2人はいつも通りの昼食を食べていたが、同時にお腹いっぱいになり残った昼食を広報担当官に上げるという兄妹ムーブをする話。
この話で犬島と藍島が広報担当官に食べさせている状況でその時は何とも思っていなかったが、「これ間接キスじゃね?」というコメントを見て犬島と藍島の公式SNSで大慌てしている様子。一方広報担当官は「そういやそうだな」と淡々とコメントしていた。
海防艦・犬島/藍島
――担当官さん、これ食べます?――
妹二人から残り物を渡される広報担当官
※メインストーリーとは別世界線/月1回特別広報
犬島と藍島の月一回特別広報動画。
今回の企画は、かなり地味だった。
「犬島と藍島の昼休み」
朝から撮影するわけでもなく、工廠見学をするわけでもなく、出港もしない。
昼食の少し前からカメラを回し、二人が食堂へ行き、普段どんな昼休みを過ごしているかを撮る。
それだけだった。
広報担当官は撮影開始前、珍しく安心していた。
「食べて帰るだけだからな」
犬島。
「前にも食堂で何かありませんでした?」
担当官。
「白桃ゼリーのことは忘れろ」
藍島。
「七個残っとったやつ」
「具体的に言うな」
犬島。
少し笑う。
「今日は普通に食べます」
担当官。
「それで頼む」
---
一 昼食
正午十二時三分。
呉鎮守府食堂。
犬島。
藍島。
向かい合うのではなく、今回は並んで座っていた。
担当官は二人から少し離れた場所でカメラを構える。
今日の献立。
ご飯。
味噌汁。
鯖の塩焼き。
卵焼き。
ほうれん草のおひたし。
小さなコロッケ二個。
漬物。
犬島。
「普通ですね」
藍島。
「普通です」
担当官。
「食堂の献立に何を期待してるんだ」
犬島。
「いや、今日は白桃ないなと思って」
担当官。
「昼食だからな」
藍島。
「犬島さん、白桃あったら別腹ですよね」
犬島。
「たぶん」
担当官。
「今から食べる前に別腹の話するな」
---
二 食べ方まで似てくる
犬島。
味噌汁。
一口。
藍島。
ほぼ同時。
味噌汁。
一口。
犬島。
鯖。
藍島。
鯖。
犬島。
ご飯。
藍島。
ご飯。
担当官。
カメラ越し。
しばらく見る。
「お前ら、食べる順番まで似てないか?」
犬島。
止まる。
藍島。
止まる。
二人。
互いの膳。
見る。
犬島。
「そうです?」
藍島。
「たまたまじゃないです?」
担当官。
「今、味噌汁から鯖、ご飯まで全部同じだったぞ」
犬島。
「普通の順番です」
藍島。
「はい」
担当官。
「二人同時に言うな」
---
三 いつもより少し多かった
ただ。
この日は。
食堂側の事情で、コロッケが普段より一個多かった。
犬島。
二個。
藍島。
二個。
さらに鯖も少し大きめ。
最初は普通に食べていた二人だったが、食事開始から十五分ほど。
犬島。
箸。
少し。
遅くなる。
藍島も。
同じ。
担当官。
気づく。
「どうした?」
犬島。
「いや」
少し考える。
「ちょっと多いです」
藍島。
「うちもです」
担当官。
「珍しいな」
犬島。
「朝、少し遅めに食べたので」
藍島。
「うちも犬島さんと一緒でした」
担当官。
「ああ、だからか」
二人。
残りを見る。
犬島。
コロッケ。
一個。
卵焼き。
一切れ。
ご飯。
少し。
藍島も。
ほぼ同じ。
犬島。
藍島。
そして。
ほとんど同時に。
お腹。
さする。
担当官。
カメラ。
少し。
下がる。
「……まさか」
犬島。
「お腹いっぱいです」
藍島。
「うちも」
担当官。
「そこまで同時じゃなくていいんだぞ」
---
四 二人で相談
犬島。
自分の膳。
見る。
藍島。
同じ。
犬島。
「残すのもったいないですね」
藍島。
「そうですね」
担当官。
「無理して食べるなよ」
犬島。
「はい」
藍島。
「じゃあ」
二人。
ほぼ同時。
担当官を見る。
担当官。
カメラ越し。
嫌な予感。
「……何」
犬島。
「担当官さん」
藍島。
「まだ食べられます?」
担当官。
「俺?」
犬島。
「はい」
藍島。
「うちらの残り」
犬島。
「食べます?」
担当官。
数秒。
黙る。
カメラ。
二人。
見る。
二人とも。
かなり自然な顔。
犬島。
自分のコロッケ。
担当官側へ。
少し。
寄せる。
藍島も。
自分の卵焼き。
寄せる。
担当官。
「待て」
二人。
止まる。
「なんで二人同時に俺へ回すんだ」
犬島。
「食べられんので」
藍島。
「担当官さん、まだ食べられそうだったので」
担当官。
「俺はお前らの残飯処理係じゃないぞ」
犬島。
少し。
困った顔。
「嫌なら無理にとは」
担当官。
「あ、いや」
そこで。
担当官。
止まる。
犬島。
藍島。
二人。
本当に。
困っている。
担当官。
ため息。
「……食べる」
犬島。
少し。
嬉しそう。
「ありがとうございます」
藍島。
「助かります」
担当官。
「何で俺が礼言われてるんだ」
---
五 完全に兄妹
担当官。
カメラ。
三脚。
置く。
自分も。
二人の横。
座る。
犬島。
自分の残ったコロッケ。
小皿。
担当官。
渡す。
「これ」
藍島。
卵焼き。
「うちのも」
担当官。
「一気に渡すな」
犬島。
「ご飯も少し」
藍島。
「うちもあります」
担当官。
「待て待て」
画面。
三人。
並ぶ。
犬島。
左。
藍島。
右。
真ん中。
身長約百八十センチの担当官。
その前。
犬島と藍島から少しずつ移された昼食。
撮影補助員。
少し離れたところ。
状況。
見る。
そして。
小さく。
「完全に兄だな……」
担当官。
聞こえる。
「聞こえてるぞ」
犬島。
「兄みたいですね」
担当官。
「犬島まで言うな」
藍島。
「妹二人が食べきれん分を兄に渡すやつ」
担当官。
「俺は犬島と藍島の兄じゃないぞ!」
二人。
同時。
「はい」
担当官。
「その返事、もう信用してないからな」
---
六 しかも選別される
担当官。
コロッケ。
食べる。
藍島。
自分の残り。
見る。
「担当官さん」
「何」
「漬物好きです?」
「普通」
藍島。
「じゃあこれも」
担当官。
「いや、自分で食べろ」
藍島。
「もう入らんです」
犬島。
「担当官さん、鯖は?」
「食べられるけど」
犬島。
小さい一切れ。
渡す。
担当官。
「ちょっと待て」
犬島。
「嫌いです?」
「そうじゃない」
藍島。
「じゃあ食べられますね」
担当官。
「お前ら、俺を食堂の最終処理工程にするな」
撮影補助。
後ろ。
笑う。
---
七 犬島の理屈
担当官。
食べながら。
犬島へ。
「犬島」
「はい」
「なんで最初から俺に渡そうと思った?」
犬島。
少し。
考える。
「担当官さん」
「うん」
「前にうちらより食べる量多かったので」
担当官。
「身長差あるからな」
「あと」
犬島。
少し。
笑う。
「うちらが食べられん時、たぶん食べてくれると思いました」
担当官。
止まる。
藍島。
「うちも同じです」
担当官。
少し。
困る。
「そういう信頼のされ方は複雑だな」
犬島。
「嫌です?」
担当官。
「嫌ではない」
藍島。
「じゃあ良かったです」
担当官。
「でも次は最初から量調整しろ」
二人。
「はい」
---
八 撮影補助の追撃
撮影補助員。
「担当官」
「何」
「これ、動画で使いますよ」
担当官。
「食堂紹介だろ」
「月1の二人の日常です」
「俺が食べてるだけだぞ」
撮影補助。
画面。
見せる。
犬島。
自分の残り。
担当官へ。
藍島。
同じ。
担当官。
真ん中。
受け取る。
完全。
家族の昼食。
「視聴者、絶対兄妹って言います」
担当官。
「編集で切れ」
犬島。
「でも普通の日常ですよ?」
藍島。
「はい」
担当官。
二人。
見る。
「お前らがそれ言うと強いな」
---
九 午後の撮影
昼食終了。
犬島。
満足。
藍島。
同じ。
担当官。
少し。
重い。
犬島。
「大丈夫です?」
担当官。
「お前ら二人分の残り食べたからな」
藍島。
「そんな多くなかったですよ」
「二人分合わせたらそこそこある」
犬島。
「すみません」
担当官。
「怒ってない」
藍島。
「じゃあ次も」
担当官。
「次は自分で食べられる量にしろ」
犬島。
藍島。
同時。
「はい」
担当官。
「その『はい』本当に分かってる?」
---
十 動画公開
数日後。
タイトル。
【公式】犬島と藍島の昼休み――月1特別広報
動画。
開始。
普通。
食堂。
雑談。
犬島。
藍島。
同じ順番。
食べる。
コメント。
«「また同期してる」»
«「食べ方まで姉妹」»
そして。
二人。
同時。
箸。
止まる。
犬島。
「お腹いっぱいです」
藍島。
「うちも」
コメント。
«「同時w」»
«「そこまで揃う?」»
次。
二人。
同時。
担当官。
見る。
コメント。
«「あ」»
«「嫌な予感」»
犬島。
「担当官さん、これ食べます?」
藍島。
「うちのも」
コメント。
爆発。
«「兄に回したw」»
«「完全に妹二人」»
«「担当官さん食べてあげるの優しい」»
«「食べきれない分を兄に渡す姉妹」»
---
十一 最大の盛り上がり
担当官。
三脚。
置く。
二人の間。
座る。
犬島。
コロッケ。
藍島。
卵焼き。
担当官。
受け取る。
撮影補助。
«「完全に兄だな……」»
担当官。
«「聞こえてるぞ」»
藍島。
«「妹二人が食べきれん分を兄に渡すやつ」»
担当官。
«「俺は犬島と藍島の兄じゃないぞ!」»
犬島。
藍島。
«「はい」»
コメント。
ものすごい。
«「はいじゃないw」»
«「もう誰も信じてない」»
«「兄じゃない人、妹二人の残り食べてます」»
«「事実関係:兄ではない。行動:兄。」»
---
十二 人気コメント
最上位。
«「妹二人が同時に『もう食べられない』→同時に兄を見る、流れが自然すぎる。」»
次。
«「犬島も藍島も『この人なら食べてくれる』って最初から思ってるのが一番兄妹感ある。」»
次。
«「担当官『残飯処理係じゃないぞ』と言いながら結局全部食べる。」»
さらに。
«「二人が食べきれない量を無理させず、自分が食べて、次から量調整しろって言うの完全に兄。」»
担当官。
後で。
このコメント。
見て。
「仕事仲間として普通だろ」
同僚。
「普通の仕事仲間は妹二人の昼食の残りまで食わない」
担当官。
「……」
反論。
できない。
---
十三 犬島公式SNS
«今月の広報動画が公開されました。
昼食を食べとったら、うちと藍島さんがほぼ同時にお腹いっぱいになりました。
残すのはもったいなかったので、担当官さんに食べてもらいました。
担当官さんは「俺は犬島と藍島の兄じゃないぞ」と言っています。
兄ではありません。
でも全部食べてくれました。
ありがとうございます。»
反応。
«「最後二行で兄感が完成する」»
«「犬島の公式説明が毎回擁護になってない」»
犬島。
«事実を書いとるだけです。»
---
十四 藍島公式SNS
«犬島さんとうちが同時に満腹になりました。
担当官さんがまだ食べられそうだったので、残った分をお願いしました。
全部食べてくれました。
次は最初から少なめにします。
担当官さんは兄ではありません。
でもこういう時は頼りになります。»
担当官。
«最後の一文いらない。»
藍島。
«褒めたんです。»
担当官。
«それならありがとう。»
犬島。
«兄みたいです。»
担当官。
«犬島。»
---
十五 広報担当官の舞台裏
呉鎮守府公式SNS。
«【広報担当より】
「二人とも朝食が遅かったため、昼食を少し残しました。
無理に食べさせる必要はないので、私が食べられる分だけ引き受けました。
次回から食事量は本人たちで調整することになっています。
なお、私は二人の兄ではありません。」»
反応。
«「最後の一文毎回入るようになった」»
«「公式注記みたいになってる」»
«「兄ではない宣言シリーズ」»
一番高評価。
«「兄ではないことを毎回説明しないといけない広報担当官かわいそうだけど、毎回兄みたいなことしてる本人にも原因がある。」»
担当官。
「いいね」。
押さない。
ただ。
保存。
した。
---
十六 後日
また。
食堂。
撮影なし。
犬島。
藍島。
担当官。
同じ机。
犬島。
今回は。
少なめ。
藍島も。
同じ。
担当官。
見る。
「今日は大丈夫そうだな」
犬島。
「量減らしました」
藍島。
「学習しました」
担当官。
「偉い」
二人。
食べる。
そして。
最後。
犬島。
小さな白桃ゼリー。
一個。
藍島。
同じ。
担当官。
ない。
犬島。
藍島。
同時。
担当官。
見る。
担当官。
すぐ。
「いらないぞ」
犬島。
「まだ何も言ってません」
藍島。
「担当官さんの分ないなと思っただけです」
担当官。
「二人で食え」
犬島。
藍島。
「はい」
今度。
普通。
食べる。
担当官。
少し。
安心。
犬島。
食べ終わる。
「美味しかったです」
藍島。
「美味しかったです」
担当官。
「よかったな」
横の席。
時雨。
その三人。
見る。
「やっぱり家族みたいだね」
担当官。
即答。
«「俺は犬島と藍島の兄じゃないぞ」»
犬島。
藍島。
同時。
「はい」
時雨。
笑う。
担当官。
二人。
見る。
「だからその返事をやめろ」
犬島。
「分かっとります」
藍島。
「兄ではないです」
担当官。
「そう」
少し。
間。
藍島。
「兄みたいなだけです」
担当官。
「藍島」
犬島。
笑う。
時雨。
笑う。
担当官も。
最後には。
少しだけ。
笑った。
結局。
兄ではない。
血縁関係もない。
ただ。
妹みたいな二人が同時に満腹になった時、
「これ食べます?」
と当然のように頼られ。
文句を言いながら。
結局。
全部食べる。
そういう広報担当官だった。
――今さらそこに気づかんでください――
昼食動画公開後、コメント欄の一言で姉妹が大混乱した話
※メインストーリーとは別世界線/月1回特別広報
月一回の犬島・藍島特別広報。
今回の動画は、公開直後からかなり好評だった。
題名は、
「犬島と藍島の昼休み」
内容そのものは平和だった。
犬島と藍島が食堂で昼食を食べる。
二人とも朝食が遅かったこともあり、偶然ほぼ同時に満腹になる。
残ったコロッケや卵焼き、ご飯を無理して食べるのではなく、まだ食べられるという広報担当官へ譲る。
担当官は、
「俺はお前らの残飯処理係じゃないぞ」
と言いつつ結局引き受け、
さらに撮影補助から、
「完全に兄だな」
と言われ、
«「俺は犬島と藍島の兄じゃないぞ!」»
といつものツッコミを入れる。
視聴者から見れば、完全に平和な兄妹の食卓だった。
問題が起きたのは、公開から約三時間後。
事故ではない。
故障でもない。
誰も怪我をしていない。
ただ。
コメント欄に、一件。
妙なことへ気づいた人が現れた。
---
一 例のコメント
動画の十二分四十一秒。
犬島が自分の皿から残ったコロッケを担当官へ。
その直後。
藍島も卵焼きを担当官へ渡している。
視聴者の一人が、何気なくコメントした。
«「待って。これ間接キスじゃね?」»
最初。
高評価。
十数件。
次第に。
百。
千。
そして。
返信欄。
増える。
«「あ」»
«「言われてみれば」»
«「本人たち絶対そこまで考えてないだろ」»
«「三人とも普通に飯の続きとして処理してるの草」»
«「担当官、何の抵抗もなく食べてる」»
ただし、実際には料理は担当官側の皿へ移してから食べており、動画から分かる範囲でも、いわゆる直接的な意味での「間接キス」と断定できる状況ではない。
それでも。
インターネット。
こういう言葉。
一度。
出る。
止まらない。
---
二 最初に見つけたのは藍島
午後八時十三分。
藍島公式SNS管理用端末。
藍島。
動画。
反応。
確認。
「今日も多いですね」
高評価コメント。
読む。
一位。
「妹二人が同時に兄を見るの自然すぎる」
藍島。
少し笑う。
二位。
「担当官なんだかんだ全部食べるの優しい」
藍島。
「はい」
三位。
例。
«「これ間接キスじゃね?」»
藍島。
止まる。
「……」
もう一回。
読む。
「……え?」
画面。
近づける。
文字。
変わらない。
これ間接キスじゃね?
藍島。
数秒。
完全停止。
その後。
急に。
「犬島さん」
近くにいた犬島。
「何です?」
「ちょっと」
「はい?」
「これ」
端末。
見せる。
犬島。
読む。
「……」
止まる。
藍島。
「……」
犬島。
「……」
二人。
顔。
見合わせる。
犬島。
「違いますよね?」
藍島。
「うちに聞かれても」
犬島。
「いや、普通に残ったの渡しただけでしょう」
藍島。
「はい」
犬島。
「普通でしょう」
藍島。
「普通です」
二人。
もう一回。
コメント。
見る。
返信。
増えている。
«「本人たち気づいたらめちゃくちゃ慌てそう」»
犬島。
「……」
藍島。
「……」
完全に。
図星。
---
三 犬島、大慌て
犬島。
自分の公式アカウント。
開く。
文章。
打つ。
消す。
打つ。
消す。
藍島。
「犬島さん落ち着いて」
犬島。
「落ち着いとります」
「三回消しましたよ」
「文章確認です」
「四回目です」
犬島。
「藍島さんも何か書いてください」
「何を書けば」
犬島。
「違うって」
藍島。
「何が違うのか説明すると余計に話題になりません?」
犬島。
止まる。
「……それもそうですね」
数秒。
沈黙。
犬島。
再び。
端末。
見る。
そして。
結局。
投稿。
---
四 犬島公式SNS
«さっき広報動画のコメントで「これ間接キスでは」というのを見ました。
違います。
普通に食べきれんかった分を担当官さんに食べてもらっただけです。
その時はうちも藍島さんも、そういうことは考えてませんでした。
今さらそこに気づかんでください。
あと担当官さんは兄ではありません。»
投稿。
十秒。
反応。
爆発。
«「本人見つけたw」»
«「犬島大慌て」»
«「『今さら気づかんでください』で笑う」»
«「最後に兄ではありませんまで付ける余裕はある」»
«「否定投稿したせいでさらに広がった」»
犬島。
画面。
見る。
「……増えました」
藍島。
「増えましたね」
犬島。
「何で?」
藍島。
「投稿したからでは?」
犬島。
「言わん方が良かった?」
藍島。
「たぶん」
犬島。
頭。
抱える。
---
五 藍島も投稿
犬島だけ。
慌てている。
ように。
見える。
それは。
少し。
申し訳ない。
藍島。
自分も。
投稿。
«犬島さんだけが慌てとるように見えますけど、うちもさっきコメントを見て初めて気づきました。
昼食中は本当に何も考えてませんでした。
食べきれん分を担当官さんにお願いしただけです。
担当官さんも普通に食べていました。
なので変な意味はありません。
犬島さんは今かなり慌てています。
うちも少し慌てています。»
犬島。
即返信。
«最後2行いります?»
藍島。
«事実です。»
犬島。
«そうですけど。»
ネット。
«「姉妹そろって慌ててる」»
«「犬島:かなり、藍島:少し」»
«「担当官本人は絶対何も気にしてなさそう」»
この予想。
当たる。
---
六 当の本人
午後八時三十一分。
広報担当官。
広報室。
翌日の資料。
整理。
同僚。
来る。
「担当官」
「何」
「SNS見た?」
「どれ」
「犬島たち」
担当官。
端末。
開く。
犬島。
投稿。
読む。
藍島。
投稿。
読む。
そして。
元。
コメント。
«「これ間接キスじゃね?」»
担当官。
数秒。
考える。
「……」
同僚。
「どう?」
担当官。
かなり。
淡々。
«「そういやそうだな」»
同僚。
「反応それだけ?」
担当官。
「いや、食事中そんなこと考えてなかったし」
「二人めちゃくちゃ慌ててるぞ」
担当官。
「何で?」
「お前が落ち着きすぎなんだよ」
担当官。
「食べ物もったいないから食べただけだぞ」
同僚。
「そうなんだけど」
担当官。
さらに。
動画。
見直す。
犬島。
コロッケ。
藍島。
卵焼き。
自分。
食べる。
担当官。
「……まあ」
少し。
考えて。
「そういう見方もあるのか」
同僚。
「今気づいたの?」
「今気づいた」
---
七 担当官公式コメント
そして。
広報担当官。
呉鎮守府公式経由。
短文。
投稿。
«【広報担当より】
「そういやそうだな。」
撮影中は何も考えていませんでした。
二人が食べきれなかったので、食べられる分を引き受けただけです。»
ネット。
大爆発。
«「温度差www」»
«「犬島:大慌て」»
«「藍島:少し大慌て」»
«「担当官:そういやそうだな」»
«「兄、強い」»
担当官。
追加。
«兄ではありません。»
反応。
«「そこは即否定」»
«「間接キス疑惑より兄扱いの方を気にしてる」»
---
八 犬島、担当官の反応を見る
犬島。
担当官。
投稿。
読む。
「……」
藍島。
「どうしました?」
犬島。
端末。
見せる。
藍島。
読む。
«「そういやそうだな。」»
二人。
沈黙。
犬島。
「何でこんな落ち着いとるんです?」
藍島。
「担当官さんですから」
犬島。
「理由になってません」
藍島。
少し。
笑う。
「でも」
「はい」
「担当官さんが普通なら」
「……」
犬島。
少し。
落ち着く。
「まあ」
「うちらも普通でええですね」
藍島。
「はい」
その直後。
新しいコメント。
«「犬島と藍島、担当官が全然気にしてないの見て安心してそう」»
犬島。
「……何でそこまで分かるんです?」
---
九 翌日の三人
食堂。
翌日。
犬島。
藍島。
担当官。
偶然。
また。
同じ机。
犬島。
今日。
食事。
少なめ。
藍島。
同じ。
担当官。
普通。
犬島。
妙に。
自分の皿。
意識。
藍島も。
同じ。
担当官。
気づく。
「何?」
犬島。
「何でもないです」
藍島。
「はい」
担当官。
食べる。
犬島。
少し。
残り。
見る。
まだ。
食べられる。
食べる。
藍島も。
食べる。
担当官。
「今日はちゃんと量合ってるな」
犬島。
「はい」
藍島。
「調整しました」
担当官。
「よし」
犬島。
一瞬。
担当官の皿。
見る。
担当官。
気づく。
「いらないぞ」
犬島。
「渡そうとしてません」
藍島。
「今日は大丈夫です」
担当官。
「ならいい」
少し。
間。
担当官。
何でもないように。
「昨日のコメント、そんな気にするなよ」
犬島。
箸。
止まる。
藍島も。
止まる。
犬島。
「担当官さんが一番気にしてなさすぎなんです」
担当官。
「そうか?」
藍島。
「『そういやそうだな』だけでしたよ」
担当官。
「他に何言えばいいんだ」
犬島。
「……確かに」
---
十 時雨が通る
そこへ。
時雨。
通る。
三人。
見る。
少し。
笑う。
「今日は食べ物の受け渡ししないの?」
犬島。
「しません」
藍島。
「今日は食べ切れます」
担当官。
「余計なこと言うな、時雨」
時雨。
「あれ、担当官は気にしてないんじゃなかった?」
担当官。
「俺は気にしてない」
犬島。
「うちらが気にします」
時雨。
笑う。
「なるほど」
去る。
担当官。
「絶対面白がってるな」
犬島。
「はい」
藍島。
「たぶん」
---
十一 コメント欄の良い反応
騒ぎそのものは。
翌日には。
かなり。
落ち着く。
そして。
最終的に。
上位へ残ったコメント。
少し。
優しい。
«「三人とも食事中は何も意識してなくて、視聴者だけ後から気づいたのが一番面白い。」»
«「犬島と藍島が慌てて、担当官が『そういやそうだな』なの、三人の性格が出てる。」»
«「変に引きずらず、普通に翌日も同じ食卓にいるのがこの三人らしい。」»
«「本人たちにとっては単に食べきれない料理を頼れる相手へ渡しただけなんだろうな。」»
犬島。
最後。
「いいね」。
藍島も。
「いいね」。
担当官。
同じ。
「いいね」。
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十二 犬島の追記
犬島公式。
翌日。
«昨日の件、うちも藍島さんももう大丈夫です。
担当官さんがあまりにも普通だったので、こっちも気にしすぎるのやめました。
次からは食べられる量にします。
それで解決です。»
藍島。
«はい。
あと残った場合は食堂の人に相談します。»
担当官。
«それが正解。»
犬島。
«最初からそうしたら良かったですね。»
担当官。
«本当にな。»
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終章 温度差
動画。
昼食。
犬島。
「担当官さん、これ食べます?」
藍島。
「うちのも」
担当官。
「俺?」
犬島。
「はい」
担当官。
「……食べる」
その瞬間。
三人。
誰も。
何も。
考えていなかった。
犬島。
もったいない。
藍島。
もったいない。
担当官。
食べられるなら食べる。
それだけ。
数時間後。
視聴者。
一人。
«「これ間接キスじゃね?」»
犬島。
「……え?」
藍島。
「……あ」
二人。
大慌て。
担当官。
コメント。
見る。
数秒。
«「そういやそうだな。」»
犬島。
公式。
«今さらそこに気づかんでください。»
藍島。
公式。
«うちも今初めて気づきました。»
担当官。
公式。
«撮影中は何も考えていませんでした。»
そして。
最後。
いつもの。
«兄ではありません。»
ネット。
«「そこだけは毎回即答なの好き。」»
犬島。
藍島。
担当官。
三人。
結局。
翌日には。
また。
同じ机。
普通に。
昼食。
食べていた。