最強と最恐の系譜は雷霆の申し子です   作:道化の作家

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 はい、今作のベル君はアルフィアやザルド、レオンにも特訓を受けているため、滅茶苦茶基礎スペックが高いです。


前章譚 始まりの物語
前章譚 始まりの誓い


 

 「僕は、アルフィアお義母さんとも、ザルドおじさんとも離れたくないよ」

 

 ──お前がどれだけ永遠を願おうとも、神ならざる我々ではその願いは叶えられない。

 

 ──だから、もう少しだけ…一緒に居よう。

 

 

 

 

 

 僕は、あの人達とのお別れの時間が近い事を知っている。でも…それでもお別れ、したくない。

 

 少年は、心の中で叫び続ける。それでも、会話を留めない。話していないと、どこかへ消えてしまいそうで、それが少年にはどうしようもなく怖かったからだ。

 

「きのう来た、……かみ様……帰っちゃって、よかったの……?」

 

「………」

 

 少年と彼女は昨日の、男神との一幕を思い出す。

 

 

 

 ──ここに、かつての『覇者』がいると聞いた──

 

 その男神の声はよく響いた。まるで悪魔の誘いかのような、さしずて地獄へ誘う悪意を孕んだ邪神の如く。

 

「帰ってくれ」

 

 彼女はそう、ひと言。

 確固たる意志を持って男神の誘いを断る。

 

「貴様の計画に加担することは…出来ない」

 

 破滅の先にある未来を掴む為の計画に、彼女達は加担できなかった。

 世界の趨勢よりも、()()()()()よりも、彼女達には大切な者がいたからだ。

 

「……すまない」

 

 彼女は静かに、いつもの傍若無人さなど何処にもなく。

 本当に申し訳なさそうに、自分の選択を悔いるように、ひと言、零すように言い返す。

 

「謝るなよ」

 

 男神は返す。

 

「これで良かったのさ、お前達は──」

 

 彼女達の選択を心底喜ぶかのように。

 その果てに救いがあるかは分からないが、それでもその選択は間違っていないと男神は呈する。

 

 

 

「あれで、良かったんだ」

 

 彼女は、目の前で今も不安がる少年を勇気づけるように声をかける。

 

「私はもう、お前を選んでしまった。お前を置いて、『悪』を選ぶことなど、もうできない」

 

「アク…?」 

 

「ありとあらゆるものを壊し、秩序を混沌に塗り替え、『正義』を問う存在。そして、多くの者を殺す」

 

「…ころす?」

 

 それは彼女が持つ信念(ポリシー)

 『悪』へと身を堕とし、次代の希望となる誰か、『正義』に問う為の存在。

 

 白すぎる少年には理解出来ない。分かるわけもない。いや、分からなくていい、彼女はそうとさえ思っていた。

 

「ああ。『次代の英雄』のために踏み台になる」

 

「多くの者をから大切なものを奪い、恨まれ、憎しみを買い、超克の先へと駆り立て、未来を託す」

 

「世界を、救うために」

 

 世界を救う為に、少数の犠牲を許し、切り捨て、そして強き英雄達は踏み台を超えて、いつか必ず『黒き終末』に打ち勝つために。

 

 

 

 それは、あり得たかも知れない未来。

 

 多くを殺し、かつての戦友と戦い、まだ年端もいかない少女達を、苦行へと駆り立てて…いたかもしれない。

 

 それは、とても恐ろしいことだ。

 それは、とても悲しいことだ。

 それは、とてもつらいことだ。

 

 どんな高尚な理由を掲げようとも、奪われた人達は、その『罪人達』を決して許さない。

 

 だから、彼女達がそんな汚名(役目)を負わなくで、良かった。

 誰にも恨まれず、憎まれない道を選んでくれて。

 

 それなのに───

 

「だが……『悪』を選ばなかった私達のせいで、世界は滅ぶかもしれない」

 

 その横顔は、とても後悔していた。

 誰からも憎悪を向けられず、罪人の烙印を押されていないにも関わらず、穢れていない自分を恥じるように。

 彼女は悲しみに暮れていた。

 

「『最後の英雄』は……生まれないかもしれない」

 

 それは慚愧の言葉。

 彼女が何故そうまで苦しんでいるのか、悲しんでいるのな、分からない。分かるわけがなかった。

 

 だけど、彼女が悲しみに囚われて欲しくないのは、確かだった。

 

 だから。

 

 だから──

 

 

少年(ぼく)』は、それを口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕が、さいごの『英雄』になるよ! だから…だから泣かないで。お義母さん!」

 

 黄金に揺れる稲穂の中、黄昏の色に照らされる妙齢な、『魔女』を思わせるような風貌の女性の──彼女の手を握る少年の声だけがよく響いた。

 

 彼女は一瞬瞠目した。

 

 『英雄』、それがどのような意味を持つのか。そしてその道がどれだけ険しいのか。その全てを、彼女はよく知っていたからだ。

 

 ──止めろ。

 

 ──成らなくて良い。

 

 ──お前は平和な田舎(此処)で安らかに暮らせ!!

 

 そう、言ってやりたかった。

 

 だが、その言葉は喉の億にへばりついて、喉を通ろうとしなかった。

 無理矢理に、喉から声を出そうとした時、少年がそれを制止するように言葉を続けた。

 

「僕がいつか、必ず、どの『英雄』たちも超えて、最後の英雄になる!!」

 

 少年は、いつかこの選択を後悔するかもしれない。

 背負ったモノの大きさと重さに気付いて、けれどもう引き返せない場所にいて、絶望する日がやってくるかもしれない。

 

 それでも、今は──

 

 いや、たとえ、そうなったとしても───

 

「………生意気な子供め」

 

 ──彼女の顔に、笑みが灯る。

 

 ──彼女の顔に宿った微笑みを、その深紅の双眸に焼き付け、誇ろう。何時まででも、思い出そう。

 

 挫けそうになった時、逃げそうになった時、この笑顔を、この誓いを思い出して、前に進もう。

 

 『英雄』のように、大切な人に笑顔をもたらしたことを。 

 

 『希望』を指差し、『未来』を示したことを。

 

 『理想』という名の『正義』を持って、目指し、踏み出すと決めた、今日と言うなの始まりを。

 

 憧憬を経ず、願望も抱かず、ただ誓いを胸に。少年はたった今から、『英雄』となった。

 

 目の前にいる英雄達に報いるために、彼女達に追いつくために、『最後の英雄』に至るために。

 

 

 彼女の笑顔に、少年も感化され、不安で満ちていた顔に、次第に笑みが灯っていく。

 電波するように、彼女から、少年に。笑顔という名の『希望』は、確かに巡ったいった。

 

 

「私の前で英雄などとほざいたからには、覚悟しておけ。今更撤回など許されん」

 

「うんっ」

 

「では、今夜からザルドと一緒にとことん鍛えてやる」

 

「こんや?!」

 

 ん?おかしいぞ。

 少年の中でナニかが揺らぐ。

 

「まずはモンスターの巣に放り込んで陵辱させるか、それとも川底の岩に身体をくくりつけて死の感覚を教え込むのが先か……私はこれといった修行をしたことがないから勝手がわからんな」

 

「僕も“しゅぎょう”なんてしたことないから分からないけど、……それは“しゅぎょう”じゃないとおもうけど…」

 

 少年にはこれと言った『修行』は分からない。

 だが、これだけは分かる。

 

 それは『拷問』だと。

 浮気や変態行為(セクハラ)を行う祖父が、いつも祖母に行われていることと同じ。

 

 確実に死ぬ?!

 

「馬鹿め。生と死の境界を見極めなくては限界など知れんだろう」

 

「お前が英雄なんてものになるには限界をあと三百は超えなくてはならん」

 

「ん? 限界の意味とは?!」

 

 おかしい、限界はそういう意味ではないと、子供ながらに少年は理解していた。

 

「だから、もう少しだけ、一緒にいよう」

 

「……うんっ」

 

 再び手を繋いで、夕暮れの色に染まる帰り道を歩いていく。

 

 小高い丘の上で、今もこちらを眺めて待っている祖父と祖母と伯父のもとへ、歩いていく。

 

 少年は──『(ベル)』はもう泣かなかった。

 

 泣くわけにはいかなかった。

 

 代わりに、かつての『英雄』に『希望』を示すために、笑みを浮かべた。

 

 静かで穏やかな、『未来』へと続く黄昏の道を、進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見ていた。

 

 そこには僕一人だけがいて、木陰で一人だけ泣いている。

 

 それは寂しくて、悲しくて、どうしようもなく泣きたくなるような、淋しい夢。

 

 こことは違う、あり得たかもしれない世界。

 

 だけど、此処(ぼく)は違う。

 

 それは平穏で、幸せで、美しくて、寂しい夢。

 

 

 英雄になると誓った。

 

 これは『願望』ではない。

 

 それはなるべくしてなったのかもしれない。そういう運命(星の下)へと生まれたのかもしれない。

 

 この想いは、この決意は、もしかしたら果てるかもしれない。

 あるいは、違う何かに変わってしまうかもしれない。

 

 それでも、僕は英雄を目指す。

 わからないから、見えないからこそ、進もう。

 

 今もまだ鮮明に覚えている、あの日の自分に負けないように。

 

 ──それは遥か彼方の静穏の夢──

 

 

 


 

 

 

 

「立て、立たぬならその足は要らぬな?」

 

 そう、アルフィアは言う。

 

 緑の生い茂った平原の上で、まるで君臨するかのように彼女は佇んでいた。

 圧倒的風格を誇り、指導するように、導くように彼女は目の前で今も大地と熱い抱擁を交わす少年に言い放つ。

 

「要りまーすっ!? 大事でーす、なくてはならない、人体の『三種の神器』の一つでーす」

 

「“五月蝿い(ゴスペル)”」

 

「───へぶしっ?!」

 

 ベルは吹き飛ばされた。穢れを一切孕まない美しい、まるで処女雪のような白髪は泥で汚れ、纏う衣服も茶色の土汚れに(けが)されていた。

 

 深紅(ルベライト)の双眸は強く、まるで吠えるかのようにアルフィアを見つめるが、それすら生温いと言外に言い、アルフィアはベルの衣服の襟首を掴んで引き摺った。

 

「お義母…さん、首が伸びちゃう。息ができない…よ」

 

「阿呆か、この程度で死ぬような、そんな生温い鍛え方はしていない」

 

 そうアルフィアは言う。

 

 ベルは恨んだ、無駄に頑丈な身体を。お母さんには申し訳ないが、もう少しだけ…いや、これはお母さんへの侮辱だし、受けた愛への冒涜だ。

 

 そう考え、ベルは大人しく意識を手放そうとした、その時。

 

 

「──どうしたよ悪童(クソガキ)!! その程度かぁ!!」

 

五月蝿(うるせ)ぇよ、ザルドぉぉぉおおお!!」

 

 隣から馬鹿みたいに大きい、鉄と鉄の、剣と剣のぶつかり合う音が聞こえる。

 その音はとても壮大で、とても凄まじかった。

 

 その音に僕の意識も覚醒しそうになり……。

 

「ベルが起きるだろう。 ──【福音(ゴスペル)】」

 

「「へぶしーっ!?」」

 

 巌のような巨漢がまるで案山子の如く風に吹かれるかのように吹き飛ばされる。

 隣りにいた獅子色の髪の騎士も同じく吹き飛ばされ、長い肢体を鮮やかに宙に舞わせ、そしてしっかりと頭から畑に突っ込んだ。

 

 ザルドと、隣にいる騎士を思わせる風貌を誇る男の名は『レオン・ヴァーデンベルク』。

 今や『学区』の騎士、『現代の英雄』とさえ称される程の豪傑だ。

 

 だが、そんな『LV.7(世界最強)』クラスだろうが、この暴君には関係のないことだった。

 

 

「マジで…どこの愉快犯(神々)だよ、あの女から唯一の枷()を奪った奴。 ならせめてレベルはそのままにしろよ、なに【ランクアップ】してんだよ」

 

「はぁ…レオン、今回ばかりはお前に共感しよう」

 

 レオンとザルドはお互いに己の力のみで畑から頭を抜き、自分達をこんな無様な姿にした張本人にガンを飛ばす。

 

 だが、そこまで。 決して逆らおうなどとは考えず、よもや立ち向かおうなどとは端から考えていない。

 

 アルフィアの病は治った。

 ベルが『最後の英雄』になると誓った日から体調は良くなっていき、そして一年前、ようやく病に対抗するスキルが顕現した。

 

 それはまさしく偉業だった。ザルドも因縁の毒に対抗するスキルの顕現により自身は強化され、『体力』が無尽蔵に回復する愉快な身体になり、【ランクアップ】を果たした。

 

 アルフィアも【ランクアップ】するだろう。みな確信したいた。だが、誰が予想できたであろう。よもや前代未聞のLV.7からLV.9への『連続昇華』が可能なことに。

 それもご丁寧に『魔力』や『器用』は“S”に、『敏捷』も限りなく“S”に近い“A”へと。唯一『力』と『耐久』が“E”と“F”だったのが救いではあるものの、そもそもアルフィアは魔導士、『力』や『耐久』などはさしたる問題ではなかった。

 

 そう、あの病がある状態でLV.9の【ヘラ・ファミリア】の団長だったレグナントにもワンチャン勝てた、病がなければ勝てるかもしれなかった。それ程の女が、【ランクアップ】? なんで?となるのは当然の摂理だろう。

 

 

「マジで、誰がこいつ止めんの?」

 

「阿呆か、あいつを止めるなんて端から無理なんだよ」

 

 レオンは嘆き、ザルドは無理だと苦言を呈した。

 

「ザルド、飯にする。 さっさと作れ」

 

「…はいはい。分かったよ」

 

 アルフィアの暴君のような振る舞いに、一切の異を唱えることなく、忠実な家臣の如く、ザルドは土汚れを手で祓い飛ばし、アルフィアが向かう家へと小高い丘の上にある家へと向かう。

 

 

………

……

 

 夜。

 

 暖かな暖炉の光に揺られ、外から指す月光に照らされる少年は、何処か幻想的な儚さを感じさせる程だった。

 

 静謐さを纏った少年は母の膝の上で安らかな寝息を立てて眠りについていた。

 

 日々の過酷な修行、理不尽だなんだと言いながらも彼は一度も逃げたことはなかった。

 もとより逃げる選択肢もないし、恐ろしい義母であればそれすらも修行に変えたいるだろう。

 

 だが、そんな恐ろしい義母を。あらゆる存在から恐怖され、怪物とも称された女を、ベルは一度も恐怖したことはない。当然、怒れる母に怯えたことはあれど、その視線には一度も畏怖の念が込められたことはなかった。

 

 優しく、白い。そんな少年に触れているだけで、まるで自分さえも浄化されているような錯覚をアルフィアは覚えていた。

 

「全く、お前は何処までもメーテリアに似ているな」

 

 まあ、その瞳だけは許さんがな。と付け加えて。

 

 アルフィアはそっとベルの髪を撫でた。

 柔らかく、触り心地もとても良い。兎を思わせるような髪はアルフィアがいつも()いているため、とても整っていた。

 

「ふぅ~、飯が出来たからベルを起こせよぉ」

 

 そう、調理場(キッチン)から男の声が響く。

 巌のような巨体に、何故かピンクのエプロンが巻き付けられており、不釣り合いな如き風貌には違和感を感じざる負えない。

 

 そんなザルドの姿にアルフィアはお約束の如く“クスクス”と静かに吹き出す。当然、ピンク色のエプロンはアルフィアが選んだものであり、家庭内カーストの頂点に君臨するアルフィアに逆らえる筈もなく、ザルドは甘んじてそれを受け入れた。

 

「ベル、起きろ。ザルドの飯ができたぞ」

 

「……うぅん、わかったよ…」

 

 ベルは重いまぶたを開き、両手で目を擦って覚醒する。そこには皿を並べるレオンの姿があり、フォークやナイフを並べるヘラの姿もある。

 

 此処で気付く、あと一人…いや正確には一柱足りない事に。 

 

 そしてベルは即座に近くの窓に首を向け、外を見やる。そこには畑に頭からぶっ刺さっている誰かの姿があった。未だ、誰にも収穫されず、恐らく今晩は収穫されることのない哀れな──覗きをしたので自業自得──祖父をベルは合掌した。

 

 そうしてベルもザルドから渡された料理を卓に並べて準備を済ませる。

 その間、最早恒例にもなりつつある祖父─ゼウスをどうするかは、誰も触れることはなかった。

 

『いただきます』

 

 ベルを真ん中にヘラとアルフィアがそれを囲うように両隣に座り、それに向き合うようにザルドとレオンが座っていた。

 

 5人は食卓を囲んでご飯を食べる。数日かけて作られたビーフシチューはとても美味しく、よく肉に味が染みていた。

 それ以外にも、畑で育てたサラダなんかもとても美味しく、瑞々しかった。

 

 

「ねぇ、なんでお祖父ちゃんはあんなところに埋まってるの?」

 

 ベルはたまらず二人に問うた。

 起きたら既にこうなっていたので、ベルには知る由もなかった。

 

「あぁ、泥で汚れたお前を風呂に突っ込んで、そのまま私達も風呂に入っていたのだが──」

 

「あの人ったら私達を覗きに来てね、そのままアルフィアの魔法で吹き飛ばされたのよ」

 

 へぇー、とベルは当たり障りのない言葉を返す。予想はしていた、だが聞き捨てならない言葉もあった。

 

 既に慣れたとはいえ、義母と祖母と一緒にお風呂に入る13歳が、一体この世にどれだけいるのだろうか?

 

 きっと、その数は片手でも指が余る程だろう。

 

 ベルはもう考えるのを放棄した。元々、無理やり『あーん』を義母や祖母にやられており、子供の頃からそれは変わらない。もう、慣れたのだ。ベルは。

 

 ハァ〜、内心ため息をついたその時、ドォン!と音を立てて玄関の木造の扉が開く。

 

 

「ベル!! 何じなぁその冷めた態度は! 美女二人と一緒に風呂に入ったのだぞ!! もっと──って待って、待って、待つのじゃ…アルフィア」

 

「“吹き飛べ(ゴスペル)”」

 

 そのひと言(ワンワード)と共にゼウスはまた畑のほうに突き刺さった。

 全く器用な事に、建物には一切傷をつけず、対象のみを的確に吹き飛ばす技量。その一欠片ほどでも胆力に回すことが出来れば、ザルドが日曜大工を極める必要となかったというのに。

 

 アルフィアがバンバン家を吹き飛ばすせいで、周りの山にあった木々が禿げ上がり、かなり寂しいことになっているのを忘れてはならない。

 

「全く、あの狒々爺め。やはり、ベルの教育の害にしかならんな」

 

「あの(ひと)は…一体いつになったら学習してくれるのかしらねぇ」

 

 アルフィアはその柳眉を逆立てて眉間に皺を寄せ、ヘラは頬に片手をついて悩ましいとでも言わんばかりに眉を細めた。

 

 

 なんやかんや──で済まして良い問題ではないが──あったものの、平和(笑)に夕食を終えることができ、ベルはザルドやレオンと共に食器を洗っていた。

 

「そう言えばレオンさんは、今回は何時までいられるんですか?」

 

「あぁ、今回は一週間と言ったところだろう。 流石に竜退治とはいえ、私は教師なのでな。あまり学区を空けるわけにもいかないんだ」

 

「そう…ですか。またいつでも来てくださいね!」

 

「あぁ、是非ともそうさせてもらおうかな」

 

「ハッ。そんときゃまた俺がお前をシバいてやるよ」

 

「フン。やってみろよザルド」

 

 先程までの『教師』のような口調は何処へやら、『騎士』のように、あるいはただの悪童(クソガキ)のような、そんな挑戦的笑みを浮かべてザルドと睨み合う。

 

 そんな空気に耐えかねたのか、ベルはレオンにたまらず質問を投げた。

 

「レオンさん、そう言えば今『学区』に有望な人っているんですか?」

 

「あぁ、君もよく知る少女がね。つい最近レフィーヤが学区史上初、【ロキ・ファミリア】への入団を果たしてね」

 

「はぇ~、レフィが。 そうだったんですね、こんどお手紙でも書こうかなぁ」

 

「あぁ、そうしてやってくれ。 きっと彼女も喜ぶぞ」

 

「フフっ、そうだといいですね」

 

 『レフィーヤ・ウィリディス』。彼女と出会ったのは今から3年前のこと。大聖樹の枝をもらいにアルフィアとベルは 『ウィーシェの森』へと訪れていた。

 

 そこで山吹色のエルフと出会い、というか遭遇(エンカウント)してしまい、危うく捕まって撫で回されるところだった。

 

 そこで色々あり、レフィーヤの案内で花畑に赴き、そこで沢山将来の夢を語り合った。

 

 自分は英雄になりたいと言い。彼女は自分の夢がないと言った。

 

『ならば見つければいい』

 

 僕はそういった。レフィは“パァア”と顔を晴らして僕の手を引いて何処かへ連れて行こうとした。

 その道中、何故かそこにインファント・ドラゴンがいたり、それを討伐したりと大変だったのを今でも覚えている。

 

 そこからはなんやかんやあって結局レフィとはお別れし、彼女は『学区』へ。僕はお義母さん達と再度修行の日々に明け暮れた。

 

 懐かしいな、と感傷に浸っていると、レオンがベルに告げた。

 

「彼女は君に負けないように沢山努力するっと息巻いていたよ」

 

「ハハァ、それは負けられないですね」

 

「なあレオン、その娘は何の見どころがあったんだ?」

 

 ザルドはレオンに問う。

 見どころ、勿論今やオラリオ最大派閥の片割れたる【ロキ・ファミリア】に入団した少女。

 そんな少女は一体どれ程の才人なのか、あるいはどのような異能(スキル)を有しているのか、知りたくなるのは最早冒険者の(さが)と言っていいだろう。

 

「あぁ、あまり多くは語れないが、彼女は今オラリオで【千の妖精(サウザンド・エルフ)】という二つ名がついたそうだぞ」

 

「ほぇ~【サウザンド・エルフ】。どういう意味ですか?」

 

「何でも、エルフ限定とはいえ魔法の召喚が出来るらしいぞ。それで、千の魔法を操るエルフっということでついたらしい」

 

「ほう、それは面白い。是非とも私とも魔法の撃ち合いをしてもらいたいところだ」

 

 そんな雑談を繰り広げていると、突然おもむろにリビングのほうから安楽椅子(イージーチェア)に腰を掛け、本を読んでいたアルフィアから声が飛んでくる。

 

「いや、アルフィアお義母さんと魔法の撃ち合いなんてしたらレフィが死んじゃうよ?!」

 

「阿呆か、レフィーヤを殺す気か!?」

 

「お前なぁ、なんでお前みたいな魔法を()()()()()も放てるような化け物を駆け出しの冒険者と戦わせんだよ。 阿呆か?!」

 

「当然、手加減はしてやる。 一歩も動かず、魔法も一発しか使わん。 病弱な私がこれほど譲歩してやっているのだ、これで公平だろう?」

 

「いや、無理でしょ!!」

「「阿呆かーーッ!!!!」」

 

 ベルの否定の声とザルドとレオンの罵倒の言葉が煩かったのか、アルフィアは魔法を行使しようと指を鳴らす。

 

「【福音(ゴスペル)】──【三重奏(トリオ)】」

 

 刹那、一度指を鳴らしただけで3発の【サタナス・ヴェーリオン】が放たれる。

 その一撃はどれも必殺級であり、ベルとザルドとレオンは見事に厨房から器用に食器などはそのまま、3人のみが屋外へと吹き飛ばされていった。

 

 これがアルフィアの異能。【サタナス・ヴェーリオン】のみとはいえ、魔法を最大5発同時に行使できる。

 魔法を発動する際、発動する回数に合わせて機動機(スペルキー)を唱え、するとその分だけ魔法が同時に放出される。

 

 だが、しっかりその分だけ精神力(マインド)は消費され、消耗はしている。

 んが、いかんせん保有する精神力(マインド)量が膨大過ぎるが故に減ったのかがイマイチ分からず、そもそもアルフィアが精神疲弊(マインドダウン)に陥っているところなど見たこともなかった。

 

 圧倒的理不尽に叩きのめされ、ベル達はゼウスと共に仲良く畑の肥やしとなり、収穫されたのは夜の12時を回った辺りだった。

 

 

 


 

 

 

 圧倒的理不尽から逃れ、なんとか就寝を果たすベル達一行はその後死んだように眠りについた。

 当然、ベルはアルフィアの布団で寝かせられ、当然の如くベルが来るまで起きていた。

 

 ヘラは無事収穫されたゼウスに「ベルの教育によくないでしょ」と激を飛ばし、ゼウスは「あやつにはハーレムの才能がぁ〜」などと一向に反省の色を見せていなかった。

 

 その後、アルフィアの腕の中で就寝したベル。

 朝になると、まるで機械かのごとくきっちりと目を覚まし、布団の外にである。

 その時にはもう既にアルフィアはソファーの上で本を読んでおり、ベルは内心「僕、そう言えばこの人より先に起きたことないかも」と思い、一体いつ起きているのか気になっていた。

 

 別に聞くほどでもない。逆に自分で知ることに意味があるとよく分からん意地を張りながら厨房へと足を向ける。

 

 

 料理の順番は、朝はベル、夜はザルドと決まっている。

 最初の頃は全てザルドが行っていたが、ベルも料理を覚えたいと言い、ザルドも良いぞっとなり、いつの間にか当番が決まっていた。

 

 ベルは慣れた手つきで野菜をちぎったり切ったりし、水で洗ったり。卵の殻を割って目玉焼きを作ったりしていた。

 

 そのうち料理の音と匂いに誘われてザルドやレオン、ゼウスやヘラもリビングへと訪れる。

 

 そして出来上がった朝食にザルドは「美味そうだな」と舌鼓を打つ。

 

 出来上がった料理を卓に並べ、朝食を済ませる。

 温かい料理をパクパクと口に放り込み、今日の鍛錬に思いを馳せる。

 

 さあさあ、一体今日はどれ程の地獄が待っているのだろうか、なんて考えながらベルは朝食を平らげる。

 

 

 その後、最初はレオンとの勉強から始まる。

 『学区』の教師でもあるレオンから直接教われるなんて、学区の生徒達に知られればえらいことになるだろう。

 

 レオンの一言一句に耳を傾け、ノートに書き写していく。

 

 レオンが此処に来るようになったのは二年前から。またまたアルフィアとザルドがベルを連れて竜退治の様子を見せようと連れて行った時、そこにレオンがいた。

 

 そこからレオンがどういうわけかザルドにボコられ、アルフィアはその間に竜をぶち殺し、ベルは何が何だか分からなかった。

 

 

………

……

 

 レオンとの勉強が終われば次はアルフィアとの修行。今日の修行はどうやら『目隠しした状態で、殺気のみで攻撃を躱せ』というものだった。

 

「え、それは無理なのでは?」

 

「阿呆か、私も出来る。ならばお前も出来るだろう?」

 

「え…その理論はおかしいのでは?」

 

 アルフィアの理論はこうだ。

 自分は常日頃から目を閉じて動いている。それは戦っているときも同じであり、見てもないのにフラフラ避けて、相手を一方的に蹂躙している。

 無理だ、ベルには不可能だ。

 

「よし、ではこの石を投げつけるから、お前は避けろ」

 

「はい(無理でしょ)」

 

 アルフィアは近くにあった大岩を素手で叩き割り、砕かれ石となったものを、白い布で顔を覆い隠したベルに投げつける。

 

「あれ?」

 

 そこで、ベルは一つの疑問に辿り着く。

 感覚、しかも聴覚や嗅覚といった五感が著しく衰えてる。いや、そう錯覚しているのか?

 

 違う、僕の錯覚ではない。確実に感じにくくなってる。

 

「あの…お義母さん。この布は…」

 

「あぁ、私が作った。当たり前だ」

 

「あ…さいですか」

 

 神秘持ちのアルフィアお義母さんが作ったお手製の布。う~ん、込められた効果はおおよそ五感封じと言ったところだろう。見えない敵、不意打ち、それらに完璧に対処するためには必要な技術ではあるだろう。

 

 そのまま、アルフィアから向けられる殺気の向きで場所を感じ取り、空気の揺れや投げつけられる石が奏でる風を切るような音を頼りに躱していく。

 また、5回に1回は必ず当たるのだが。これはかなり理にかなっている。

 

 そしてベルは知らなかった、ここでの訓練が、いつの日か透明人間達からの集団リンチを、逆にフルボッコに出来るなんて。




【アルフィア】
所属:ヘラ・ファミリア
年齢:31歳
二つ名:【静寂】
『LV.9』
《基本アビリティ》
 力:E443
耐久:G201
器用:B703
敏捷:B711
魔力:S900
《発展アビリティ》
魔導:B
耐異常:C
魔防:C
精癒:D
覇光:G
神秘:H
調合:H
《魔法》
【サタナス・ヴェーリオン】
・攻撃魔法。
・音属性。
起動鍵(スペルキー)炸響(ルギオ)
詠唱式:【福音(ゴスペル)

静寂の園(シレンティウム・エデン)
付与魔法(エンチャント)
・魔法防御。
詠唱式:【魂の平穏(アタラクシア)

【ジェノス・アンジェラス】
・広域攻撃魔法。
・音属性。
詠唱式:【祝福の禍根、生誕の呪い、半身喰らいし我が身の原罪】【(みそぎ)はなく。浄化はなく。救いはなく。鳴り響く天の音色こそ私の罪】【神々の喇叭(らっぱ)、精霊の竪琴(たてごと))、光の旋律、すなわち罪禍の烙印】【箱庭に愛されし我が運命(いのち)よ砕け散れ。私は貴様(おまえ))を憎んでいる】【代償はここに。罪の証をもって万物(すべて)を滅す】【哭け、聖鐘楼】

《スキル》
才禍代償(ギア・ブレッシング)
全能力(ステイタス)の常時限界解除(リミット・オフ)
・交戦時及び発作時、『毒』『麻痺』『機能障害』などの状態異常併発。
・発動中、半永久的に能力・体力・精神力(マインド)が低下。

双分運命(アルメー)
・詳細不明。

奏律曲光(ヴェル・アルドーレ)
・詳細不明。

静穏奏曲(イディウム・カンティクム)
・無病息災。
・状態異常および能力値低下(ステイタスダウン)無効。
・【サタナス・ヴェーリオン】の魔法円(マジックサークル)待機。
・最大5回。


 『神秘』と『調合』の発展アビリティを手に入れたため、ベルの鍛錬用の防具の作成、治療用のポーションの作成も全て自分で行える。アルフィア自身は案外気に入っている。


【ザルド】
所属:ゼウス・ファミリア
年齢:52歳
二つ名:【暴喰】
『LV.8』
《基本アビリティ》
 力:A879
耐久:S901
器用:A841
敏捷:C649
魔力:D545
《発展アビリティ》
狩人:C
耐異常:D
破砕:E
剛身:E
覇撃:G
堅守:H
《魔法》
【レーア・アムブロシア】
・武装付与魔法。
・炎属性。
詠唱式:【父神(ちち)よ、許せ、神々の晩餐をも平らげることを】【貪れ、炎獄(えんごく)の舌。喰らえ、灼熱の牙】
《スキル》
神饌恩寵(デウス・アムブロシア)
・『強喰増幅(オーバーイート)
・発動中、喰らえば喰らう程全能力(ステイタス)に補正。
・強いものを喰らう程補正値上昇。

冒力冒身(アル・クエスター)
・詳細不明。

肉蹂肉塊(ニグル・グルメン)
・詳細不明。

暴喰招来(グラトニー・アウェイク)
・心身平穏。
・状態異常侵犯時、『体力』の『自動回復(オートヒール)』および『呪詛(カース)』無効。
・【神饌恩寵(デウス・アムブロシア)】の補正効果上昇。
・常時、『力』『耐久』高域補正。


 ベヒーモスの毒のおかげで体力無限。HPが1でも残っていれば何度でも際限なく回復し、次の瞬間には体力全開になって暴れてくる。
 『心身平穏』の効果で状態異常による効果は掻き消されていますが、毒自体が身体の中に残っているため、効果は発揮され続ける。
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