高校生にダウナー系の良さは分からないか 作:朝食はパン派
ユキちゃんがヒロインの作品の摂取不足で体調不良になりかけました
誰か、誰か恵んでくれと願う前に「自分で書けばよくね?」という結論になりました
「──────ねえ、聞いてる?」
春の日差しが差し込むバスの中、隣から聞こえる少しぶっきらぼうだが確かな優しさが含まれている声。
ああ、今日も世界は素晴らしい。こんな世界に祝福を。
「起きなっつってんのっ、椿また夜更かししたでしょ」
「………んぁ? してないよ。ただ眠くなくてボーっと瞑想してただけ」
「それを夜更かしって言うのよ」
そう言いながら、バス後部の二人席の窓側に座る彼女、姫野ユキは俺の肩を揺らす。その揺れがバス本来の揺れと重なり、再び俺を夢の中へと誘う。
「──────もうすぐ着く」
「分かったよ。起きる起きる」
…………今日は、俺たちの入学式である。高校はどこかって?
『高度育成高等学校』、略して高育。現総理大臣の鬼島が建設し政府が監修する高等学校だ。なんと就職率進学率ほぼ100%で、完全寮制である。
話だけ聞けばまさに夢のような学校だろう。絶賛反抗期中で親の顔を見たくない奴や、心機一転新しい場所でやり直したい奴にお誂え向きな。
でも、実態はそれとは全く違う。なんで入学してないのに分かるのかって?
──────それは、俺は
『ようこそ実力至上主義の教室へ』、略して『よう実』なんて愛称で呼ばれる大人気ラノベ、それが俺が生まれた世界の原作だ。前世では結構好きで最新刊まで読んでたこの作品だけど、まさか事故でぽっくり逝った後に来ることになるとは思ってなかった。
神様とか出てきて「どの世界に行きたい?」とか聞かれるなら分かるよ。そしたら俺は間違いなく前世でやってたエ〇ゲの世界に行くけど。でも実際は逝った途端に赤ちゃん視点だったわけ。
最初は両親の言語聞いて「日本来た!当たり!てか転生とか本当にあったんだ!」って思ったよ。でも小学生くらいのときにテレビで見つけちまったわけよ。
『高度育成高等学校、堂々の開校!』って。
度肝を抜かれたよね。散々前世で出て来た高校の名前だったわけだし。でも、原作の主人公と世代が違うならいいし、そもそも行かなきゃいいと思ってた。がしかし、幼馴染が姫野ユキってのは話が変わってくる。
確定で主人公と同世代だし、なんなら原作登場人物が幼馴染って。それはもう俺も行きたくなってくる。これは仕方ない。
──────というわけで、長くなったけど俺は高育に入ることにした。原作の主人公は綾小路って人なんだけど、この人とは関わらないって俺決めてるから。何があっても。
『よう実』ってのは、簡単に言うと四十人ずつのクラスが四つ巴でバチバチ頭脳戦で削り合うっていう内容だ。で、その舞台が高育。敷地は四十万平米を超え、映画館からショッピングモール、カラオケにコンビニと高校生が望む施設は大体内設されてる。
その代わり、一度入学すると三年間卒業するまで出てこれない。若しくは退学するまで。そしてこの学校、なんと監視カメラ塗れだ。生徒が怪しいことしてないか逐一観察してる。それとクラス替えがない。
──────大事な戦ってる人たちの最終目標だけど、これを説明するにはまず高育の制度から説明する必要がある。入学した人は皆優劣順に『A』~『D』クラスに割り振られる。で、さっき言った就職率進学率100%の希望を叶えられるのは卒業時に『Aクラス』に所属してた人だけ。だからAは地位を守る為に、B~Dは下剋上する為に、用意される様々な試験に挑んでいくわけである。
「着いたよ」
「行くか」
どうやらバスが高育に到着らしい。降りれば、目の前に豪勢な校門が聳え立っていた。堂々と学校名が刻まれている。
「楽しみ?」
「楽しみだよ。ユキと一緒にいれるだけでね」
「キモい」
そんな会話をしながら、俺たちは人の波に流されるように中へ中へと進んでいく。因みに原作だとここで主人公・綾小路清隆とヒロイン兼第二主人公・堀北鈴音の邂逅があるんだけど、バスの中にいなかった。多分時間帯が違うんだと思う。良かった。
「私Bだ」
「俺も。良かったね」
「良くないわよ。学校内ではひっつかないでね」
「善処はする」
「それしない時のやつじゃん」
クラス分けに目を通す。ユキは原作通りBクラス。で、運が良いことに俺もBクラスだった。勉強は普通だけど、運動は割と自信あるから良かった。
「さ、行こ行こ」
「分かってる。手離しなさい」
「前祭りで迷子になって泣いてたじゃん」
「それ何年前の話よ。それともう子供じゃないから」
やっぱり、この学校は監視カメラが多い。トイレの中とかにはないだろうけど、それと廊下以外ならほぼ校内に死角がない。外ですら十秒おきくらいに見るし。
Bクラスの教室に入ると、既にこのクラスの中心人物が登校していた。
一之瀬帆波。綾小路からも完璧な善人と評される程のお人好しで、クラスメイトからの信頼も厚い。が、過去に万引きで警察沙汰になりかけた過去を持つ。それも、妹の誕プレの為という理由だけど。
「席、離れちゃった」
「斜め前で何が離れた、よ。私は教室の対角線にして欲しかったけど」
「こういうのはさ、窓際の一番後ろとその隣になるものじゃんっ!」
「ごめん。本当に何言ってるのか分からない」
あれ、こっちの世界にはそう言うのはないんだっけか。でも、綾小路と堀北も隣だったのになぁ。今頃Dクラスの教室でイチャイチャ()してるんだろうなぁ。
けしからん。
「お、隣は君なんだ。よろしくね~」
色々思考に耽っていると、隣の席から声を掛けられた。目をやれば、黒髪にポニーテールと白いリボン。網倉麻子だった。
「よろしく」
「名前なんて言うの?」
「志摩、椿。そっちは?」
「網倉麻子だよ。隣の席同士仲良くしようね」
「だな」
………返答から察して欲しいんだけど、前世の俺は当然陰キャぼっちだった。女子と話したことだって職場や学校を除けばお母さんお姉ちゃんと、昔近所に住んでた子くらいしかない。
今世ではユキと小さい時から一緒にいたけど、未だにギャルは慣れん。ゲームの中では普通に話せるんだけど、現実となると話は変わってくるだろ?
少しだけ話すと、網倉は先程話していた一之瀬の方に戻って行った。既に彼女たちの周りには輪ができ始めている辺り、コミュニケーション能力が高いんだろう。俺はDクラスの軽井沢恵と見分けがつかないことぐらいしか覚えてなかったけど。
「はぁ、なんか合わない」
「みんな仲良しそうで?」
「群れて何が楽しいわけ。椿も行って来れば」
「行かないよ。ユキをひとりにはしない」
そう返すと、いつもの軽口は飛んでこなかった。小っちゃい頃にした約束だけど、ユキも覚えてくれていたらしい。
「すぐそこに行くだけじゃない。別に気にしないわよ?」
「俺が気にするの。それに、俺も人と話すの苦手だし」
それからしばらく経って、Bクラス担任の星之宮先生が入ってきた。けしからん胸と恰好をした女性だ。多分、自分を永遠の二十歳だと思ってる。じゃないとおかしい。
後はお約束の学校とSシステムの説明をした後に、入学式まで自由時間になった。毎月10万ポイントのくだりに違和感を持ってそうな人はいなかったけど。
オリ主くんの入学時の評価
学力 :C+
知性 :C-
判断力 :B-
身体能力:B
協調性 :C-