海防艦 犬島   作:重装甲空母信濃

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犬島が艦体の整備の為2日間休暇を与えられて前に不名誉すぎる話題になった貨物列車を見に行く話。
(整備は2日以上かかる)
貨物列車のことに少し詳しくなる。
今までが8%ぐらいで今回で15%ぐらいになる。
ネット上で「犬島貨物列車見てる」等色々な反応。
休暇後犬島も「これくらい詳しくなったと投稿する」


犬島貨物列車への興味

海防艦犬島、貨物列車を見に行く

 

――知識8%から15%へ――

 

犬島にとって、貨物列車という言葉には少々複雑な思い出があった。

 

嫌いなわけではない。

 

むしろ本人は、貨物列車そのものに何の悪感情も持っていない。

 

問題は、過去に起きたある出来事だった。

 

山陽方面で貨物列車に関する事故が発生した際、なぜか一部のインターネット利用者が、

 

「犬島が原因ではないか」

 

と言い出したのである。

 

当然、犬島は現場にすらいなかった。

 

鉄道施設にも近づいていない。

 

列車にも乗っていない。

 

それでも普段から事故に巻き込まれることが多かったせいで、名前だけが勝手に出された。

 

さらに後日、犬島の旧部品を横須賀から呉へ輸送するため貨物列車が実際に使われた時には、本人が公式SNSで、

 

«今回はほんまに犬島と貨物列車が関係あります。

 

うちは乗ってません。

 

脱線もさせません。»

 

と投稿する事態にまでなった。

 

犬島自身、後から見返して、

 

「なんで海防艦の公式アカウントで『貨物列車を脱線させません』って書かんといけんかったんでしょう」

 

と真顔で言っている。

 

そのためネット上では今でも、ごくたまに、

 

犬島と貨物列車

 

という妙な組み合わせが話題に出る。

 

そんな犬島が、自分から貨物列車を見に行く日が来た。

 

きっかけは、艦体整備だった。

 

---

 

一 犬島、二日間の休暇をもらう

 

呉鎮守府第一岸壁。

 

犬島の実艦は定期整備のため工廠入りすることになった。

 

今回の整備内容はかなり多い。

 

右左両推進軸の定期測定。

 

スクリュー表面検査。

 

舵機構の分解確認。

 

十二糎砲三基の旋回機構点検。

 

船底塗装の一部更新。

 

海水配管の交換。

 

電探配線の絶縁確認。

 

整備期間は最低でも五日。

 

犬島本人が操作する必要もない。

 

工廠側から、

 

「最初の二日間は本人がいてもできることがありません」

 

と明確に言われた。

 

犬飼藍人はそれを聞いて、すぐに決めた。

 

「犬島、二日休み」

 

犬島は少し驚いた。

 

「二日も?」

 

「二日」

 

「広報も?」

 

「なし」

 

「書類は?」

 

「なし」

 

「点検確認は?」

 

「工廠がやる」

 

犬島は少し落ち着かない。

 

自分の艦がドックで分解点検を受けている間、自分だけ休んでいてよいのか気になるらしい。

 

犬飼はその顔を見て言った。

 

「犬島」

 

「はい」

 

「休暇」

 

「はい」

 

「意味分かる?」

 

「休む日です」

 

「なら休め」

 

犬島は少し考えた末、ようやく頷いた。

 

「分かりました」

 

横にいた藍島が聞く。

 

「何するんです?」

 

犬島。

 

「まだ決めてません」

 

「玉野行きます?」

 

「この前行きましたし」

 

「工具屋?」

 

犬飼。

 

「休暇に工具屋へ行くのは犬島なら普通にありそうだから困るな」

 

犬島。

 

「見るだけならええでしょう」

 

「止めないけど」

 

そんな会話をして、その日は終わった。

 

ところが翌朝。

 

犬島は別のことを思いついた。

 

---

 

二 貨物列車を見てみよう

 

休暇初日。

 

午前七時二十分。

 

広報室。

 

犬飼が出勤すると、なぜか休暇中の犬島がいた。

 

犬飼は扉を開けたまま止まった。

 

「なんでいるの?」

 

犬島。

 

「相談です」

 

「仕事の?」

 

「休暇の」

 

「ならいい」

 

犬島は端末を見せる。

 

画面には鉄道地図が表示されている。

 

犬飼。

 

「何これ」

 

犬島。

 

「貨物列車を見に行こうかと思って」

 

犬飼は犬島を見る。

 

「急だな」

 

「前から名前ばっかり関係させられとるので、一回ちゃんと見てみようかなと」

 

「なるほど」

 

犬島は少し困った顔で続ける。

 

「でも、うち貨物列車のことほとんど知らんのです」

 

「どのくらい?」

 

犬島は少し考えた。

 

「100を全部知っとる状態としたら、8くらいです」

 

犬飼。

 

「8%?」

 

「たぶん」

 

「何を知ってる?」

 

犬島は指を折って挙げる。

 

「機関車が引っ張る」

 

「うん」

 

「貨車がいっぱい付く」

 

「うん」

 

「コンテナ積む」

 

「うん」

 

「貨物列車は長い」

 

「……まあ」

 

「EF210って機関車がおる」

 

犬飼。

 

「意外と知ってるじゃん」

 

犬島。

 

「それくらいです」

 

確かに8%くらいだった。

 

---

 

三 藍島は行けない

 

犬島は藍島も誘った。

 

ところが藍島はその日、港内設備点検の支援任務が入っていた。

 

第二岸壁。

 

藍島。

 

「行きたいです」

 

犬島。

 

「ですよね」

 

「でも任務です」

 

「はい」

 

藍島は少し残念そうだった。

 

「写真撮ってきてください」

 

「撮れる場所なら」

 

「あと、大きいコンテナあったら見てきてください」

 

犬島。

 

「大きいコンテナ?」

 

「ありますよね?」

 

「……たぶん」

 

藍島。

 

「犬島さん、ほんまに8%ですね」

 

犬島。

 

「だから見に行くんです」

 

犬飼が横から言う。

 

「休暇だからな。勉強しに行く必要はないぞ」

 

犬島。

 

「見てたら勝手に覚えると思います」

 

「まあ、それならいい」

 

---

 

四 犬島、鉄道を見る側になる

 

犬島が向かったのは、山陽本線沿線の貨物列車を比較的安全に眺められる場所だった。

 

鉄道施設内へ勝手に入るわけではない。

 

もちろん線路にも近づかない。

 

一般の歩道と駅周辺から見る。

 

犬島の格好は普段と同じだった。

 

白い半袖水兵服。

 

濃紺のプリーツスカート。

 

深緑色のスカーフ。

 

桃の花の髪留め。

 

白い膝下丈の靴下。

 

茶色の編み上げ靴。

 

艤装なし。

 

ただし休日なので、肩から小さなバッグを下げている。

 

午前九時過ぎ。

 

最初の貨物列車。

 

遠くから機関車の姿が見える。

 

犬島はホーム端ではなく、十分安全な中央寄りから眺める。

 

「来た」

 

先頭。

 

青と灰色を基調とした電気機関車。

 

犬島。

 

小声。

 

「EF210……ですよね」

 

近くで同じ列車を見ていた鉄道ファンが犬島を見る。

 

犬島本人だとはすぐには気づいていない。

 

「そうですね、EF210です」

 

犬島。

 

「やっぱり」

 

列車が通過する。

 

その後ろ。

 

コンテナ車。

 

何両も続く。

 

犬島は思っていた以上の長さに少し驚いた。

 

「長いですね」

 

「貨物列車ですからね」

 

「全部同じ貨車なんです?」

 

「基本はコキ系のコンテナ車ですね」

 

犬島。

 

「コキ?」

 

そこで新しい言葉を一個覚えた。

 

---

 

五 コキを覚える

 

貨物列車が通過したあと。

 

犬島は端末へメモする。

 

コキ=コンテナを載せる貨車。

 

完全な説明ではないが、犬島にとってはまずそれで十分だった。

 

次。

 

コンテナ。

 

犬島は今まで、

 

「大きい箱」

 

くらいにしか思っていなかった。

 

しかし実際に見ていると大きさが違う。

 

小さめのコンテナがいくつも載っている車両。

 

一つだけ長いコンテナ。

 

背が高いもの。

 

企業名が入ったもの。

 

タンク形状に近いコンテナ。

 

犬島。

 

「全部同じじゃないんですね」

 

近くの人。

 

「12フィートとか20フィートとか、31フィートとか色々ありますよ」

 

犬島。

 

数字。

 

見る。

 

「長さ?」

 

「そうです」

 

犬島。

 

「藍島さんが言っとった大きいコンテナ、たぶん31フィートですね」

 

一つ。

 

知識。

 

増える。

 

---

 

六 目撃される

 

当然、いつまでも誰にも気づかれないわけがない。

 

午前十時十二分。

 

SNS。

 

最初の投稿。

 

«「待って、駅で貨物見てる小さい子、犬島じゃない?」»

 

写真なし。

 

位置情報も曖昧。

 

続いて。

 

«「犬島っぽい子がEF210見てる」»

 

さらに。

 

«「桃の花の髪留めだったから多分本人」»

 

少しずつ。

 

広がる。

 

そして。

 

犬島本人は。

 

まったく気づいていない。

 

次の貨物列車を見ていた。

 

---

 

七 「犬島貨物列車見てる」

 

ついに投稿される。

 

«「犬島、貨物列車見てる。」»

 

それだけ。

 

この一文。

 

異様に伸びる。

 

返信。

 

«「何で」»

 

«「あの犬島?」»

 

«「貨物列車と散々不名誉な形で話題になった犬島?」»

 

«「本人ついに見に行ったのか」»

 

«「脱線させてない?」»

 

即。

 

別ユーザー。

 

«「やめろ」»

 

«「まだ何も起きてない」»

 

«「というか見てるだけだろ」»

 

さらに。

 

«「犬島が貨物列車を見ています。貨物列車は正常に走っています。」»

 

«「朗報」»

 

---

 

八 本人に知られる

 

犬島。

 

昼。

 

休憩。

 

端末。

 

見る。

 

通知。

 

増えている。

 

「……?」

 

開く。

 

犬島 貨物列車

 

検索候補。

 

出る。

 

犬島。

 

しばらく画面を見る。

 

「何で分かったんです?」

 

そして問題の投稿。

 

«「犬島、貨物列車見てる。」»

 

犬島。

 

少し悩んだ末。

 

休暇中。

 

なので公式投稿はしない。

 

代わりに犬飼へ連絡した。

 

『担当官さん』

 

『何? 休暇中だろ』

 

「うち、貨物列車見とるのバレました」

 

数秒。

 

沈黙。

 

『……何かした?』

 

「してません」

 

『事故?』

 

「ありません」

 

『線路入った?』

 

「入るわけないでしょう」

 

『なら放っとけ』

 

犬島。

 

「はい」

 

犬飼。

 

少し笑う。

 

『楽しんでる?』

 

犬島。

 

貨物列車。

 

来る。

 

方向。

 

見る。

 

「はい」

 

『なら良かった』

 

---

 

九 昼から少し詳しくなる

 

午後。

 

犬島はもう少し注意して列車を見るようになった。

 

最初は、

 

機関車+いっぱい貨車

 

だった。

 

それが少しずつ変わる。

 

まず。

 

電気機関車が先頭に立っている。

 

次に。

 

その後ろへコキと呼ばれるコンテナ車が続いている。

 

コンテナにも種類がある。

 

全部の貨車に必ず満載されているわけではない。

 

空いている位置もある。

 

犬島。

 

「空のところもあるんですね」

 

さらに。

 

機関車が一両だけ走っていくのを見る。

 

犬島。

 

「あれ貨車ないです」

 

近くの鉄道ファン。

 

「単機ですね」

 

「単機」

 

またメモ。

 

単機=機関車だけで走る。

 

犬島。

 

「海軍でいう回航みたいな感じです?」

 

相手。

 

「まあ、目的は違いますけど感覚としては近いかもしれません」

 

犬島。

 

少し納得。

 

---

 

十 ブレーキについて知る

 

午後二時頃。

 

貨物列車が駅の信号で停車する。

 

長い編成。

 

犬島。

 

じっと見る。

 

「これ全部にブレーキあるんです?」

 

「ありますよ」

 

犬島。

 

「機関車だけで止めるんじゃないんです?」

 

「列車全体にブレーキが効きます」

 

犬島。

 

「そうなんですね」

 

船。

 

なら。

 

推進。

 

止める。

 

後進。

 

舵。

 

抵抗。

 

使う。

 

でも列車。

 

全車。

 

ブレーキ。

 

連動。

 

する。

 

犬島はそこに少し興味を持った。

 

「長いから機関車だけで止めるんは無理ですよね」

 

「そうですね」

 

犬島。

 

メモ。

 

貨物列車は機関車だけが止まるわけではない。貨車側にもブレーキがある。

 

知識。

 

また少し増える。

 

---

 

十一 機関車交換という考え方

 

犬島はさらに、

 

「一つの機関車が最初から最後まで全部引くとは限らない」

 

ということも知った。

 

運用。

 

電化方式。

 

区間。

 

機関車。

 

所属。

 

様々な事情。

 

ある。

 

犬島。

 

「護衛艦が途中で交代するみたいな感じです?」

 

説明していた人。

 

少し笑う。

 

「かなり乱暴に言えば近いかも」

 

犬島。

 

「その方が分かりやすいです」

 

海防艦。

 

視点。

 

鉄道。

 

理解。

 

していく。

 

---

 

十二 一日目終了

 

夕方。

 

犬島。

 

帰る。

 

その日。

 

覚えたこと。

 

・EF210を見分けられる確率が少し上がった。

 

・コンテナ車を「コキ」と呼ぶことを知った。

 

・コンテナには12フィート、20フィート、31フィートなど複数の大きさがある。

 

・機関車だけで走る「単機」がある。

 

・列車全体にブレーキが作用する。

 

・機関車が途中で交代する場合がある。

 

・貨物列車は見た目以上に運転上の制約が多い。

 

犬島。

 

自分。

 

評価。

 

する。

 

「8%から……12%くらい?」

 

まだ。

 

詳しい人。

 

から。

 

見れば。

 

完全。

 

初心者。

 

ただし本人としてはかなり増えた。

 

---

 

十三 二日目

 

翌朝。

 

犬島。

 

また。

 

貨物列車。

 

見に行く。

 

犬飼。

 

連絡。

 

見る。

 

『今日も?』

 

犬島。

 

「はい」

 

『ハマった?』

 

犬島。

 

少し考える。

 

「そこまでは」

 

『じゃあ何で二日連続』

 

「昨日、分からんまま終わったところがあるので」

 

犬飼。

 

『それをハマりかけって言うんじゃないの?』

 

犬島。

 

「違うと思います」

 

---

 

十四 二日目は「編成を見る」

 

一日目。

 

犬島。

 

機関車。

 

中心。

 

見ていた。

 

二日目。

 

少し。

 

違う。

 

貨車。

 

見る。

 

コンテナ。

 

見る。

 

列車。

 

全体。

 

見る。

 

長い。

 

貨物列車。

 

通過。

 

犬島。

 

指。

 

小さく。

 

動かす。

 

「コキ、コキ、コキ……」

 

近く。

 

人。

 

聞く。

 

「数えてる?」

 

犬島。

 

「何両くらいあるんかなと」

 

途中。

 

分からなくなる。

 

「……今何両でした?」

 

「たぶん途中で一両飛ばしましたね」

 

犬島。

 

「難しいです」

 

---

 

十五 ネットでは二日目も発見される

 

当然。

 

また。

 

«「犬島、今日もいる。」»

 

«「二日連続?」»

 

«「休暇全部貨物列車に使ってる?」»

 

«「昨日より見方が本気になってない?」»

 

«「今日は貨車数えてるぞ」»

 

そして。

 

一枚。

 

遠くから。

 

撮られた。

 

犬島。

 

端末。

 

メモ。

 

しながら。

 

列車。

 

見ている。

 

ただし撮影者は犬島の迷惑にならない距離を保っている。

 

キャプション。

 

«「犬島、明らかに昨日より貨物列車に詳しくなってる。」»

 

ネット。

 

«「成長速度が見える」»

 

«「昨日:長いですね」»

 

«「今日:コキ何両?」»

 

«「進歩してる」»

 

---

 

十六 過去の不名誉すぎる話題が掘り返される

 

誰かが昔の犬島公式投稿を引用する。

 

«今回はほんまに犬島と貨物列車が関係あります。

 

うちは乗ってません。

 

脱線もさせません。»

 

現在。

 

貨物列車。

 

見る。

 

犬島。

 

並べる。

 

«「あの頃:『脱線もさせません』」

 

「現在:休日にコキを数える」»

 

«「関係改善したな」»

 

別。

 

«「犬島と貨物列車、和解」»

 

犬島。

 

休暇。

 

終わるまで。

 

公式。

 

反応。

 

しない。

 

ただ。

 

端末。

 

見て。

 

「元々喧嘩してません」

 

一人。

 

呟く。

 

---

 

十七 偶然会った鉄道好きの人

 

二日目。

 

午後。

 

犬島。

 

少し。

 

年配。

 

鉄道ファン。

 

話す。

 

相手。

 

犬島。

 

本人。

 

知っている。

 

でも。

 

過度。

 

騒がない。

 

「貨物列車、最近見始めたんですか?」

 

犬島。

 

「昨日からです」

 

「本当に昨日から?」

 

「はい」

 

相手。

 

少し笑う。

 

「じゃあ、分からないこと多いでしょう」

 

「かなり」

 

犬島。

 

正直。

 

答える。

 

そこから。

 

列車番号。

 

運転時刻。

 

貨物駅。

 

コンテナの行先。

 

機関車の運用。

 

ごく基礎。

 

説明。

 

してくれる。

 

犬島は全部覚えようとはしない。

 

分からない部分は分からないまま。

 

ただし。

 

「貨物列車は同じ線路を走る旅客列車とは違う流れで動いている」

 

こと。

 

少し。

 

理解。

 

する。

 

犬島。

 

「時刻表だけ見ても分からんこと多いんですね」

 

「貨物は特にね」

 

「面白いです」

 

その一言。

 

自分。

 

言った。

 

後。

 

犬島。

 

少し。

 

止まる。

 

「あ」

 

相手。

 

「ハマりました?」

 

犬島。

 

「まだ15%くらいです」

 

---

 

十八 休暇終了

 

二日目。

 

夕方。

 

犬島。

 

呉。

 

戻る。

 

艦体整備。

 

まだ。

 

終わっていない。

 

工廠。

 

三日目。

 

作業。

 

続く。

 

犬島。

 

自分。

 

第一岸壁。

 

実艦。

 

いない。

 

少し。

 

寂しい。

 

でも。

 

二日。

 

かなり。

 

普通。

 

休暇。

 

過ごした。

 

事故なし。

 

河口なし。

 

貨物列車。

 

脱線なし。

 

犬飼。

 

広報室。

 

犬島。

 

戻る。

 

「どうだった?」

 

犬島。

 

「楽しかったです」

 

「詳しくなった?」

 

犬島。

 

「ちょっと」

 

「8%から?」

 

犬島。

 

少し考える。

 

«「15%くらいです」»

 

犬飼。

 

「結構増えたな」

 

犬島。

 

「でも85%分かりません」

 

「十分初心者だな」

 

「はい」

 

---

 

十九 藍島への説明

 

藍島。

 

戻ってくる。

 

「犬島さん、貨物列車どうでした?」

 

犬島。

 

「大きいコンテナありました」

 

「31フィート?」

 

「はい」

 

藍島。

 

少し。

 

驚く。

 

「覚えたんです?」

 

「覚えました」

 

犬島。

 

さらに。

 

「コンテナ載せる貨車、コキって言うそうです」

 

藍島。

 

「コキ」

 

「機関車だけで走る時は単機」

 

「単機」

 

「貨車にもブレーキあります」

 

藍島。

 

「犬島さん」

 

「はい」

 

«「ほんまに詳しくなっとる」»

 

犬島。

 

少し。

 

嬉しそう。

 

「15%です」

 

---

 

二十 休暇後の犬島公式SNS

 

犬島。

 

休暇終了。

 

したので。

 

ようやく。

 

投稿。

 

«【休暇中のこと】

 

犬島の実艦が定期整備に入っており、最初の2日間は本人がいてもできることがなかったため、休暇をもらいました。

 

以前、貨物列車とかなり不名誉な形で名前を一緒に出されたことが何回かあったので、この機会に実際の貨物列車を見に行ってみました。

 

事故の調査ではありません。

 

普通に見に行っただけです。

 

今まで犬島の貨物列車に関する知識を100のうち8くらいだとすると、今回で15くらいになったと思います。

 

覚えたこと。

 

・EF210は前より分かります。

・コンテナ車の「コキ」を覚えました。

・コンテナにもいろいろな大きさがあります。

・31フィートはかなり長いです。

・機関車だけで走る「単機」があります。

・貨車にもブレーキがあります。

・貨物列車は思っとったより複雑です。

 

まだ詳しいとは言えません。

 

あと、二日間とも貨物列車は正常に走っていました。

 

犬島も何もしていません。»

 

ネット。

 

最後。

 

見る。

 

«「最後必要?」»

 

犬島。

 

«念のためです。»

 

---

 

二十一 ネット上の反応

 

投稿。

 

公開。

 

直後。

 

«「8%→15%」»

 

«「ほぼ倍になってる」»

 

«「でもまだ初心者」»

 

«「自分で数値化してるの面白い」»

 

そして。

 

当然。

 

«「犬島、貨物列車見てたのやっぱり本人だった」»

 

«「二日ともいたよね」»

 

«「コキ数えてた」»

 

«「あのメモ本当に勉強してたんだ」»

 

犬島。

 

返信。

 

«勉強というほどではありません。見ていて気になったことを覚えただけです。»

 

---

 

二十二 鉄道ファン側の反応

 

鉄道系。

 

アカウント。

 

かなり。

 

好意的。

 

«「初心者が一日目にコキ覚えて、二日目に編成見るようになるの分かる」»

 

«「15%という自己評価が妙に現実的」»

 

«「これから機関車の番台とかコンテナ形式に入ったら一気に沼」»

 

犬島。

 

«そこまではまだ分かりません。»

 

別。

 

«「EF210の細かい区分覚えよう」»

 

犬島。

 

«一気に増やさんでください。»

 

---

 

二十三 貨物関係者からも反応

 

貨物輸送。

 

関係者。

 

公式。

 

犬島。

 

投稿。

 

引用。

 

«安全な場所から貨物列車を見学していただきありがとうございます。

 

貨物鉄道輸送にも興味を持っていただけたようで嬉しく思います。»

 

犬島。

 

返信。

 

«ありがとうございました。

 

今まで貨物列車は「長い列車」くらいの理解でしたけど、少し分かるようになりました。»

 

ネット。

 

«「ちゃんと交流になってる」»

 

«「不名誉な関係から健全な関係へ」»

 

犬島。

 

«最初から貨物列車そのものとは何もありません。»

 

---

 

二十四 犬飼の投稿

 

犬飼。

 

広報。

 

として。

 

短く。

 

投稿。

 

«犬島は艦体整備に伴う2日間の休暇を、貨物列車を見ることにかなり使ったようです。

 

本人曰く、知識量は「8%から15%」。

 

休暇中に業務指示は出していません。

 

本当に本人が勝手に見に行きました。

 

なお、両日とも事故報告はありません。»

 

ネット。

 

«「担当官まで最後に事故なし確認してる」»

 

犬飼。

 

«聞かれる前に書きました。»

 

---

 

二十五 工廠で貨物列車の話をする犬島

 

三日目。

 

休暇。

 

終了。

 

犬島。

 

工廠。

 

自分。

 

実艦。

 

整備。

 

見る。

 

工員。

 

一人。

 

聞く。

 

「休み、何してた?」

 

犬島。

 

「貨物列車見とりました」

 

「へえ。詳しいの?」

 

犬島。

 

即答。

 

«「15%です」»

 

工員。

 

「何基準?」

 

「うち基準です」

 

「分かりにくいな」

 

犬島。

 

少し笑う。

 

「でも前よりは分かります」

 

工員。

 

「じゃああそこ走ってる貨物、先頭何?」

 

遠く。

 

線路。

 

見える。

 

犬島。

 

少し。

 

目。

 

細める。

 

「……EF210?」

 

「正解」

 

犬島。

 

少し。

 

嬉しそう。

 

「15%あるでしょう」

 

---

 

二十六 藍島、影響される

 

その夜。

 

藍島。

 

犬島。

 

横。

 

来る。

 

「犬島さん」

 

「はい」

 

「うちも少し貨物列車見たくなりました」

 

犬島。

 

「行きます?」

 

「今度休み合ったら」

 

犬島。

 

「ええですよ」

 

犬飼。

 

後ろ。

 

聞く。

 

「二人で行くの?」

 

藍島。

 

「はい」

 

犬飼。

 

「まあいいけど」

 

少し考えてから。

 

«「今度は『犬島と藍島が貨物列車見てる』って話題になるぞ」»

 

犬島。

 

「なるでしょうね」

 

藍島。

 

「もう諦めとるんです?」

 

犬島。

 

「今回はほんまに見ますので」

 

---

 

終章 貨物列車は普通に走る

 

犬島の実艦整備は、その後も続いた。

 

結局、全工程終了まで六日。

 

犬島の休暇は最初の二日だけ。

 

残りの日は工廠との確認や通常業務に戻った。

 

六日目。

 

整備終了。

 

犬島。

 

第一岸壁。

 

戻る。

 

推進軸正常。

 

舵正常。

 

三基の十二糎砲正常。

 

電探正常。

 

船底整備完了。

 

犬島。

 

艦首。

 

立つ。

 

第一岸壁。

 

いつもの感覚。

 

戻る。

 

犬飼。

 

岸壁。

 

「どう?」

 

犬島。

 

「異常なしです」

 

「良かった」

 

藍島。

 

第二岸壁。

 

「犬島さん」

 

「はい?」

 

「貨物列車と艦体、どっちが詳しいです?」

 

犬島。

 

少し考える。

 

「艦体は100に近いです」

 

「貨物列車は?」

 

«「15です」»

 

藍島。

 

笑う。

 

「かなり差ありますね」

 

犬島も笑う。

 

「専門が違いますので」

 

その夜。

 

犬島公式SNS。

 

最後に短い投稿。

 

«艦体整備が終わりました。

 

犬島は第一岸壁に戻っています。

 

貨物列車については少し詳しくなりましたが、まだ15%くらいです。

 

また機会があったら見たいです。»

 

一番多かった返信。

 

«「犬島、貨物列車好きになってる?」»

 

犬島。

 

少し考えてから答えた。

 

«好きかどうかはまだ分かりません。

 

でも、前より見るのは楽しくなりました。»

 

それまで犬島にとって「なぜか自分の名前と一緒に話題になるもの」だった貨物列車は、この二日間で少しだけ変わった。

 

EF210。

 

コキ。

 

コンテナ。

 

単機。

 

長い編成。

 

列車全体に働くブレーキ。

 

知らなかったことが少し分かる。

 

8%だった知識が15%になった程度の、小さな変化だった。

 

それでも今度貨物列車を見た時、犬島はもう単に、

 

「長い列車ですね」

 

とは言わない。

 

たぶん先頭を見て、

 

«「あ、EF210ですね」»

 

くらいは言える。

 

そしてネットでは、そんな犬島を見つけた誰かが、きっとまた投稿する。

 

«「犬島、貨物列車見てる。」»

 

今度は以前ほど不名誉な意味ではなく。

 

ただ、少しだけ貨物列車に興味を持った海防艦を見つけた、という意味で。

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