はい、ここからが本編です。
なんで前章譚のお話はあんまりここには入ってこないかも?んまあゆくゆくは取り込んでいきたいと思いますが、そもそも一話を書いたときに前章譚を思いついたので…書くとなるともう少しあとになると思います。
それでは、どうぞ見ていって下さい。
第一話 ミノタウロス、お前可哀想になぁ
───迷宮都市オラリオ。
そして、その未知と言う名の夢に引き寄せられ、僕もオラリオへと来た。
ここに来るまで、多くの鍛錬を積み、もう500回辺りから数えるのすら諦める程には限界を超えた。
うん、思い出すだけで涙が出てくる。
───さて、僕はオラリオに何を求めたのか?
それは簡単。 僕はオラリオに"英雄"になりに来た。 そしてもう一つの夢、"出会い"を求めに来た。
かつて夢想した、ダンジョンで襲われている女の子を格好良く助ける夢。
怪物の汚い咆哮、響き渡る悲鳴。 間一髪で奔る鋭い剣。
クールに佇む格好良い自分と、地面に座り込む可愛い少女。 そして芽吹く恋心。
子供からちょっと成長した英雄の冒険譚に憧れる男が考えそうなこと。
可愛い女の子と仲良くしたり。
綺麗な異種族の女性と交友したり。
少し
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?
結論:そんなことよりミノタウロスが沢山釣れた。
雄牛の咆哮が轟き、
そんな圧倒的強者、本来上層にいて良い存在ではない。 つまりイレギュラー。
正直、上層でのイレギュラーが一番死亡率が高い。
そんな物を前に、流石の僕もそれを見過ごす訳にもいかず、腰に差した長剣を抜刀しミノタウロスに攻撃を仕掛ける。
「───────ハァ!!」
『ブモゥゥウウ?!』
ミノタウロスの悲鳴が響き、僕の持つ銀の長剣が閃光を描いてミノタウロスの外皮を断ち切る。
左肩から右腰にかけての一閃。その一撃を持ってミノタウロスは致命傷を負う。
正直、僕みたいな
「はぁ〜、勘弁して欲しいよね。 上層でミノタウロスなんてさ。 でもこのモンスター達、なんだか疲れてたし、下層から逃げてきたのかな? んじゃあ殊更勘弁して欲しいね、僕がいなかったら今頃一人、二人死んでたよ」
そう言って僕は手に持っていた長剣を鞘に戻そうと…したところで少し遠くから大きな足音が聞こえた。
その足音を聞き、僕は即座にもう一本の長剣を鞘から抜刀。 二刀流となり、迫りくる脅威を迎え撃つ。
『『ブモゥゥウウウゥウウウーーー!!!!!!』』
雄牛の咆哮が重なる。 二人がかりで僕に掛かってくる。 だけど、所詮はミノタウロス
僕は落ち着いて迫りくるミノタウロスの間を縫って右側のミノタウロスの片腕を奪う。 そして即座にそのミノタウロスの魔石のある胸部を一突き、その一撃を持ってミノタウロスは炭化し、もう一体のミノタウロスはそんな僕の強さに恐れ、立ち止まってしまった。
ミノタウロスは恐怖した。 先程自分達が必死こいてむざむざと敗走を期した化け物達には劣るとも、その纏う闘気は彼等よりも洗練されており、剣を持った少年はまさに『
ミノタウロスはそんな少年の剣幕を前に足をすくませてしまっていた。
そして、最後に。
圧倒的強者の少年に対して、ミノタウロスは一方的な誓いを胸に秘めて最後を迎える。
───再戦の願いを。
「───じゃあね」
「ふぅ〜、それじゃあ帰ろうかな。 今日はミノタウロスの魔石があるし、稼ぎで言えばかなりのものになるはず! 神様も喜ぶかな?」
そうして僕は落ちている魔石とドロップ品の『ミノタウロスの片角』を拾い上げ、持ってきたバックパックへとしまう。
持ってきたバックパックもパンパンになり、今日の稼ぎへの期待値もそれに応じて膨れ上がる。
僕はそうして先程まで居た場所から踵を返そうとしたその時…、突然声をかけられた。
「あ…あの!」
「……え?」
その姿は女神と見紛うような程の美しさを誇る、少女だった。 蒼色の軽装に包まれた細身の身体。鎧から伸びるしなやかな肢体は眩しいくらいに美しい。
繊細な身体のパーツの中で自己主張する胸の膨らみを抑え込む、エンブレム入りの銀の胸当てと、おんなじ色の手甲とサーベル。
その尊顔には汗が滴り、焦りようが手に取るように分かる。
腰まで真っ直ぐ伸びる金髪は、如何なる黄金財宝にも負けない輝きを湛えていた。
女性から見ても華奢な身体の上に、いたいけな女の子のような童顔がちょこんと乗っている。 僕を見つめるその瞳の色は、金色。
「(あぁ…綺麗だなぁ)」
──蒼色の装備に身を包む金髪金眼の女剣士。
田舎からのお登りである『LV.1』の駆け出し冒険者の僕でさえ知っている。
【ロキ・ファミリア】に所属する第一級冒険者。
ヒューマン、いや
【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。
「あの…何の、用ですか…?」
僕は脳みそをフル回転させて考えた。
正直、残念ながらこんな美人な人にダンジョン内で声をかけられる筋合いは…全くなかった。
悔しいことに…。
見たこともないし、ましてや会ったこともない。
僕としては正直嬉しすぎて舞い上がりそうになるのを抑えながら、目の前の少女と言葉を交わそう…と努めた。
「……あの…、本当に…何の用ですか?」
「え…えっと…ね、その…」
その声はとても綺麗で、美しかった。 なよなよしていなければ尚良かったが…まさか僕が何か失礼を働いてしまったのだろうか? だが、僕は昔からお祖父ちゃんによる
なのに、何故? 僕…怖がられてる?
僕はその人を知っている。と言っても一方的に、流石にオラリオに居れば嫌でもその噂を聞くことになる。
僕は彼女を見た時、こう思った。
あぁ、なんて悲しい剣なんだろう…と、それはあまりにも無礼で、そしてもう一つ。
申し訳ないくらい一方的な想い。
すっごい、綺麗な人だなーー!!!
お祖父ちゃん、本当にオラリオには美しい人が居たよ!! 僕、
『一目惚れ』…だったと思う。
そして、心の中に居るお祖父ちゃんは僕に"おい!!"と軽いツッコミを入れてきた。
そして、心の中の義母と叔母は拳骨待機中、既に叔父は逃げ出しており、祖父は生贄として差し出されていた。
…………
………
……
…
急がなきゃ!! 早くしないと、誰かが巻き込まれちゃう!!
銀色の防具に青が基調の武器。 そして防具に刻まれた紋様は『道化師』、その紋様を刻むファミリアはオラリオに一つしかなかった。
【ロキ・ファミリア】。 都市最強の一角、そして今、一陣の突風となってダンジョン内を駆け回っていた。
17階層でのイレギュラー。 ミノタウロスの大量発生、そして突然の上層への逃亡。 それらが重なり、ミノタウロス達は5階層まで進出してしまっていた。
「早く、早く行かないと!!───【
その詠唱と共に風が彼女に集約されていった。
その風は彼女の超人離れした速力に更にブーストをかけ、辺りの空気すらも引き摺って駆け出した。
ミノタウロスの咆哮が聞こえた。 それを聞き、少女はその頭の中に最悪の未来を予想し、その予測を否定するかのように少女の速度は加速していく。
【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。LV.5の冒険者であり、異種族間でも最強の一角と謳われるほどの冒険者。
そんな彼女は今まさに、自分達のせいで引き起こりそうになっている惨劇を回避するためにダンジョン内を駆け抜けた。
『『ブモゥゥウウウゥウウウーーー!!!!!!』』
二つのミノタウロスの咆哮が重なる。 アイズは心の中で確信した、あぁ…犠牲者が出る…と。 本当に申し訳ない、だからせめて、そうなる前に…とアイズは更に加速する。
だが、結果は違った。 ミノタウロスは灰燼となり、その場に魔石だけを遺して去って逝っていた。
それを成すことが出来るのは、恐らく第二級冒険者からだろう。 お礼を言わないと、とアイズは言葉を発っそうとした時、おかしなことに気づく。
目の前にいるのは少年。 どう見ても駆け出し。
初雪のように真っ白で、その美しさは一切の汚れを孕まず、その少年の心根を表しているようだった。
身長は自分よりやや大きく、だが冒険者とは思えない程にあどけない。 まだ幼さが残る顔立ち、だけど立ち姿はかなり堂々としており、少年がどれ程研鑽を積んだのかが一目でわかる。
少年は自分に気づく素振りすら見せず、銀の長剣から滴る鮮血を振り祓い鞘へとしまう。 そうして落ちている魔石やドロップ品をバックパックにしまい、そそくさと帰ろうとしていた。
不味い!? お礼を言わなきゃ! で…でも、どうしたら?
アイズの中に居るちびアイス達も必死に思考を巡らせる。 言葉足らずで無表情なアイズだが、知るものが見れば驚くほどには焦っていた。
「あ…あの!」
「……え?」
そしてちびアイズ達が導き出した答えとは、『なりふり構わず声をかけろー!!』というアイズには少々難しい物だった。 それでもなんとか声を絞り出し、アイズは声をかける。
返された言葉はとても優しそうで、少年はアイズを見つめて少し戸惑っていた。
こちらを見つめる瞳の色は、
まるで兎のような真っ赤な深紅の瞳がアイズを見つめ、アイズは更にテンパってしまう。
「あの…何の、用ですか…?」
だが、悲しきかな。 少年はそんなアイズの内心など知るヨシもなく、無情にもアイズに回答を諭す。
アイズは更にテンパり、というか正直何を話すかすら決めておらず、本当に当たって砕けろ作戦だった。
ちびアイズ達は脳内で緊急デナトゥスを開き、ワー、ワー、叫んでいた。 正直、アイズは泣きたくなっていた。 何を話せばいいのかも分からず、でも取り敢えずお礼だけでも…後は所属ファミリアは聞かないと!という派閥幹部としての自覚と自制を持ってアイズは脳内で思考をフルに回す。
「……あの…、本当に…何の用ですか?」
その言葉に、アイズはもう"どうにでもな〜れ"と思考を放棄、取り敢えずお礼と所属ファミリアを聞く!という使命感のみでアイズは言葉を紡ごうとした。
「え…えっと…ね、その…」
だが悲しきかな。 アイズは覚悟を決めてモンスターを倒すことはできるが、覚悟を決めて人と対話するのはめっぽう苦手なのだ。
取り敢えず、立ち去ろうとする少年の左手首をアイズは右手でガッチリと掴み、逃さない様に少年を捕らえた。
その様は、さながら"捕まえた兎が逃げないようにする女の子"と言った所。 そして少年は更に困惑し、目を回しながらアイズを気遣い、そしてアイズの右手に対して少年は右手を優しく重ねてアイズに問う。
「あの…大丈夫ですか? ゆっくりで良いので、話して下さい」
その優しい声に、アイズはなぜだか惨めな気持ちになり、心の中で若干涙を浮かべていた。
それは自分のコミュ力の無さになのか、それともぱっと見ぜったい年下の少年に気を使われた事か、それは分からないが、アイズにも、もう困惑しすぎてよく分かっていなかった。
「えっと、ミノタウロスを倒してくれて…ありがとう御座いました。……所属ファミリアを、教えて頂けますか?」
「えっと、はい…僕も被害が出なくて良かったです。えっと所属は【ヘスティア・ファミリア】です」
「ヘスティア…聞いたことない、かも?」
「んまあ、それも仕方ないですよ。 そもそも二週間前に出来た、まだまだ零細のファミリアですからね。 それじゃあ、僕はこれで」
「えっと、はい。…ありがとう御座いました」
それでは。 と少年は言い残してその場を立ち去った。
そしてしばらくして、アイズは少年との会話を思い出し、ある疑問に行き着く。
「(発足して二週間…、
なら、尚更おかしい。 まだまだ駆け出し、なのにミノタウロスを倒した。 そんな凄腕の少年が、それに顔だって悪くない、どちらかと言えばいい方だ。 なのに、なんでそんな少年が零細ファミリアに?
知りたい、あの子の強さが。 でも…巻き込んで、迷惑をかけて、その上強さの秘訣が聞きたいなんて…。
アイズは我ながらその無謀さに呆れ笑いを浮かべ、自嘲気味に笑う。
そんな中、アイズの後方から一人の狼人が現れる。
「おい、アイズ!! んなとこで油うってんじゃねぇよ!」
「………(う〜ん、私が駆け出しの頃。もし魔法が使えれば…いけなくはない…?)」
その程度の可能性。 だが少年は魔法すら使っておらず、だが精々あの二振りの長剣は業物であること以外は何の変哲もない武装しかしていなかった。
恐らく真っ向から斬り伏せた。 ならおかしい。 ミノタウロスの外皮は断ちにくい、それをLV.1の冒険者が? そんなのおかしすぎる。
「おい! アイズ!!」
でも、どうやったら…一体どんな修行をしたらそんなことになるのだろう?
「おい! アイズ!! テメェさっきから無視してんじゃねぇよ!!」
「──っうぇ?! あ…すみません」
「たくっ! 間抜けな声出してんじゃねえよ。 おら、行くぞ!」
「あ…はい」
アイズはそんな狼人の青年の言葉に従い、大人しくその場を後にした。
「にっしても、あんな駆け出しが何やってんだろうな!ミノタウロスの餌食にでもなりに来たのかよ!」
その言葉はとても冷たく、嘲笑を孕んでおり、だが考え事をしていたアイズの耳にそれが入ることはなく、その事実が更に狼人の青年の嘲笑を煽る。
青年にとってみれば、自分の発言に何の興味も示さず、考え事にふけっている少女は、とても面白くない。
そして、アイズはこの時、青年の嘲笑に気づかなかったことを心底後悔していた。
質問来てた!!
『とある無口の剣姫さん』からです。
はい、ベン君は一体どんな修練を積んだんですか?
答え:毎日、叔母──ゲフン、ゲフン──お義母様と伯父さんに叩きのめされ、時にはゴブリンの谷に落とされ、時には目隠しして岩を避けさせられ、時には竜の魔石を食わせた都市外の強化種ミノタウロスと戦わされたり、時には祖父と伯父と『学区』の騎士と共に畑の案山子ごっこをしたり…、そんな感じですね。
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?
再結論:間違っては…いなかったかな?
…………
………
……
…
「あ、エイナさん。 今帰りましたよ〜」
ダンジョンの運営を管理する『ギルド』の窓口受付嬢、エイナ・チュールは片手に持った小冊子から顔を上げた。
ほっそりと尖った耳に澄んだ
その風貌はとても整っており、だがエルフのように完璧に冴え渡っている訳でもなく、何処か角の取れた風貌。
細い身体はギルドの黒い制服とパンツを綺麗に着こなしいた。
仕事人然としながら親しみやすいともっぱら評判の妙齢の彼女はヒューマンとエルフのハーフである。
多くの冒険者がダンジョンに潜る昼下がり、受付嬢としての暇を持て余していたエイナは自分の名を呼ぶその声の主をすぐに察する。
「あら? お帰りベル君。今日は早いのね」
既に半月前。
瞳を盛大に輝かせながら、あの少年がギルドで手続きを行なったのは。
自分がダンジョン攻略のアドバイザーとして監督することになったその少年の年齢は
種族はもとより、老若男女も関係なくなれる冒険者ではあるが、その職業柄、犠牲者は絶えない。
まだ、年端もいかない子供だ、わざわざ危険地帯に
自分が担当しているだけあってその身を案じているエイナは、少年──ベル・クラネルの安否を確認して頬を緩ませる。
正直、もう自分があの子を心配する必要はないと思ってはいるものの、そうはならないのが"人"というもの。
最早ギルド名物とさえなっている『
正直、物覚えも知識量も、エイナはかなりの自身を持っていた。
だが、自分でも知識が曖昧な部分まで鮮明に記憶し、一度言われたことは完璧に覚える少年に、エイナは度肝を抜かれていた。
最初の頃は、ギルドの"悪い風習"とも言える『あの冒険者は何日保つか?』という賭けに、ほぼ全員が半月という答えを出し、エイナは密かに皆を見返そうと意気込んでいた。
だが、結果は全く違った。 今まで見てきた冒険者のなかでも一、二を争う程の才能を持った少年であり、まだ半月しか経っていないのに、彼は『敏捷』のアビリティ評価が"D"に達している。
未確認のスキル、そう一括りにすることは簡単。
だがそれだけじゃない。 彼の未知への飽くなき探究心、少年心がそのまま大きくなったような純真さ故の知識欲、それらは才能以前に、彼の人柄に起因している。
人を惹きつける才能、とでもいうのだろうか?
庇護欲を掻き立てるような幼さの残る顔、そして何よりよく笑う。 そして笑った顔がなかなかに可愛い。
だからだろう、心配する必要がなくなった今でも、毎日心配してしまう。
まあ、さしずめ弟といったところだろうか?
「一応聞くけど、無理はしてないよね?」
「フフ、見てくださいよエイナさん。 ほら、無傷でしょ!」
そして、言いつけは大抵守る。 最初の頃は無理して傷だらけになっていたけど、今はさっぱり無理をしなくなった。
『冒険者は冒険してはならない』、我ながら矛盾もいいところだろうが、それでも生きててこその物種だ。 死んでしまえば、もう笑うことさえできないのだから。
今は、冒険とも上手く付き合っているのだろう。 しっかりと引き際を見極め、慢心しないようにしているのだろうとエイナは内心思う。
「今日はミノタウロスが上層に現れるっていうイレギュラーがあって…、ちょっと早くきり上げました」
「あ~、そう言えばそんな事をさっき何処かの冒険者が話していたような…。 まさか、ベル君が?!」
「えぇっと…、まあ遭遇してしまって…ほかの人を巻き込むわけにもいかず……すいません」
「うーん…無傷だし、あんまり怒るに怒れないけど、あんまり無理はダメだよ! 君、最初の頃の無理が祟った今じゃベル君、【
「ウグッ?! ──で…でも、正直僕は気に入っているですよね、なんか格好良くありません!!」
「格好良くありません!!」
そんなベルの少年心を、エイナは真正面からバッサリ切り捨てる。
ベルはそのあまりに恐ろしい剣幕を前に身体をビクッと跳ねさせ、思わず後退してしまう。
「もう、あんまり無理しないでね!!」
「は…はい。 すみません」
「ほら! じゃあ今日の稼ぎを換金してきちゃいなさい!」
「は~い」
子供っとぽいというか、なんというか。 少し大人びえいるものの、ところどころに少年心というか、子供のままなところがあると言うか、はぁ〜。っとエイナは心の中で深い溜息をつく。
『はい、10万ヴァリスで〜す』
『は~い、ありがとう御座いましたー』
「ブフーッ?!(え? 10万ヴァリス? まだ駆け出しのLV.1が?! はぁ〜、なんか常識が壊されそうだよ〜)」
エイナはベルの稼ぎ額に驚き、思わず吹き出してしまう。 そんな珍行為に他のギルド職員は目を見開き、隣にいる同期の友人に至ってはなんだか笑っていた。
「ミィシャ、なに笑ってるの?!」
「ご、ごめんってエイナ〜。 でもすごいね〜、あの新人君さ〜」
「そうね〜、まあ無茶するのだけは止めて欲しいんだけどね〜」
そうしてエイナはベルと最後に視線を交わし、会釈してお互いにやるべきことをする。
ベルは帰路につき、エイナは先程まで行なっていた仕事を取り掛かる。
…………
………
……
…
迷宮都市オラリオ。
『ダンジョン』と呼ばれる迷宮を保有する、いや迷宮の上に築き上げられた巨大都市。
都市、ひいてはダンジョンを管理する『ギルド』を中核として栄えるこの都市はヒューマンを含め、多くの
学については正直一定以上の物を持っている僕でも、あまり都市についてはよく知らず、その知識の殆どをダンジョンとその中身に取られてしまっている為、ここに
ダンジョンに潜り、生計を立てる人々をもっぱら『冒険者』と言われ、今の僕の職業でもある。
僕はオラリオの北の方角の奥から来た生粋の田舎民。 世間知らずと言ってもいい僕は少し前にこの地に、オラリオに英雄を目指してやって来た。
世間知らずと言っても、義母や伯父からオラリオについては山のように聞かされ、祖母からは如何に『美の女神』が厄介かを聞かされた。
毎日のように祖父に『ハ、ハーレムを目指せ!!』と言われ、その度に義母と祖母にぶっ飛ばされる祖父とそれに巻き込まれている伯父を見て、僕は日々『"は〜れむ?"は…止めとこ』と心の中で硬く誓っていた。
『英雄にならなくて良い。 だから、誰かに笑顔を与えられるような奴になれ』
義母の、そんな言葉が蘇る。だけど、あの日、黄昏の夕日に向かって僕は誓った。『英雄』になると。
『僕が“さいごの英雄”になる』
僕と義母──アルフィアお義母さん達の運命はあの日転じたのだと思う。
あの日から、死ぬ程キツかった筈の訓練も、勉強も、自然も苦痛ではなくなり、オラリオへの期待値だけが沢山膨らんでいっていた。
後悔などは一度もしなかった。 ただ、やっぱりあの頃の僕はまだ世界の広さを知らないガキだったのだと、よく思わされた。
物心がついた頃から、祖父や義母が読み聞かせてくれた英雄譚が大好きだった。 怪物を倒し、人々を救い、囚われのお姫様を助け出す、最高に格好良い英雄達に僕もなりたいと、当時の僕は本気でそう思っていた。
そしてそんな時にお祖父ちゃんが、お義母さんやお祖母ちゃんに隠れてそっと教えてくれた。
そこからは早かった。 英雄達の冒険譚に憧れる傍ら、異性との出会いに熱意を燃やし、お祖父ちゃんから夜な夜な『男のろまん?』を教えもらった。
『ま…、待つのじゃ、アルフィア、ヘラ!?』
『チッ、ベルの教育を害にしかならん屑め。 貴様がベルに気に入られていなければ即刻天界に送還していたところだ』
『あ・な・た・ベルに何を教えてるのかしら〜? ほんっとうに貴方は、救えないわね〜』
『あ…ちょ、待って。 待ってくれ、あ…待ってください?! ちょ…マジで天界に送k───ぐふっ?!』
そこから、お祖父ちゃんが帰ってくるのに3日かかっていた。 そして、何故か理不尽に伯父と飛ばされ、祖父は皆にフルボッコの刑に処されていた。
あの日の恐怖を…僕は忘れられない、家の端っこにて身を縮め、さしずめ野うさぎのようにビクビクしたあの日の恐怖を…僕はきっと墓に入っても忘れない。
その日から、僕は『は〜れむ?』への興味を捨て去った。 だって、命より大事な物なんてこの世にはないんだから!!
そうして、『男のろまん?』と言う夢は儚く潰え、もう一つの情熱はお前の意思だと言わんばかりに膨れ上がっていた。
祖父に
英雄になりたい、英雄達の繰り広げたような冒険の舞台に身を置けば、オラリオに行けば、冒険者になれば、ダンジョン潜れば。
英雄譚に出てくる、運命の出会いと言う奴に巡り会えるのかもしれない。
彼等の後押しと、あの日の誓いが後押しとなり、そこそこの援助─伯父さんのノームの貸金庫─を受け取り、僕はオラリオへと来た。
伯父さんの貸金庫だけでもかなりの額であり、それ以外にも深層のドロップ品などなど…僕の手にら余る物ばかりだ。
信用できる鍛冶師と出会って、自分の技量に見合った時、使え。と、そう言われた。
最初そこビビリまくりで、ダンジョン内はどれ程怖いのかと身構えていたものの、そこに居るモンスター達の脆弱性に一気に毒気を抜かれ、そのせいで調子に乗りすぎて最初の頃は生傷が絶えなかった。
当時と何も変わらず、世界を救う、最後の英雄になる為に、っと言う僕の目標と…
格好良く誰かを救い、その人だけの騎士みたいな、レオンさんみたいな人にもなりたい!
騎士のように、その人だけを守る剣となり、その人だけの英雄になる。 そんな、身を焦がすような熱い幻想を抱き、僕は都市を駆けた。
お気に入り登録やコメントをしてくれるとモチベに繋がるので是非お願いします!評価もしてくれると嬉しいです、コメントでのアドバイスも待っています!
それでは次回まで楽しみに待っていて下さい!