若く、顔立ちも整っている、まるで犬島と藍島の兄と思われるような見た目身長は180cm程度
海防艦・犬島/藍島
――担当官さん、映っとります――
ずっと「笑い声だけの人」だった広報担当官、初めて動画に姿が映る
※メインストーリーとは別世界線
犬島と藍島の月一回特別広報動画には、いつの頃からか第三の登場人物がいた。
ただし。
顔は映らない。
姿も映らない。
名前も、階級も、動画内ではほとんど紹介されない。
聞こえるのは、声だけだった。
犬島と藍島が廊下ですれ違おうとして何度も同じ方向へ避け、最後に軽くぶつかった時。
«「っ……ふふっ」»
白桃ゼリーを互いに譲り続け、半分にしても大きい方を相手へ譲ろうとした挙げ句、実はまだ七個残っていたと判明した時。
«「っ……ははっ……!」»
休憩用の椅子を譲り合い、最後には犬島と藍島が二人とも床へ座って椅子だけが空いた時。
«「二人でずっと譲り合って、何で椅子だけ空くんだよ……」»
毎月のように、カメラの後ろから聞こえてくる。
呉鎮守府広報担当官。
最初の頃は、
「撮影中に笑ってしまい申し訳ありません」
と舞台裏で謝っていた。
最近では、本人も諦めていた。
犬島と藍島も気にしていない。
むしろ、
「また担当官さん笑っとる」
くらいの感覚になっている。
視聴者からも人気が出ていた。
«「今月も担当官生存確認」»
«「笑い声が入ると安心する」»
«「もう声だけ準レギュラー」»
それでも。
姿だけは一度も出ていなかった。
撮影する側だから。
当然だった。
ところが。
ある日の広報動画で。
犬島が何気なく言った。
「担当官さん、ちょっと手伝ってもらえます?」
その一言で。
状況が変わった。
---
一 今回の企画
その月の動画テーマは、
「犬島と藍島、保存部品を整理します」
だった。
以前の修理や改装で取り外され、保存対象となった艦艇部品。
小型の金具。
計器。
信号灯。
旧型通信機器。
工具。
銘板。
過去の空中線事故で取り外された部材。
そういったものを整理し、保存箱へ収納する作業を撮影する。
場所は呉鎮守府工廠の資料整理室。
犬島。
藍島。
広報担当官。
保存担当。
そして撮影用カメラ。
派手な企画ではない。
広報担当官は朝から機嫌が良かった。
「今日は平和だ」
犬島。
「最近毎回それ言いますね」
「今日は本当に平和だ」
藍島。
「何を根拠に?」
「座って部品整理するだけだから」
犬島。
「名札の時もそんな感じでしたよ」
担当官。
止まる。
「……それは言うな」
---
二 映っていなかった理由
撮影開始。
犬島と藍島。
机。
並んで座る。
カメラ。
正面。
広報担当官。
その後ろ。
いつもの位置。
犬島。
小箱。
開ける。
「これは旧信号灯の部品です」
藍島。
「犬島さんの?」
「はい」
「こっちは?」
「それは多分マスト関係です」
担当官。
後ろから。
「番号確認してから言えよ」
犬島。
「分かっとります」
藍島。
カメラ。
見る。
「今しゃべったのが、いつも笑っとる広報担当官さんです」
担当官。
「その紹介やめろ」
犬島。
少し笑う。
「でも間違ってないです」
担当官。
「広報動画を撮ってる人、と紹介してくれ」
藍島。
「広報動画を撮っていて、よく笑う人です」
「余計な部分が残ったな」
視聴者は後にこのやり取りへ、
«「いつもの人だ」»
«「声だけで分かるようになってしまった」»
とコメントすることになる。
---
三 問題の保存箱
作業開始から約十八分。
大型の保存箱。
一つ。
室内奥。
高さ。
約七十センチ。
幅。
約九十センチ。
中には比較的軽量な部品。
ただし。
箱そのもの。
大きい。
犬島。
片側。
持つ。
藍島。
反対。
「持てます?」
「持てます」
二人。
持ち上げる。
少し。
動く。
だが。
箱の幅。
大きい。
犬島と藍島。
小柄。
持ち上げること自体はできるが、前がよく見えない。
犬島。
「藍島さん」
「はい」
「これ、棚まで持っていくの危なくないです?」
「前見えんですね」
「一回置きましょう」
置く。
広報担当官。
カメラ越し。
「台車使え」
犬島。
「台車」
藍島。
「あっちです」
室内。
反対側。
ただ。
台車へ。
箱。
載せる。
二人。
高さ。
少し。
足りない。
犬島。
箱。
見る。
藍島。
見る。
その後。
同時に。
カメラの方向。
見る。
担当官。
嫌な予感。
「……何だ」
犬島。
「担当官さん」
「何だ」
「ちょっと手伝ってもらえます?」
藍島。
「三人ならすぐです」
担当官。
カメラ。
見る。
犬島。
藍島。
見る。
「俺、撮影なんだけど」
犬島。
「カメラ置いたら駄目です?」
担当官。
「……」
藍島。
「固定できますよね?」
担当官。
少し。
黙る。
「できるけど」
犬島。
「お願いします」
担当官。
ため息。
ただし。
嫌そうではない。
「分かった」
---
四 カメラを置く
ここが。
後に。
重要になる。
広報担当官。
撮影用カメラ。
三脚。
固定。
画角。
広く。
変更。
机。
犬島。
藍島。
保存箱。
全部。
入る。
録画。
そのまま。
担当官。
カメラの後ろ。
離れる。
そして。
初めて。
画面。
右端。
人影。
入る。
長い脚。
紺色の制服。
そのまま。
一人の若い男性が。
画面中央へ。
歩いてくる。
後に視聴者は。
この瞬間。
大量に。
動画。
一時停止する。
---
五 広報担当官
年齢。
二十代半ばほどに見える。
軍令部広報部所属の若い担当官。
身長。
約百八十センチ。
犬島。
藍島。
二人より。
かなり高い。
すらりとした体格。
ただし。
細すぎず。
日頃、機材を持って鎮守府内を歩いているだけあって、適度に締まっている。
髪。
黒。
ただ。
光の当たり方によって。
犬島と藍島の濃紺色の髪に近く見える。
短め。
清潔。
少しだけ前髪がある。
顔立ち。
整っている。
派手。
ではない。
穏やか。
目元。
やや優しい。
普段。
犬島や藍島を見る時。
少し笑っていることが多い。
制服。
呉鎮守府広報部の勤務服。
犬島。
横。
立つ。
藍島。
反対側。
立つ。
その瞬間。
画面。
三人。
並ぶ。
視聴者。
後に。
ほぼ同じことを言う。
«「兄妹?」»
---
六 本人たちは当然気づかない
担当官。
「どこ持てばいい?」
犬島。
「真ん中お願いします」
藍島。
「うちら両端持ちます」
担当官。
「分かった」
犬島。
左。
藍島。
右。
担当官。
中央。
三人。
箱。
持つ。
犬島。
「せーの」
持ち上げる。
担当官が加わったことで。
かなり。
楽。
藍島。
「軽い」
担当官。
「二人だけで無理するなよ」
犬島。
「持てはしたんです」
「前が見えなかったんだろ」
「はい」
「それを無理って言うんだ」
三人。
台車。
箱。
載せる。
犬島。
「ありがとうございます」
藍島。
「助かりました」
担当官。
「これくらいなら最初から呼べ」
犬島。
「撮影中なので」
担当官。
「今呼んだだろ」
犬島。
「そうでした」
---
七 三人並び
さらに。
問題。
いや。
事故ではない。
SNS的な問題。
箱を台車へ置いた後。
犬島。
ラベル。
見る。
藍島。
横。
覗く。
担当官。
後ろ。
同じように。
見る。
三人。
自然。
横並び。
犬島。
小柄。
藍島。
犬島より約三センチ高い。
担当官。
約百八十センチ。
二人の。
かなり上。
黒に近い髪。
落ち着いた雰囲気。
顔立ち。
犬島。
藍島。
全く同じ顔ではない。
当然。
血縁。
ない。
それなのに。
並ぶ。
妙に。
収まりが良い。
犬島。
「これ、第二区分でええですよね」
藍島。
「通信関係だから」
担当官。
「第二区分だな」
犬島。
「じゃあこれで」
誰も。
カメラ。
見ない。
誰も。
自分たちがどう映っているか。
知らない。
---
八 撮影終了後
作業。
終わる。
担当官。
カメラ。
戻る。
「よし」
確認。
再生。
犬島。
横。
見る。
藍島。
反対。
見る。
担当官。
自分が映った部分。
出る。
担当官。
「……」
犬島。
「映っとりますね」
藍島。
「かなり」
担当官。
「まあ仕方ない」
犬島。
画面。
見る。
少し。
首。
傾ける。
藍島。
同じ。
「担当官さん」
「何」
藍島。
「背高いですね」
担当官。
「今さら?」
犬島。
「カメラで見ると余計に」
担当官。
「二人が小さいんだ」
犬島。
「うちは普通です」
藍島。
「うちも」
担当官。
二人。
見る。
「そういうことにしとく」
---
九 編集室
編集担当。
動画。
見る。
犬島。
藍島。
箱。
困る。
犬島。
«「担当官さん、ちょっと手伝ってもらえます?」»
カメラ。
固定。
そして。
担当官。
入る。
編集担当。
一時停止。
「……」
担当官。
「何」
「初登場ですね」
「そうだな」
「顔出し大丈夫です?」
「広報部として確認取れば問題ない」
編集担当。
もう一回。
三人並んだところ。
止める。
「担当官」
「何だ」
「これ」
「何」
「犬島と藍島のお兄さんみたいですよ」
担当官。
「……は?」
編集担当。
笑う。
「いや、ほんとに」
担当官。
画面。
見る。
犬島。
藍島。
自分。
少し。
黙る。
「似てないだろ」
編集担当。
「顔そのものじゃなくて、雰囲気です」
「身長差も」
「髪の色も近いし」
「二人の面倒見てる感じも」
担当官。
「俺は広報担当だ」
編集担当。
「視聴者にそれが通じるかですね」
担当官。
「通じるだろ」
通じなかった。
---
十 公開
呉鎮守府公式動画。
【公式】犬島と藍島、保存部品を整理します――呉鎮守府の日常⑦
公開。
最初。
普通。
犬島。
藍島。
部品。
説明。
十七分。
犬島。
「担当官さん、手伝ってもらえます?」
コメント。
«「ついに召喚された」»
«「カメラ置く?」»
«「え、担当官映る?」»
カメラ。
固定。
そして。
右端。
担当官。
入る。
コメント。
爆発。
«「!?!?!?」»
«「若い!?」»
«「担当官この人!?」»
«「180くらいある?」»
«「待って普通に顔整ってない?」»
«「声のイメージと合ってる」»
«「この人がずっと後ろで笑ってたのか」»
«「想像より若い」»
そして。
三人。
並ぶ。
コメント。
さらに。
加速。
«「兄妹じゃん」»
«「お兄ちゃん出てきた」»
«「犬島・藍島・担当官で三兄妹にしか見えない」»
«「黒髪寄りなのも余計にそう見える」»
«「180cm兄+小柄な妹二人、構図が完成しすぎ」»
«「担当官、顔立ちまでなんとなく系統近く見える」»
---
十一 「第三艦?」
当然。
妙なコメントも。
出る。
«「第814号艦?」»
犬島公式。
後に。
«違います。人です。»
«「813の次だから814?」»
犬島。
«広報担当官さんです。艦ではありません。»
藍島公式。
«実艦もありません。»
担当官。
動画を見ながら。
「そこ説明いる?」
犬島。
「コメントにあったので」
「俺が艦に見えるか?」
藍島。
「身長180mじゃなくて180cmですから」
担当官。
「当たり前だ」
---
十二 最大の人気コメント
動画。
高評価。
一位。
«「今まで犬島と藍島を後ろから笑いながら見守ってた人が、実際に出てきたら本当に二人のお兄ちゃんみたいな見た目なの出来すぎてる。」»
二位。
«「声だけの頃から優しそうだと思ってたけど、顔も雰囲気もそのままだった。」»
三位。
«「犬島と藍島が『ちょっと手伝って』って何の遠慮もなく頼むのが、普段から信頼してるの分かって良い。」»
四位。
«「箱を持った後に『二人だけで無理するな』って言ってるの完全に兄。」»
五位。
«「公式広報担当なのに、役割が撮影係兼ツッコミ兼兄になってる。」»
犬島。
三位。
「いいね」。
藍島。
四位。
「いいね」。
担当官。
全部。
見た。
「兄ではない」
それだけ。
言った。
---
十三 犬島公式SNS
犬島。
動画公開。
数時間後。
投稿。
«今月の広報動画で、いつも撮影しとる広報担当官さんが初めて映っています。
大きい保存箱を藍島さんと二人で運ぼうとしたら前が見えにくかったので、手伝ってもらいました。
担当官さんがカメラを置いたので、そのまま映りました。
コメントで「犬島と藍島のお兄さんみたい」とかなり言われとりますけど、兄ではありません。
普通に広報担当官さんです。
いつも後ろで笑っとる人です。»
反応。
«「最後の説明で分かる」»
«「公式プロフィール:いつも後ろで笑っとる人」»
«「でも本当に兄に見える」»
«「三人並んでるところだけ切り取ると家族写真みたい」»
犬島。
«家族写真ではありません。仕事中です。»
---
十四 藍島公式SNS
藍島。
«広報担当官さんが初めて動画に映りました。
身長は180cmくらいあるそうです。
犬島さんとうちよりかなり大きいです。
いつもカメラを持っているので、今まで動画には声しか入りませんでした。
うちらのお兄さんではありません。
でも、困った時はよく手伝ってくれます。»
反応。
«「最後の一文がお兄ちゃん感強化してる」»
«「藍島、自分から補強してる」»
藍島。
«事実を書いただけです。»
犬島。
«そうです。»
一般。
«「妹二人が同時に擁護してさらに兄っぽくなってる」»
担当官。
「何を言っても悪化するな」
---
十五 広報担当官本人への取材
当然。
呉鎮守府公式。
質問。
増える。
「広報担当官は何歳?」
詳細。
非公開。
ただし。
若手。
「身長は?」
約百八十センチ。
「犬島・藍島と血縁?」
なし。
「艦娘?」
違う。
「第814号艦?」
違う。
「二人のお兄さん?」
違う。
公式。
簡潔。
回答。
その最後。
広報担当官本人。
«「私は犬島・藍島担当の広報官であって兄ではありません。」»
SNS。
反応。
«「担当って言い方がもう」»
«「保護者ではある?」»
«「否定が固い」»
«「でも二人から頼られてるのは本当」»
担当官。
もう。
返信。
しない。
---
十六 犬島と藍島の反応
食堂。
犬島。
藍島。
担当官。
三人。
偶然。
同じ机。
藍島。
端末。
見る。
「担当官さん」
「何」
「三兄妹ってまだ言われとります」
「知ってる」
犬島。
「嫌です?」
担当官。
少し。
考える。
「嫌ではない」
藍島。
「じゃあええですね」
「ただ兄ではない」
犬島。
「そこ大事なんですね」
「事実関係だからな」
犬島。
少し。
笑う。
「うちも事故の時、事実関係大事にします」
担当官。
「ああ」
「だからそこは分かってくれ」
犬島。
「分かりました」
藍島。
「でも」
「何」
「お兄ちゃんみたいって言われるのは」
少し。
笑う。
「分からんでもないです」
担当官。
「藍島」
犬島。
横。
「うちもちょっと思います」
担当官。
二人。
見る。
長い。
沈黙。
「……そうか」
---
十七 切り抜き動画
公式広報部。
当然。
短尺。
作る。
タイトル。
「『ちょっと手伝って』で初めて画面に現れた撮影担当官」
犬島。
「担当官さん、ちょっと手伝ってもらえます?」
カメラ。
固定。
担当官。
入る。
字幕。
『広報担当官、初登場』
三人。
箱。
持つ。
担当官。
「二人だけで無理するなよ」
最後。
三人。
並んで。
ラベル。
見る。
短尺。
三十二秒。
再生数。
広報担当官登場回だけで。
過去最大級。
コメント。
«「声の主!」»
«「この人だったんだ」»
«「お兄さん感すごい」»
«「身長差がかわいい」»
«「担当官まで人気出そう」»
それ。
現実。
なる。
---
十八 広報部の誤算
月例会議。
総長。
「今月は?」
広報担当官。
少し。
嫌な顔。
「私です」
総長。
「何?」
「私が一番話題になりました」
「犬島と藍島ではなく?」
「三人で並んだ場面です」
総長。
資料。
見る。
「確かに」
少し。
担当官。
見る。
「君、若かったんだな」
担当官。
「総長、普段会ってますよね」
「制服とカメラしか見てなかった」
担当官。
「ひどくないですか」
会議室。
笑い。
---
十九 仕事がまた増える
あの。
最初。
犬島と藍島が広報担当に任命されると聞き、
「自分の仕事がなくなる」
と顔面蒼白になった。
広報担当官。
今。
状況。
逆。
動画。
人気。
犬島。
人気。
藍島。
人気。
そして。
自分まで。
視聴者。
認知。
問い合わせ。
増える。
「担当官も次回出ますか?」
「担当官と犬島藍島の三人企画ありますか?」
「担当官のプロフィール公開してください」
担当官。
机。
問い合わせ。
見る。
「何で俺の仕事が増えるんだ」
同僚。
「画面に出たから」
「箱一個運んだだけだぞ」
「顔が良かったからじゃない?」
担当官。
「やめろ」
---
二十 次回撮影
翌月。
担当官。
撮影。
準備。
犬島。
来る。
藍島。
来る。
犬島。
「担当官さん」
「何」
「今日は映らんです?」
「映らない」
藍島。
「ほんまです?」
「俺は撮影する側だ」
犬島。
「分かりました」
撮影。
開始。
約四十分後。
犬島。
「あの」
担当官。
「何だ」
犬島。
「これ、ちょっと上届かんです」
担当官。
カメラ。
見る。
犬島。
見る。
藍島。
見る。
「脚立は?」
藍島。
「別の部屋です」
担当官。
深い。
ため息。
「カメラ置くぞ」
犬島。
「お願いします」
藍島。
少し笑う。
「また映りますね」
担当官。
「言うな」
---
終章 声だけの人ではなくなった
最初。
視聴者にとって。
彼は。
声。
だけだった。
犬島と藍島が面白いことをする。
後ろ。
笑う。
時々。
ツッコむ。
«「左右の話はやめろ」»
«「だったら椅子使えよ」»
«「二人だけで無理するな」»
それだけ。
だった。
ある日。
犬島。
言う。
「担当官さん、ちょっと手伝ってもらえます?」
担当官。
カメラ。
三脚。
固定。
画面。
入る。
約百八十センチ。
若い。
整った顔立ち。
黒に近い髪。
穏やかな表情。
その両側。
犬島。
藍島。
小柄な。
よく似た姉妹艦。
三人。
箱。
持つ。
そして。
普通に。
話す。
視聴者。
同じ。
感想。
«「本当に兄みたいな人出てきた。」»
担当官。
否定。
「兄ではありません」
犬島。
「はい」
藍島。
「広報担当官さんです」
少し。
間。
犬島。
「でも」
担当官。
「何だ」
「いつも助けてもらっとります」
藍島。
「はい」
担当官。
二人。
見る。
「それは仕事だ」
犬島。
少し。
笑う。
「じゃあ、これからもお願いします」
藍島。
「お願いします」
担当官。
「はいはい」
その声。
今度は。
カメラの後ろではない。
画面。
三人。
一緒。
映っている。
コメント。
流れる。
«「この三人の空気感好き。」»
«「兄じゃないのは分かってる。でも兄みたい。」»
«「犬島と藍島が遠慮なく頼るのが一番良い。」»
担当官。
公開後。
全部。
見る。
最後。
一件。
«「姉妹を笑って見守って、必要な時だけ自然に手を貸す。そりゃ兄に見える。」»
担当官。
少し。
黙る。
そして。
誰にも言わず。
そのコメント。
「いいね」。
押した。
翌日。
犬島。
気づく。
「担当官さん」
「何」
「兄みたいってコメントに、いいね付けました?」
担当官。
「……広報部としてだ」
藍島。
「ほんまです?」
担当官。
「仕事だ」
犬島。
藍島。
顔。
見合わせる。
二人。
同時。
少し。
笑う。
担当官。
「何で笑う」
犬島。
「何でもないです」
藍島。
「はい」
担当官。
少し。
困った顔。
それでも。
最後には。
また。
一緒に笑った。