海防艦 犬島   作:重装甲空母信濃

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藍島が現れて3日後性能の違いを確認する為出港。確認終了後帰還している途中で犬島藍島2隻揃って重大事故(両艦共に過失無しで理由は衝突以外で)


犬島藍島試験

海防艦・犬島/藍島

 

――姉妹艦、初めて一緒に壊れる――

 

第813号艦出現3日目・海底ガス噴出遭遇事故

 

※メインストーリーとは別世界線

 

第813号艦「藍島」が久瀬川河口へ入りかけながら、この世界へ現れてから三日。

 

軍令部は、そろそろ一つの問題を確かめなければならなかった。

 

藍島は、本当に犬島の後続姉妹艦なのか。

 

図面は一致する。

 

全長も計画どおり、犬島の七十八・九メートルに対し藍島は約七十九・二メートル。

 

全幅は同じ九・二メートル。

 

主砲配置も三基の十二糎単装砲。

 

二軸推進。

 

機関出力も近い。

 

だが、紙の計画と実際の性能が同じとは限らない。

 

何より、藍島は「いつ、どこで、どう建造されたか」が分からない艦だった。

 

だからこそ、実際に海へ出して確かめる必要があった。

 

そして軍令部は当然のように、比較対象として犬島を選んだ。

 

犬島本人は、その指示書を読んで少しだけ嬉しそうだった。

 

「一緒に航るんですね」

 

提督が頷く。

 

「藍島の性能を確認するなら、お前と比較するのが一番分かりやすい」

 

「うちの改良型ですからね」

 

少し間を置いて、

 

「たぶん」

 

と付け加える。

 

三日前なら、その「たぶん」はもっと大きかった。

 

今は少しだけ小さい。

 

犬島自身も、藍島を「妹」と呼ぶことに慣れ始めていた。

 

---

 

一 姉妹艦、初の性能確認航海

 

午前七時四十分。

 

呉鎮守府。

 

第一岸壁。

 

犬島。

 

第二岸壁。

 

藍島。

 

二隻の実艦が並んでいた。

 

遠目にはかなり似ている。

 

しかし横から並べると、藍島の方が艦首から艦尾までわずかに伸びている。

 

三十センチ。

 

艦艇として見れば小さな差。

 

だが、姉妹艦比較では意外と目立つ。

 

艦橋には、それぞれ本人。

 

犬島。

 

白い半袖の水兵服、紺色のプリーツスカート、深緑のスカーフ、桃の花の髪留め。

 

藍島。

 

よく似た制服。

 

ただしスカーフは少し青みが強く、髪留めは藍色の小さな花。

 

艦娘としての身長も藍島が約三センチ高い。

 

藍島が無線を入れる。

 

『犬島さん』

 

「はい」

 

『今日、どっちが速いですかね』

 

犬島。

 

少し考える。

 

「たぶん藍島さんです」

 

『なんでです?』

 

「うちを見て改良しとるんでしょう」

 

『でも機関出力は近いです』

 

「船体が少し長いですから」

 

藍島。

 

少し楽しそう。

 

『じゃあ勝負ですね』

 

犬島。

 

「試験です」

 

『はい』

 

少し間。

 

『試験で勝負ですね』

 

犬島。

 

「藍島さん」

 

提督は、このやり取りを聞きながら少し笑っていた。

 

---

 

二 速力試験

 

午前九時十二分。

 

試験海域。

 

海況。

 

良好。

 

風。

 

北東約四メートル毎秒。

 

波高。

 

〇・六メートル。

 

視程。

 

十二海里以上。

 

まずは十五ノット。

 

犬島。

 

藍島。

 

並航。

 

次。

 

十八ノット。

 

問題なし。

 

そして。

 

全力運転。

 

犬島。

 

計測。

 

二十・四ノット。

 

藍島。

 

二十・七ノット。

 

藍島。

 

無線。

 

『勝ちました』

 

犬島。

 

「〇・三ノットです」

 

『勝ちは勝ちです』

 

犬島。

 

「機関温度見てください」

 

『正常です』

 

「軸受」

 

『正常』

 

「振動」

 

藍島。

 

少し。

 

笑う。

 

『犬島さん、負け惜しみです?』

 

犬島。

 

「性能試験です!」

 

測定員。

 

思わず笑う。

 

結果。

 

藍島。

 

最高速力。

 

犬島より。

 

わずかに高い。

 

---

 

三 旋回性能

 

次。

 

右旋回。

 

犬島。

 

舵角。

 

三十五度。

 

旋回径。

 

測定。

 

藍島。

 

同条件。

 

結果。

 

藍島の方が。

 

ほんの少し。

 

大きい。

 

犬島。

 

「今度はうちです」

 

藍島。

 

『何が?』

 

「旋回径」

 

『小さい方が勝ちです?』

 

「さっき勝負って言いましたよね」

 

『言いました』

 

犬島。

 

「じゃあ一勝一敗です」

 

藍島。

 

少し笑う。

 

『犬島さん、意外と負けず嫌いですね』

 

犬島。

 

「普通です」

 

---

 

四 制動

 

前進十八ノット。

 

全力後進。

 

停止距離。

 

犬島。

 

短い。

 

藍島。

 

約一・五パーセント長い。

 

ただし、藍島は停止中の艦首振れが少ない。

 

機関制御。

 

藍島。

 

やや滑らか。

 

犬島。

 

少しだけ。

 

羨ましい。

 

「やっぱり改良されとります」

 

『どこがです?』

 

「機関応答」

 

『犬島さんより楽です』

 

犬島。

 

「それ、うちで分かったこと使っとるんですからね」

 

『ありがとうございます、お姉ちゃん』

 

犬島。

 

無線。

 

止まる。

 

数秒。

 

『犬島さん?』

 

「……急に言わんでください」

 

藍島。

 

笑う。

 

『分かりました』

 

犬島。

 

少し間。

 

「でも」

 

『はい』

 

「嫌ではないです」

 

---

 

五 砲・通信・操艦

 

その後も試験。

 

主砲旋回。

 

藍島。

 

中央十二糎砲周辺。

 

通風設備。

 

犬島より扱いやすい。

 

通信設備空間。

 

余裕あり。

 

機関室の点検口。

 

やはり広い。

 

犬島。

 

感想。

 

「実物見るたびに、ちょっと羨ましいです」

 

藍島。

 

『犬島さんが先にいてくれたからです』

 

犬島。

 

返事。

 

少し遅い。

 

「そういう言い方されたら」

 

『はい』

 

「羨ましいって言いにくいです」

 

藍島。

 

『じゃあ言わなくていいです』

 

犬島。

 

「でも羨ましいです」

 

二隻。

 

性能確認。

 

順調。

 

重大異常。

 

なし。

 

軍令部。

 

中間評価。

 

«第813号艦「藍島」は、第812号艦「犬島」と同等以上の基本性能を有する。

 

高速時の安定性・機関整備性に小幅な改善。

 

一方、旋回性および制動距離では犬島がわずかに優位。»

 

犬島。

 

結果を見る。

 

「ちゃんと姉妹ですね」

 

藍島。

 

「はい」

 

---

 

六 帰還

 

午後二時三十五分。

 

全試験。

 

終了。

 

犬島。

 

藍島。

 

呉へ。

 

帰投開始。

 

犬島。

 

左。

 

藍島。

 

右。

 

間隔。

 

約四百メートル。

 

速力。

 

十二ノット。

 

天候。

 

変化なし。

 

海面。

 

穏やか。

 

犬島。

 

「今日は」

 

藍島。

 

『はい』

 

「何もなく終わりそうです」

 

藍島。

 

『まだ帰ってませんよ』

 

犬島。

 

少し。

 

止まる。

 

「そういうこと言わん方がええです」

 

『なんでです?』

 

「何となくです」

 

藍島。

 

『分かりました』

 

その約七分後。

 

犬島は。

 

海底から。

 

妙な音を感じた。

 

---

 

七 下から聞こえる音

 

午後二時四十二分。

 

犬島。

 

表情。

 

変わる。

 

ごご。

 

小さな。

 

低周波。

 

犬島。

 

「藍島さん」

 

『はい』

 

「艦底で何か感じません?」

 

少し。

 

間。

 

藍島。

 

『……あります』

 

「機関?」

 

『違います』

 

犬島。

 

同意。

 

「うちもです」

 

海底。

 

水深。

 

約九十八メートル。

 

既知の岩礁。

 

なし。

 

海底工事。

 

なし。

 

潜水艦。

 

なし。

 

地震速報。

 

なし。

 

その直後。

 

海面。

 

変わった。

 

犬島の右側。

 

藍島の左側。

 

二隻の間。

 

ぶく。

 

最初。

 

小さな泡。

 

次。

 

数十メートル。

 

さらに。

 

百メートル。

 

海面が。

 

白く。

 

泡立ち始めた。

 

犬島。

 

「……何ですか、これ」

 

藍島。

 

『泡?』

 

次の瞬間。

 

二隻とも。

 

同じ違和感。

 

船体。

 

急に。

 

沈み始めた。

 

---

 

八 浮力が消える

 

犬島。

 

「え」

 

喫水。

 

一気に。

 

深くなる。

 

通常。

 

水面下にあるべき位置より。

 

さらに下。

 

藍島。

 

同じ。

 

『犬島さん、沈んでます!』

 

「うちもです!」

 

機関。

 

正常。

 

浸水警報。

 

なし。

 

船底破損。

 

なし。

 

なのに。

 

沈む。

 

犬島。

 

すぐ。

 

機関。

 

前進強速。

 

しかし。

 

浮力そのものが。

 

弱い。

 

海水。

 

大量の気泡。

 

混ざる。

 

密度。

 

低下。

 

船体を支える力が。

 

急激に。

 

減る。

 

犬島。

 

「これ、海水が軽い……?」

 

藍島。

 

『そんなことあります!?』

 

犬島。

 

「今あります!」

 

二隻。

 

さらに沈む。

 

甲板端。

 

水面。

 

近い。

 

犬島。

 

「外へ出ます!」

 

藍島。

 

『どっちへ!?』

 

犬島。

 

泡の分布を見る。

 

西。

 

薄い。

 

「左!」

 

二隻。

 

左へ。

 

変針。

 

だが。

 

次の瞬間。

 

海底から。

 

巨大なガス塊。

 

噴出。

 

---

 

九 最初の落下

 

海底。

 

堆積層下。

 

長期間。

 

閉じ込められていた。

 

大量の天然ガス。

 

主にメタン。

 

その上部。

 

海底斜面。

 

自然崩壊。

 

ガス溜まり。

 

破断。

 

一気。

 

放出。

 

海中。

 

巨大な気泡群。

 

その真上。

 

犬島。

 

藍島。

 

海水密度。

 

急低下。

 

二隻。

 

まるで。

 

海が。

 

船を支えることをやめたように。

 

沈む。

 

ただし。

 

完全に沈没する前。

 

ガス域。

 

移動。

 

犬島艦首。

 

先に。

 

通常海水へ。

 

浮力。

 

突然。

 

戻る。

 

艦首。

 

強く。

 

持ち上がる。

 

艦尾。

 

まだ。

 

低密度水。

 

沈んだまま。

 

船体。

 

縦方向。

 

大きく。

 

曲げられる。

 

犬島。

 

「っ――!」

 

艦中央。

 

ぎぎぎ。

 

大きな。

 

金属音。

 

藍島も。

 

ほぼ同時。

 

『痛っ……!』

 

犬島。

 

「藍島さん!」

 

『おります!』

 

次。

 

逆。

 

艦尾。

 

高密度水へ。

 

艦首。

 

ガス域。

 

船体。

 

今度。

 

反対方向。

 

曲げ。

 

---

 

十 姉妹艦、二隻同時に壊れる

 

犬島。

 

艦中央部。

 

主甲板。

 

横方向に。

 

座屈線。

 

発生。

 

左舷外板。

 

複数。

 

縦皺。

 

中央十二糎砲。

 

基部。

 

歪み。

 

艦橋。

 

前後方向。

 

大きく振動。

 

犬島本人。

 

思わず。

 

艦橋手すりを掴む。

 

「……また中央です」

 

藍島。

 

犬島より。

 

長い。

 

三十センチ。

 

それだけ。

 

だが。

 

縦曲げ荷重。

 

少し。

 

大きく受ける。

 

第813号艦。

 

中央部。

 

補強位置。

 

犬島の建造実績から。

 

改善。

 

その補強。

 

今回は。

 

役に立った。

 

しかし。

 

無傷。

 

ではない。

 

藍島。

 

主甲板。

 

中央部。

 

約十二メートルにわたり。

 

緩やかに。

 

上へ。

 

曲がる。

 

艦底。

 

逆方向。

 

変形。

 

第一機関室。

 

配管支持。

 

複数。

 

破損。

 

右舷軸。

 

振動。

 

増加。

 

藍島。

 

「犬島さん」

 

「はい!」

 

「うち」

 

少し。

 

声。

 

震える。

 

「曲がりました」

 

犬島。

 

自分も。

 

船体を感じる。

 

「うちもです」

 

---

 

十一 第二の噴出

 

まだ終わらない。

 

午後二時四十三分十一秒。

 

第二ガス噴出。

 

今度。

 

犬島左後方。

 

藍島。

 

真下。

 

藍島の艦体。

 

急に。

 

さらに沈む。

 

犬島。

 

「藍島!」

 

藍島。

 

『大丈夫です!』

 

だが。

 

声。

 

大丈夫ではない。

 

藍島。

 

甲板。

 

一時。

 

右舷側。

 

海水。

 

越える。

 

最大傾斜。

 

二十四度。

 

犬島。

 

即座に。

 

右転。

 

藍島側へ。

 

近づこうとする。

 

しかし。

 

提督。

 

通信。

 

『犬島、接近するな!』

 

犬島。

 

「でも!」

 

『二隻とも同じガス域に入る!』

 

犬島。

 

止まる。

 

藍島。

 

『犬島さん、来なくていいです!』

 

「……」

 

『自分で出ます!』

 

犬島。

 

少し。

 

迷う。

 

それでも。

 

「分かりました」

 

藍島。

 

左舷機関。

 

強速。

 

右舷。

 

振動。

 

大きい。

 

停止。

 

一軸。

 

それでも。

 

少しずつ。

 

ガス域。

 

脱出。

 

犬島も。

 

別方向。

 

外へ。

 

---

 

十二 通常海水

 

午後二時四十四分五十秒。

 

犬島。

 

通常海水。

 

浮力。

 

安定。

 

次。

 

藍島。

 

戻る。

 

二隻。

 

浮いている。

 

ただし。

 

姿。

 

明らかに。

 

おかしい。

 

犬島。

 

中央部。

 

船体。

 

わずかに。

 

下向きへ。

 

撓む。

 

藍島。

 

逆。

 

中央部。

 

少し。

 

上向き。

 

つまり。

 

犬島。

 

サギング。

 

藍島。

 

ホギング。

 

同じ自然現象。

 

それでも。

 

ガス域に入った角度とタイミングが違い。

 

壊れ方。

 

逆。

 

犬島。

 

藍島を見る。

 

「浮いとります?」

 

藍島。

 

『はい』

 

「機関」

 

『左だけ正常。右は止めます』

 

「浸水」

 

『前部機関区画横で少し。隔壁で止まってます』

 

犬島。

 

自分。

 

確認。

 

「うちは両機関動きます」

 

少し間。

 

「でも船体が」

 

提督。

 

『犬島、無理に速力を出すな』

 

「はい」

 

『藍島もだ』

 

『……はい』

 

---

 

十三 性能差試験の直後

 

二隻。

 

朝。

 

どちらが速い。

 

どちらが回る。

 

どちらが止まる。

 

比較していた。

 

午後。

 

どちらも。

 

六ノット以上。

 

出すな。

 

それが。

 

軍令部からの命令。

 

犬島。

 

無線。

 

「藍島さん」

 

『はい』

 

「朝、〇・三ノット勝ったって言っとりましたね」

 

藍島。

 

少し。

 

間。

 

『言いました』

 

「今」

 

『はい』

 

「二隻とも六ノットです」

 

藍島。

 

少し。

 

笑う。

 

『引き分けですね』

 

犬島。

 

「これは勝負に入れんでください」

 

その声。

 

二人とも。

 

少しだけ。

 

落ち着いた。

 

---

 

十四 救援到着

 

曳船。

 

三隻。

 

工廠支援船。

 

一隻。

 

救難艦。

 

一隻。

 

到着。

 

海底ガス噴出区域。

 

臨時航行禁止。

 

犬島。

 

前後。

 

曳航索。

 

藍島。

 

同様。

 

犬島。

 

自航能力。

 

あり。

 

しかし。

 

船体中央部。

 

縦強度。

 

低下。

 

自力帰投。

 

禁止。

 

藍島。

 

右舷推進軸。

 

使用停止。

 

同じく。

 

曳航。

 

犬島。

 

少し。

 

悔しそう。

 

「初めて一緒に出たのに」

 

藍島。

 

『はい』

 

「帰り」

 

藍島。

 

『二隻とも曳かれて帰りますね』

 

犬島。

 

「……そうですね」

 

少し間。

 

藍島。

 

『でも』

 

「はい」

 

『一緒に帰れます』

 

犬島。

 

その言葉に。

 

少し。

 

笑う。

 

「はい」

 

---

 

十五 呉鎮守府

 

午後六時三十四分。

 

最初。

 

犬島。

 

入港。

 

その後。

 

藍島。

 

二隻。

 

低速。

 

曳船付き。

 

第一岸壁。

 

第二岸壁。

 

朝。

 

そこから。

 

並んで出た。

 

今。

 

また。

 

並んで戻る。

 

ただし。

 

犬島。

 

中央部。

 

明らかな座屈。

 

藍島。

 

中央甲板。

 

盛り上がるような変形。

 

時雨。

 

秋月。

 

大和。

 

瑞鶴。

 

何人も。

 

岸壁。

 

待つ。

 

瑞鶴。

 

最初。

 

二隻を見る。

 

「……三日目だよね?」

 

犬島。

 

「はい」

 

「藍島が来て」

 

「三日目です」

 

瑞鶴。

 

「もう二隻揃って大事故?」

 

犬島。

 

少し。

 

言葉。

 

詰まる。

 

藍島。

 

「はい」

 

犬島。

 

「嬉しそうに言わんでください」

 

「嬉しくないです」

 

---

 

十六 損傷確認――犬島

 

ドック。

 

犬島。

 

詳細。

 

艦中央部主甲板

 

約十五メートル。

 

縦方向座屈。

 

最大沈下。

 

約四十二センチ。

 

左舷中央部外板

 

複数フレーム間で。

 

圧縮皺。

 

フレーム。

 

五本。

 

交換必要。

 

艦底縦通材

 

二本。

 

塑性変形。

 

中央十二糎砲

 

基部。

 

水平面から約一・八度傾斜。

 

使用禁止。

 

通風設備

 

二系統破損。

 

機関

 

左右。

 

本体正常。

 

ただし。

 

軸芯。

 

再測定必要。

 

浸水

 

小規模。

 

三か所。

 

全て隔壁内。

 

沈没危険。

 

なし。

 

船体破断。

 

なし。

 

修理期間。

 

推定。

 

四十一日。

 

犬島。

 

報告書。

 

見る。

 

「四十一日」

 

工員。

 

「大事故だぞ」

 

犬島。

 

「藍島さんは?」

 

---

 

十七 損傷確認――藍島

 

藍島。

 

犬島より。

 

少し。

 

重い。

 

艦中央主甲板

 

約十二メートル。

 

上向き変形。

 

最大隆起。

 

約三十八センチ。

 

艦底中央部

 

局部圧縮。

 

縦通材。

 

三本。

 

交換。

 

第一機関室

 

配管支持架。

 

十一か所。

 

破損。

 

右舷推進軸

 

軸芯。

 

ずれ。

 

約十六ミリ。

 

使用禁止。

 

中央十二糎砲

 

旋回環。

 

局部変形。

 

旋回不能。

 

右舷外板

 

軽微な浸水。

 

二区画。

 

艦橋構造

 

大きな損傷。

 

なし。

 

船体主構造

 

修復可能。

 

修理期間。

 

推定。

 

四十七日。

 

藍島。

 

「犬島さんより六日長いです」

 

犬島。

 

「勝負じゃありません」

 

藍島。

 

「はい」

 

少し間。

 

「でも負けました」

 

犬島。

 

「藍島さん」

 

---

 

十八 事故原因

 

翌日。

 

海底地質調査。

 

ガス濃度。

 

海底音響データ。

 

地震観測。

 

分析。

 

事故地点。

 

旧海底谷。

 

その下。

 

有機物。

 

多い。

 

堆積層。

 

長期間。

 

メタン。

 

蓄積。

 

通常。

 

上部の粘土層。

 

封じ込め。

 

ところが。

 

事故数日前。

 

遠方。

 

小規模地震。

 

地表震度。

 

ほぼ感じない。

 

しかし。

 

海底。

 

封圧層に。

 

亀裂。

 

徐々に。

 

ガス。

 

移動。

 

最後。

 

堆積層。

 

局所崩壊。

 

大量放出。

 

事前兆候。

 

水面。

 

なし。

 

海図。

 

なし。

 

航行警報。

 

なし。

 

既存海底調査でも。

 

危険ガス溜まり。

 

確認されていない。

 

犬島。

 

藍島。

 

指定航路。

 

正常。

 

速力。

 

正常。

 

間隔。

 

四百メートル。

 

適切。

 

双方。

 

操艦上。

 

過失なし。

 

軍令部。

 

公式結論。

 

«海底堆積層崩壊に伴う天然ガス大量噴出により、局所的に海水密度が低下し、両艦が急激な浮力変動を受けたことが主原因。

 

海防艦犬島および海防艦藍島に操艦・運用上の過失は認められない。

 

両艦間の接触は発生していない。»

 

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十九 犬島公式SNS・第一報

 

事故当日。

 

午後七時二十分。

 

犬島公式SNS。

 

投稿。

 

写真。

 

第一岸壁。

 

中央部がわずかに沈み込んだ犬島実艦。

 

その奥。

 

第二岸壁。

 

中央部が逆に少し持ち上がった藍島。

 

«今日、藍島さんとの性能確認航海から帰る途中で、二隻とも重大事故になりました。

 

海底から大量のガスが噴き出して、海水にたくさん気泡が混ざったことで、一時的に浮力が大きく減ったそうです。

 

犬島と藍島さんはお互いにぶつかっていません。ほかの船にもぶつかっていません。

 

犬島は艦中央部が下向きに曲がり、藍島さんは逆に中央部が上向きに曲がっています。

 

二隻とも浮いています。

 

けが人はいません。

 

原因は詳しく調査中です。

 

藍島さんが来て3日目ですが、一緒に壊れました。»

 

SNS。

 

反応。

 

一気に。

 

«「3日目!?」»

 

«「姉妹艦そろって!?」»

 

«「衝突じゃないのに船体曲がるの怖すぎる」»

 

«「犬島は下向き、藍島は上向きなの何」»

 

«「性能比較した日に修理期間まで比較することになるとは」»

 

そして。

 

かなり広がった一件。

 

«「姉妹艦としての初共同任務が、性能試験→二隻同時大破なの犬島の妹すぎる。」»

 

犬島。

 

«藍島さんのせいではありません。»

 

返信。

 

«「そういう意味じゃない」»

 

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二十 藍島、初めて犬島公式SNSに自分で書く

 

まだ。

 

藍島公式アカウント。

 

準備中。

 

だから。

 

犬島。

 

端末。

 

貸す。

 

犬島公式SNS。

 

追記。

 

«ここから藍島さんです。»

 

続き。

 

«藍島です。

 

今日は犬島さんと速力、旋回、制動、機関などを比べました。

 

速力はうちが0.3ノットくらい速かったです。

 

旋回と制動は犬島さんの方が少し良かったです。

 

帰りに海底からガスが出て二隻とも曲がりました。

 

右舷軸は今使えませんが、うちは元気です。

 

犬島さんもおります。

 

比較試験自体は成功だったそうです。事故は試験とは関係ありません。»

 

SNS。

 

«「最後まで性能試験の報告ちゃんとしてる」»

 

«「藍島、犬島よりちょっと文章が素直」»

 

«「0.3ノット勝ったの書くんだ」»

 

犬島。

 

横から。

 

「そこ書く必要あります?」

 

藍島。

 

「性能確認なので」

 

「……そうですね」

 

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二十一 事故写真

 

翌日。

 

軍令部。

 

公開許可。

 

犬島公式SNS。

 

比較写真。

 

一枚目。

 

犬島。

 

横から。

 

中央部がわずかに下へ撓んでいる。

 

二枚目。

 

藍島。

 

中央部が逆に上へ持ち上がっている。

 

三枚目。

 

事故前。

 

二隻。

 

並航。

 

ほぼ同じ姿。

 

投稿。

 

«写真1枚目が犬島です。中央部が下向きに約42cm変形しています。

 

2枚目が藍島さんです。中央部が上向きに約38cm変形しています。

 

3枚目が事故前です。

 

同じ場所を通りましたが、ガス域へ入ったタイミングが少し違ったため、逆向きに曲がったそうです。

 

二隻とも修理できます。»

 

反応。

 

«「姉妹で曲がり方まで逆なのか」»

 

«「事故前写真との違い分かりやすい」»

 

«「藍島の補強って今回効いたの?」»

 

この質問。

 

犬島。

 

専門担当から。

 

回答確認。

 

投稿。

 

«効いたそうです。

 

犬島の建造実績から変えた補強位置が、藍島さんの中央部の破断を防いだ可能性が高いそうです。»

 

SNS。

 

雰囲気。

 

少し。

 

変わる。

 

«「812実績により補強位置変更、実際に妹を守ったのか」»

 

«「犬島を造った経験が藍島を助けたんだ」»

 

«「これ姉妹艦としてすごく大きい話では」»

 

犬島。

 

その反応を。

 

長く。

 

見ていた。

 

---

 

二十二 犬島の感想

 

提督。

 

「どうした」

 

犬島。

 

「藍島さん」

 

「うん」

 

「うちで分かった補強」

 

「役に立ったんですね」

 

「そうらしい」

 

犬島。

 

少し。

 

笑う。

 

「よかったです」

 

「自分も大破しているが」

 

「それは直します」

 

即答。

 

「藍島さんが折れんかった方が大事です」

 

提督。

 

「姉らしくなったな」

 

犬島。

 

一瞬。

 

黙る。

 

少し。

 

照れたように。

 

「……そうですかね」

 

---

 

二十三 藍島の感想

 

第二岸壁。

 

藍島。

 

犬島。

 

二人。

 

実艦。

 

並ぶ。

 

どちらも。

 

動けない。

 

藍島。

 

「犬島さん」

 

「はい」

 

「うちの補強」

 

「犬島さんがいたからなんですよね」

 

「資料では」

 

「はい」

 

藍島。

 

少し。

 

考える。

 

「じゃあ」

 

犬島。

 

「はい」

 

「事故の時も」

 

「犬島さんに守ってもらったみたいです」

 

犬島。

 

すぐ。

 

「うち、隣におっただけです」

 

「でも設計が」

 

「それは昔の工員さんです」

 

藍島。

 

笑う。

 

「犬島さん、そういうところですね」

 

「何がですか」

 

「分かりました」

 

「何がですか」

 

---

 

二十四 軍令部公式SNS

 

正式調査。

 

公開。

 

軍令部公式。

 

«【犬島・藍島海底ガス噴出遭遇事故について】

 

第812号艦「犬島」および第813号艦「藍島」は、性能確認航海から帰投中、海底堆積層の自然崩壊に伴う大量の天然ガス噴出域へ進入しました。

 

局地的な海水密度低下および急激な浮力回復により、両艦船体に重大な縦曲げ荷重が発生しました。

 

犬島・藍島双方に運航上の過失は認められません。

 

両艦間および他船舶との衝突は発生していません。

 

両艦とも修復可能です。»

 

SNS。

 

«「公式にも『衝突なし』ってわざわざ書いてある」»

 

«「二隻同時大破で最初みんな衝突だと思ったんだろうな」»

 

«「自然現象怖すぎる」»

 

---

 

二十五 犬島公式SNS・調査結果

 

犬島。

 

投稿。

 

«事故の調査結果が出ました。

 

海底の堆積層の下に溜まっていた天然ガスが、自然に崩れた地層から大量に出たことが原因です。

 

事前に危険区域として分かっていた場所ではありませんでした。

 

犬島も藍島さんも正しい航路を航っており、二隻とも過失なしです。

 

犬島の修理は約41日、藍島さんは約47日の予定です。

 

性能確認では藍島さんの方が0.3ノット速かったです。

 

でも修理日数は競いません。»

 

SNS。

 

大笑い。

 

«「そこ書くんだ」»

 

«「妹に負けたのまだ覚えてる」»

 

«「修理日数は競わないで正解」»

 

藍島。

 

犬島の端末。

 

借りる。

 

«藍島です。修理日数はうちが6日多いです。»

 

犬島。

 

すぐ。

 

«競いません。»

 

---

 

二十六 修理中の姉妹

 

二隻。

 

ドック。

 

隣同士。

 

犬島。

 

中央部。

 

切開。

 

歪んだフレーム。

 

交換。

 

藍島。

 

中央部。

 

補強材。

 

新しい。

 

入る。

 

犬島。

 

自分の修理を見るより。

 

藍島側。

 

気になる。

 

工員。

 

「犬島」

 

「はい」

 

「自分の方見ろ」

 

「見とります」

 

「藍島ばっかり見てるぞ」

 

犬島。

 

「妹なので」

 

言ってから。

 

止まる。

 

工員。

 

笑う。

 

犬島。

 

少し。

 

顔を逸らす。

 

「……もうええでしょう」

 

---

 

二十七 藍島公式SNS開設

 

事故から十二日。

 

ついに。

 

藍島公式SNS。

 

開設。

 

最初の投稿。

 

«海防艦藍島です。

 

第813号艦です。

 

この世界に来て3日目に犬島さんと一緒に重大事故になりました。

 

今は修理中です。

 

これからよろしくお願いします。»

 

SNS。

 

«「初投稿から事故」»

 

«「姉妹だ」»

 

«「犬島公式と同じ方向へ行くな」»

 

犬島公式。

 

返信。

 

«事故以外も投稿してください。»

 

藍島公式。

 

«犬島さんもです。»

 

犬島。

 

返信。

 

なし。

 

代わり。

 

「いいね」。

 

---

 

二十八 復旧

 

犬島。

 

四十一日。

 

修理完了。

 

藍島。

 

四十七日。

 

修理完了。

 

六日差。

 

犬島。

 

先に。

 

海上試験。

 

問題なし。

 

それでも。

 

藍島が戻るまで。

 

姉妹での本格任務。

 

なし。

 

四十七日目。

 

藍島。

 

ドック。

 

出る。

 

第一岸壁。

 

犬島。

 

待つ。

 

藍島。

 

第二岸壁。

 

接岸。

 

犬島。

 

「おかえり」

 

藍島。

 

少し。

 

驚く。

 

そして。

 

「ただいまです」

 

少し間。

 

「お姉ちゃん」

 

犬島。

 

今度は。

 

止まらなかった。

 

「はい」

 

短く。

 

返した。

 

---

 

二十九 二隻公式SNSの同時投稿

 

犬島公式。

 

«藍島さんの修理も終わりました。

 

これで二隻とも元に戻りました。

 

次は普通に一緒に航りたいです。»

 

藍島公式。

 

«犬島さんと一緒に直りました。

 

次は性能試験ではなく、普通の護衛へ行きたいです。

 

あと、速力はうちの方が0.3ノット速いです。»

 

犬島公式。

 

«それはもう分かりました。»

 

ネット。

 

«「完全に姉妹」»

 

«「事故で距離縮まってる」»

 

«「次は何も起きませんように」»

 

---

 

終章 初めての「姉妹で帰投」

 

数週間後。

 

犬島。

 

藍島。

 

二隻。

 

初。

 

共同護衛。

 

輸送船。

 

三隻。

 

天候。

 

晴れ。

 

海況。

 

平穏。

 

海底ガス。

 

なし。

 

河口。

 

なし。

 

事故。

 

なし。

 

接触。

 

なし。

 

機関。

 

正常。

 

航路。

 

正常。

 

呉鎮守府。

 

夕方。

 

二隻。

 

並んで。

 

戻る。

 

第一岸壁。

 

犬島。

 

第二岸壁。

 

藍島。

 

犬島公式SNS。

 

写真。

 

二隻。

 

夕焼け。

 

«今日は藍島さんと一緒に護衛へ行きました。

 

性能試験でも修理後試験でもなく、普通の護衛です。

 

何も起きませんでした。

 

二隻で普通に帰りました。

 

これが一番ええです。»

 

藍島公式。

 

引用。

 

«はい。

 

今日は勝負もしてません。»

 

犬島。

 

返信。

 

«それでええです。»

 

藍島が現れてから三日目。

 

二隻は。

 

同じ海で。

 

同じ自然現象に巻き込まれ。

 

互いにぶつかってもいないのに。

 

揃って重大損傷を受けた。

 

犬島は下へ曲がり。

 

藍島は上へ曲がった。

 

壊れ方まで。

 

少し違った。

 

それでも。

 

犬島の建造経験が。

 

藍島の補強に残っていた。

 

そして。

 

二隻とも。

 

直った。

 

第812号艦。

 

犬島。

 

第813号艦。

 

藍島。

 

ようやく。

 

「図面上の姉妹」ではなく。

 

一緒に壊れて。

 

一緒に直って。

 

一緒に帰ってくる。

 

本当の姉妹艦として。

 

歩き始めていた。

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