犬島・藍島 高速衝突事故
――互いを避けた結果、最後に互いしか残らなかった――
事故は、呉鎮守府から南西へ約十八海里。
港内ではない。
完全な外洋でもない。
瀬戸内海の比較的交通量が多い航路帯に近い海域だった。
犬島と藍島は、沿岸警戒任務を終えて呉へ帰投中。
犬島が先行。
藍島が左後方。
二隻は同一航路を航行していたが、編隊というほど近くはない。
犬島。
速力。
17.8ノット。
藍島。
17.5ノット。
二隻の間隔。
約620メートル。
視界良好。
波高約0.8メートル。
風も強くない。
事故の数分前まで、二人とも異常を感じていなかった。
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一 航路情報が同時に狂う
14時21分38秒。
犬島の航法支援画面に、右前方から接近する大型貨物船が表示された。
距離。
約1.9海里。
予測進路。
犬島の航路を横切る。
犬島。
「右前方大型船、横切ります」
藍島。
後方。
『確認しています』
大型貨物船そのものは実在した。
問題は、その表示位置だった。
実位置に対し、
西へ約280メートル。
さらに進路予測も約4度ずれていた。
原因は後に、沿岸航法支援局から配信された位置補正情報の一時的な異常と判明する。
犬島だけではない。
藍島。
大型貨物船。
周辺の複数船舶。
一部の端末が、同じ補正データを受信していた。
ただし、全船が同じずれ方をしたわけではなかった。
機器ごとの統合処理方法が違ったからだ。
つまり。
同じ海を見ているのに、各船の画面上では少しずつ違う海になっていた。
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二 犬島は右を避ける
犬島の画面上。
大型貨物船は右前方から横切る。
犬島は安全距離を確保するため、早めに左へ針路を取る。
大きな転舵ではない。
約7度。
犬島。
『藍島さん、うち少し左へ出ます』
藍島。
『了解です。うちは後方維持します』
ここまでは正常だった。
ところが藍島側の表示では。
大型貨物船。
犬島よりさらに左寄りに見えていた。
藍島からすると、
犬島が大型船側へ近づいているように見えた。
藍島。
『犬島さん、もう少し右の方がええんじゃないです?』
犬島。
『右は近いです』
藍島。
『うちの表示だと左が近いです』
犬島。
一瞬。
止まる。
『……表示違います?』
藍島。
『たぶん違います』
この時点で二人は、航法情報の異常に気づき始めていた。
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三 目視へ切り替える
犬島。
「航法支援情報信用せず、目視優先」
藍島。
『了解です』
二人とも正しい判断をした。
大型貨物船。
目視。
確認。
しかし。
瀬戸内海特有。
陸地。
島影。
背景。
重なる。
距離。
読みづらい。
しかも大型船の船首方位と実際の移動方向には微妙な差がある。
犬島。
左転。
戻す。
藍島。
右転。
始める。
二人。
大型船。
避ける。
その瞬間。
別方向。
小型タンカー。
出現。
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四 二隻目
犬島左前方。
小型タンカー。
速力約11ノット。
航路合流。
本来なら犬島とは十分に距離がある。
しかし大型貨物船を避けたことで、犬島はタンカー側へ近づいていた。
犬島。
「左も塞がります」
藍島。
『こっちも大型船の船尾側が近いです』
二人の選択肢。
急速に減る。
犬島。
右へ戻れば大型貨物船。
左へ行けばタンカー。
藍島。
右へ行けば大型貨物船。
左へ行けば犬島。
減速。
当然。
二人とも始める。
犬島。
17.8ノット。
機関停止。
さらに後進準備。
藍島。
17.5ノット。
同じ。
しかし。
1000トン級。
高速。
すぐには止まらない。
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五 第三の要因
14時22分51秒。
さらに状況が悪化した。
大型貨物船が、自身の表示異常に気づく。
貨物船側も回避。
しかし。
貨物船は犬島たちとは違う判断をした。
右転。
その船尾が犬島と藍島側へ振れる。
犬島。
『藍島さん、大型船動きます!』
藍島。
『見えています!』
犬島は貨物船船尾から距離を取るため、左へ。
藍島も同じ理由で左へ。
二人。
同方向。
しかし位置関係が違う。
犬島は前。
藍島は左後方。
結果。
二隻の進路が交差する。
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六 「藍島さん、右!」
犬島。
距離。
約170メートル。
初めて危険を明確に認識。
『藍島さん、右へ!』
藍島。
『右、大型船です!』
犬島。
『うち左行きます!』
藍島。
『左、犬島さんです!』
二人とも相手がどこにいるか分かっている。
だからこそ。
判断が難しい。
犬島。
左。
藍島。
右。
一度。
離れる。
だが。
大型貨物船。
さらに右転。
藍島。
右へ行けない。
再び左へ。
犬島。
タンカー。
接近。
左へ行けない。
再び右へ。
二人の回避線。
もう一度。
交差。
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七 残距離80メートル
犬島。
速力。
11.6ノット。
藍島。
10.9ノット。
まだ速い。
二人。
全力後進。
舵。
最大。
犬島。
『藍島さん!』
藍島。
『犬島さん!』
距離。
60メートル。
犬島は一瞬、相手の艦首を見る。
藍島も犬島を見る。
次に聞こえたのは、
二人ほぼ同時。
«『衝撃に備えて!』»
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八 高速衝突
14時23分18秒。
犬島。
右舷前部から中央部。
藍島。
左舷艦首。
衝突。
相対速度。
推定。
約13ノット前後。
低速接触とはまるで違う。
金属音。
破断音。
甲板上設備。
大きく揺れる。
犬島の実艦が左へ大きく押される。
藍島の艦首が犬島右舷へ食い込む。
犬島。
「っ……!」
強い痛み。
膝。
崩れかける。
藍島。
「ぁ……っ!」
艦首。
痛み。
身体。
前へ倒れる。
しかし。
二人とも意識を失わない。
接触後。
船体が離れ始める。
犬島。
右舷。
海水。
流入。
藍島。
艦首。
大きく変形。
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九 最初の無線
数秒。
誰も話さない。
そして犬島。
«『藍島さん! 返事してください!』»
返事。
ない。
犬島。
顔色。
変わる。
«『藍島さん!』»
数秒後。
『……おります』
犬島。
一気に息を吐く。
『自分の状態確認してください!』
藍島。
『犬島さんもです!』
犬島。
以前なら先に妹を心配し続けた。
今は違う。
まず自分。
『犬島、右舷浸水。機関……左正常、右軸振動あり。操舵可能。第一主砲周辺損傷確認。』
藍島。
『藍島、艦首浸水。左前部区画浸水増加。機関両方正常。操舵……少し重いです。』
犬島。
『沈みます?』
藍島。
『今のところ沈没危険まではありません』
犬島。
『うちもです』
それを確認して。
二人。
ようやく相手を心配する。
犬島。
『痛いです?』
藍島。
少し間。
『かなり』
犬島。
«『うちもです』»
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十 救難信号
犬島。
救難。
発信。
藍島も。
大型貨物船。
小型タンカー。
即座に停止。
周辺艦艇。
救援。
向かう。
呉鎮守府。
緊急。
連絡。
内容。
«「犬島・藍島、航行中高速衝突。両艦浸水あり。」»
この一文。
受けた瞬間。
指揮所。
空気。
変わる。
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十一 犬飼
犬飼は広報室にいた。
提督側から直接電話。
「犬飼」
「はい」
«「犬島と藍島が衝突した」»
犬飼。
最初。
前回の低速接触を思い出す。
「損傷は?」
返答。
«「今回は高速だ」»
犬飼。
表情。
消える。
「二人は?」
『両名応答あり』
「浸水?」
『両方』
犬飼。
すぐ立つ。
「どこまで戻れます?」
『まだ分からない』
犬飼。
「分かりました」
電話。
切る。
その後。
広報職員。
犬飼の顔。
見る。
「犬飼さん?」
犬飼。
«「二人とも大破するかもしれない」»
部屋。
静かになる。
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十二 犬島の損傷
救援艇到着後。
詳細確認。
犬島。
右舷前部から中央。
外板破孔。
長さ約9.4メートル。
最大幅。
約2.1メートル。
右舷側フレーム。
11本交換相当。
右舷縦通材。
複数変形。
前部機械室外側区画。
浸水。
中央部補助区画。
浸水。
推定浸水量。
約96トン。
右推進軸。
芯ずれ。
34ミリ。
使用禁止。
右舷プロペラ。
一部変形。
第一主砲基部。
水平ずれ。
旋回禁止。
第二主砲。
軽度配管損傷。
電探。
一部配線断。
船体中央部。
ねじれ変形。
ただし。
主機左。
正常。
主要防水隔壁。
保持。
沈没危険。
回避。
判定。
大破。
修理見込み。
約68日。
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十三 藍島の損傷
藍島。
左舷艦首。
ほぼ潰れる。
艦首外板。
約7.8メートル範囲。
大規模変形。
艦首材。
交換。
左舷前部フレーム。
14本交換。
第一主砲基部。
変形。
使用不能。
錨設備。
左側完全使用不能。
前部区画。
3区画浸水。
推定浸水量。
約121トン。
左舷前部甲板。
最大。
58センチ。
持ち上がり変形。
操舵機構。
配管損傷。
舵応答遅延。
右軸。
正常。
左軸。
軽度振動。
使用制限。
主機。
両基稼働可能。
判定。
大破。
修理見込み。
約74日。
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十四 二人とも沈まなかった
救援部隊。
最初。
最も心配。
した。
こと。
沈没。
犬島は右舷へ3.9度傾斜。
藍島は艦首沈下約0.8メートル。
しかし。
防水隔壁。
保持。
排水。
開始。
犬島。
左主機のみ。
藍島。
低速。
救援曳航。
準備。
最終。
二隻とも。
浮力維持。
呉へ帰投可能。
犬島。
無線。
『藍島さん』
『はい』
『帰れます』
藍島。
少し。
震える声。
«『うちら、帰れますね』»
犬島。
«『はい』»
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十五 帰投
犬島。
曳航補助。
速力3ノット以下。
藍島。
別の曳船。
同じ。
二隻。
間隔。
800メートル。
前回の300メートルどころではない。
犬島。
それを見る。
『今回は離れましたね』
藍島。
『もう近づきたくないです』
犬島。
『うちもです』
少しだけ笑う。
ただ。
声。
疲れている。
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十六 犬飼との再会
呉。
検査岸壁。
犬島。
入る。
右舷側。
応急閉鎖。
大きい。
藍島。
艦首。
変形。
一目。
見れば。
事故。
重大。
分かる。
犬飼。
待つ。
犬島。
まず。
見つける。
「担当官さん」
犬飼。
犬島。
見る。
次。
藍島。
見る。
二人とも立っている。
その瞬間。
犬島。
声。
変わる。
«「……犬飼さん」»
藍島も。
«「犬飼さん」»
犬飼。
二人。
近づく。
「本人は?」
犬島。
「痛いです」
藍島。
「うちも」
犬飼。
頷く。
«「それならまず座れ」»
二人。
素直。
従う。
犬飼。
大きく息。
吐く。
「帰ってきてくれて良かった」
犬島。
「はい」
藍島。
「ただいまです」
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十七 事故原因調査
調査。
大規模。
海軍。
海保。
航法支援局。
関係船舶。
すべて。
参加。
重要。
犬島。
藍島。
大型貨物船。
小型タンカー。
誰か一隻の単純なミスではない。
第一原因。
沿岸航法支援局の位置補正情報異常。
基準局内部。
時刻同期装置。
一時的な不整合。
一部配信データ。
誤補正。
第二原因。
受信機器ごとに異常値の処理方式が違い、各船が微妙に異なる位置を認識。
第三原因。
犬島、藍島、大型貨物船が同時に異常へ気づき、目視回避へ移行したため、互いの回避判断が重なった。
第四原因。
小型タンカーの存在によって犬島左側の回避余地が限定。
第五原因。
大型貨物船の右転で藍島右側の回避余地が消失。
結果。
犬島と藍島が互いを回避しながら、最後には互いの方向にしか空間が残らない状態になった。
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十八 最終判断
事故調査委員会。
結論。
«犬島および藍島の初動操艦・減速・目視切替に不適切な点は認められない。»
«衝突直前の段階では、双方が選択可能な安全回避経路が極めて限定されていた。»
«両艦に重大な操艦過失なし。»
大型貨物船。
同じく重大過失なし。
小型タンカー。
過失なし。
主因。
航法支援情報異常。
さらに。
複数船舶の回避行動が相互作用した複合事故。
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十九 呉鎮守府公式発表
«【海防艦犬島・藍島高速衝突事故について】
14時23分頃、瀬戸内海航行中の海防艦犬島および海防艦藍島が高速で衝突しました。
犬島は右舷前部~中央部、藍島は左舷艦首に重大な損傷を受け、両艦とも大破判定となっています。
犬島・藍島本人はともに意識清明で、生命に関わる状態ではありません。
両艦とも浸水しましたが、防水隔壁は保持され沈没を免れています。
調査の結果、沿岸航法支援情報の異常、周辺船舶の回避行動、海域内の航行余地などが複合的に重なった事故と判断されました。
犬島・藍島双方に重大な操艦過失は認められていません。
修理見込みは犬島約68日、藍島約74日です。»
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二十 ネット上
最初。
見出し。
«「犬島・藍島、高速衝突。両艦大破」»
ネット。
一気に騒然。
«「高速!?」»
«「前回の接触と全然違うじゃん」»
«「二人とも大破?」»
«「沈没してない?」»
«「本人は?」»
呉鎮守府公式。
「両名とも意識清明」
出る。
そこで。
少し。
落ち着く。
«「まず二人とも生きてて良かった」»
«「大破で済んだと言っていいのか分からんけど沈まなかった」»
«「74日ってかなり重い」»
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二十一 前回との差
当然。
前の低速接触。
掘り返される。
«前回
「ゴンッ」
犬島9日
藍島8日
↓
今回
高速衝突
犬島68日
藍島74日»
ネット。
«「比較してはいけないやつ」»
«「今回は本当に重大事故」»
«「姉妹衝突ネタにできる範囲超えてる」»
この空気。
かなり。
強い。
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二十二 事故無線公開
後日。
調査上問題ない部分のみ。
公開。
犬島。
«『藍島さん! 返事してください!』»
数秒後。
藍島。
«『……おります』»
そして。
犬島。
«『自分の状態確認してください!』»
藍島。
«『犬島さんもです!』»
ネット。
«「返事来るまでの数秒きつい」»
«「犬島が一番怖かったやつ」»
«「でもちゃんと自分の状態確認に切り替えた」»
«「“まず自分の心配をしろ”が本当に生きてる」»
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二十三 犬島公式SNS
事故翌日。
犬島。
投稿。
«犬島です。
昨日の衝突事故で右舷側を大きく損傷しました。
大破です。
浸水もありましたが、今は排水・応急処置が終わっています。
犬島本人は大丈夫です。
痛みはありますけど、話せます。
藍島さんも大破しています。
でも藍島さんもおります。
事故直後、藍島さんから返事が来るまで少し時間があったので、かなり怖かったです。
返事が来た後は、自分の損傷確認もしました。
今回は前の低速接触とは違って、本当に大きい事故でした。
調査結果では、うちら二人の重大な操艦過失はないとのことです。
二人とも帰ってきています。
修理は長くなります。
また第一岸壁へ戻ります。»
---
二十四 藍島公式SNS
«藍島です。
左舷艦首を大きく損傷して、大破しています。
艦首側の浸水もありましたが、沈没はしていません。
うち本人も大丈夫です。
犬島さんも大破していますけど、帰ってきています。
衝突直前に犬島さんが見えた時は、本当に怖かったです。
避けたかったですけど、右にも左にも行ける場所がほとんどありませんでした。
ぶつかった後、最初に犬島さんの声が聞こえました。
その時はかなり安心しました。
犬島さんもおります。うちもおります。
修理が終わったら、また第二岸壁へ戻ります。»
犬島。
返信。
«帰ってきてくれて良かったです。»
藍島。
«犬島さんもです。»
---
二十五 ネットで最も多かった言葉
今回。
冗談。
少ない。
一番。
多い。
«「二人とも帰ってきてくれて良かった。」»
次。
«「もう姉妹衝突は勘弁して。」»
犬島。
«うちらもそう思います。»
藍島。
«次は普通に別々に航行したいです。»
---
二十六 犬飼の投稿
«【広報担当・犬飼藍人】
犬島・藍島とも本人は無事です。
今回は事故報告を受けた時点で「高速衝突」「両艦浸水」と聞いたため、前回の低速接触とはまったく違う状況でした。
二人が自力で会話できると確認できるまで、かなり心配しました。
検査岸壁で二人を見た時、犬島も藍島も「犬飼さん」と呼びました。
艦体損傷は大きいですが、本人たちは帰っています。
修理には時間がかかります。
今は二人とも休ませます。
あと、本人たちには既に伝えましたが、
次は本当にぶつからないでください。»
犬島。
«はい。»
藍島。
«ほんまにそうします。»
犬飼。
«頼む。»
---
二十七 修理中
犬島。
68日。
藍島。
74日。
珍しく。
長い。
二人。
実艦。
工廠。
同時。
入る。
本人。
広報室。
いる。
犬飼。
机。
仕事。
犬島。
横。
藍島。
さらに横。
犬飼。
「二人とも艦ないと静かだな」
犬島。
「うちらはおります」
藍島。
「かなり近くに」
犬飼。
「それは見れば分かる」
犬島。
少し。
笑う。
---
二十八 犬島が先に復帰
68日目。
犬島。
修理完了。
試運転。
右軸。
正常。
主砲。
正常。
浸水区画。
修復。
船体。
強度。
確認。
第一岸壁。
戻る。
ただ。
犬島。
第二岸壁。
見る。
空。
犬飼。
「藍島、あと6日」
犬島。
「分かっとります」
「待つ?」
犬島。
「はい」
---
二十九 74日目
藍島。
戻る。
犬島。
第一岸壁。
待つ。
藍島。
今度。
かなり慎重。
第二岸壁。
接近。
犬島。
黙って見る。
藍島。
接岸。
終了。
犬島。
すぐ。
«「おかえり」»
藍島。
笑う。
«「ただいまです、お姉ちゃん」»
犬島。
一瞬。
表情。
崩れる。
「はい」
犬飼。
少し離れた場所。
見ている。
「今度はぶつからなかったな」
犬島。
「それが普通です」
藍島。
「普通に戻りました」
---
終章 同じ海を走る
事故から約二か月半。
犬島。
第一岸壁。
藍島。
第二岸壁。
再び。
並ぶ。
高速衝突事故。
両艦。
大破。
それでも沈まなかった。
二人も帰ってきた。
犬島。
公式SNS。
最後。
投稿。
«犬島・藍島、両艦とも修理完了しました。
第一岸壁に犬島。
第二岸壁に藍島さん。
二人とも戻っています。
今回の事故で、目で見える情報と機器情報が一致しない時の怖さを改めて知りました。
これからも機器だけに頼らず、目視・無線・周囲確認を続けます。
同じ海を走りますけど、次は十分離れて走ります。»
藍島。
«うちもそうします。»
ネット。
最上位。
«「姉妹仲は近いままでいい。艦体だけ離れててくれ。」»
犬島。
«それでお願いします。»
藍島。
«うちも賛成です。»
犬飼。
«全面的に賛成。»
それ以降。
二人が並走する時。
以前より。
少しだけ。
間隔が広くなった。
二人ともそれを気にしていない。
相手が近くにいることと、
艦体を近づけることは、
別だと。
十分すぎるほど分かったからだった。