海防艦 犬島   作:重装甲空母信濃

60 / 94
今度は犬島と藍島が第一回の通路の譲り合いのような、お互いに譲り合ったからこそおきた面白い展開に広報担当官が堪えきれなくなり笑ってしまう様子。


犬島藍島広報4

海防艦・犬島/藍島

 

――そっちが食べてください――

 

白桃ゼリーを譲り合いすぎた姉妹と、また笑ってしまった広報担当官

 

※メインストーリーとは別世界線

 

犬島と藍島が月に一度だけ参加する、呉鎮守府の特別広報動画。

 

撮影を重ねるにつれて、広報部には一つの方針ができていた。

 

犬島と藍島には、余計なことをさせない。

 

企画を作り込みすぎない。

 

面白い台詞を言わせようとしない。

 

わざと勝負させたりもしない。

 

二人が普通に過ごしているところを撮影する。

 

それだけ。

 

なぜなら、何も指示しなくても何かしら二人らしい場面が生まれるからだった。

 

最初は廊下。

 

互いに道を譲ろうとして同じ方向へ何度も避け、相談までしたのに最後は軽く肩がぶつかった。

 

別の回では、互いのことを話しながら撮影用名札を取ったため、犬島が「藍島」、藍島が「犬島」の名札を付けた。

 

さらに艦体点検では、お互いの設備の話をしながら点検表を取った結果、二人とも相手用の点検表を持って自分の実艦へ戻った。

 

今回こそ。

 

広報担当官は思っていた。

 

「食堂なら何も起きんだろう」

 

その考えは、昼食開始から十二分後に崩れた。

 

---

 

一 今回の動画

 

動画タイトルは仮段階で、

 

「犬島と藍島、呉鎮守府で普通に過ごします⑤」

 

だった。

 

午前中は事務作業。

 

昼食。

 

午後から工廠で保存部品の整理。

 

夕方には第一岸壁と第二岸壁へ戻る。

 

事故につながるような内容はない。

 

撮影開始前。

 

広報担当官が言った。

 

「今日も普通でいいからな」

 

犬島。

 

「毎回言いますね」

 

「毎回、普通にしてもらってるからな」

 

藍島。

 

「でも前回も普通でしたよ?」

 

「普通に点検表を間違えただろ」

 

「はい」

 

犬島。

 

「今日は間違える物ありませんよ」

 

担当官。

 

「そう願ってる」

 

---

 

二 食堂

 

正午。

 

呉鎮守府食堂。

 

犬島と藍島は、向かい合って座っていた。

 

犬島。

 

焼き魚。

 

味噌汁。

 

ご飯。

 

小鉢。

 

藍島。

 

ほぼ同じ。

 

撮影班は少し離れた位置から撮影。

 

会話も普通だった。

 

藍島。

 

「犬島さん、午後は何を見るんです?」

 

「旧部品です。前に横須賀から貨物列車で来たやつ」

 

「十二糎砲の砲身?」

 

「はい。あとマストと機銃です」

 

「うちの部品もいつか保存されるんですかね」

 

犬島。

 

「交換することがあったら」

 

少し考える。

 

「残せるのは残したいですね」

 

そこまでは。

 

広報動画として非常にまともだった。

 

---

 

三 白桃ゼリー

 

食事も。

 

そろそろ。

 

終わり。

 

そこへ食堂の職員が、小さな冷蔵ケースを持ってきた。

 

「今日、デザート余ったけど食べるか?」

 

犬島。

 

「何です?」

 

「白桃ゼリー」

 

犬島。

 

反応。

 

少し早い。

 

「食べます」

 

藍島。

 

横。

 

笑う。

 

「犬島さん、早い」

 

職員。

 

「ただ」

 

ケースを見る。

 

「ここには一個しかないな」

 

透明なカップ。

 

中。

 

薄桃色。

 

岡山産白桃を使ったゼリー。

 

犬島。

 

見る。

 

藍島。

 

見る。

 

広報担当官。

 

カメラ越し。

 

見る。

 

そして。

 

犬島。

 

「藍島さん、どうぞ」

 

藍島。

 

「え?」

 

犬島。

 

ゼリー。

 

藍島側へ。

 

すっ。

 

押す。

 

「食べてください」

 

藍島。

 

「犬島さん白桃好きでしょう」

 

「好きです」

 

「じゃあ犬島さんが」

 

ゼリー。

 

犬島側へ。

 

すっ。

 

戻す。

 

犬島。

 

「藍島さん、まだここの白桃ゼリー食べたことないでしょう」

 

「犬島さんも今日のは食べてませんよ」

 

「うちは前にも白桃食べとります」

 

「うちも玉野で食べました」

 

犬島。

 

止まる。

 

「……そうでした」

 

---

 

四 一回目の譲り合い

 

犬島。

 

少し考えて。

 

「でも藍島さんが食べてください」

 

また。

 

すっ。

 

藍島側。

 

藍島。

 

「お姉ちゃんがどうぞ」

 

すっ。

 

犬島側。

 

犬島。

 

「お姉ちゃん関係ないです」

 

「お姉ちゃんだから譲ってくれたんでしょう?」

 

犬島。

 

「それもちょっとあります」

 

「じゃあ、うちも妹なので譲ります」

 

ゼリー。

 

藍島から犬島へ。

 

犬島。

 

それを見る。

 

そして。

 

また。

 

藍島へ。

 

「妹なので食べてください」

 

藍島。

 

すぐ。

 

犬島へ。

 

「お姉ちゃんが食べてください」

 

犬島。

 

藍島へ。

 

「藍島さん」

 

藍島。

 

犬島へ。

 

「犬島さん」

 

透明なゼリーカップ。

 

机の上。

 

左右。

 

往復。

 

広報担当官。

 

カメラ。

 

構えたまま。

 

まだ。

 

耐える。

 

---

 

五 視線まで同じ

 

二人。

 

ゼリー。

 

中央。

 

戻す。

 

犬島。

 

「じゃあ」

 

藍島。

 

「はい」

 

「じゃんけんします?」

 

藍島。

 

「勝った方が食べる?」

 

犬島。

 

「……」

 

藍島。

 

「……」

 

犬島。

 

「負けた方が食べる方がええですか?」

 

藍島。

 

「それだと勝った方が譲ったみたいになりますね」

 

犬島。

 

「そうですね」

 

二人。

 

真剣。

 

考える。

 

広報担当官。

 

「普通は勝った方でいいんじゃないか」

 

犬島。

 

振り向く。

 

「でもそれだと藍島さんが負けた時食べられません」

 

藍島。

 

「犬島さんが負けても食べられません」

 

担当官。

 

「じゃんけんとはそういうものだ」

 

犬島。

 

藍島。

 

顔を見合わせる。

 

「……」

 

結局。

 

じゃんけん。

 

しない。

 

担当官。

 

少し。

 

口元。

 

緩む。

 

---

 

六 半分にする

 

藍島。

 

「半分ずつにします?」

 

犬島。

 

少し。

 

明るくなる。

 

「それがええです」

 

食堂。

 

小皿。

 

一つ。

 

借りる。

 

スプーン。

 

犬島。

 

ゼリー。

 

半分。

 

分けようとする。

 

だが。

 

柔らかい。

 

犬島。

 

慎重。

 

「こっち」

 

少し。

 

大きい。

 

藍島。

 

「犬島さん、大きい方どうぞ」

 

犬島。

 

「藍島さんが」

 

「犬島さんが」

 

犬島。

 

一度。

 

止まる。

 

「半分にした意味なくないです?」

 

藍島。

 

「ちょっと差があります」

 

「二口くらいです」

 

「二口あったら犬島さんが」

 

「藍島さん」

 

二人。

 

今度。

 

大小二つに分かれたゼリー。

 

互いに。

 

大きい方。

 

相手へ。

 

差し出そうとする。

 

担当官。

 

後ろ。

 

無言。

 

肩。

 

少し。

 

揺れる。

 

---

 

七 広報担当官、危ない

 

藍島。

 

大きい方の皿。

 

犬島側。

 

犬島。

 

それを。

 

藍島側。

 

藍島。

 

押す。

 

犬島。

 

押し返す。

 

ただし。

 

さすがに。

 

ゼリー。

 

こぼさないよう。

 

二人。

 

非常に。

 

ゆっくり。

 

動かす。

 

犬島。

 

「藍島さんが食べて」

 

藍島。

 

「犬島さんが」

 

「うちは白桃よく食べます」

 

「だから好きな人が食べた方が」

 

「藍島さんも好きでしょう」

 

「好きですけど犬島さんの方が」

 

担当官。

 

カメラの後ろ。

 

«「……っ」»

 

犬島。

 

気づく。

 

「担当官さん」

 

「何でもない」

 

藍島。

 

「笑いそうです?」

 

「まだ大丈夫」

 

犬島。

 

「まだ?」

 

「続けて」

 

---

 

八 救世主

 

その時。

 

食堂の奥。

 

冷蔵庫。

 

開く。

 

さっきの職員。

 

「あれ?」

 

犬島。

 

藍島。

 

見る。

 

職員。

 

別のトレー。

 

持つ。

 

そこには。

 

白桃ゼリー。

 

一個。

 

二個。

 

三個。

 

四個。

 

五個。

 

六個。

 

並んでいる。

 

職員。

 

「ごめん」

 

「そっちのケース一個しか入ってなかったけど」

 

トレー。

 

見せる。

 

「まだ七個あったわ」

 

犬島。

 

「……」

 

藍島。

 

「……」

 

担当官。

 

「……」

 

犬島。

 

目の前。

 

二つに分けた。

 

白桃ゼリー。

 

見る。

 

次。

 

トレー。

 

見る。

 

藍島。

 

同じ。

 

そして。

 

職員。

 

悪気なく。

 

「二人とも一個ずつ食べればいいぞ」

 

沈黙。

 

三秒。

 

---

 

九 限界

 

広報担当官。

 

耐えられなかった。

 

«「っ……ははっ……!」»

 

カメラ。

 

小さく。

 

揺れる。

 

担当官。

 

なんとか。

 

撮影。

 

続ける。

 

でも。

 

笑い。

 

止まらない。

 

「ごめん……」

 

「二人でずっと……」

 

「一個を……」

 

「譲って……」

 

さらに。

 

笑う。

 

犬島。

 

頬。

 

少し。

 

赤い。

 

「一個しかないって言われたんです」

 

藍島。

 

「そうです」

 

担当官。

 

「七個ある」

 

犬島。

 

「今分かりました」

 

藍島。

 

「最初から知っとったら譲ってません」

 

担当官。

 

「二分くらい」

 

犬島。

 

「そんな長かったです?」

 

撮影担当。

 

別のスタッフ。

 

「二分三十七秒」

 

藍島。

 

「結構長いですね」

 

担当官。

 

また。

 

「ははっ……!」

 

犬島。

 

「笑いすぎです」

 

---

 

十 二人の結論

 

新しいゼリー。

 

二つ。

 

机。

 

置かれる。

 

犬島。

 

一個。

 

藍島。

 

一個。

 

そして。

 

最初。

 

半分にしたゼリー。

 

二皿。

 

残る。

 

犬島。

 

「これはどうします?」

 

藍島。

 

「半分ずつ食べればいいんじゃないです?」

 

犬島。

 

「もう一個ずつありますよ」

 

藍島。

 

「残すのもったいないです」

 

犬島。

 

「じゃあ」

 

犬島。

 

大きい方。

 

藍島へ。

 

藍島。

 

大きい方。

 

犬島へ。

 

二人。

 

止まる。

 

担当官。

 

「やめろ」

 

即答。

 

食堂。

 

笑い。

 

犬島。

 

藍島。

 

自分たちも。

 

とうとう。

 

笑う。

 

---

 

十一 編集会議

 

撮影終了。

 

広報室。

 

問題。

 

一つ。

 

「どこまで使う?」

 

編集担当。

 

全編。

 

見る。

 

白桃ゼリー。

 

右。

 

左。

 

右。

 

左。

 

半分。

 

大きい方。

 

また。

 

右。

 

左。

 

最後。

 

七個。

 

広報担当官。

 

大笑い。

 

編集担当。

 

「全部」

 

担当官。

 

「二分半あるぞ」

 

「全部」

 

「食堂紹介動画だぞ」

 

「最高の食堂紹介じゃないですか」

 

担当官。

 

「何が」

 

「白桃ゼリーが美味しいことと、在庫確認は大事って分かります」

 

担当官。

 

少し。

 

考える。

 

「後半は広報になってないだろ」

 

編集担当。

 

「犬島と藍島の仲は伝わります」

 

担当官。

 

反論。

 

できない。

 

---

 

十二 動画公開

 

タイトル。

 

【公式】犬島と藍島、呉鎮守府の食堂で昼食――特別広報⑤

 

公開。

 

動画。

 

九分十四秒。

 

白桃ゼリー。

 

登場。

 

コメント。

 

最初。

 

«「犬島の目が変わった」»

 

«「白桃きた」»

 

«「犬島にあげろ」»

 

しかし。

 

犬島。

 

藍島へ。

 

«「食べてください」»

 

コメント。

 

«「ああ、犬島らしい」»

 

藍島。

 

戻す。

 

«「犬島さんが」»

 

«「藍島も同じか」»

 

一往復。

 

二往復。

 

三往復。

 

コメント。

 

«「まだやるの?」»

 

«「ゼリーが振り子になってる」»

 

«「どっちか食べてw」»

 

«「仲良すぎる」»

 

---

 

十三 半分にした瞬間

 

視聴者。

 

«「解決!」»

 

だが。

 

大きい方を。

 

また。

 

互いに譲る。

 

コメント。

 

«「解決してない」»

 

«「半分にした意味w」»

 

«「相手に大きい方食べてほしい姉妹」»

 

«「二人とも自分が小さい方取ろうとするから永遠に終わらない」»

 

そして。

 

画面奥。

 

職員。

 

七個。

 

持ってくる。

 

コメント欄。

 

一瞬で。

 

流れる。

 

«「!!!!!!」»

 

«「あるじゃん」»

 

«「いっぱいあるwww」»

 

«「担当官もう無理だろ」»

 

直後。

 

«「っ……ははっ……!」»

 

撮影担当官。

 

笑い声。

 

コメント。

 

«「担当官陥落」»

 

«「今月も耐えられなかった」»

 

«「これは笑う」»

 

«「担当官の笑い声まで含めて完成」»

 

---

 

十四 高評価コメント

 

公開一日。

 

上位コメント。

 

«「最後の一個を妹に食べてほしい姉と、お姉ちゃんに食べてほしい妹。なお最後の一個ではなかった。」»

 

高評価。

 

十万以上。

 

次。

 

«「広報担当官、廊下では『また同じ方向行ってる』で笑い、今回は『そもそも七個ある』で崩壊する。」»

 

次。

 

«「二人とも自分が食べたい気持ちより相手に食べてほしい気持ちが先に来るのが本当に仲良い。」»

 

そして。

 

犬島自身。

 

一番。

 

「いいね」を付けたコメント。

 

«「譲り合って時間はかかったけど、誰も嫌な気持ちになってないのがいい。」»

 

---

 

十五 SNSでの反応

 

短尺版。

 

タイトル。

 

「最後の白桃ゼリーを譲り合う姉妹艦」

 

ただし。

 

サムネイル。

 

右側。

 

小さく。

 

大量のゼリーを持ってくる食堂職員。

 

視聴者。

 

«「サムネでもうオチ見えてるのに面白い」»

 

«「犬島が白桃を譲るのかなり愛が強い」»

 

«「藍島も即返してるの好き」»

 

«「担当官が笑い始めるまでの間が完璧」»

 

«「この担当官、二人を撮る仕事楽しそう」»

 

«「撮影してる人が二人を好きなの伝わる」»

 

特に好評だった。

 

«「笑い声が『何やってるんだよこの二人』っていう優しい笑いなのが好き。」»

 

«「広報担当官も姉妹の日常に慣れてきて、遠慮なく笑うようになってるのが良い。」»

 

«「二人だけじゃなく後ろのスタッフまで楽しそうだから鎮守府の雰囲気がいいのが分かる。」»

 

---

 

十六 犬島公式SNS

 

犬島。

 

動画。

 

共有。

 

«今月の広報動画です。

 

食堂で白桃ゼリーが一個だけ残っとると言われたので、藍島さんに食べてもらおうとしました。

 

藍島さんも、うちに食べてもらおうとしました。

 

半分にしても大きい方をお互いに渡そうとして、途中で別のところに七個あることが分かりました。

 

最初に確認したら良かったです。

 

担当官さんはかなり笑っとります。»

 

返信。

 

«「犬島、白桃なのに妹に譲ったの?」»

 

犬島。

 

«藍島さんにも食べてほしかったので。»

 

その返信。

 

かなり。

 

広がる。

 

---

 

十七 藍島公式SNS

 

藍島。

 

«犬島さんは白桃がかなり好きなので、うちは犬島さんに食べてほしかったです。

 

犬島さんは、うちに食べてほしかったそうです。

 

なのでゼリーが机の上を何回も往復しました。

 

最後は一個ずつ食べました。

 

美味しかったです。»

 

返信。

 

«「お姉ちゃんの分を妹が、妹の分をお姉ちゃんが考えてるの良い」»

 

藍島。

 

«たぶん次も譲ります。»

 

犬島。

 

すぐ。

 

«次は在庫確認してからにしましょう。»

 

---

 

十八 広報担当官本人

 

呉鎮守府公式。

 

舞台裏。

 

«【撮影担当より】

 

「最初は二人が一個のゼリーを譲り合っていたので、仲が良いなと思いながら撮影していました。

 

半分にすれば終わると思ったら、今度は大きい方を互いに譲り始めました。

 

その後、食堂職員が『まだ七個ある』と持ってきた時は耐えられませんでした。

 

二人ともかなり真剣に譲り合っていたので、余計に面白かったです。」»

 

反応。

 

«「謝罪なしになってるの成長」»

 

«「もう笑うこと受け入れてる」»

 

«「担当官さん今回楽しそう」»

 

«「二人とスタッフが仲良い感じで好き」»

 

広報担当官。

 

前回まで。

 

「撮影中に笑って申し訳ありません」

 

だった。

 

今回は。

 

もう。

 

謝らなかった。

 

犬島も。

 

藍島も。

 

嫌がっていない。

 

それどころか。

 

二人自身。

 

最後には。

 

笑っていた。

 

---

 

十九 軍令部上層部

 

月例。

 

広報会議。

 

総長。

 

「今月は?」

 

広報担当官。

 

「白桃ゼリーです」

 

総長。

 

「……艦艇広報の話をしているんだよな」

 

「はい」

 

「何が起きた」

 

「犬島と藍島が最後の一個だと思って互いに譲り続けました」

 

「それで?」

 

「実際には残り七個ありました」

 

総長。

 

「……」

 

担当官。

 

「短尺版、公開二日で七百八十万再生です」

 

総長。

 

「そうか」

 

少し。

 

笑う。

 

「鎮守府の食堂利用者は増えるのか?」

 

「一般人は利用できません」

 

「そうだった」

 

---

 

二十 譲る理由

 

撮影後。

 

第一岸壁。

 

犬島。

 

第二岸壁。

 

藍島。

 

提督。

 

犬島へ。

 

「本当は食べたかったんじゃないのか」

 

犬島。

 

「白桃ですから」

 

「かなり」

 

少し。

 

間。

 

「食べたかったです」

 

「なら食べればよかっただろ」

 

犬島。

 

隣。

 

第二岸壁。

 

藍島。

 

見る。

 

「でも藍島さんも好きなので」

 

「自分より?」

 

犬島。

 

少し。

 

考える。

 

「自分も食べたいですけど」

 

「藍島さんが美味しいって言うのも」

 

小さく笑う。

 

「うちは好きです」

 

一方。

 

藍島も。

 

広報担当官から。

 

同じ質問。

 

される。

 

「藍島、お前も食べたかっただろ」

 

「はい」

 

「なら何で犬島へ戻した」

 

藍島。

 

「犬島さん」

 

第一岸壁。

 

見る。

 

「白桃食べる時、かなり嬉しそうなので」

 

「見たい?」

 

「はい」

 

答え。

 

ほとんど。

 

同じ。

 

---

 

終章 譲り合う姉妹

 

最初の広報動画。

 

通路。

 

犬島。

 

藍島。

 

正面。

 

互い。

 

「先にどうぞ」

 

と思う。

 

右。

 

右。

 

左。

 

左。

 

最後。

 

こつん。

 

今回。

 

食堂。

 

最後の白桃ゼリー。

 

犬島。

 

藍島に食べてほしい。

 

藍島。

 

犬島に食べてほしい。

 

右へ。

 

左へ。

 

ではなく。

 

ゼリー。

 

右へ。

 

左へ。

 

何往復。

 

半分。

 

それでも。

 

大きい方。

 

相手へ。

 

最後。

 

食堂職員。

 

「まだ七個あるぞ」

 

二人。

 

沈黙。

 

広報担当官。

 

«「っ……ははっ……!」»

 

犬島。

 

「一個しかないって言われたんです」

 

藍島。

 

「最初から知っとったら普通に食べました」

 

担当官。

 

「二分半ずっと譲ってたぞ」

 

犬島。

 

「そんなに?」

 

藍島。

 

「仲良いですね、うちら」

 

犬島。

 

少し。

 

藍島を見る。

 

「そうですね」

 

今度。

 

否定しない。

 

結局。

 

二人。

 

一個ずつ。

 

白桃ゼリー。

 

食べる。

 

犬島。

 

一口。

 

「美味しいです」

 

藍島。

 

「美味しいですね」

 

犬島。

 

「藍島さん」

 

「はい」

 

「食べられて良かったですね」

 

藍島。

 

少し笑う。

 

「犬島さんも」

 

後ろ。

 

担当官。

 

また。

 

小さく。

 

笑う。

 

その笑い声も。

 

編集で。

 

消されなかった。

 

視聴者。

 

コメント。

 

«「二人が譲り合って、結局二人とも食べられた。それでいい。」»

 

犬島。

 

そのコメントに。

 

「いいね」。

 

藍島も。

 

同じ。

 

「いいね」。

 

今度の広報動画も。

 

何かが壊れたわけではない。

 

事故でもない。

 

ただ。

 

仲が良すぎて。

 

お互いに譲りすぎた。

 

それだけ。

 

そして広報担当官は。

 

また。

 

堪えきれず。

 

笑った。

 

視聴者も。

 

一緒に。

 

笑った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。