犬島・藍島
――二日連続、別々の河口へ――
「昨日は犬島、今日は藍島です。川も違います」
呉鎮守府の港務部が、その二枚の報告書を並べた時。
担当者はしばらく何も言わなかった。
一枚目。
海防艦犬島・青浜川河口緊急進入事案。
発生日、九月六日。
もう一枚。
海防艦藍島・小浦川河口進入事案。
発生日、九月七日。
一日違い。
場所は約九十キロ離れている。
原因も違う。
同行艦も違う。
任務も違う。
犬島と藍島は、その二日間ほとんど一緒に行動していない。
それでも。
二人とも川に入った。
港務担当者は書類を見比べてから、隣の職員に聞いた。
「これ、同じ事故の続報じゃないよな?」
「違います」
「川の名前も違うな」
「違います」
「原因も?」
「違います」
「じゃあ、なんで二日続けて海防艦が河口にいるんだ」
職員は少し考えた。
「……偶然です」
その答え以外、なかった。
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一日目 犬島・青浜川
九月六日。
午前十時四十四分。
犬島は呉から東方へ離れた沿岸海域で、小型輸送船一隻の航路確認に同行していた。
危険度の低い通常任務である。
海況は穏やか。
視程良好。
風速四メートル毎秒前後。
犬島は輸送船の約五百メートル前方を十二ノットで航行していた。
青浜川河口は、犬島たちの予定航路から約七百メートル離れている。
入る理由はない。
犬島本人も河口を見て、
「今日はあそこには用事ないですね」
と思っただけだった。
午前十時五十分。
右前方から沿岸貨物船が現れた。
全長約九十メートル。
犬島とは反航する形で接近する。
双方の進路に問題はない。
通常ならそのまま離合して終わる。
ところが。
貨物船が犬島から約八百メートルまで近づいたところで、突然船首を左へ振った。
犬島がすぐに気づく。
「……進路おかしい」
無線。
『こちら犬島。そちら進路確認できますか』
返答。
数秒遅れる。
『操舵不能! 舵が戻らない!』
犬島の表情が変わった。
貨物船は左舵が入ったまま固着していた。
船首は犬島側へ向いている。
犬島の後方には護衛対象の輸送船。
右側は浅瀬。
左側。
青浜川河口。
犬島は即座に判断した。
『輸送船、減速してください。犬島は河口側へ退避します』
輸送船。
『了解』
犬島は左へ転舵した。
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青浜川へ
貨物船との距離は約四百メートル。
犬島は速度を八ノットまで落としながら、青浜川河口へ向かう。
川幅は十分。
河口部の水深も犬島なら通れる。
ただし、当然ながら予定航路ではない。
犬島自身が一番よく分かっていた。
「また河口……」
それでも今は選択肢を選んでいる場合ではなかった。
貨物船の船首が犬島の直前を横切る。
最接近距離。
約七十五メートル。
そのまま貨物船は浅い海域へ入り、非常投錨。
犬島は衝突を避けるため、青浜川へ約四百三十メートル進入したところで停止した。
座礁なし。
接触なし。
河川施設への損傷なし。
犬島自身も無傷。
犬島は河口内から無線を送った。
『犬島、青浜川河口内で停止しました。損傷ありません』
呉鎮守府。
『了解。貨物船の安全確認までその位置を維持』
『はい』
少し間を置いて。
犬島。
『……報告書の題名、河口進入になります?』
指揮所。
数秒。
返答なし。
やがて。
『たぶんなる』
犬島。
「ですよね……」
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犬島、帰投
貨物船の舵は油圧操舵機の内部弁破損によるものと判明した。
事前点検では兆候なし。
犬島側から予見できる要素もなかった。
貨物船を曳船が確保したあと、犬島は自力で青浜川から退出。
護衛対象の輸送船とも再合流し、その日の任務を終えた。
判定。
犬島、過失なし。
緊急退避として河口を選んだ判断も適切。
呉へ戻った犬島は、第一岸壁で待っていた犬飼に報告した。
「ただいまです」
「おかえり。無事?」
「はい。損傷ありません」
「それならいい」
犬島は少し迷ってから付け加える。
「ただ」
犬飼。
「何」
「川に入りました」
犬飼は一瞬止まった。
「久瀬川?」
「違います」
「どこ?」
「青浜川です」
犬飼は額を押さえた。
「増やすなよ、川の種類を」
犬島。
「うちが好きで入ったわけじゃありません」
「分かってる」
「ほんまに無過失です」
「それも聞いてる」
犬飼は少し笑った。
「とりあえず、今日はそれで終わりだな」
犬島。
「はい」
この時。
本当に誰も思っていなかった。
翌日。
今度は藍島が別の川へ入る。
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犬島公式SNS
その夜。
«【青浜川河口への進入について】
本日、沿岸任務中に反航してきた貨物船が操舵不能となり、犬島側へ進入してきました。
衝突を避けるため、犬島は青浜川河口へ一時的に退避しました。
河口から約430mの地点まで入っています。
貨物船とは接触していません。
犬島にも損傷ありません。
調査の結果、貨物船の操舵機内部に突発的な故障が発生しており、犬島側から事前に予見することはできなかったとされています。
犬島に過失はありません。
なお、久瀬川ではありません。»
最後の一文。
当然。
拾われる。
«「先に言われた」»
«「久瀬川じゃないのか」»
«「犬島、ついに別河川へ」»
«「活動範囲を広げないでください」»
犬島。
返信。
«広げてません。»
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二日目 藍島・小浦川
翌日。
九月七日。
犬島は呉で点検日。
藍島は単独で西方海域へ向かっていた。
目的は沿岸観測機器の交換作業支援。
前日の犬島とは任務も海域も異なる。
小浦川河口。
犬島が入った青浜川からは直線で約九十キロ離れている。
藍島は前日、犬島のSNSを見ていた。
朝。
第二岸壁を離れる前。
犬島。
第一岸壁から声をかける。
「藍島さん」
「はい」
「今日は川に入らんでくださいね」
藍島。
少し呆れた顔。
「犬島さんに言われたくないです」
犬島。
「昨日のは仕方なかったんです」
「分かっとります」
「藍島さんは普通に帰ってきてください」
藍島。
「はい。普通に帰ります」
犬飼。
少し離れたところから聞いている。
「そういう話を朝からするなよ」
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午後二時十三分
藍島は観測作業を終え、帰投航路へ入っていた。
速度十ノット。
左前方に小浦川河口。
距離約一・二キロ。
藍島。
河口を見る。
そして前日の犬島を思い出す。
「……うちは入りませんよ」
誰に言うでもなく呟いた。
その数分後。
前方で港湾作業船が一隻停止しているのを確認した。
問題なし。
藍島は右側から十分な距離を取って通過する予定だった。
ところが。
小浦川から海へ流れ出す水面に、突然大量の流木が現れた。
上流で行われていた河川工事現場の仮設集積場が崩れ、保管されていた流木や木材が一斉に流出していた。
河川管理側から警報が出た時には、すでに先頭部分が河口へ達していた。
藍島。
「……何です、あれ」
海面。
木材。
数十本。
中には長さ十メートル近いものもある。
右へ避ける。
しかし右側には先ほどの作業船。
左。
小浦川河口。
後方。
別の小型船。
藍島は減速する。
それでも流木群は潮に乗って広がる。
一本が藍島の進路を横切った。
さらに後続。
藍島は一瞬で判断する。
「河口側へ入ります」
港務管制。
『藍島、小浦川へ?』
「はい。沖側は流木と作業船で塞がります」
『了解。河口内の水深は確認済み。進入可』
藍島。
左へ。
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今度は藍島
午後二時十九分。
藍島。
小浦川河口へ進入。
速度六ノット。
流木を避けながら河口中央部へ。
約三百六十メートル。
そこで停止。
流木群の大半は藍島の後方を通過し、曳船と作業艇が回収に入る。
藍島。
河口内。
無線。
『藍島、停止しました。損傷ありません』
『了解』
藍島。
少し考える。
『あの』
『どうした』
『昨日、犬島さんが別の川に入ったんですけど』
指揮所。
『知ってる』
『今日うちも入ったら、また何か言われます?』
指揮所。
今度は少し間が長い。
『たぶんかなり言われる』
藍島。
「ですよね……」
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呉鎮守府に連絡が来る
同時刻。
広報室。
犬飼。
書類。
確認中。
電話。
鳴る。
「はい」
『犬飼さん、藍島の件で』
犬飼。
すぐ表情変わる。
「事故?」
『本人・艦体とも損傷なしです』
「それならまずいい。何があった?」
相手。
少し言いづらそう。
『小浦川河口へ進入しました』
犬飼。
無言。
五秒。
「……昨日の青浜川じゃなく?」
『別です』
「藍島が?」
『はい』
「犬島じゃなく?」
『藍島です』
「昨日が犬島、今日が藍島?」
『はい』
「しかも川は別?」
『はい』
犬飼。
椅子にもたれる。
«「なんで二日続けて別々の川に入るんだよ……」»
電話の向こう。
『どちらも過失なしです』
犬飼。
「そこはもう疑ってない」
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犬島も知る
第一岸壁。
犬島。
点検。
終わる。
犬飼。
来る。
「犬島」
「はい」
「藍島、今日も無事だから先に言っとく」
犬島。
少し安心する。
「良かったです」
「ただ」
犬島。
嫌な予感。
「何です?」
犬飼。
「川に入った」
犬島。
「……」
「小浦川」
犬島。
数秒。
止まる。
«「何でです?」»
犬飼。
「流木」
「藍島さんの過失は?」
「なし」
犬島。
「良かったです」
それから。
少しだけ困った顔。
«「昨日うちで、今日藍島さんです?」»
「そう」
「しかも違う川?」
「そう」
犬島。
「絶対ネットで言われますね」
犬飼。
「俺もそう思う」
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藍島、帰投
夕方。
第二岸壁。
藍島。
接岸。
今度は問題なし。
犬島。
第一岸壁。
待っている。
藍島。
犬島。
見る。
「ただいまです」
犬島。
「おかえり」
少し間。
犬島。
「小浦川?」
藍島。
「はい」
犬島。
「入りました?」
「入りました」
二人。
しばらく。
顔を見る。
藍島。
先に言う。
«「犬島さん、昨日青浜川ですよね」»
「はい」
「うち今日、小浦川です」
「はい」
藍島。
少し笑う。
「別々ですね」
犬島。
「そこを確認してどうするんです?」
そこへ犬飼。
来る。
「二人とも」
「はい」
「確認するけど」
犬島。
「はい」
「昨日、犬島が青浜川」
「はい」
「今日、藍島が小浦川」
「はい」
犬飼。
二人を見る。
«「河口進入を交代制にするな」»
犬島。
「してません」
藍島。
「偶然です」
「分かってる」
---
藍島公式SNS
その夜。
投稿。
«【小浦川河口への進入について】
本日、観測支援任務からの帰投中、小浦川から大量の流木が海上へ流出しました。
沖側には作業船と流木があり、安全な回避余地が少なかったため、小浦川河口へ一時的に進入しました。
河口から約360mの位置で停止しています。
流木との接触、座礁、艦体損傷はありません。
河川工事区域から木材が流出したことが原因で、藍島側から事前に予測できるものではありませんでした。
藍島に過失はありません。
昨日、犬島さんが入った青浜川とは別の川です。
久瀬川でもありません。»
ネット。
投稿。
見た瞬間。
大騒ぎ。
«「昨日見たぞこの形式」»
«「デジャヴ」»
«「犬島の投稿をコピペしたのかと思った」»
«「昨日は姉、今日は妹」»
«「しかも河口違うの何」»
---
犬島の返信
犬島。
藍島の投稿。
引用。
«犬島は昨日、青浜川です。
藍島さんは今日、小浦川です。
二人とも久瀬川ではありません。
二人とも過失なしです。
偶然です。»
ネット。
«「整理ありがとうございます」»
«「整理されても意味分からん」»
«「二日連続河口進入姉妹」»
犬島。
«そういう名前にせんでください。»
---
ネット上で始まる「河口リレー」
当然。
出る。
«「姉→妹で河口進入リレー」»
藍島。
«リレーではありません。»
«「次はどっち?」»
犬島。
«次はありません。»
藍島。
«うちも入りません。»
一般ユーザー。
«「二人とも言ったぞ」»
別。
«「これフラグ?」»
犬島。
«フラグではありません。»
昔から犬島を見ている人。
«「この文章、何回見た?」»
犬島。
返信しない。
---
久瀬川民
特に。
久瀬川周辺。
反応。
妙だった。
«「今回はうちじゃない!」»
«「久瀬川、無罪」»
«「久瀬川河口『知らない事故です』」»
«「青浜川と小浦川に出張しないでください」»
犬島。
«出張してません。»
藍島。
«任務中です。»
---
回数を数え始める人
さらに。
誰か。
一覧。
作る。
最近の河口進入
犬島
青浜川 1
藍島
小浦川 1
そこに。
過去。
久瀬川。
回数。
足そう。
とする。
人。
出る。
犬島。
すぐ。
«川ごとに集計せんでください。»
藍島。
«総合回数もいりません。»
一般。
«「姉妹河口ランキング」»
犬島。
«競技ではありません。»
---
担当官の公式反応
犬飼。
その日の夜。
投稿。
«【広報担当・犬飼藍人】
昨日は犬島が青浜川河口へ、本日は藍島が小浦川河口へ進入しています。
二件は別の事故です。
発生場所も原因も異なります。
犬島は操舵不能となった貨物船との衝突回避。
藍島は大量に流出した流木と作業船を避けるための緊急退避です。
二人とも過失はありません。
二人とも損傷ありません。
久瀬川は今回関係ありません。
私も二日続けて「河口進入」という言葉から始まる報告書を読むとは思っていませんでした。»
ネット。
«「担当官お疲れさまです」»
«「報告書担当が一番困惑してそう」»
«「昨日:犬島、今日:藍島」»
犬飼。
追加。
«明日は誰も川に入らないでください。»
犬島。
«予定ありません。»
藍島。
«うちもです。»
犬飼。
«予定の話をしてない。»
---
提督の反応
翌朝。
執務室。
提督。
二枚。
報告書。
並べる。
犬島。
藍島。
その前。
立つ。
提督。
「二人とも過失なし」
「はい」
「判断も適切」
「はい」
「損傷なし」
「はい」
提督。
一度。
書類。
見る。
«「じゃあ、俺から言うことはない」»
犬島。
少し安心する。
藍島も。
しかし。
提督。
続ける。
«「ただ、二日連続で別々の河口進入報告を読む側の気持ちも少し考えてほしい」»
犬島。
「うちらに言われても……」
藍島。
「どうしようもないです」
提督。
「知ってる。だから困ってる」
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二人の会話
その日の午後。
第一岸壁。
犬島。
第二岸壁。
藍島。
二人。
海。
見る。
犬島。
「藍島さん」
「はい」
「昨日、川に入る時、うちのこと思い出しました?」
藍島。
「思い出しました」
犬島。
「やっぱり」
「犬島さんも昨日、久瀬川思い出しました?」
犬島。
「思い出しました」
二人。
少し笑う。
藍島。
「でも、選べるなら河口入る方が安全でした」
犬島。
「うちもです」
「じゃあ仕方ないですね」
「はい」
犬島は少し間を置いた。
「次も同じ状況なら?」
藍島。
「安全な方を選びます」
犬島。
「うちもです」
「川でも?」
「川でも」
二人。
その答え。
同じ。
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ネット上で最も評価された投稿
ある投稿。
大きく。
拡散。
«「昨日の犬島も今日の藍島も、河口に入りたくて入ったわけではない。
犬島は操舵不能船との衝突を避けるため。
藍島は大量の流木と作業船を避けるため。
場所も原因も違う。
結果として安全な方向がどちらも河口だっただけ。
二日続いた字面が面白いだけで、判断自体は二隻とも正しい。」»
犬島。
いいね。
藍島。
いいね。
犬飼。
いいね。
少し後。
別の返信。
«「でも姉妹で別々の川に一日違いで入る確率は?」»
犬飼。
«計算したくありません。»
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翌日
九月八日。
犬島。
通常訓練。
藍島。
第二岸壁。
点検。
午前。
何も起きない。
昼。
何も起きない。
夕方。
犬飼。
広報室。
電話。
鳴る。
一瞬。
手。
止まる。
電話。
取る。
「はい」
相手。
普通の業務連絡。
河口。
関係なし。
犬飼。
少し。
安心する。
夜。
犬島。
公式SNS。
投稿。
«今日は河口に入っていません。»
藍島。
引用。
«うちもです。»
ネット。
«「報告するようになっちゃった」»
«「普通の日なのに安心する」»
犬飼。
«本来それは報告事項ではありません。»
犬島。
«でも皆さん気にしとったので。»
---
終章 別の川、別の理由
犬島が入ったのは青浜川。
藍島が入ったのは小浦川。
約九十キロ離れている。
一日違い。
犬島は、操舵不能となった貨物船を避けた。
藍島は、突然海へ流れ出した大量の流木を避けた。
原因は違う。
場所も違う。
任務も違う。
そして二隻とも過失なし。
後日。
呉鎮守府。
事故統計。
担当者。
九月分。
集計。
項目。
河口進入事案:2件
備考。
犬島1・藍島1。別河川・別原因。
担当者。
しばらく。
見る。
そして。
横。
職員。
聞く。
「これ、まとめて一件にできない?」
「できません」
「ですよね」
第一岸壁。
犬島。
第二岸壁。
藍島。
二隻。
今日も普通に停泊している。
川ではない。
ちゃんと港。
それだけで。
犬飼は少し安心した。
「今日は二人とも岸壁にいるな」
犬島。
「います」
藍島。
「おります」
犬飼。
「明日も?」
犬島。
「予定では」
犬飼。
すぐ。
«「予定では、って言うな」»
藍島が笑い、犬島もつられて笑った。
今度こそ。
その日は何も起きなかった。