 

藍島。

 

「犬島さん」

 

「はい」

 

「やめときません?」

 

犬島。

 

止まる。

 

「……はい」

 

提督。

 

少し離れたところ。

 

笑う。

 

犬島。

 

藍島。

 

同時。

 

見る。

 

「笑わんでください」

 

また。

 

同時。

 

提督。

 

さらに笑った。

 

---

 

二十三 玉野へ

 

数週間後。

 

二隻。

 

玉野。

 

宇野港。

 

入港。

 

犬島。

 

先。

 

藍島。

 

後。

 

岸壁。

 

人。

 

大勢。

 

SNS。

 

«「犬島と813号艦が玉野に帰ってきた」»

 

«「藍島も玉野を故郷だと思ってるのかな」»

 

一般公開。

 

犬島。

 

藍島。

 

並ぶ。

 

地元の年配女性。

 

犬島へ。

 

「おかえり」

 

犬島。

 

「ただいまです」

 

そして。

 

藍島へ。

 

「あなたも、おかえり」

 

藍島。

 

一瞬。

 

止まる。

 

犬島。

 

横。

 

見守る。

 

藍島。

 

少し。

 

笑う。

 

「……ただいまです」

 

犬島。

 

その瞬間。

 

かなり。

 

嬉しそうだった。

 

---

 

二十四 犬島公式SNS・玉野投稿

 

夕方。

 

宇野港。

 

二隻。

 

並ぶ。

 

投稿。

 

«藍島さんと玉野へ来ました。

 

前に813号艦の資料を見つけた場所です。

 

あの時は図面しかありませんでした。

 

今は隣におります。

 

理由はまだ分かりません。

 

でも玉野の人から、藍島さんにも「おかえり」と言ってもらえました。

 

うちは、それが良かったです。»

 

反応。

 

«「紙の妹が故郷に帰ってきた」»

 

«「犬島うれしそう」»

 

«「第813号艦の資料見つけた時の話から繋がるとすごい」»

 

«「藍島が本当に妹になったんだな」»

 

そして。

 

一件。

 

«「最初は『犬島また久瀬川か』から始まったのに、とんでもない話になった。」»

 

犬島。

 

それを見て。

 

少し。

 

笑う。

 

「ほんまですね」

 

---

 

終章 久瀬川第11回は成立せず

 

軍令部。

 

記録上。

 

久瀬川河口進入事故。

 

犬島。

 

第1回から第10回。

 

そのまま。

 

第11回。

 

なし。

 

ただし。

 

注記。

 

«第813号艦「藍島」出現時、久瀬川河口へ約400mまで接近。

 

河口進入前に本人判断で減速・変針。

 

事故なし。»

 

犬島。

 

それを見る。

 

「これ」

 

提督。

 

「何だ」

 

「うちの河口事故記録に入れんでください」

 

「犬島の記録には入っていない」

 

「藍島さんのところ?」

 

「ああ」

 

犬島。

 

安心。

 

藍島。

 

横。

 

「うち」

 

「初日の記録が河口なんですね」

 

犬島。

 

少し。

 

言葉。

 

詰まる。

 

「……まあ」

 

藍島。

 

犬島を見る。

 

「姉妹ですね」

 

犬島。

 

すぐ。

 

「そこは似んでええです」

 

藍島。

 

笑う。

 

犬島も。

 

少し笑った。

 

第一岸壁。

 

海防艦犬島。

 

第二岸壁。

 

海防艦藍島。

 

実艦。

 

約三十センチ差。

 

艦娘。

 

約三センチ差。

 

似ている。

 

でも。

 

同じではない。

 

計画だけだった第813号艦。

 

「妹になったかもしれない艦」。

 

それが。

 

この世界線では。

 

ある日突然。

 

久瀬川河口へ入りかけながら。

 

本当に。

 

犬島の隣へ。

 

やってきた。

 

犬島公式SNS。

 

その日の最後。

 

«今日も藍島さんはおります。

 

うちもおります。

 

河口にはおりません。

 

それでええです。»

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