海防艦 犬島   作:重装甲空母信濃

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犬島と藍島衝突事故
ネット上の反応


犬島藍島低速衝突事故

犬島・藍島衝突事故

 

――「相手が妹だったので、余計に焦りました」――

 

呉鎮守府。

 

午後三時四十六分。

 

犬島と藍島は、港外で行われた短時間の操艦訓練を終え、第一岸壁と第二岸壁へ戻る途中だった。

 

天候は曇り。

 

風速は平均6メートル前後。

 

波は穏やか。

 

視界も十分。

 

事故が起きるような条件には見えなかった。

 

犬島が先行。

 

藍島は右後方。

 

二隻の間隔は約180メートル。

 

速力はともに約5ノット。

 

犬島は第一岸壁へ。

 

藍島は第二岸壁へ。

 

普段どおりの帰投だった。

 

---

 

一 最初の異変

 

15時47分12秒。

 

犬島の右舷前方を航行していた港務作業船が、突然減速した。

 

機関故障ではない。

 

作業船の前方へ、大型の漂流防舷材が流れ込んできたためだった。

 

直径約2.4メートル。

 

長さ約11メートル。

 

本来は岸壁工事区域に係留されていた大型防舷材だったが、固定用ワイヤの内部腐食が進み、そこへ繰り返し荷重が加わったことで破断。

 

潮流に乗って航路へ流出した。

 

作業船はこれを避けるため急減速。

 

犬島もすぐに状況を把握した。

 

「前方作業船、減速確認」

 

犬島は左へ避ける。

 

しかし左側には藍島がいる。

 

犬島。

 

『藍島さん、少し右へお願いします』

 

藍島。

 

『了解です』

 

藍島も右へ取ろうとした。

 

その直後。

 

さらに悪いことが起きた。

 

---

 

二 藍島側にも障害物

 

藍島の右舷側には、小型の補給艇が接近していた。

 

規定航路内。

 

問題のない位置。

 

ただし藍島が右へ避ければ、補給艇との距離が急激に縮まる。

 

藍島は右転を途中で止めた。

 

『犬島さん、右側行けません』

 

犬島。

 

『了解です』

 

二人とも速力を落とす。

 

犬島。

 

約5ノットから3ノット。

 

藍島。

 

約5ノットから2.8ノット。

 

本来なら、これで十分だった。

 

ところが。

 

漂流していた大型防舷材が、作業船の回避によって生じた引き波を受け、想定より大きく進路を変えた。

 

犬島の正面へ流れ込む。

 

犬島。

 

「……こっち来ました」

 

犬島はさらに左へ。

 

藍島もそれを見る。

 

『犬島さん!』

 

『見えています!』

 

二隻の距離。

 

約78メートル。

 

---

 

三 止まりきれない

 

犬島は機関を停止。

 

藍島も停止。

 

しかし船は列車のようにレール上で止まるわけではない。

 

惰性が残る。

 

潮流もある。

 

しかも二隻とも、相手との衝突を避けながら障害物も避けなければならない。

 

犬島。

 

左舵。

 

藍島。

 

右舵。

 

ほぼ同時。

 

一瞬。

 

二人の進路は離れた。

 

だがその直後。

 

港内を通過した大型補給艦の引き波が二隻へ到達する。

 

犬島の艦尾。

 

少し右へ押される。

 

藍島の艦首。

 

少し左へ振られる。

 

犬島。

 

『藍島さん、近いです!』

 

藍島。

 

『分かってます!』

 

残距離。

 

約24メートル。

 

両艦。

 

速力。

 

約1.6ノット。

 

---

 

四 衝突

 

15時48分03秒。

 

犬島の右舷中央部。

 

藍島の左舷艦首。

 

接触。

 

「ゴンッ」

 

という低い音。

 

高速衝突ではない。

 

ただし1000トン前後の船体同士である。

 

犬島は身体を少し右へ傾けた。

 

「っ……」

 

藍島も一瞬顔をしかめる。

 

「痛っ……」

 

接触後。

 

二隻はすぐ離れる。

 

犬島。

 

最初に無線。

 

『藍島さん! 大丈夫ですか!?』

 

藍島。

 

ほぼ同時。

 

『犬島さん、大丈夫です!?』

 

二人。

 

止まる。

 

犬島。

 

『……先に自分確認してください』

 

藍島。

 

『犬島さんもです』

 

以前の事故で決めた、

 

「まず自分の状態を確認してから相手を心配する」

 

という順番を、二人とも思い出した。

 

犬島。

 

『犬島、浸水なし。機関正常。右舷中央部に接触損傷』

 

藍島。

 

『藍島、浸水なし。左舷艦首に接触損傷。操舵可能です』

 

犬島。

 

少し安心する。

 

『分かりました』

 

藍島。

 

『犬島さんも動けます?』

 

『動けます』

 

そこでようやく互いの心配へ戻った。

 

---

 

五 岸壁ではなく臨時係留場所へ

 

事故直後。

 

二隻には第一・第二岸壁へ直接戻らず、近くの検査用岸壁へ移動するよう指示が出た。

 

犬島。

 

『了解しました』

 

藍島。

 

『了解です』

 

二隻とも自力航行可能。

 

ただし速度は3ノット以下。

 

十分な間隔を取る。

 

今度は犬島と藍島の間を約300メートル以上空けた。

 

藍島。

 

『犬島さん』

 

犬島。

 

『はい』

 

『離れすぎじゃないです?』

 

犬島。

 

『さっきぶつかったので、今はこれくらいでええです』

 

藍島。

 

『それはそうですね』

 

少しだけ笑いが戻る。

 

---

 

六 犬飼に連絡

 

犬飼藍人は広報室で別件の資料を確認していた。

 

電話。

 

『犬飼さん』

 

「はい」

 

『犬島・藍島が港内で接触しました』

 

犬飼。

 

手が止まる。

 

「……二人とも?」

 

『はい』

 

「本人は?」

 

『両名とも会話可能。自力航行可能です』

 

犬飼。

 

「浸水は?」

 

『現時点でありません』

 

「今どこ?」

 

『検査岸壁へ移動中です』

 

犬飼はすぐ立つ。

 

「行きます」

 

---

 

七 犬飼、到着

 

検査岸壁。

 

犬島。

 

右舷中央部。

 

藍島。

 

左舷艦首。

 

二人ともいる。

 

犬飼はまず犬島を見る。

 

次に藍島。

 

「二人とも大丈夫?」

 

犬島。

 

「はい」

 

藍島。

 

「大丈夫です」

 

犬飼。

 

「艦体じゃなくて本人」

 

犬島。

 

少し止まる。

 

「痛みはあります」

 

藍島。

 

「うちも少し」

 

犬飼。

 

「分かった」

 

犬島はそこで少し表情を緩める。

 

「担当官さん」

 

犬飼。

 

「何?」

 

犬島。

 

「藍島さんも大丈夫です」

 

犬飼。

 

「見れば分かる」

 

藍島。

 

「犬島さんも大丈夫です」

 

犬飼。

 

「お前ら、今日は相互報告係なの?」

 

二人とも少し笑った。

 

---

 

八 損傷確認

 

工廠による詳細確認。

 

犬島

 

右舷中央部。

 

外板擦過。

 

長さ約8.6メートル。

 

最大凹み約14センチ。

 

フレーム3本に軽度変形。

 

中央部配管支持金具4か所交換。

 

第二主砲旋回機構に異常なし。

 

機関・軸系正常。

 

浸水なし。

 

推定修理期間。

 

9日。

 

藍島

 

左舷艦首。

 

外板擦過。

 

長さ約6.1メートル。

 

最大凹み約17センチ。

 

艦首フレーム2本交換。

 

錨関連設備に軽度変形。

 

第一主砲基部異常なし。

 

浸水なし。

 

推定修理期間。

 

8日。

 

いずれも中破には届かない程度。

 

航行能力は維持されていた。

 

---

 

九 事故調査

 

翌日。

 

正式調査開始。

 

事故時の映像。

 

AIS記録。

 

港内レーダー。

 

作業船記録。

 

防舷材固定設備。

 

潮流。

 

大型補給艦の通過時刻。

 

すべて確認。

 

最終的な原因は一つではなかった。

 

第一要因

 

工事区域に係留されていた大型防舷材の固定ワイヤが、外見から判別困難な内部腐食によって破断。

 

第二要因

 

防舷材が航路へ漂流したため、作業船が緊急減速。

 

第三要因

 

犬島が作業船および防舷材を避けるため左へ回避。

 

第四要因

 

藍島は右舷側を航行していた補給艇のため、十分に右へ退避できなかった。

 

第五要因

 

二隻が低速で回避中、大型補給艦の引き波によって犬島艦尾と藍島艦首が互いの方向へ振られた。

 

結論。

 

«犬島・藍島双方の操艦に重大な問題は認められない。»

 

«事故回避のために適切な減速・進路変更を実施していた。»

 

二人とも無過失。

 

---

 

十 犬島の感想

 

調査結果を聞いた犬島。

 

「藍島さんとぶつかったの、初めてですよね」

 

藍島。

 

「実艦同士ではそうですね」

 

犬島。

 

「嫌ですね」

 

「うちもです」

 

犬島は少し黙る。

 

「相手が知らん艦なら心配せんわけじゃないですけど」

 

藍島。

 

「はい」

 

犬島。

 

«「藍島さんだったので、余計に焦りました」»

 

藍島は犬島を見る。

 

「うちも犬島さんだったから焦りました」

 

犬島。

 

「お互い様ですね」

 

藍島。

 

「はい」

 

---

 

十一 呉鎮守府公式発表

 

«【犬島・藍島接触事故について】

 

昨日15時48分頃、呉鎮守府港内において海防艦犬島と海防艦藍島が低速で接触しました。

 

犬島右舷中央部と藍島左舷艦首に損傷があります。

 

両艦とも浸水はなく、自力航行可能です。

 

犬島・藍島本人にも重大な負傷はありません。

 

調査の結果、工事区域から漂流した大型防舷材、周辺船舶の配置、通過艦による引き波等が複合的に重なった事故と判断されています。

 

犬島・藍島双方の操艦に重大な過失は認められません。

 

犬島は約9日、藍島は約8日の修理を予定しています。»

 

---

 

十二 ネットの第一反応

 

最初。

 

事故速報。

 

「犬島と藍島が衝突」

 

この見出しだけが広がる。

 

«「え?」»

 

«「姉妹で?」»

 

«「犬島と藍島が!?」»

 

«「何してるの?」»

 

その後。

 

詳細。

 

出る。

 

«「低速接触か」»

 

«「二人とも無事で良かった」»

 

«「また外的要因の積み重ねか」»

 

«「本人たちのミスじゃないのね」»

 

そして必ず出る。

 

«「犬島と藍島、ついに姉妹喧嘩で衝突?」»

 

犬島。

 

後で公式返信。

 

«喧嘩ではありません。»

 

藍島。

 

«仲は普通です。»

 

犬島。

 

«普通よりええと思います。»

 

藍島。

 

«はい。»

 

ネット。

 

«「そこで仲良し確認するな」»

 

---

 

十三 「姉妹物理接触」

 

別の投稿。

 

«「犬島・藍島姉妹、ついに物理的にぶつかる。」»

 

犬島。

 

«表現が嫌です。»

 

藍島。

 

«事故です。»

 

別。

 

«「お互い最初に『大丈夫ですか!?』って言ってそう」»

 

実際。

 

その通り。

 

事故時無線。

 

公開可能部分。

 

後日。

 

公開。

 

犬島。

 

『藍島さん! 大丈夫ですか!?』

 

藍島。

 

『犬島さん、大丈夫です!?』

 

ネット。

 

«「やっぱり」»

 

«「予想通りすぎる」»

 

«「まず自分の心配しろ姉妹、再び」»

 

犬島。

 

«今回はその後すぐ自分の状態を確認しました。»

 

藍島。

 

«前より成長しています。»

 

---

 

十四 犬島公式SNS

 

«昨日、藍島さんと実艦同士で接触しました。

 

犬島は右舷中央部、藍島さんは左舷艦首です。

 

二人とも浸水はありません。

 

本人も大丈夫です。

 

原因調査の結果、漂流した大型防舷材や周辺船舶、引き波などが重なった事故で、うちら二人の操艦に重大な問題はないと判断されました。

 

ぶつかった直後、藍島さんの心配を先にしてしまいましたが、その後すぐ自分の状態も確認しました。

 

前に決めた順番は一応守れました。

 

藍島さんと喧嘩したわけではありません。

 

修理が終わったらまた第一岸壁へ戻ります。»

 

---

 

十五 藍島公式SNS

 

«犬島さんと接触事故がありました。

 

うちは左舷艦首を損傷しています。

 

犬島さんも右舷中央部を損傷しています。

 

二人とも大丈夫です。

 

事故直後に犬島さんから「大丈夫ですか」と聞かれて、うちも同じことを聞きました。

 

その後に二人とも自分の損傷確認をしました。

 

犬島さんと喧嘩したわけではありません。

 

むしろ相手が犬島さんだったので、普通の接触事故より心配しました。

 

修理はうちの方が1日早く終わる予定です。»

 

犬島。

 

返信。

 

«先に帰って待っとってください。»

 

藍島。

 

«第二岸壁で待っています。»

 

---

 

十六 ネットで伸びた反応

 

«「修理8日と9日」»

 

«「妹が1日先に復帰」»

 

«「藍島が第二岸壁で犬島待つの良い」»

 

«「事故なのに最後は普通に姉妹」»

 

別。

 

«「衝突事故の当事者同士が互いの帰投待ちしてる。」»

 

犬島。

 

«相手が藍島さんなので。»

 

藍島。

 

«犬島さんなので。»

 

ネット。

 

«「はいはい仲良し」»

 

---

 

十七 犬飼の公式投稿

 

«【広報担当・犬飼藍人】

 

犬島・藍島とも本人に問題ありません。

 

昨日、事故連絡で「二人が接触した」と聞いた時はかなり驚きました。

 

検査岸壁へ行ったところ、二人とも最初に相手の無事を説明してきました。

 

犬島から「藍島さんも大丈夫です」。

 

藍島から「犬島さんも大丈夫です」。

 

私は二人とも見えていました。

 

事故原因については正式調査結果の通り、双方の操艦上の重大な過失はありません。

 

次はできれば実艦同士ではなく、普通に隣に立ってください。»

 

犬島。

 

«そうします。»

 

藍島。

 

«うちもそうします。»

 

---

 

十八 「犬飼さんはどっちを先に見た?」

 

なぜかネットでは妙な質問も出た。

 

«「犬飼さん、現場着いて犬島と藍島どっち先に確認した?」»

 

犬飼。

 

«犬島が手前だったので犬島、その次に藍島です。意味はありません。»

 

返信。

 

«「姉優先ではなかった」»

 

犬飼。

 

«位置です。»

 

犬島。

 

«位置です。»

 

藍島。

 

«うちもそう思います。»

 

犬飼。

 

«本人たちまで補足しなくていい。»

 

---

 

十九 藍島が先に修理完了

 

8日後。

 

藍島。

 

修理完了。

 

試運転。

 

異常なし。

 

第二岸壁へ戻る。

 

犬島はまだ工廠。

 

藍島公式。

 

«修理が終わりました。

 

第二岸壁へ戻っています。

 

犬島さんは明日予定です。

 

今度は離れて待っています。»

 

ネット。

 

«「離れて待ってるで笑った」»

 

犬島。

 

«それでお願いします。»

 

---

 

二十 翌日

 

犬島。

 

修理終了。

 

第一岸壁へ帰る。

 

第二岸壁。

 

藍島。

 

待つ。

 

犬島。

 

接近。

 

今度は非常に慎重。

 

藍島。

 

見ている。

 

犬島。

 

接岸。

 

終了。

 

藍島。

 

第一岸壁側を見る。

 

「犬島さん」

 

「はい」

 

«「おかえりです」»

 

犬島。

 

少し笑う。

 

«「ただいまです」»

 

犬飼。

 

後ろ。

 

「今日はぶつかってないな」

 

犬島。

 

「ぶつかりません」

 

藍島。

 

「普通はそうです」

 

犬飼。

 

「それを確認しないといけない最近がおかしいんだよ」

 

三人。

 

笑う。

 

---

 

終章 いつもの二つの岸壁

 

その日の夕方。

 

第一岸壁。

 

犬島。

 

第二岸壁。

 

藍島。

 

二隻。

 

元の場所。

 

二人とも修理済み。

 

犬島公式SNS。

 

«第一岸壁へ戻りました。

 

藍島さんは第二岸壁です。

 

二隻とも修理完了しています。

 

今日の接岸では接触していません。

 

今後もこれが普通です。»

 

藍島。

 

«うちも接触していません。»

 

ネット。

 

一番伸びた返信。

 

«「姉妹がぶつからず別々の岸壁にいるだけで報告になるの何なんだ。」»

 

犬島。

 

«今回だけです。»

 

藍島。

 

«たぶん。»

 

犬島。

 

すぐ返信。

 

«「たぶん」は付けんでください。»

 

そして数分後。

 

犬飼。

 

«そこは本当に「たぶん」にしないでください。»

 

事故の話だったはずなのに。

 

最後はいつもの三人だった。

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