海防艦 犬島   作:重装甲空母信濃

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広報動画でもう一つ姉妹の仲がいい故に起こる可愛らしいミスを描写して
それに対する反応も


犬島藍島広報2

海防艦・犬島/藍島

 

――名前、逆ですよ――

 

広報動画で起きたもう一つの姉妹らしいミス

 

※メインストーリーとは別世界線

 

犬島と藍島が月一回の特別広報担当になってから、三回目の撮影日。

 

今回の企画は、

 

「犬島と藍島の出港しない日」

 

だった。

 

名前の通り、この日は二隻とも任務なし。

 

実艦の簡単な点検を行い、工廠へ行き、午後は鎮守府内の備品整理を手伝う。

 

派手な内容はない。

 

軍令部広報部も、すでに理解していた。

 

犬島と藍島の場合、派手な企画を作らない方がよく見られる。

 

撮影担当官も、前回の経験から完全に方針を変えていた。

 

「二人とも、今日も普通でいいからな」

 

犬島。

 

「はい」

 

藍島。

 

「分かりました」

 

「事故もいらない」

 

犬島。

 

「起こそうと思って起こしとるわけじゃありません」

 

「分かってる」

 

「廊下でぶつかる必要もない」

 

藍島。

 

「今日は避けます」

 

撮影担当官。

 

「そこも普通でいい」

 

---

 

一 撮影用の名札

 

広報動画では、視聴者が犬島と藍島を見分けやすいように、普段の制服へ小さな撮影用名札を付けることになっていた。

 

白地に紺文字。

 

一枚。

 

「海防艦 犬島」

 

もう一枚。

 

「海防艦 藍島」

 

二枚が机の上に置かれる。

 

撮影担当官。

 

「二人とも、自分の付けて」

 

犬島。

 

「はい」

 

藍島。

 

「はい」

 

その時。

 

二人は別の話をしていた。

 

藍島。

 

「犬島さん、昨日言っとった工具、直りました?」

 

「直りました」

 

「ほんまです?」

 

「はい。藍島さんが前に使っとった方も油差しときました」

 

「あ、ありがとうございます」

 

犬島。

 

「あと、藍島さんの工具箱に入っとった小さいドライバー」

 

「はい」

 

「ちょっと先が減っとったので――」

 

話しながら。

 

犬島。

 

机。

 

手を伸ばす。

 

名札。

 

一枚。

 

取る。

 

藍島も。

 

残った一枚。

 

取る。

 

互いに。

 

自分の胸元へ。

 

付ける。

 

誰も。

 

文字。

 

見ていない。

 

犬島の胸。

 

海防艦 藍島

 

藍島の胸。

 

海防艦 犬島

 

二人とも。

 

普通の顔。

 

撮影担当官も。

 

カメラ調整中。

 

気づかない。

 

---

 

二 撮影開始

 

カメラ。

 

録画。

 

担当官。

 

「はい、始めます」

 

犬島。

 

カメラへ。

 

「おはようございます。犬島です」

 

胸。

 

海防艦 藍島

 

藍島。

 

「藍島です。今日は二隻とも出港しません」

 

胸。

 

海防艦 犬島

 

撮影。

 

継続。

 

犬島。

 

「今日は午前中に実艦の点検をして――」

 

藍島。

 

「その後、工廠へ行きます」

 

犬島。

 

「午後は備品整理です」

 

完璧。

 

何も。

 

おかしいところ。

 

ない。

 

名前以外。

 

撮影担当官。

 

まだ。

 

気づかない。

 

---

 

三 最初に気づいたのは通りすがりの秋月

 

約三分後。

 

犬島と藍島。

 

廊下。

 

歩く。

 

今度は。

 

ちゃんと。

 

左右。

 

分かれている。

 

向こうから。

 

秋月。

 

来る。

 

「おはようございます」

 

犬島。

 

「おはようございます」

 

藍島。

 

「おはようございます」

 

秋月。

 

通り過ぎる。

 

二歩。

 

止まる。

 

振り返る。

 

犬島。

 

「?」

 

藍島。

 

「どうしました?」

 

秋月。

 

二人の。

 

胸。

 

見る。

 

犬島。

 

藍島。

 

そして。

 

もう一回。

 

犬島。

 

「秋月さん?」

 

秋月。

 

困った顔。

 

「……今日は」

 

「はい」

 

「お名前を交換する企画なんですか?」

 

犬島。

 

「はい?」

 

藍島。

 

「何です?」

 

秋月。

 

指。

 

名札。

 

犬島。

 

下。

 

見る。

 

海防艦 藍島

 

数秒。

 

沈黙。

 

藍島も。

 

自分。

 

見る。

 

海防艦 犬島

 

沈黙。

 

犬島。

 

「……」

 

藍島。

 

「……」

 

撮影担当官。

 

カメラ越し。

 

確認。

 

そして。

 

小さく。

 

「またか……」

 

---

 

四 二人とも同時

 

犬島。

 

名札。

 

外す。

 

藍島。

 

同時。

 

外す。

 

そして。

 

相手。

 

見る。

 

犬島。

 

「藍島さん」

 

「はい」

 

「何でうちの取ったんです?」

 

藍島。

 

「犬島さんがうちの取ったからです」

 

犬島。

 

「うちが先?」

 

藍島。

 

「たぶん」

 

犬島。

 

「見てませんでした」

 

藍島。

 

「うちもです」

 

秋月。

 

少し笑う。

 

「お互いの話をしながら取っていたからじゃないですか?」

 

犬島。

 

「……」

 

藍島。

 

「……」

 

二人。

 

思い出す。

 

犬島は。

 

藍島の工具。

 

話。

 

藍島は。

 

犬島の修理。

 

聞いていた。

 

犬島。

 

「相手のこと考えながら取ったから?」

 

藍島。

 

「そうかもしれません」

 

犬島。

 

少し。

 

恥ずかしそう。

 

「それは」

 

「間違えます?」

 

撮影担当官。

 

「実際間違えてる」

 

---

 

五 そしてもう一度間違える

 

犬島。

 

藍島へ。

 

自分が付けていた。

 

「藍島」の名札。

 

差し出す。

 

藍島。

 

犬島へ。

 

「犬島」の名札。

 

差し出す。

 

二人。

 

受け取る。

 

今度こそ。

 

自分の名前。

 

犬島。

 

犬島

 

藍島。

 

藍島

 

正しい。

 

藍島。

 

「これで大丈夫ですね」

 

犬島。

 

「はい」

 

撮影担当官。

 

「よし」

 

犬島。

 

名札。

 

付ける。

 

藍島。

 

付ける。

 

担当官。

 

画面。

 

見る。

 

止まる。

 

「犬島」

 

「はい」

 

「上下逆」

 

犬島。

 

自分の名札。

 

見る。

 

文字。

 

逆さ。

 

「……」

 

藍島。

 

吹き出す。

 

犬島。

 

「笑わんでください」

 

藍島。

 

「だって」

 

撮影担当官。

 

後ろ。

 

「ふっ」

 

犬島。

 

「担当官さんも」

 

前回。

 

廊下で。

 

笑い声。

 

人気。

 

今回も。

 

撮影開始五分。

 

もう。

 

笑っている。

 

---

 

六 編集担当の判断

 

撮影終了後。

 

広報室。

 

担当官。

 

編集担当。

 

映像。

 

確認。

 

犬島。

 

「おはようございます。犬島です」

 

胸。

 

藍島

 

藍島。

 

「藍島です」

 

胸。

 

犬島

 

編集担当。

 

一時停止。

 

「これ」

 

担当官。

 

「気づかなかった」

 

「二人とも?」

 

「二人とも」

 

「あなたも?」

 

「私も」

 

編集担当。

 

笑う。

 

「使います」

 

担当官。

 

「聞く前に決めたな」

 

「使わない理由あります?」

 

「ない」

 

今度は担当官も。

 

諦めた。

 

---

 

七 動画公開

 

動画タイトル。

 

【公式】犬島と藍島、今日は出港しません――呉鎮守府の日常③

 

公開。

 

視聴者。

 

開始。

 

十五秒。

 

すでに。

 

コメント。

 

«「待って」»

 

«「名札逆じゃない?」»

 

«「犬島が藍島になってる」»

 

«「藍島が犬島になってるw」»

 

«「本人たち気づいてない」»

 

«「開始10秒でもう間違ってるんだけど」»

 

三分。

 

秋月。

 

登場。

 

«「秋月気づいた!」»

 

«「秋月の二度見好き」»

 

«「『名前交換する企画ですか?』で耐えられなかった」»

 

そして。

 

犬島と藍島が。

 

互いに。

 

「何でうちの取ったんです?」

 

「犬島さんがうちの取ったからです」

 

と話す場面。

 

コメント。

 

急増。

 

«「責任の押し付け方まで平和」»

 

«「お互い相手のこと考えてた結果なのかわいい」»

 

«「仲良すぎて自分の名前を取り違える姉妹」»

 

«「3cmしか違わない上に制服似てるから名札まで逆だと本当に混乱する」»

 

---

 

八 一番人気のコメント

 

動画公開。

 

数時間。

 

高評価。

 

最上位。

 

«「自分の名札を間違えたんじゃなくて、相手のことを話しながら相手の名札を自然に取ってしまった、というのが一番かわいい。」»

 

次。

 

«「犬島『犬島です』(名札:藍島)

 

藍島『藍島です』(名札:犬島)

 

誰も疑問に思ってないの好き。」»

 

さらに。

 

«「秋月がいなかったら何分続いたんだろう」»

 

«「たぶん昼まで気づかない」»

 

犬島公式。

 

それ。

 

引用。

 

«昼までには気づきます。»

 

反応。

 

«「自信ない返答」»

 

犬島。

 

«気づきます。»

 

藍島公式。

 

«たぶん。»

 

犬島。

 

«藍島さん。»

 

---

 

九 犬島公式SNS

 

犬島。

 

動画。

 

共有。

 

«今月の広報動画です。

 

最初の方で、うちと藍島さんが撮影用の名札を逆に付けています。

 

藍島さんの工具の話をしながら取ったので、文字を見てませんでした。

 

藍島さんも同じだったそうです。

 

秋月さんに言われるまで気づきませんでした。

 

そのあと、うちは自分の名札を上下逆に付けました。

 

そこまで使わんでもええと思います。»

 

反応。

 

«「全部使ってくれてありがとう広報部」»

 

«「こういうのが見たい」»

 

«「犬島、事故の時より名札ミスの方が恥ずかしそう」»

 

犬島。

 

«事故は恥ずかしいというより困ります。これは普通に恥ずかしいです。»

 

---

 

十 藍島公式SNS

 

藍島。

 

«名札を間違えました。

 

犬島さんのことを話しながら机の名札を取ったら「犬島」を取っていました。

 

犬島さんはうちのことを話しながら「藍島」を取っていました。

 

二人とも確認してませんでした。

 

でも、犬島さんが最後に名札を逆さにしたので、うちの方が少しだけ良かったと思います。»

 

犬島。

 

すぐ。

 

«勝負じゃありません。»

 

藍島。

 

«はい。»

 

SNS。

 

«「修理日数といい何でも勝負にしようとする妹」»

 

«「犬島のお姉ちゃん感が強くなってきた」»

 

---

 

十一 公式短尺動画

 

広報部。

 

当然。

 

切り抜く。

 

タイトル。

 

「自分の名前を間違える姉妹艦」

 

冒頭。

 

犬島。

 

«「犬島です」»

 

画面。

 

矢印。

 

名札:藍島

 

藍島。

 

«「藍島です」»

 

矢印。

 

名札:犬島

 

秋月。

 

«「お名前を交換する企画なんですか?」»

 

二人。

 

同時。

 

自分の胸を見る。

 

最後。

 

犬島。

 

逆さ名札。

 

担当官。

 

«「犬島、上下逆」»

 

犬島。

 

«「……」»

 

二十七秒。

 

再生数。

 

急増。

 

コメント。

 

«「広報部編集うまくなってる」»

 

«「月一広報が完全に姉妹観察記録になってる」»

 

«「事故じゃないのに毎回何かある」»

 

«「何も壊れてないので安心して笑える」»

 

この最後。

 

犬島。

 

「いいね」。

 

---

 

十二 軍令部上層部

 

定例広報会議。

 

総長。

 

「今月は何が人気だった」

 

広報担当官。

 

もう。

 

慣れた。

 

「名札です」

 

「名札?」

 

「犬島と藍島が互いの名札を取り違えました」

 

「……それだけ?」

 

「その後、犬島が自分の名札を上下逆に付けました」

 

総長。

 

少し。

 

笑う。

 

「軍事広報としては?」

 

担当官。

 

資料。

 

出す。

 

「本編動画内では艦艇点検、工廠業務、補修工程、施設紹介までちゃんと視聴されています」

 

「ならいい」

 

「はい」

 

総長。

 

「名札は?」

 

「短尺版六百二十万再生です」

 

総長。

 

「……そうか」

 

---

 

十三 広報担当官の分析

 

広報担当官。

 

今回。

 

少し。

 

理解。

 

してきた。

 

事故を起こす。

 

必要。

 

ない。

 

面白いこと。

 

させる。

 

必要。

 

ない。

 

犬島。

 

藍島。

 

二人。

 

普段。

 

仲が良い。

 

互い。

 

よく見ている。

 

相手の話。

 

よく聞く。

 

だから。

 

時々。

 

相手を意識しすぎて。

 

自分の名札を。

 

忘れる。

 

そういう。

 

小さなこと。

 

それで。

 

視聴者には。

 

二人が。

 

「設定上の姉妹艦」

 

ではなく。

 

本当に。

 

一緒に暮らしている姉妹。

 

見える。

 

広報として。

 

それが。

 

大きかった。

 

---

 

十四 後日

 

撮影なし。

 

第一岸壁。

 

犬島。

 

第二岸壁。

 

藍島。

 

犬島。

 

書類。

 

持つ。

 

藍島。

 

隣。

 

犬島。

 

「藍島さん」

 

「はい」

 

「これ」

 

名札。

 

見せる。

 

犬島

 

「今日は合っとります」

 

藍島。

 

自分。

 

藍島

 

「うちもです」

 

犬島。

 

「普通です」

 

藍島。

 

「普通ですね」

 

時雨。

 

横。

 

通る。

 

「名札確認が日課になったの?」

 

犬島。

 

「違います」

 

藍島。

 

「ちょっとだけ」

 

犬島。

 

「藍島さん」

 

二人。

 

笑う。

 

---

 

終章

 

前回。

 

犬島と藍島は。

 

互いを避けようとして。

 

互いに相手を思いやった結果。

 

同じ方向へ。

 

何度も。

 

動いた。

 

最後。

 

軽く。

 

ぶつかった。

 

今回。

 

二人は。

 

互いのことを話しながら。

 

互いを意識していた結果。

 

相手の名前を。

 

胸に付けた。

 

どちらも。

 

事故ではない。

 

誰も。

 

怪我しない。

 

何も。

 

壊れない。

 

ただ。

 

仲が良い。

 

その結果。

 

少し。

 

間違えた。

 

犬島公式SNS。

 

その日の最後。

 

«今日は事故ありません。

 

藍島さんともぶつかってません。

 

名札だけ間違えました。

 

こういうミスなら、あとで笑えるのでええです。»

 

藍島公式。

 

«はい。

 

でも次はちゃんと犬島さんの名札を犬島さんに渡します。»

 

犬島。

 

«自分で自分のを取ればええんです。»

 

藍島。

 

«それもそうですね。»

 

このやり取りまで。

 

また。

 

広報担当官に。

 

「次回の動画に使いたい」

 

と言われた。

 

犬島。

 

少し困りながら。

 

結局。

 

笑っていた。

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