親知らずの抜歯マジで痛かった。あれをもう一回とか死ぬ。
プロローグ だって、面倒くさい予感がして…
サポーター。ダンジョンの探索時における非戦闘員にして、下級冒険者の間では“役立たず”という蔑称。
主に魔石やドロップアイテムといった戦利品を回収し、地上に無事運び届けることが役目。
前線でモンスターと戦うパーティに負担をかけぬよう、バックアップの全般を担う裏方役。
詰まるところ、サポーターとは、荷物持ちだ。
「おい、何してやがる! とっととしろ!」
今日もまた罵声が飛ぶ。
膨れに膨れた大荷物を背負い、僅かに遅れた足取りを、冒険者である男は唾棄するように責めた。
燐光を灯し光源だけは困らない迷宮の中。
蔑みを隠さないその声が、酷く反響していく。
「荷物を運ぶくらいでちんたらしやがって、能無しが!」
ただの荷物持ちと非難する、これまで耳にたこができるほど聞いてきた、代わり映えしないその文句。
傲慢な言葉は時に横暴な暴力にも変わる。常に上の立場にいる彼等は下敷きにされる者に痛痒など覚えない。
冒険者はサポーターを顧みない。
ましてや、専門職のサポーターなど嘲弄の対象でしかありえない。
彼等は弱者にどこまでも残酷になれる。
金も、尊厳も、希望も、全てを奪っていけるのだ。
次のような言葉をどこかで聞いたことがある。
曰く、良きサポーターに恵まれなければ冒険者は真価を発揮できない。
曰く、サポーターの働きがあってこそ冒険者はダンジョンにもぐれる。
曰く、彼等は縁の下の力持ちである。
随分と取り繕った綺麗な言葉だが、なるほどとも頷ける。確かに道理だろう。一理ある。
サポーターの存在が冒険者の負担を軽くする一役を買っている。これは否定できない。
「それはかつての頂点である
「碌に仕事もこなせねえ足手纏いに、くれてやる報酬なんざねえぞ!」
だが、そのことを一抹でも理解してくれる冒険者が、どれほどいるのだろうか。
サポーターのありがたみを認識してくれるような殊勝な冒険者が、一体どこにいるのだろうか。
「いいか、モンスターに囲まれた時くらいはしっかり仕事をしろよ──
いざとなればモンスターの囮にちょうどいい。
堂々とそんなことを口にする冒険者様を見て、笑いが漏れてしまった。
なるほど、なるほど。
本当に、見限るのに困らない奴等だ。
冒険者というものは。
じりじり、と土を踏みしめる音がなる。
天井から燐光の光が落ちてきて、四方八方を薄緑色の壁に囲まれた辺り一帯を照らし出す。『ルーム』と呼ばれている、ダンジョン内で正方形に開けた空間だ。
僕はその中で、《ヘスティア・ソード》を両手で持ち、素振りをしていた。
正方形の空間であるルームのいたるところに刻まれた斬撃の後、【ランクアップ】を果たしたのでワンチャン斬撃が飛ぶんじゃないかという淡い期待を試すべくベルは誰もいない五階層の端っこのルームで鍛錬もとい【ランクアップ】のズレを解消していた。
適度に休憩を挟み、ついでに魔法の強化率も変わったことなので、それのズレも解消していく。
早朝、朝日が昇る前からダンジョンへと入っていた為、あれからおそらく数時間おり、もう地上は九時くらいのはずだ。
朝から嫌な予感がしないでもないが、流石にこれ以上先延ばしになどしていれば怒られる時間が延びるだけ、ランクアップの報告やら諸々もしなければならず、確実に今日は潰れるだろう。
嫌だ嫌だと内心思いながらも、こんな面倒事を抱えてダンジョンへ
「うん、やっぱり手に馴染むね」
刀身を振る音、それに伴って奏でられる斬撃音。
風を切るようなこの音は、この先どんな事があろう嫌いになることはないだろう。
硬度、長さ共に問題なし。最高の武器だなと思いながらも、何故コレをどのようにして手に入れたのか、僕が神様に問いただしても答えることはなかった。
「~♪」
さながら、新しい玩具をもらった子供のように浮かれながら、僕は一頻り剣を振ってルームから撤収した。
まあ、実際に僕はまだ子供だろう。お祖父ちゃんがいつも綴ってくれる英雄譚を、満面の笑みでお義母さんやお祖母ちゃんに『読んでッ!』とせがみ、伯父さんの料理をいつも楽しみにしていたあの頃と。
「(ありがとう御座います、神様)」
絶対に強くなる。いつかあの『竜の王』をも屠る絶対の一撃を撃てるようになる為に。
そして絶対に死なない、あの人達の為に、神様の思いを無駄にしない為に。
僕は剣を鞘へと収め、帰路につく。
「へ? 何で居んの」
ここはギルド本部たる大神殿ならぬ
一面真っ白な装飾を施されたそこは、何処か神々しささえ感じさせる程だった。
だが、内側はそんなこともなく。やれ昨日の【ガネーシャ・ファミリア】の失態はどういう事だ、やれ昨日の新種のモンスター?はどういう事だ…etc。
冒険者達は情報を求めてギルドに押し上げているわけで。そんな中、僕の担当アドバイザーであるエイナさんも当然その対応をなされている訳で、これ幸いとそのままエイナさんが忙しいをことを言い訳にとっとと帰ろうなどと考えていたら、エイナさんと話しいている翡翠色のハイエルフと山吹色のエルフ、そして金髪金眼のヒューマンの女性が居た。
「(いや、落ち着けベル・クラネルッ!!)」
そう、まだここまでは良い。
そう言えば昨日、ロキ様に「お礼をするからここで待ってろ」的なことを言われたにも関わらず、神様が倒れたことを言い訳にレフィに「ごめん帰る」と言ってスタコラサッサしてしまったのが原因だろう。お礼の為に僕の所属やら本拠の位置やらを訪ねたんだろう。それは僕の失点、ここはまだギリ許容範囲内。
「(だけどなんで貴方がいるんですかッ?!)」
そこに居たのはただのヒューマンの女の子だった。
ヒューマンである彼女の容姿は、精緻な人形、という言葉が真っ先に浮かぶ。
150
下げられた頭からさらりとこぼれる細い長髪は白銀の色で、大きめな双眸には儚げな長い睫毛がかかっている。
服装は白を基調とした、どこか治療師を思わせる【ファミリア】の制服だ。
そんな彼女の名前は、アミッド・テアサナーレ。
【ディアンケヒト・ファミリア】の団長であり、都市最高位治療師とも名高い人物である。二つ名は【
そんな彼女と、どうしても
最初の頃は生傷が絶えず、毎日毎日傷だらけとなってギルドに向かう僕を見て、歴の長い冒険者達は総じて、やれ剣姫の再来だとかなんとか散々馬鹿にされたり恐れられたりもしていた。
そんな時、毎度の如く顔を真っ青をにしてギルドの治療施設にベルを投げ入れていたのがエイナであり、投げ入れられていた治療師とはアミッドの事である。
治療してもらう度に、ベルはアミッドに何度も説教を喰らい、最早それは
「(恐らく…昨日の一件が原因だけど)」
何処からともなく聞こえる、「昨日【疾風】といた冒険者は誰なんだ!」だの、「あの白髪の冒険者は誰なんだ」だの、またそんな感じだろう。恐らく、僕とリューさんが助けた一般人が【ディアンケヒト・ファミリア】の本拠で、助けてくれた人の特徴を言い、それを元にアミッドさんは僕だと特定したんだろう。特徴的な白髪の冒険者、無茶をして人を助けてる、この辺りの特徴を言えば多分アミッドさんは僕なんだろうとは当たりをつけてるだろう。そして、そんな無理をする僕を、怒りに来たんだろう。
「(…帰ろ、怖いし)」サササッ
まだ幸い、ベルはアミッドに気付かれていない。どころかレフィーヤ達【ロキ・ファミリア】の面々にも気づかれて居らず、今帰ればまだアミッドからの説教
ベルがギルドにてエイナの姿を視認してから、撤退の決断をするまでの間、凡そ十秒弱といった所だろう。
第一級冒険者すらも上回る程の思考速度で決断し、そして実行する。一秒の躊躇いが死を呼ぶ環境で鍛えられたベルにとっては、当たり前のことだった。
さあ、帰ろうとしたところで、突然声が響いた。
「あ、昨日の少年だ!」
「へぇ?」
見つかってしまった。
ギルドにいたただの冒険者が、その特徴的な白髪を見つけ、思わず声を出した。
それに続くように、波のように冒険者がベルの方へと押し寄せて行く。
それを見てベルは逃げようと受付のほうから踵を返す瞬間、
「ベルさんッ!」
「……オワタ」\(^o^)/
もう、どうにも出来ない。
アミッドの声に、ベルは思わず振り向いてしまう。そのまま無視して全速力で逃げればまだ一命を取り留める可能性はあったが、だがその選択は生粋の善人であるベル・クラネルにはそもそも選択肢の外にあるものである為、もう助かる可能性はない。
アミッドとベルの視線はかち合い、そしてベルは動けなくなり、アミッドとの距離は失われていく。
あと二十
あと十
あと五
もう、〇
「お久しぶりですね、ベルさん」
「ア…ハイ、オ
アミッドの言葉に、ベルはもう片言で返すのが精一杯だった。何を隠そう、目の前の少女はそれはもう凄いくらい額に青筋を浮かべ、『私、怒ってますよ』という
年がら年中表情筋が死んでるのでは?と言われてもおかしくない人を母に持ったベルには分かる。他人の感情の機微にはかなり鋭いベル
普段のように、人形のような静謐さを纏った無表情ではある物の、ちゃんと唇の端がピクピクと動いていたり、その柳眉を細めていたりと、笑顔を作りきれてない表情が、透けて見える。
「あ…あの、僕何か──」
「ん? 誰が喋っていいと?」
「──あ、すいません」
何かやっちゃいましたか?とかいうなろう系発言すらも許されない緊迫した空気、アミッドのひと言に思わずベルも謝罪する。
「そもそも貴方は、なんでそんなに毎度毎度ボロボロになれるんですがッ!」
「?! で…でも、今回はあんまり怪我もしてない……」
「へぇ~、
そう言いながらアミッドはベルの脇腹やら背中を手で擦る。それに思わず顔を歪めてしまったベル、その苦悶の表情をアミッドは見逃さず、そして淡々と問い詰める。
「これは?」
「え…あぁ、そのぉ〜」
「あばら骨が…三本ですか…、それに背骨も罅が入ってますね」
「あ、それはそのぉ〜」
「よくもまぁ、こんな重傷で動けたものだと感心してしまいますよ」
「あ…はい」
「で、今迄何処へ? 依然お話した時とは随分と違う装備ですし、内側には薄い防具も着けているようですが、何処へ?」
「えぇ…、その。 ダンジョンへ…」
そのひと言にアミッドの額からピキッという擬音と共に青筋が浮かぶ。
その表情を前に、ベルは勿論のこと関係のない周囲の人間達までも思わず悲鳴を上げてしまう。
そして、周囲の人間は思わずその場から撤退。ベルはそれを僅かに羨ましそうに見ながら、目の前の問題解決に全力で取り組んだ。
「(どうしよう、馬鹿みたいに土下座の一点張り……は以前したしなぁ。お手伝いします…もやった。兎に角謝り続けるのもやったし…、あ…駄目だ。お祖父ちゃんでさえ『諦めるんじゃ』って言ってるし)」
「それで、なんで無茶なんてしたんですか?」
「…え? いやだってあの時はああしないと他の人が被害に遭っちゃうなぁって思って」
そう、ベルはあっけらかんと答える。
その発言に対してアミッドはさも“知っていましたよ”とでも言わんばかりにため息をつき、ゆっくりと詠唱を始める。
「【癒しの滴、光の涙、永久の聖域。薬奏をここに。三百と六十と五の調べ。癒しの
「え?」
「【──ディア・フラーテル】」
そうアミッドが魔法名を告げるとともに、彼女の足元から純白の
その魔法はまさしく全癒魔法と言って差し支えないほどの効力を持ち、瞬く間にベルの身体の傷は無きものとなり、本調子へと戻る。
「アミッドさん…、なんで?」
正直、ここからまた説教パートになるのかな。なんて予想を立てて身構えていたベルは呆気にとられていた。そんな彼を他所にアミッドも、意趣返しと言わんばかりにあっけらかんと答えた。
「ここで貴方を叱ってもどうせまた無茶をするんでしょうし、ならせめて
「…ありがとう御座います、アミッドさん」
「なら、次は無傷で帰ってきて下さいね。もし傷でも負っていれば、また説教ですからね」
「…はい」
そう言い残して、最後に釘を差してからアミッドはギルドをあとにする。
去り際に、ベルは何か嫌な予感を感じとり、まぁた怒られるのかなぁ〜、なんて考えて少し落ち込む。
そして再度──アミッドが去った別方向──向き直り、あちらで今も尚、般若のお面を被りかねない剣幕でこちらを睨見つけるハーフエルフの受付嬢へと歩み寄る。
一歩、また一歩歩みを進め、ベルは引き攣った笑みを崩すことなく、彼女の名前を呼んだ。
「あの…エイナさん。何故そんなに怒られてるんですか?」
「ス〜ッ、分かんないかな?」
ベルのその問いに、エイナは剣幕を崩すことなく、恐ろしい笑みを浮かべてベルに問を返す。
既に隣にいる山吹色のエルフはビビって「ひひッ」と悲鳴を上げ、その隣にいる金髪金眼のヒューマンの少女も「リ…リヴェリアみたい」と呟き、前にいる翡翠色のハイエルフに睨みつけられていた。
「はい、微塵も分かりませんっ!」
───バンッ!!
「ひぃ?!」
瞬間、エイナは受付所である木造の長机を思いっきり叩き怒りを露わにする。
空気が引き締まり、一気に凍りつく。
「私に、何か謝る事があるよね?」
「スーーーーーーーーーーッ!!」
エイナの言葉に、ベルは“此処だ!”と一度大きく息を吸い、そして吐くと同時に奥義を炸裂させた。
「申し訳ございませんでしたーー!!」
土下座である。
ベルはそれはもう無駄のない流動的な動きを持って、額を地面に擦り付けて、与えられた最後の
顔を上げることなく、極東の人々もかくやと言わんばかりの土下座を持って最大限の誠意と謝罪の意志を示す。
それは何処ぞのじゃが丸君を司る処女神の平伏ポーズとは全く違い、歴戦の猛者を醸し出すほど、行い慣れた所作と姿勢だった。
尚且つ、あの暴君でさえも泣いて逃げるほどの才能と暴力の化生に育てられ、いつもいつも伯父と共に祖父の
「ベル君、『それをすれば許される』。なんて思ってないよね?」
「………………はい」
何故バレた?!
エイナに自分の思考を看破されたベルは内心冷や汗を出しかけるが、それを露ほども感じさせないポーカーフェイスを持って乗り切る。
少しの静寂が場を支配し、エイナは僅かに隣にいるハイエルフに目を向け、これ以上やんごとなきお方を待たせる訳にもいかない
場所は変わって。
ギルドの受付所とは違う、また一風変わり殺風景な一面真っ白な部屋へと連れ込まれた。
ギルドの応接室であるそこには、翡翠色の整えられた長髪を揺らすいかにも麗人といった風貌を醸しだす、【ロキ・ファミリア】の副団長でありハイエルフの【
そして幹部、金色の長髪と同じ色の瞳を持つ、
山吹色の髪を後ろで纏めたポニーテールの少女、都市最強魔道士の後釜とも名高い【
そんな都市最強
「酒場での一件、本当に申し訳なかった」
と、いう言葉と共にリヴェリアとアイズ、レフィーヤは頭を下げた。
ベルは「気にしないで下さい」と言うが、エイナに耳元で「受け取って上げて」と言われ、都市最強のファミリアも大変だなぁなんて完全に他人事な思考に耽りながらも取り敢えずその謝罪を受け取った。
「でも、本当に気にしてません。あの
そう、それは冒険者の名を語るのであれば当然の事。
それが冒険だ。
それが冒険者だ。
それが代償だ。
仕方がない、とは割り切れないが、それでもダンジョンという地上とも地下とも違う、ある意味で治外法権な場所へと赴くのであればそれは仕方がない。
「だから、本当に気にしないで下さい」
そう、最後に付け加える。
僕はあの日から今日までの七年間で様々なことを学んだ。ダンジョンのことについては殆どザルド伯父さんに習ったが、やはりあの人もこう言うだろう。
『未知』に対しては、どれだけ入念に準備しても『し過ぎ』ということはない。その
にしても、あのベートさん?って人は、お義母さん達に聞いたレオンさんの昔話の性格に良く似てるなぁ。まあ、レフィがいるから絶対に口には出さないが。
そこからは、昨日帰ってしまって出来なかったレフィを守った件についてのお礼の話だった。リヴェリアさん主導でのお話が進み、取り敢えず『ロキ・ファミリアへの貸し一つ』という事で事の決着はついた。
中々「大丈夫です、いりません」という言う僕と、「駄目ですっ、兄さん!」と言うレフィとの間で話に終わりが見えなかったが、そんな僕等を見兼ねてエイナさんが先程の決着を提案した。
んまあ僕としては特にその借りを返してもらう気もないし、妹を守るのに理由がいるなんて思ってもいないので、当然貸し借りなんてしてもらう気は更々なかった。
「では、僕はこれで。 本当に今回の件は気にしないで良いので、本当に大丈夫なのでっ!!」
僕はそう言い残し、そそくさとその場を後にした。
スタコラサッサと足早にギルドを飛び出し、これ以上の恩の押し売りを避けるためにも僕はある工房へと走っていった。
「あ、エイナさんに【ランクアップ】の報告するの忘れてた」
まあ、また今度という事で。
どうせ【ランクアップ】までが早過ぎて、公開までには期間が空くんだろうし。
カァン、カァン、と金属を打つ音が生じている。
周囲から頻りに鳴り響いてくる甲高い打撃音。舞い狂う音の後に眩い火花が飛び跳ね、辺り一帯に閃光を散らす。
鎚を振るい、大粒の汗を流す精悍な青年の吐息が度々聞こえてくるこの場所は、まさしく鍛冶場と呼ぶに相応しかった。
広い部屋も、様々な道具が置かれ手狭となっており、一番奥には部屋の三割近くを占有する大きな炉があり、今も
「ベル、こんな感じでいいか?」
「うん、ありがとう。長剣だけじゃなくて短剣まで作って貰っちゃって」
「良いんだよ。こっちの長剣は今さっき出来たから
と、赫灼の短髪を覆っていた青色の
銀色の刀身と漆黒の鞘を持つ、簡素な作りとは裏腹に凄まじい程の出来栄えを誇る長剣《無銘》。
僅かに刃が湾曲しており、波打つような刀身と一直線ではない柄、普通の鍛冶場や冒険者なら一発で失敗作だと断定するような短剣《ミスティル》(ベル命名)。
ベルはそれらを満足そうに受け取り、代金を聞いた。
両方揃って二十万ヴァリス、なんだか安くね?とベルが問うと、ヴェルフが渋々答える。
「そっちの長剣はまず
「あぁ、そっか。ありがとう、ヴェルフ」
そう、気にするなと言わんばかりの雰囲気を醸し出すヴェルフの背に、ベルは静かに感謝を伝える。
少しばかりの静寂がその場を支配し、その後すぐにベルが素朴な疑問を思い浮かべ、ヴェルフに問う。
「そう言えば、ヴェルフは何で僕に武器を打ってくれるの?」
それは、単純な疑問だった。
冒険者になりたてもなりたてだった僕は、ギルド貸し出しの長剣をその日に使い潰してしまい、このままではいけないと思いギルドの上階にある【ヘファイストス・ファミリア】の下級鍛冶師達の作品がある場所へとエイナに案内されたベルは、その途中で一人の
それが、ヴェルフの作品だった。
そして、ヴェルフが自分の作品を欲しそうに見ているベルをたまたま見つけ、そのままヴェルフがベルの専属鍛冶師の契約を結んだ。
「お前は、俺の親友にそっくりだったんだ」
「え?」
もっと、なんだか凄い理由でもあるのかと思っていたベルは、思わず阿呆みたいな声が漏れた。
そんなベルには一切気に掛けず、ヴェルフはそのまま目を瞑り、遠い過去を思い出すように言葉を続けた。
「そいつは、流されるがままだった俺の打った剣を『すげぇ』なんて子供みたいにはしゃぎながら喜んで使ってくれてな」
それは、かつて流されるがままだった流浪の鍛冶師の話。
「彼奴は俺を
それはかつての決戦。その少し前の話。
「だけど、魔剣じゃ彼奴は守れなかった。どうあがいても使い手より先に消える魔剣じゃあ、彼奴の隣には立ち続けられなかった」
そして、彼奴は強大な敵を倒す為に、一人の王妃を助ける為にその視力と、もう治ることのない程の火傷を身体の内側に負った。
「そして、彼奴は満足そうに消えちまった。俺達の思いなんて露ほども考えず、自分の役目はもう終わったなんて姫さんに言い残して、モンスターの討伐に向かって相討ちにな」
「それが…、僕に剣を打つ理由?」
「彼奴とお前を比べるのは…お前に対して失礼ってもんだ。 だがな、お前は彼奴に良く似てる」
他人のことを自分より慮る思慮深い精神が、特にな。とヴェルフは目を開いて優しい笑みを浮かべながらベルへと言い放つ。
「俺は…もう親友を死なせたくねぇし、ましてや手ぶらで
そう言うヴェルフの隣には、炎が燃ゆるかのように現出する一人の女性のような精霊が現れる。
とても中が良さそうで、自分とは大違いだとベルは内心思う。いつもいつも手を貸してくれず、自分の力だけで何とかしろと言わんばかりの精霊とは、本当に違う。
「俺はお前を死なせたくねぇ、いつかお前を守れる…いや、お前でさえも扱えねぇ程の
と言い残して、ヴェルフは炉の炎を消し去り、ベルに問うように言葉を紡ぐ。
「俺の武器は、彼奴を救えたかな?」
それは、誰にも分からない。そこに、彼の問いに答えられる者などいないのだから。
だから、だからそこベルはヴェルフへと、真っ直ぐ視線を合わせて言う。
ヴェルフの武器に命を救われたベルだからこそ、それを言える。
「『僕は君に救われたよ、
「…あぁ、そうだと良いな、
と、ヴェルフはいつになく感傷に浸るような、そんな儚い声を出しながらベルの言葉を噛み締める。
《あとがき》
ちなみに、レフィーヤの「兄さん」呼びはアルフィアお義母さん公認です。
『アミッド・テアサナーレ』
・ベル君の周りの中だと稀な『厄介事』を運んでこない系の良質姉属性保持者。ちなみにベルからの好感度は今のところオラリオ内だとレフィーヤに次いで二位、ヘスティアを抜いてこの順位に立つのは流石聖女様。ちな、レフィーヤとは今のところは山よりも高く海よりも広い壁がある。
お気に入り登録やコメントをしてくれるとモチベに繋がるので是非お願いします!評価もしてくれると嬉しいです、コメントでのアドバイスも待っています!
それでは次回まで楽しみに待っていて下さい!