海防艦 犬島   作:重装甲空母信濃

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それから数週間後(ランダム)岸壁工事の為、犬島藍島の両艦は隣り合わせで停泊していた。(その光景は犬島の公式SNSにとても嬉しそうに投稿された)
…が、突然の嵐により接舷物を固定しているワイヤーが切れ、流され(沖には流されていない)両艦共に接触、どちらかの空中線が切れてもう片方の空中に絡む事故の話


犬島藍島突然の嵐による空中線切断絡み事故

海防艦・犬島/藍島

 

――隣におるのが嬉しかっただけなんです――

 

犬島・藍島仮設接舷設備漂流接触事故

 

※メインストーリーとは別世界線

 

海底天然ガス噴出事故から、五週間と四日。

 

犬島と藍島は、ようやく「姉妹艦が二隻ともいる」という光景が呉鎮守府の日常へ溶け込み始めていた。

 

第一岸壁に犬島。

 

第二岸壁に藍島。

 

任務が違えば片方だけがいない日もある。

 

二隻で護衛へ出る日もある。

 

朝、犬島が先に出港し、夕方に帰ってくると藍島が岸壁にいる。

 

逆の日もある。

 

最初こそ軍令部の者も、工廠の作業員も、よく似た二隻を一瞬見間違えることがあった。

 

しかし最近では、

 

「桃の髪留めが犬島」

 

「藍色の花が藍島」

 

「少し長い方が藍島」

 

「少し小さい方が犬島」

 

で、だいたい区別できるようになっていた。

 

犬島自身も、以前ほど「似ている」と言われることを気にしなくなった。

 

むしろ。

 

藍島が隣にいることそのものを、かなり気に入っていた。

 

そんなある朝。

 

第一岸壁と第二岸壁の補修工事が始まった。

 

---

 

一 岸壁工事

 

工事内容は大規模だった。

 

老朽化した防舷材の交換。

 

係船柱基部の補強。

 

岸壁上面舗装の更新。

 

給電設備の一部交換。

 

作業期間。

 

約十一日。

 

その間。

 

犬島と藍島が普段使用している二つの岸壁は使用できない。

 

代替として指定されたのが、第四岸壁の工事用仮設接舷設備だった。

 

第四岸壁自体にも小規模な補修が残っていたため、二隻を直接岸壁へ着けるのではない。

 

岸壁外側に大型の浮体式接舷台を設置。

 

全長約九十二メートル。

 

幅約十二メートル。

 

鋼製。

 

大型防舷材付き。

 

この接舷台を岸壁側から複数の鋼製保持ワイヤーとチェーンで固定し、その外側へ犬島と藍島を係留する。

 

二隻とも船首を同方向へ。

 

犬島が岸壁側。

 

その外側に藍島。

 

つまり。

 

岸壁。

 

仮設接舷台。

 

犬島。

 

藍島。

 

という並びだった。

 

犬島と藍島は、複数の大型防舷材を挟んで並ぶ。

 

艦橋同士も近い。

 

犬島が艦橋右側から顔を出せば、すぐ向こうに藍島の艦橋が見える。

 

犬島。

 

かなり嬉しそうだった。

 

「近いですね」

 

藍島。

 

「いつも第二岸壁でも近いでしょう」

 

「でも」

 

犬島は二隻の間を見る。

 

「今日はほんまに隣です」

 

藍島。

 

少し笑う。

 

「お姉ちゃん、嬉しそうですね」

 

犬島。

 

否定しない。

 

「はい」

 

---

 

二 犬島公式SNS

 

午前九時十八分。

 

犬島公式SNS。

 

更新。

 

添付写真。

 

一枚目。

 

第四岸壁。

 

二隻の実艦。

 

犬島と藍島。

 

ほぼぴったり隣り合わせ。

 

岸壁側から撮影されているため、犬島が手前、藍島が奥。

 

形の似た二隻が平行に並んでいる。

 

二枚目。

 

二隻の艦橋。

 

犬島本人と藍島本人。

 

それぞれ自艦の艦橋から顔を出している。

 

犬島。

 

投稿。

 

«第一岸壁と第二岸壁が工事なので、しばらく別の場所へ停泊します。

 

今日は藍島さんと隣り合わせです。

 

かなり近いです。

 

同じ方向を向いて並んどります。

 

こうして見ると、本当に姉妹艦みたいでちょっと嬉しいです。

 

姉妹艦ですけど。»

 

反応。

 

すぐ増える。

 

«「最後自分で訂正してる」»

 

«「犬島めちゃくちゃ嬉しそう」»

 

«「藍島来たばっかりの頃は妹って言うの慎重だったのに」»

 

«「実艦二隻並ぶと30cm差ほぼ分からないな」»

 

«「犬島がお姉ちゃんしてる」»

 

藍島公式。

 

引用。

 

«隣です。

 

犬島さんが朝から何回もこっち見てきます。»

 

犬島。

 

«そんなに見てません。»

 

藍島。

 

«7回くらいです。»

 

犬島。

 

«数えんでください。»

 

さらに一般ユーザー。

 

«「このまま二隻並んで一日何事もなく過ごしてくれ」»

 

犬島。

 

「いいね」。

 

その時は。

 

本当に。

 

何も起きる予定はなかった。

 

---

 

三 天候予報

 

午前中。

 

天候。

 

曇り。

 

風。

 

南南西。

 

毎秒五から七メートル。

 

午後から多少強まる予報。

 

ただし。

 

暴風警報。

 

なし。

 

雷注意報。

 

なし。

 

港内作業中止基準。

 

届かない。

 

犬島も藍島も。

 

出港予定。

 

なし。

 

両艦。

 

主機。

 

停止。

 

補助電源。

 

稼働。

 

係留索。

 

増し取り済み。

 

仮設接舷台。

 

固定用鋼製ワイヤー。

 

八本。

 

さらに。

 

補助チェーン。

 

四本。

 

施工会社。

 

午前八時。

 

全数点検。

 

異常なし。

 

犬島。

 

「今日はのんびりですね」

 

藍島。

 

「こういう日好きです?」

 

「はい」

 

犬島。

 

少し考える。

 

「艦が隣におりますし」

 

「うちもおります」

 

「藍島さんもおります」

 

「何も壊れてません」

 

藍島。

 

「条件が最後だけ妙に犬島さんらしいです」

 

犬島。

 

「大事です」

 

---

 

四 午後一時十二分

 

最初に異変を感じたのは。

 

犬島だった。

 

「……風」

 

藍島。

 

隣。

 

「強くなりました?」

 

犬島。

 

艦橋から。

 

港内。

 

見る。

 

先ほどまで。

 

海面。

 

細かな波。

 

今。

 

風筋。

 

白い。

 

岸壁上。

 

作業員。

 

資材シート。

 

強く揺れる。

 

気象台。

 

ほぼ同時。

 

急激な風速上昇。

 

局地的な積乱雲。

 

港の南西。

 

急発達。

 

予報モデル。

 

捕捉。

 

遅れ。

 

午後一時十五分。

 

呉鎮守府。

 

構内放送。

 

『港内各部署、突風警戒。屋外作業を中断せよ』

 

犬島。

 

「藍島さん」

 

「はい」

 

「係留、確認します」

 

「うちも」

 

二隻。

 

自分の係留索。

 

確認。

 

問題なし。

 

仮設接舷台。

 

揺れる。

 

しかし。

 

まだ許容範囲。

 

---

 

五 突然の嵐

 

午後一時十八分。

 

雨。

 

一気に。

 

来た。

 

まるで。

 

港の上だけ。

 

壁。

 

できたような。

 

豪雨。

 

視程。

 

数百メートル。

 

風。

 

毎秒十二。

 

十五。

 

十八。

 

瞬間。

 

二十四。

 

二十七。

 

犬島。

 

「これ、予報と違います!」

 

藍島。

 

「接舷台が動いとります!」

 

岸壁側。

 

工事員。

 

退避。

 

すでに。

 

人員。

 

安全区域。

 

仮設接舷台。

 

大型。

 

重量。

 

十分。

 

しかし。

 

問題は。

 

浮体そのものではなかった。

 

波。

 

風。

 

二隻。

 

犬島。

 

藍島。

 

その二隻が。

 

接舷台へ。

 

係留されている。

 

風が二隻の側面を押す。

 

犬島。

 

約七十九メートル。

 

藍島。

 

約七十九・二メートル。

 

二隻分。

 

受風面積。

 

大きい。

 

その力。

 

係留索。

 

防舷材。

 

仮設接舷台。

 

そして。

 

接舷台を岸壁へ固定する保持ワイヤーへ。

 

集中。

 

---

 

六 一本目

 

午後一時十九分二十六秒。

 

音。

 

ばあん。

 

犬島。

 

顔。

 

上げる。

 

「今の何です?」

 

藍島。

 

「ワイヤー!」

 

岸壁側。

 

接舷台。

 

船尾側。

 

保持ワイヤー。

 

一本。

 

破断。

 

鋼線。

 

水面へ。

 

落ちる。

 

本来。

 

一本切れても。

 

他。

 

七本。

 

補助チェーン。

 

ある。

 

すぐ。

 

危険。

 

ではない。

 

だが。

 

接舷台。

 

船尾。

 

約四メートル。

 

外へ。

 

振れる。

 

犬島。

 

係留索。

 

張る。

 

藍島。

 

同じ。

 

犬島。

 

「主機、始動します」

 

藍島。

 

「はい!」

 

二隻とも。

 

緊急始動。

 

ただし。

 

ディーゼル主機。

 

即座に全出力。

 

ではない。

 

準備。

 

必要。

 

その間。

 

風。

 

さらに。

 

強く。

 

---

 

七 二本目、三本目

 

午後一時十九分五十八秒。

 

二本目。

 

破断。

 

午後一時二十分〇四秒。

 

三本目。

 

連続。

 

犬島。

 

「三本!」

 

藍島。

 

「接舷台ごと動いとります!」

 

仮設接舷設備そのものが。

 

犬島。

 

藍島。

 

二隻を伴って。

 

岸壁から。

 

離れ始めた。

 

ただし。

 

沖へ。

 

流されてはいない。

 

残ったワイヤー。

 

チェーン。

 

岸壁側。

 

係留索。

 

それらが。

 

完全な漂流を。

 

防ぐ。

 

接舷台。

 

港内で。

 

弧を描くように。

 

約十数メートル。

 

移動。

 

二隻も。

 

一緒に。

 

動く。

 

問題。

 

二隻。

 

同じ動きを。

 

していない。

 

犬島。

 

岸壁側。

 

仮設接舷台へ。

 

直接係留。

 

藍島。

 

犬島外側。

 

別系統。

 

風。

 

藍島。

 

強く。

 

押す。

 

犬島との距離。

 

縮まる。

 

---

 

八 防舷材

 

二隻の間。

 

大型防舷材。

 

六基。

 

本来。

 

軽微な動揺。

 

吸収。

 

しかし。

 

接舷台自体が動いている。

 

犬島。

 

「藍島さん、右へ出せます?」

 

「まだ主機が!」

 

「うちもです!」

 

防舷材。

 

圧縮。

 

ぎゅう。

 

犬島。

 

右舷。

 

藍島。

 

左舷。

 

近づく。

 

最初。

 

防舷材。

 

耐える。

 

次。

 

一基。

 

固定ロープ。

 

切れる。

 

水面。

 

後方へ。

 

流れる。

 

犬島。

 

「一個なくなりました!」

 

藍島。

 

「見えてます!」

 

二基目。

 

ずれる。

 

三基目。

 

押し出される。

 

犬島。

 

「当たります!」

 

藍島。

 

「分かってます!」

 

---

 

九 第一接触

 

午後一時二十分四十九秒。

 

犬島右舷中央。

 

藍島左舷前部寄り。

 

最初。

 

軽く。

 

接触。

 

ごん。

 

犬島。

 

「っ」

 

藍島。

 

「犬島さん!」

 

船体同士。

 

すぐ。

 

離れる。

 

約一メートル。

 

次の風。

 

また。

 

押す。

 

二回目。

 

今度。

 

長く。

 

右舷外板。

 

左舷外板。

 

擦れる。

 

金属。

 

低い。

 

嫌な音。

 

犬島。

 

「藍島さん、うちのせいじゃないです!」

 

藍島。

 

「分かっとります!」

 

犬島。

 

「そっちもです!」

 

藍島。

 

「分かってます!」

 

事故中なのに。

 

二人とも。

 

そこだけ。

 

早い。

 

---

 

十 主機始動

 

午後一時二十一分十二秒。

 

犬島。

 

主機。

 

始動。

 

左。

 

右。

 

犬島。

 

「動きます!」

 

しかし。

 

自由に。

 

航行。

 

できる状態ではない。

 

まだ。

 

複数の係留索。

 

接舷台。

 

結ばれている。

 

無理に前進すれば。

 

索。

 

引きちぎる。

 

接舷台。

 

さらに。

 

危険。

 

犬島。

 

機関。

 

微速。

 

艦首。

 

制御。

 

藍島。

 

数秒後。

 

主機。

 

始動。

 

「うちも!」

 

二隻。

 

なるべく。

 

互いを。

 

押さないよう。

 

機関。

 

使う。

 

それで。

 

船体接触。

 

一時。

 

止まる。

 

だが。

 

上。

 

別の問題。

 

始まった。

 

---

 

十一 マスト

 

藍島。

 

前部マスト。

 

上部。

 

長い空中線。

 

犬島。

 

前部から後部へ。

 

別系統。

 

二隻。

 

通常なら。

 

十分。

 

離れている。

 

しかし。

 

船体。

 

接触。

 

傾き。

 

動揺。

 

マスト上部。

 

横方向距離。

 

極端に。

 

縮む。

 

藍島。

 

「上!」

 

犬島。

 

見上げる。

 

風。

 

強い。

 

藍島側。

 

前部空中線。

 

大きく。

 

撓む。

 

接触事故そのものでは。

 

まだ切れていない。

 

だが。

 

風で煽られ。

 

マスト支持部。

 

瞬間荷重。

 

さらに。

 

二隻が。

 

逆方向へ。

 

離れようとする。

 

ぴん。

 

犬島。

 

「あ」

 

藍島。

 

「切れました」

 

藍島の前部長距離空中線。

 

一本。

 

破断。

 

普通なら。

 

水面側へ。

 

垂れ落ちる。

 

だが。

 

今回は。

 

風。

 

横。

 

破断した長い線。

 

空中。

 

大きく。

 

振られる。

 

そして。

 

犬島側。

 

後部マストから張られていた空中線。

 

そこへ。

 

巻き付いた。

 

一回。

 

二回。

 

さらに。

 

絡む。

 

犬島。

 

上を見る。

 

「……藍島さん」

 

「はい」

 

「そっちの空中線」

 

「はい」

 

「うちのに絡んどります」

 

藍島。

 

少し。

 

間。

 

「見えてます」

 

犬島。

 

「何で」

 

「風です」

 

「それは分かります」

 

---

 

十二 離れられない

 

船体側。

 

二隻。

 

機関。

 

使える。

 

接舷台。

 

残存固定。

 

安定。

 

少し。

 

戻る。

 

本来なら。

 

犬島と藍島。

 

距離。

 

広げる。

 

しかし。

 

上。

 

二隻。

 

空中線。

 

絡まっている。

 

急に。

 

離れれば。

 

犬島側。

 

空中線。

 

引っ張られる。

 

マスト。

 

損傷。

 

可能性。

 

藍島。

 

「離れすぎたら駄目です!」

 

犬島。

 

「分かっとります!」

 

つまり。

 

下。

 

船体。

 

接触しない程度。

 

上。

 

空中線。

 

引かない程度。

 

二隻。

 

わずか。

 

二・五メートル前後。

 

間隔。

 

維持。

 

犬島。

 

「近いです」

 

藍島。

 

「朝は嬉しいって」

 

犬島。

 

「こういう近さじゃありません!」

 

---

 

十三 嵐のピーク

 

午後一時二十三分。

 

瞬間最大風速。

 

三十一メートル毎秒。

 

港内。

 

白波。

 

雨。

 

視界。

 

二百メートル以下。

 

犬島。

 

藍島。

 

残った接舷台。

 

岸壁。

 

その間。

 

両艦。

 

機関。

 

低出力。

 

必死に。

 

位置。

 

保つ。

 

接触。

 

追加。

 

小規模。

 

三回。

 

犬島。

 

右舷。

 

藍島。

 

左舷。

 

防舷材。

 

残り。

 

二基。

 

間。

 

ある。

 

大きな衝撃。

 

なし。

 

それでも。

 

外板。

 

塗装。

 

剥がれる。

 

手すり。

 

数か所。

 

変形。

 

犬島。

 

「今日は停泊だけだったんですけど」

 

藍島。

 

「うちもです」

 

「出港してないです」

 

「知ってます」

 

「何で停泊しとって事故になるんです?」

 

藍島。

 

「犬島さん」

 

「はい」

 

「それ、前にもありませんでした?」

 

犬島。

 

第5回河口進入事故。

 

思い出す。

 

「……あります」

 

「じゃあ」

 

「納得はしてません」

 

---

 

十四 風が落ちる

 

午後一時二十九分。

 

風。

 

二十。

 

十五。

 

十二。

 

雨。

 

弱まる。

 

港内。

 

視界。

 

回復。

 

仮設接舷台。

 

最初。

 

位置。

 

岸壁から。

 

最大約二十二メートル。

 

外側へ移動。

 

残存ワイヤー。

 

三本。

 

補助チェーン。

 

三本。

 

保持。

 

沖へ。

 

漂流。

 

なし。

 

港外へ。

 

流出。

 

なし。

 

犬島。

 

藍島。

 

両艦。

 

主機。

 

正常。

 

船体。

 

浸水。

 

なし。

 

大きな構造損傷。

 

なし。

 

しかし。

 

二隻。

 

まだ。

 

近い。

 

上。

 

絡んだ空中線。

 

残る。

 

犬島。

 

「終わりました?」

 

藍島。

 

「たぶん」

 

犬島。

 

「たぶん嫌です」

 

---

 

十五 救援

 

曳船。

 

二隻。

 

工作艇。

 

一隻。

 

到着。

 

まず。

 

接舷台。

 

仮固定。

 

次。

 

犬島。

 

藍島。

 

係留索。

 

一本ずつ。

 

整理。

 

そして。

 

空中線。

 

問題。

 

作業員。

 

双眼鏡。

 

見る。

 

「藍島の切れた空中線が、犬島後部空中線に三周くらい絡んでる」

 

犬島。

 

「三周?」

 

藍島。

 

「そんなに」

 

「風でな」

 

「引っ張るなよ。マスト曲げるぞ」

 

犬島。

 

藍島。

 

同時。

 

「はい」

 

工員。

 

「返事まで似てきたな」

 

犬島。

 

「今それ言います?」

 

---

 

十六 切り離し

 

安全確保。

 

二隻。

 

通信装置。

 

対象空中線。

 

停止。

 

接地。

 

高所作業。

 

開始。

 

犬島。

 

下。

 

見る。

 

藍島。

 

隣。

 

「うちの空中線」

 

「はい」

 

「犬島さんのに」

 

「はい」

 

「絡みましたね」

 

犬島。

 

「見れば分かります」

 

藍島。

 

「姉妹っぽいですね」

 

犬島。

 

すぐ。

 

「違います」

 

藍島。

 

笑う。

 

犬島。

 

「そこは姉妹要素じゃありません」

 

約五十分。

 

作業。

 

藍島。

 

破断空中線。

 

撤去。

 

犬島。

 

後部空中線。

 

一部。

 

伸び。

 

変形。

 

交換。

 

必要。

 

ようやく。

 

二隻。

 

離す。

 

犬島。

 

約十二メートル。

 

藍島。

 

別の仮係留位置。

 

移動。

 

犬島。

 

少し。

 

残念。

 

藍島。

 

「離れましたね」

 

犬島。

 

「事故になったので仕方ないです」

 

「朝はあんなに嬉しそうだったのに」

 

犬島。

 

「朝の並び方は好きです」

 

「今のは嫌です」

 

---

 

十七 損傷――犬島

 

翌日。

 

工廠。

 

詳細点検。

 

犬島。

 

右舷中央部

 

接触擦過。

 

約十四メートル。

 

塗膜。

 

広範囲剥離。

 

外板。

 

最大約七センチ。

 

局部凹み。

 

フレーム。

 

損傷なし。

 

右舷手すり

 

三か所。

 

変形。

 

中央十二糎砲周辺

 

異常なし。

 

後部空中線

 

藍島側破断線の絡み付きにより伸び。

 

張力調整不能。

 

交換。

 

後部マスト

 

上部取付金具。

 

約四ミリ。

 

変形。

 

修正。

 

機関・軸・舵

 

正常。

 

浸水

 

なし。

 

修理。

 

五日程度。

 

犬島。

 

「五日」

 

工員。

 

「軽い方だ」

 

犬島。

 

「はい」

 

「前の四十一日に比べたら」

 

工員。

 

「比較する基準がおかしくなってるぞ」

 

---

 

十八 損傷――藍島

 

藍島。

 

左舷前部から中央部

 

擦過。

 

約十七メートル。

 

最大凹み。

 

約九センチ。

 

左舷防雷・防舷関連金具

 

二か所。

 

変形。

 

左舷手すり

 

四か所。

 

交換。

 

前部空中線

 

破断。

 

全交換。

 

前部マスト

 

空中線支持碍子。

 

二個。

 

破損。

 

マスト本体。

 

問題なし。

 

主砲・機関・推進軸・舵

 

正常。

 

浸水

 

なし。

 

修理。

 

六日。

 

藍島。

 

犬島へ。

 

「うち、また一日長いです」

 

犬島。

 

「競いません」

 

「はい」

 

「ほんまに競いません」

 

「分かってます」

 

---

 

十九 原因

 

事故調査。

 

焦点。

 

仮設接舷台。

 

保持ワイヤー。

 

施工。

 

不備。

 

あったのか。

 

結論。

 

通常条件。

 

設計。

 

適正。

 

設置。

 

適正。

 

当日朝。

 

点検。

 

正常。

 

犬島・藍島。

 

係留方法。

 

規定通り。

 

増し取り。

 

実施。

 

問題。

 

局地嵐。

 

予報を。

 

大きく上回った。

 

突風。

 

瞬間最大。

 

三十一・八メートル毎秒。

 

さらに。

 

風向。

 

わずか七分間で。

 

南南西。

 

西南西。

 

西。

 

急変。

 

二隻。

 

同時。

 

受風。

 

接舷台。

 

保持ワイヤー。

 

通常想定を超える。

 

繰り返し荷重。

 

最初に切れた。

 

船尾側第五ワイヤー。

 

破断面。

 

延性破壊。

 

腐食。

 

疲労亀裂。

 

製造欠陥。

 

なし。

 

単純。

 

過大荷重。

 

それをきっかけに。

 

荷重。

 

残りへ。

 

集中。

 

連鎖。

 

三本。

 

さらに。

 

二本。

 

破断。

 

補助チェーン。

 

沖流出を防止。

 

両艦。

 

過失。

 

なし。

 

工事会社。

 

重大な施工不備。

 

なし。

 

ただし。

 

事故後。

 

基準。

 

改定。

 

二隻以上。

 

大型艦。

 

仮設接舷台。

 

同時係留する場合。

 

ワイヤー。

 

強度余裕。

 

増加。

 

補助固定。

 

独立系統化。

 

急発達嵐。

 

警戒基準。

 

変更。

 

---

 

二十 犬島公式SNS・事故第一報

 

事故当日。

 

午後三時十二分。

 

犬島公式SNS。

 

朝の。

 

嬉しそうな姉妹写真。

 

まだ。

 

固定されていない。

 

その約六時間後。

 

同じアカウント。

 

新しい投稿。

 

写真。

 

一枚目。

 

犬島右舷。

 

擦過。

 

二枚目。

 

藍島左舷。

 

擦過。

 

三枚目。

 

二隻のマスト上。

 

藍島から切れた空中線が。

 

犬島側の空中線へ。

 

絡んでいる。

 

投稿。

 

«朝、藍島さんと隣り合わせで停泊できて嬉しいと投稿しました。

 

その後、急に強い嵐が来て、仮設接舷設備を岸壁へ固定していたワイヤーが複数切れました。

 

接舷設備ごと港内で動き、犬島と藍島さんも一緒に流されました。

 

沖へは流されていません。

 

二隻が何回か接触しました。

 

藍島さんの前部空中線が切れて、犬島の後部空中線に絡みました。

 

写真3枚目がそれです。

 

二隻とも浸水はなく、機関・舵も正常です。

 

うちも藍島さんも大丈夫です。

 

朝は普通に隣におれて嬉しかっただけなんですけど。»

 

ネット。

 

当然。

 

大反応。

 

«「朝の投稿からの落差がひどい」»

 

«「嬉しそうに隣り合わせ→数時間後に接触事故」»

 

«「空中線まで絡んでるの何」»

 

«「物理的に姉妹が絡まってる」»

 

犬島。

 

即返信。

 

«その言い方はやめてください。»

 

---

 

二十一 朝の投稿が再拡散

 

事故後。

 

朝の投稿。

 

再び。

 

拡散。

 

«「こうして見ると、本当に姉妹艦みたいでちょっと嬉しいです。姉妹艦ですけど。」»

 

その下。

 

事故後写真。

 

並べられる。

 

«「Before / Afterが早すぎる」»

 

«「犬島お願いだから嬉しい投稿を事故の前振りにしないで」»

 

犬島。

 

«前振りにした覚えはありません。»

 

別。

 

«「『かなり近いです』が事故後に意味変わってる」»

 

犬島。

 

数分。

 

返信なし。

 

その後。

 

«朝の意味で書きました。»

 

藍島公式。

 

«事故中はもっと近かったです。»

 

犬島。

 

«藍島さん。»

 

---

 

二十二 藍島公式SNS

 

藍島。

 

自分のアカウント。

 

事故報告。

 

«今日、犬島さんの隣で停泊していました。

 

嵐で仮設接舷設備が動き、犬島さんと接触しました。

 

うちの空中線が1本切れて、犬島さんの空中線へ絡まりました。

 

犬島さんにぶつけようとしたわけではありません。犬島さんも同じです。

 

二隻とも過失はないそうです。

 

空中線はもう外してもらいました。

 

朝の隣り合わせは楽しかったです。»

 

反応。

 

«「最後そこは変わらないんだ」»

 

«「事故になったけど隣にいたこと自体は楽しかったのかわいい」»

 

«「犬島姉妹、事故原因だけ毎回理不尽」»

 

一件。

 

«「次から離れて停泊した方がいいのでは」»

 

藍島。

 

返信。

 

«事故がなければ隣がいいです。»

 

犬島。

 

それに。

 

「いいね」。

 

---

 

二十三 軍令部公式SNS

 

翌日。

 

«【第四岸壁仮設接舷設備移動・犬島藍島接触事故】

 

昨日13時19分頃、呉地区で局地的に発生した急発達嵐により、第四岸壁の仮設浮体式接舷設備を保持していた鋼製ワイヤー複数本が破断しました。

 

同設備へ係留中だった海防艦犬島および海防艦藍島が港内で移動し、両艦間に複数回の低速接触が発生しました。

 

港外への流出はありません。

 

両艦とも浸水および主要機関損傷はありません。

 

犬島・藍島双方に運用上の過失は認められていません。

 

事故原因および仮設係留設備の設計基準について調査を継続します。»

 

SNS。

 

«「二隻とも停泊してただけなら本当に何もできない」»

 

«「港から出てすらないのに事故」»

 

«「犬島の『停泊していても事故になる』記録にまた一件追加されてしまった」»

 

犬島公式。

 

«河口事故には追加しません。»

 

---

 

二十四 空中線の写真

 

事故翌日。

 

工廠。

 

犬島。

 

取り外された。

 

二本。

 

空中線。

 

見る。

 

犬島側。

 

伸び。

 

藍島側。

 

切断。

 

途中。

 

擦れ。

 

藍島。

 

隣。

 

「絡んでたところ」

 

「ここですかね」

 

犬島。

 

「たぶん」

 

藍島。

 

二本。

 

見る。

 

「記念に残します?」

 

犬島。

 

一瞬。

 

かなり。

 

興味。

 

工員。

 

「使えない部分なら保存してもいいぞ」

 

犬島。

 

「ほんまです?」

 

藍島。

 

笑う。

 

「犬島さん、嬉しそう」

 

「部品ですから」

 

「事故の部品ですよ?」

 

犬島。

 

「それでもうちらのです」

 

結果。

 

破断部。

 

安全処理。

 

短い一部。

 

二隻分。

 

保存。

 

札。

 

「第四岸壁仮設接舷設備漂流事故 犬島・藍島空中線絡合部」

 

犬島。

 

札。

 

読む。

 

「絡合部」

 

藍島。

 

「物理的に絡んだ姉妹ですね」

 

犬島。

 

「言い方」

 

---

 

二十五 調査結果投稿

 

数日後。

 

犬島公式SNS。

 

«岸壁で藍島さんと接触した事故の調査結果が出ました。

 

急に発生した局地的な嵐で、瞬間最大風速は31.8m/sでした。

 

仮設接舷設備の固定方法と朝の点検には問題ありませんでしたが、想定以上の風と急な風向変化で保持ワイヤーに大きな力がかかり、複数本が連続して切れました。

 

犬島・藍島さんとも過失なしです。

 

補助チェーンが残ったため、接舷設備と二隻が沖へ流されることはありませんでした。

 

犬島は修理5日、藍島さんは6日です。

 

朝の隣り合わせ自体は悪くなかったです。»

 

反応。

 

«「そこ大事なんだ」»

 

«「また隣に停泊したい?」»

 

犬島。

 

少し。

 

間。

 

«はい。

 

嵐じゃない日に。»

 

藍島。

 

引用。

 

«うちもです。»

 

---

 

二十六 修理完了後

 

六日後。

 

犬島。

 

藍島。

 

両艦。

 

修理。

 

完了。

 

第一岸壁。

 

第二岸壁。

 

工事。

 

まだ。

 

終了前。

 

そのため。

 

別の。

 

より強固な。

 

仮設係留場所。

 

使用。

 

ただし。

 

軍令部。

 

今回は。

 

二隻。

 

少し。

 

離す。

 

犬島。

 

約二十五メートル。

 

藍島。

 

向こう。

 

犬島。

 

見る。

 

藍島。

 

手。

 

振る。

 

犬島。

 

手。

 

振り返す。

 

藍島。

 

公式SNS。

 

«今日は25mくらい離れています。»

 

犬島。

 

返信。

 

«前より遠いです。»

 

«「寂しい?」»

 

犬島。

 

返信。

 

考える。

 

«ちょっと。»

 

この一言。

 

かなり。

 

反応。

 

増える。

 

---

 

二十七 岸壁工事終了

 

さらに。

 

五日。

 

第一岸壁。

 

第二岸壁。

 

工事。

 

完了。

 

犬島。

 

第一。

 

藍島。

 

第二。

 

元の場所。

 

戻る。

 

距離。

 

適切。

 

係留。

 

通常。

 

空中線。

 

新品。

 

二隻。

 

無傷。

 

天候。

 

晴れ。

 

風。

 

毎秒三メートル。

 

犬島公式SNS。

 

写真。

 

前回と同じように。

 

二隻。

 

並ぶ。

 

ただし。

 

今度。

 

岸壁。

 

別。

 

適切な間隔。

 

文章。

 

«第一岸壁と第二岸壁の工事が終わりました。

 

うちは第一岸壁、藍島さんは第二岸壁へ戻りました。

 

隣です。

 

前に隣り合わせで停泊した日は途中で嵐が来て、接触して、空中線まで絡みました。

 

今日は晴れです。

 

何も起きてません。

 

このくらいの隣がええです。»

 

藍島。

 

«空中線も別々です。»

 

犬島。

 

«それが普通です。»

 

ネット。

 

«「姉妹艦が普通に隣にいるだけで安心するようになった」»

 

«「犬島が欲しかったのはこの光景なんだろうな」»

 

«「事故前の嬉しそうな投稿、事故があっても消さなかったのいい」»

 

犬島。

 

最後の一件。

 

見る。

 

実際。

 

朝の投稿。

 

削除。

 

しなかった。

 

あの日。

 

嵐が来た。

 

ワイヤー。

 

切れた。

 

接舷台。

 

動いた。

 

二隻。

 

ぶつかった。

 

藍島の空中線。

 

切れた。

 

犬島の空中線。

 

絡んだ。

 

それでも。

 

朝。

 

隣にいられたことが嬉しかった気持ちまで。

 

事故になったわけではない。

 

犬島。

 

第一岸壁。

 

藍島。

 

第二岸壁。

 

いつもの距離。

 

犬島。

 

艦橋から。

 

隣。

 

見る。

 

藍島。

 

気づく。

 

「犬島さん」

 

「はい」

 

「また見ましたね」

 

犬島。

 

「一回です」

 

「今日は数えてます」

 

「数えんでください」

 

藍島。

 

笑う。

 

犬島も。

 

少し笑う。

 

隣にいる。

 

接触はしていない。

 

空中線も絡んでいない。

 

係留索も正常。

 

風も穏やか。

 

二隻とも。

 

何も壊れていない。

 

犬島にとっては。

 

結局。

 

それが一番嬉しい「隣り合わせ」だった。

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