話始めは前回と同じで最初に「今度こそ」と言っている。
初登場の提督との会話や所属艦娘との会話を入れる。
しかし、動画の最後に提督が犬島に広報担当官が藍島に突撃される展開
呉鎮守府公式広報
――今度こそ、本当に鎮守府を紹介します――
犬島と藍島が出撃中なら、さすがに映らないはずだった
※犬島・藍島別世界線
「今度こそ、まともに呉鎮守府を紹介していきます」
呉鎮守府正門前。
カメラの真正面に立った広報担当官は、前回より明らかに自信があった。
「前回は『犬島と藍島は無しで紹介します』と言ったにもかかわらず、正門で犬島が横切り、庁舎で藍島が横切り、食堂で二人が白桃を譲り合い、最後には私が自分から二人を呼びました」
カメラの後ろから撮影補助員が言う。
「よく覚えてますね」
「編集で何回見たと思ってるんだ」
担当官は一度咳払いし、少しだけ表情を改めた。
「ですが今日は違います」
字幕が入る。
『本日は犬島・藍島ともに護衛任務中』
「第812号艦・犬島、第813号艦・藍島の両艦は、本日午前六時四十分に呉鎮守府を出港しました。現在、ここから約百二十海里離れた海域で輸送船団の護衛任務に就いています」
担当官は、珍しく少し得意そうに続ける。
「つまり、今日は物理的にここにいません」
撮影補助員。
「強い」
「今度こそです」
「今回は安心していい?」
「安心してください」
担当官はカメラへ向き直った。
「なお、この動画も犬島・藍島の月一回特別広報ではありません。今日は呉鎮守府そのものを、普通に紹介します」
字幕。
『今度こそ普通の鎮守府紹介』
撮影補助員が小さく付け加える。
「最後まで何もなければいいですね」
担当官。
「二人が百二十海里先にいるんだぞ。何が起きるんだ」
この一言は、編集段階で残された。
---
一 今度こその正門
正門。
前回。
犬島が工具箱を持って背景を横切った場所。
今回は。
誰も横切らない。
担当官。
「こちらが呉鎮守府正門です。一般公開日を除き、出入りには所定の確認が必要になります」
説明。
順調。
一分。
二分。
犬島。
なし。
藍島。
なし。
担当官。
説明終了。
撮影補助員を見る。
「どうだ」
「普通です」
「そうだろ」
「普通すぎてちょっと寂しいですね」
「それが施設紹介だ」
---
二 提督、初登場
次。
司令部庁舎。
今回の目玉の一つ。
これまで声や名前は出ていたが、広報動画には一度も正式出演していなかった人物。
呉鎮守府提督。
執務室前。
担当官がカメラへ説明する。
「今回は鎮守府の組織そのものを紹介するため、提督にも出演していただきます」
扉。
ノック。
「どうぞ」
担当官。
入る。
カメラ。
続く。
机。
大量の書類。
海図。
通信端末。
その向こう。
提督。
年齢は四十代前半ほど。
軍人らしい落ち着いた雰囲気ではあるが、どこか柔らかい。
犬島や藍島が普段遠慮なく話しかけている理由が、見た目からでも少し分かる。
担当官。
「よろしくお願いします」
提督。
「よろしく」
そして。
担当官を見る。
「今日は犬島と藍島いないの?」
担当官。
一瞬。
止まる。
「第一声がそれですか」
「いや、いつも三人でいるから」
「私は二人と常に三人組ではありません」
提督。
「そうだった?」
「そうです」
撮影補助員。
後ろ。
少し笑う。
担当官。
「今日は鎮守府紹介です」
提督。
「ああ、そうだった」
---
三 提督の仕事
担当官。
「まず、提督の業務についてお願いします」
「そうだな」
提督は机の資料を一部見せる。
「艦娘の出撃計画、遠征、護衛任務、訓練、修理、補給。それ以外にも港の運用や他鎮守府との調整がある」
「今日の犬島・藍島の任務も?」
「もちろん」
担当官。
「……結局名前出ましたね」
提督。
「所属艦なんだから出るだろ」
「それはそうなんですが」
提督。
少し笑う。
「今日は二人を出さない企画なの?」
「出さない企画ではなく、鎮守府紹介です」
「同じじゃない?」
「違います」
提督。
「難しいな、広報」
担当官。
「本当に」
---
四 提督から見た犬島と藍島
撮影補助員。
「せっかくなので一つ」
担当官。
「何です?」
「提督から見た犬島と藍島って、どんな艦娘ですか?」
担当官。
「鎮守府紹介だから……まあ、それくらいなら」
提督。
少し考える。
「犬島は、何でも自分でやろうとする」
担当官。
「分かります」
「壊れた物を見つけると放っておけないし、誰か困っているとかなり自然に手を出す。ただ、自分が困っていてもあまり言わない」
担当官。
頷く。
「それも分かります」
「藍島は?」
「犬島と似てる。でも、犬島より少しだけ周囲に聞くのが早い」
「確かに」
「あと犬島をよく見てる」
担当官。
「妹ですからね」
提督。
「ああ」
少し笑う。
「犬島も藍島をかなり見てるけど」
担当官。
「それは本人に言わない方がいいです」
「なんで?」
「照れます」
提督。
担当官を見る。
「詳しいな」
担当官。
「撮影担当なので」
提督。
「兄みたいだもんな」
担当官。
即答。
「俺は犬島と藍島の兄じゃないぞ」
撮影補助員。
笑う。
提督。
「まだ言われてるんだ」
「提督まで乗らないでください」
---
五 秋月
次。
訓練区域。
秋月。
初めから撮影参加。
「秋月型駆逐艦、秋月です。よろしくお願いします」
担当官。
「ここでは、通常の基礎訓練や対空訓練などを行います」
秋月。
設備。
説明。
非常に。
まとも。
途中。
担当官。
「秋月さんから見て、呉鎮守府はどんなところですか」
秋月。
「そうですね。忙しい日は本当に忙しいですけど、帰ってくると落ち着く場所です」
「なるほど」
「それと」
秋月。
少し笑う。
「最近は、どこを歩いていても犬島さんか藍島さんの広報撮影に当たる気がします」
担当官。
「今日は当たりません」
「今日は二人とも出撃中でしたね」
「はい」
秋月。
少し。
残念そう。
「静かですね」
担当官。
「普段二人が騒がしいみたいに言わないでください」
「騒がしくはないです」
秋月。
考える。
「でも、何か起きます」
担当官。
「否定できない」
---
六 時雨
次。
港湾管理棟。
時雨。
書類。
整理。
担当官。
「こちらでは入出港管理や港内作業の調整などを行っています」
時雨。
「今日は犬島と藍島がいないから、担当官ずいぶん落ち着いてるね」
担当官。
「なんで皆そこから入るんだ」
時雨。
「だって前回大変そうだったから」
「普通の紹介をしたかっただけだ」
「今日はできてるじゃない」
担当官。
少し。
胸。
張る。
「そうだろ」
時雨。
時計。
見る。
「二人の帰投予定、何時?」
担当官。
「十八時二十分」
「撮影終了は?」
「十七時半」
時雨。
「じゃあ大丈夫そうだね」
担当官。
「だから今日は大丈夫なんだ」
時雨。
少し。
笑う。
「そういうこと言うと、何か起きそうだけど」
「出撃中の艦が一時間早く帰ってくるわけないだろ」
時雨。
「まあね」
---
七 妙高
工廠。
妙高。
整備区画。
説明。
非常に落ち着いている。
「こちらでは、各艦の定期整備や修理が行われます」
担当官。
「妙高さん自身も、過去にかなり大きな修理を?」
妙高。
「ええ。ですから整備担当の方々にはいつも感謝しています」
完璧。
軍令部広報部。
喜ぶ。
撮影補助。
小声。
「今までで一番まともです」
担当官。
「それ本人に失礼だろ」
妙高。
少し笑う。
「犬島さんたちの動画も、私は好きですよ」
担当官。
「ここでも二人の名前出ます?」
「同じ鎮守府ですから」
担当官。
「そうですね」
もう。
諦め始める。
---
八 能代
食堂。
今回は。
犬島。
藍島。
いない。
白桃。
なし。
担当官。
安心。
能代。
昼食。
担当官。
「食堂も鎮守府生活の重要な場所です」
能代。
「任務から戻った後に食べるご飯は、本当に美味しいですよ」
担当官。
「好きなメニューは?」
「魚料理ですね」
「白桃ではなく?」
能代。
「何で白桃限定なんです?」
担当官。
「いえ」
撮影補助員。
笑う。
「担当官が犬島に引っ張られてます」
担当官。
「今のカット」
---
九 第一岸壁、空席
午後。
第一岸壁。
犬島実艦。
いない。
第二岸壁。
藍島実艦。
いない。
海。
広い。
二つ。
空いた。
係留位置。
担当官。
「こちらが第一岸壁と第二岸壁です」
少し。
不思議。
いつも。
そこにある。
二隻。
ない。
「通常は第一岸壁を犬島、第二岸壁を藍島が使用していますが、本日は二隻とも護衛任務中です」
撮影補助。
「静かですね」
担当官。
「さっきからみんな同じこと言うな」
提督。
いつの間にか。
後ろ。
「実際ちょっと静かだよ」
担当官。
振り向く。
「提督、来たんですか」
「最後の撮影くらい見ようかと思って」
二人。
空いた岸壁。
見る。
提督。
「帰ってくる場所って、艦がいない時の方がよく分かるな」
担当官。
「どういう意味です?」
「空いてるだろ」
第一。
第二。
「だから、帰ってきた時に『おかえり』って言える」
担当官。
少し。
黙る。
「それ、犬島が好きそうですね」
「犬島自身がよく言ってるだろ」
「そうでした」
---
十 初めてまともに完成する
午後五時十二分。
撮影。
最終カット。
担当官。
正門近く。
カメラ。
「以上で、呉鎮守府の紹介を終わります」
字幕。
『撮影終了予定まで18分』
「今回は正門、本庁舎、提督執務室、訓練区画、港湾管理棟、工廠、食堂、第一・第二岸壁を紹介しました」
担当官。
少し。
満足。
「そして」
撮影補助。
嫌な予感。
「今日一日」
担当官。
指。
一本。
立てる。
「犬島と藍島は、一度も映っていません」
撮影補助。
「名前はかなり出ましたけどね」
「本人は映ってない」
「はい」
「今度こそ成功です」
提督。
横。
拍手。
「おめでとう」
担当官。
「ありがとうございます」
「長かったな」
「本当に」
---
十一 一本の無線
その時。
提督。
携帯端末。
鳴る。
「ん?」
確認。
提督。
表情。
少し。
変わる。
担当官。
「どうしました?」
「護衛隊から」
「犬島たち?」
「うん」
担当官。
少し。
身構える。
「事故?」
「いや」
提督。
画面。
読む。
「護衛対象が予定より早く目的海域へ到着したので、任務終了。二隻とも帰投中」
担当官。
「それなら問題ないですね」
提督。
「あと」
「はい」
「追い潮と風向きが良かったので、予定よりかなり早い」
担当官。
少し。
止まる。
「どのくらい」
提督。
時計。
見る。
「呉港口通過、十七時八分」
担当官。
「……今」
「十七時十三分」
担当官。
カメラ。
見る。
提督。
見る。
「五分前?」
「うん」
遠く。
港。
汽笛。
担当官。
「……」
撮影補助。
笑い始める。
「来ましたね」
担当官。
「まだ撮影終わってる」
「録画回ってます」
担当官。
「止めろ」
撮影補助。
「エンディング素材撮ってます」
---
十二 帰ってきた
第一岸壁方向。
二隻。
入る。
犬島。
藍島。
実艦。
護衛任務。
無事。
終了。
損傷。
なし。
事故。
なし。
提督。
少し。
嬉しそう。
「帰ってきたな」
担当官。
「帰ってきましたね」
「迎えに行く?」
「まあ」
担当官。
少し。
笑う。
「せっかくなので」
撮影補助。
カメラ。
そのまま。
---
十三 第一岸壁
犬島。
実艦。
接岸。
第二岸壁。
藍島。
接岸。
係留。
終了。
犬島本人。
甲板。
降りる。
藍島本人。
隣。
降りる。
二人。
少し。
疲れている。
でも。
無事。
犬島。
提督。
見つける。
顔。
明るくなる。
「提督!」
提督。
手。
上げる。
「おかえり、犬島」
犬島。
小走り。
来る。
藍島。
担当官。
発見。
「担当官さん!」
担当官。
「おかえり」
犬島。
藍島。
二人。
かなり。
嬉しそう。
そして。
同時。
速度。
上がる。
提督。
「ん?」
担当官。
「待て」
犬島。
提督へ。
藍島。
担当官へ。
そのまま。
---
十四 突撃
犬島。
「ただいまです!」
提督。
「お、おい――」
どん。
犬島。
勢い。
少し。
つきすぎる。
提督。
一歩。
二歩。
後ろ。
下がる。
犬島。
提督の前。
止まる。
「……あ」
同時。
藍島。
「帰りました!」
担当官。
「藍島、速――」
どん。
藍島。
広報担当官へ。
正面から。
ぶつかる。
担当官。
身長。
約百八十センチ。
体格差。
かなり。
ある。
それでも。
完全に。
油断。
していた。
一歩。
後ろ。
よろめく。
「うおっ!」
反射的。
藍島の肩を支える。
藍島。
止まる。
担当官。
「危ない!」
藍島。
「あ」
少し。
見上げる。
「すみません」
担当官。
「帰ってきた途端に突撃するな!」
隣。
提督。
犬島。
見る。
「犬島もだぞ」
犬島。
「すみません……」
提督。
「でも」
頭。
軽く。
撫でる。
「おかえり」
犬島。
少し。
嬉しそう。
「ただいまです」
担当官。
藍島へ。
「お前も」
少し。
息。
整える。
「おかえり」
藍島。
笑う。
「ただいまです」
---
十五 カメラ
四人。
そこで。
気づく。
撮影補助員。
まだ。
撮っている。
担当官。
「……止めてないの?」
撮影補助。
「止めてません」
担当官。
「何で」
「エンディング」
提督。
「いいんじゃない?」
担当官。
「何がです?」
提督。
犬島。
横。
藍島。
担当官。
横。
見る。
「帰投まで含めて鎮守府紹介だろ」
担当官。
「それは」
少し。
止まる。
犬島。
カメラ。
見る。
「これ、広報動画です?」
担当官。
「そう」
藍島。
「月1?」
「違う!」
犬島。
「じゃあまた映ったんですね」
担当官。
「最後の三十秒だけな!」
---
十六 編集室
翌日。
完成前。
動画。
最後。
担当官。
«「犬島と藍島は、一度も映っていません。今度こそ成功です」»
その直後。
無線。
帰投。
そして。
犬島。
«「提督!」»
藍島。
«「担当官さん!」»
二人。
走る。
どん。
どん。
編集担当。
止める。
担当官。
横。
いる。
編集担当。
「最高ですね」
担当官。
「カット」
「嫌です」
「鎮守府紹介だぞ」
「帰投風景も鎮守府紹介です」
「突撃までいる?」
「一番日常が出てます」
担当官。
「犬島と藍島の広報じゃない」
編集担当。
「でも提督初登場回でもあります」
担当官。
「それが何だ」
「初登場の提督が犬島に突撃されて終わる」
担当官。
「……」
「初登場の担当官は藍島に突撃される」
担当官。
「俺は前に出てる」
「今回は二人とセットで」
担当官。
頭。
抱える。
---
十七 公開
動画タイトル。
【公式】今度こそ呉鎮守府を普通に紹介します
動画説明。
«本動画は犬島・藍島の月1特別広報企画ではありません。
撮影当日、両艦は護衛任務中でした。
呉鎮守府の施設、組織、所属艦娘の日常をご紹介します。»
公開。
冒頭。
担当官。
«「今度こそ、まともに呉鎮守府を紹介していきます」»
コメント。
«「今度こそ」»
«「ほんとかな」»
«「今回は二人出撃中だから勝てる」»
---
十八 提督人気
提督。
初登場。
反応。
好評。
«「提督初めて見た」»
«「思ったより穏やかな人」»
«「犬島たちが懐く理由分かる」»
提督。
担当官へ。
«「兄みたいだもんな」»
担当官。
«「俺は犬島と藍島の兄じゃないぞ」»
コメント。
«「提督まで言ってる」»
«「公式内部でも兄認定されてて草」»
«「兄じゃないぞ定期」»
---
十九 所属艦娘
秋月。
時雨。
妙高。
能代。
それぞれ。
人気。
特に。
時雨。
«「二人の帰投予定、何時?」»
担当官。
«「十八時二十分」»
時雨。
«「じゃあ大丈夫そうだね」»
コメント。
«「時雨フラグ立てた?」»
«「いやさすがに今回は無理」»
«「120海里先だぞ」»
そして。
後半。
結果。
みんな。
戻ってくる。
---
二十 最大の盛り上がり
動画。
二十八分五十六秒。
担当官。
«「犬島と藍島は、一度も映っていません」»
コメント。
«「勝った」»
«「ついに成功」»
«「おめでとう担当官」»
二十九分十九秒。
無線。
『犬島・藍島帰投済』
コメント。
«「ん?」»
«「待って」»
«「早くない?」»
二十九分五十八秒。
犬島。
「提督!」
藍島。
「担当官さん!」
コメント。
«「来た!!!!」»
«「走ってる」»
«「おい速度」»
そして。
どん。
提督。
犬島。
どん。
担当官。
藍島。
コメント欄。
爆発。
«「突撃したwww」»
«「犬島→提督」»
«「藍島→兄」»
«「担当官は兄じゃないぞ!」»
«「最後の30秒ですべて持っていった」»
«「28分間まともな鎮守府紹介だったのに」»
---
二十一 一番人気のコメント
第一位。
«「28分間かけて『犬島と藍島がいなくても鎮守府紹介は成立する』と証明した直後、最後の30秒で二人が帰ってきて全部持っていった。」»
第二位。
«「犬島は提督へ、藍島は広報担当官へ一直線なの、普段誰を頼ってるか分かって好き。」»
第三位。
«「提督『おかえり』、担当官『おかえり』。結局これが呉鎮守府の紹介として一番分かりやすい。」»
第四位。
«「犬島と藍島を出さない動画じゃなくて、『二人が帰ってくる場所』を紹介する動画になってるの良い。」»
担当官。
四位。
長く。
見る。
今回は。
否定。
しなかった。
---
二十二 犬島公式SNS
«今日公開された呉鎮守府紹介動画の撮影中、うちと藍島さんは護衛任務へ出ていました。
予定より早く任務が終わったので帰投したら、提督と担当官さんが岸壁におりました。
嬉しくて少し勢いがつきました。
提督にぶつかりました。
怪我はありません。
事故記録には入りません。
ただいまと言えて良かったです。»
反応。
«「犬島、走ってたね」»
«「『少し勢い』」»
«「提督二歩下がってたぞ」»
犬島。
«すみませんでした。»
提督。
公式経由。
«大丈夫。おかえり。»
犬島。
«ただいまです。»
---
二十三 藍島公式SNS
«護衛任務から帰ったら担当官さんがおったので、そのまま走っていきました。
思ったより速度が出てました。
担当官さんにぶつかりました。
担当官さんも、うちも怪我ありません。
帰った時に「おかえり」と言ってもらえました。
嬉しかったです。»
反応。
«「藍島、完全に兄に帰宅報告する妹」»
担当官。
公式。
«俺は犬島と藍島の兄じゃないぞ。»
藍島。
«はい。広報担当官さんです。»
犬島。
«知っとります。»
ネット。
«「いつもの」»
---
二十四 提督の初SNSコメント
今回。
提督。
初めて。
呉鎮守府公式SNS。
短いコメント。
«「犬島・藍島ともに護衛任務を問題なく完遂しました。二隻とも無事帰投しています。
なお、帰投直後に犬島の突撃を受けましたが、こちらも無事です。
元気に帰ってきたので良しとします。」»
反応。
«「提督優しい」»
«「犬島が懐く理由分かった」»
«「提督まで事故報告みたいな文体になってる」»
犬島。
«ほんまにすみません。»
提督。
«次は歩いて来い。»
犬島。
«はい。»
---
二十五 広報担当官の場合
一方。
担当官。
自分で。
投稿。
«本動画は犬島・藍島の月1広報ではありません。
撮影終了直前まで両艦とも映っていなかったため、今度こそ普通の鎮守府紹介動画として完成したと思っていました。
二隻が予定より早く帰投しました。
藍島に突撃されました。
怪我はありません。
次回は帰投予定まで確認して撮影時間を決めます。»
反応。
«「今回確認してたでしょ」»
«「一時間余裕取ってたじゃん」»
«「もう諦めろ」»
«「鎮守府に犬島藍島がいる以上無理」»
担当官。
一件。
返信。
«一時間早く帰ってくるとは思わないだろ。»
---
二十六 後日
提督執務室。
担当官。
次回広報。
相談。
提督。
「次も鎮守府紹介?」
「別部署です」
「犬島と藍島は?」
「今回はもう気にしません」
提督。
少し。
驚く。
「諦めた?」
担当官。
「違います」
「じゃあ?」
担当官。
少し。
考える。
「鎮守府にいるなら映る。それでいいです」
提督。
笑う。
「成長したな」
担当官。
「ただし」
「うん」
「突撃は禁止です」
後ろ。
犬島。
書類。
持って入る。
「何の話です?」
担当官。
「お前たちの話」
藍島も。
後ろ。
「うちら?」
担当官。
二人。
見る。
「帰投した時は歩いて来い」
犬島。
「はい」
藍島。
「分かりました」
提督。
「本当に?」
犬島。
藍島。
同時。
「はい」
担当官。
「その同時返事がちょっと不安なんだよ」
---
終章 帰ってくる場所
動画の冒頭。
担当官。
自信。
満々。
«「今度こそ、まともに呉鎮守府を紹介していきます。」»
その言葉通り。
ほとんど。
成功。
した。
提督。
紹介。
秋月。
時雨。
妙高。
能代。
食堂。
工廠。
港湾施設。
第一岸壁。
第二岸壁。
所属艦娘が。
仕事。
する。
職員。
働く。
提督。
指揮。
する。
犬島。
藍島。
いない。
それでも。
鎮守府。
動く。
そして。
撮影。
最後。
空いていた。
第一岸壁。
第二岸壁。
二隻。
戻る。
犬島。
提督。
見つける。
藍島。
担当官。
見つける。
二人。
走る。
«「提督!」»
«「担当官さん!」»
提督。
「おかえ――」
どん。
担当官。
「藍島、待――」
どん。
数秒後。
提督。
「おかえり、犬島」
犬島。
「ただいまです」
担当官。
「おかえり、藍島」
藍島。
「ただいまです」
動画。
そこで。
少し。
引き。
第一岸壁。
犬島実艦。
第二岸壁。
藍島実艦。
四人。
立つ。
最後。
字幕。
『呉鎮守府――出ていく場所であり、帰ってくる場所。』
エンドカード。
その後。
おまけ音声。
担当官。
«「でも次から突撃は禁止だからな」»
藍島。
«「はい」»
提督。
«「犬島も」»
犬島。
«「はい」»
撮影補助。
«「二人とも本当に分かってます?」»
犬島。
藍島。
同時。
«「分かっとります」»
担当官。
«「だからその返事が不安なんだよ」»
提督。
笑う。
犬島。
藍島。
笑う。
担当官も。
最後。
笑う。
結局。
この動画で一番伝わったのは。
施設の大きさでも。
工廠設備でも。
執務室でもなく。
任務へ出た艦が。
帰ってきた時。
「おかえり」
と言う人がいる。
それが。
呉鎮守府。
という場所だった。