最強と最恐の系譜は雷霆の申し子です   作:道化の作家

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 今作のベルにアルフィアやザルドの魔法が発現する案を考えていたのですが、んまあそうするとリヴェリア辺りが発狂して卒倒しちゃうんでね、やっぱり止めました。
 あと、今作のベルは精神疲弊(マインドダウン)になっても根性で普通に戦います。まあ、そんな事よりもアルフィアの魔法のほうが何倍もキツかったしね!



第二話 流石は“じゃが丸君”を司る神様!!

 

 様々な種族が行き交う大通りを縫うように駆けていく。

 

 ドワーフ、ノーム、獣人、パルゥム……市民の佇まいをした人達も居れば、物騒な装備に身を包む人達も居る。

 

 ヒューマンの田舎で育った僕にとって、此処は全てが新鮮で色鮮やかだった。

 

 この人混みの波だけでも、幾ら見続けようと飽きることはないだろう。

 喧しいと思えるほどの喧騒が妙に心を沸き立たせる。

 

 

 メインストリートを出ていかにもというような細い裏通りを通り、幾度もの角を曲がる。

 背中に届いていたざわめきが途絶えた頃、僕は袋小路に辿り着いた。

 

「………ただいま、お母さん」

 

 目の前の廃教会を仰ぐ。

 人気のない路地裏深くに建っているのは、寂れた教会だった。

 神を崇めるために築かれたその二階建ては崩れかけていると言っていい。

 

 ところどころ石材が砕け剥がれ落ちた外見からは途方もない年月と、人々から忘れ去られた哀愁が漂っている。

 それと同時に、僕はこの“静寂”をかなり好ましく思ってもいる。

 此処は実の母が愛した場所であり、その姉であり僕の義母が愛した場所でもある。

 唯一、オラリオで母親との繋がりを感じさせてくれる場所。

 最初は、ここが僕と神様の本拠だと知った時、運命だとしか思えなかった。 それ程の衝撃と喜び、その二つが僕の中で渦巻いた。

 

 正面玄関上、全身ボロボロにして顔半分も失ってしまっている女神像を一瞥し、僕はゆっくりと両手開きのドアを開ける。

 

「よっ、と」

 

 一応、正直気配は全くないから大丈夫だとは思うけど、再度辺りを確認してから教会へと入った。

 屋内は外見に負けず劣らずのオンボロ具合。 割れたタイルからは草が生い茂り、頭上の天井部分は大部分が崩れ落ち、ごっそりと無くなっていた。

 

 いつか修繕したいとは思うものの、多分アルフィアお義母さんはそんな事望んでないしなぁ。

 

 屋根の開いたその大部分から日光が差し込み、かろうじて原形を留めている祭壇を温かく照らしている。

 

 廃墟と言われても反論できない教会内を僕は慣れた足取りで突っ切り、祭壇の先にある小部屋へと身を進める。

 薄暗い部屋には書物の収まってない本棚が連なっており、一番奥の棚の裏には……地下へと伸びる階段。

 

 そこまで深さのない階段を下りきった僕は、ぼうっと小窓から光が漏れる、目の前のドアを開け放った。

 

「神様、帰ってきましたー!」

 

 声を張り上げて足を踏み入れると、広がるのは地下室という響きとはかけ離れた生活臭のする小部屋だった。人が暮らしていく分には、まぁそれなりの広さ。

 

 僕が呼びかけた人は部屋に入ってすぐにある、紫色のソファーの上に寝転がっていた。仰向けの姿勢で開いた本を見上げていた彼女は、ばっと起きて立ち上がる。

 

 外見だけ見れば幼女……と少女の境界線を揺れ動いているような感じ。僕より身長は低くて、他人には『歳の近い妹』で十分に通用する。

 

 幼い顔に笑みを浮かべるその女の子は、トトトトと音を立てて僕の目の前までやって来た。

 

「やぁやぁお帰りー。今日はいつもより早かったね?」

 

「はい、ダンジョンで異常事態(イレギュラー)に巻き込まれまして…」

 

「おいおい、大丈夫かい? 君に死なれたらボクはかなりショックだよ。(がら)にもなく悲しんでしまうかもしれない」

 

 小さい両手が忙しなくパタパタと僕の体に触れて、怪我はないか確かめてくる。

 

 その気づかいと告げられた言葉に僕は嬉しくなり、頰を染めて照れてしまった。

 そして僕は優しく微笑み、神様の愛情に対してしっかりと言葉で返す。

 

「大丈夫です。神様を路頭に迷わせることはしませんから」

 

「あっ、言ったなー? なら大船に乗ったつもりでいるから、覚悟しておいてくれよ?」

 

「なんか変な言い方ですね……」

 

 二人して笑みを漏らし、部屋の奥に進んだ。

 

 部屋の中は正方形と長方形をくっつけた、ちょうど「P」の字のような形。正方形の部分にあたる出入り口前で、置いてある二つのソファーに僕と神様はそれぞれ座る。

 

 正対する女の子は、紛れもなく美少女だ。艶のある漆黒の髪が耳を隠すほど伸びていて、更に横からはツインテールが作られ腰まで届いている。

 髪を結わえているリボンには銀色の鐘。丸い顔と丸い頰は幼い容貌を形作り、そのせいもあってか、服の上からでもわかるくらい豊かに成熟している胸元にはつい目を引き寄せられてしまう。

 

 円らな瞳には透き通るような青みがかかっていて、その整い過ぎた容姿の中でも幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 

 将来は絶世の美女を約束されているようなものだけど、彼女が今の姿から成長することはありえない。

 

 神様、と僕が呼んだように、この人は『神』だ。

 

 ヒューマンや亜人(デミ・ヒューマン)、ダンジョンに出現する怪物(モンスター)達とも異なる、一つ次元が違った超越存在(デウスデア)。僕達のように歳はとらないし姿も変わらない。人知を超えてしまっていて、僕の憧れる英雄達よりスゴイ御方(おかた)

 

 …おかしい、僕のお祖父ちゃんは『大神』と呼ばれる、神々のなかでも頂点に君臨する『天神峰(オリンポス)十二神』に名を連ねていた筈なのに…神様の方が威厳がある…。

 

「それじゃあ、今日の君の稼ぎはあまり見込めないのかな?」

 

「いえ、イレギュラーのお陰で中層のモンスターの魔石が手に入ったので。 神様の方は?」

 

「ふっふーんっ、これを見るんだ! デデン!」

 

「そ、それは!?」

 

「露店の売上げに貢献したということで、大量のジャガ丸くんを頂戴したんだ! 夕飯はパーティーだ! ふふっ、ベル君、今夜は君を寝かせないぜ?」

 

「神様すごい! よっ!流石、“じゃが丸君”を司る神様!!」

 

「ん?」

 

 そんなスゴイ御方は、ヒューマンのお店で普通にアルバイトをしてしまっているわけだけど。

 

 勿論、お金を稼いで明日を生き抜くためだ…ではなく、神様が個人的にした借金を返す為。

 

 ──遠い昔、『神様達』は僕達が暮らすこの世界……彼等からすると『下界』にあたるこの地へと降り立った。

 お伽噺とか一杯あるけど、目の前の神様の言葉だと要は、「天界は退屈で仕方がなかった」らしい。

 

 僕達が一般的に思い浮かべるような楽園、『天界』にて、無限の時をダラダラと過ごす毎日に飽き飽きしてしまった沢山の神様達は、様々な無駄を(こしら)えながら文化や営みを育む『子供達』──下界に住む僕達のことだ──に娯楽を見出したという。

 

『子供達と同じ地位かつ同じ能力で、彼等の視点に立つ』

 

 完璧の存在であるが故に不完全、無駄だらけの僕等とこの世界に興味を持ったのだ。

 

 結果的に下界は神様達を大いに興奮させた。全く思うようにいかない事象、食事や趣味や芸術等で満たされる欲求、親交という名の不特定多数の繫がり。

 

 ──笑えた、らしい。

 

 神様達にはまるでゲームでもやっているような感覚らしいけれど、予断を許さないこの一時が楽しくて楽しくて仕方がないのだと。

 

 ほどなくして神様達はこの下界に住みついた。多くの神様達が永住することを決めたらしい。

 

 下界の先住者である僕達のご先祖様はそれを拒める筈もなく、いやむしろ『恩恵』を授けてくれる存在として神様達を重宝したそうだ。言い方はあれだけど、利用して利用される関係? 現代の仕組みはその関係が如実に表れている。

 

 子供達の中に紛れて、僕達が互いにそうするように日々を助け合い、生きていく。

 

 不自由とは無縁の生活を捨てて、神様達は不便極まるこの世界にのめり込んでいったのだ。

 

「いやぁ、それにしても……マスコットキャラとして道行く人はみんな可愛がってくれるけど、ボクの【ファミリア】に加わりたいという子は相も変わらず皆無だよ。全く、ボクの名のヘスティアが無名だからって、みんな現金だよねえ」

 

「うーん、どの【ファミリア】も授かる『恩恵』は一緒なんですけどね……」

 

 そう、目の前の神様の名前は『ヘスティア』。僕達と同じように神様達にも呼称が決まっているらしい。

 

神の眷族(ファミリア)】とはつまり、その神様による派閥。

 【ロキ・ファミリア】だったら【神()()の眷族】という意味で、【ヘスティア・ファミリア】だったら【神()()()()()の眷族】。ロキ派とかヘスティア派とか、~派と呼ぶ人達もいる。

 

 【ファミリア】に加わるということは、僕の感覚から言っちゃえば、神様の家族になるということと同じだと思う。

 …まあ、叔父さん曰く───

 

『“ファミリアは一蓮托生の血の契り?”そんな物は知らん!! あんなヒステリック女共の相手をしなきゃなんねぇんなんて…はぁ〜、今思い出すだけでも胃に穴が空きそうだぜ』

 

 どうやら、ファミリアもいい事だらけと言うわけではなかった。

 

 神様達も下界で僕達と同じように生きていくと決めた以上──神様達の間で万能である『神の力』を下界で使ってはいけないというルールが取り決められたらしい──、衣食住は勿論、お金も必要になってくる。

 

 働くことが好きっていう神様もいるらしいけど、やっぱり楽しいことだけを享受したいっていう方達は断然多い。そんな神様達は自分達が好き勝手なことをするために、僕達下界の者の力を借りることにしたのだ。

 

神の眷族(ファミリア)】に加わることで下界の者は『恩恵』を授かる。

 

 神様はそんな彼等に色々お願いしたり、お金を稼いできてもらったりする。

 

 つまり、身も蓋もない言い方だけど、神様は【ファミリア】の構成員に養ってもらうということだ。

 

 けれど僕達にとっても『恩恵』のご利益は無視できないものがあって、一度授かってしまえば、どんな人でも下等のモンスターなら撃退できるようになってしまう。

 

与える代わりに寄越せ(ギブ・アンド・テイク)』だと、目の前のヘスティア様はそんなことを言っていた。

 

 

「はぁ、ベル君一人に負担をかけるのは、ボクとしては心苦しいんだけど……」

 

「まぁ、仕方ないですよ。 それに、他の人には言えないような秘密もありますしねぇ〜」

 

 多くの構成員を抱える大きな【ファミリア】があれば、当然、僕達のようないわゆる矮小な【ファミリア】もある。

 

 こうなってくると神様も四の五の言ってられなくて……この神様のように──神様は自分で借りを作って、自分で返しているため少し違う──働かなければいけなくなる。大好物の娯楽を嚙み締める暇もなく、単純に生きるために。

 

 その気になれば何だってできるのに、あくまで下界の枠組みの中にとどまろうとする神様達に、僕は思わず笑みとともに親近感を抱いてしまう。

 

 いやまぁ、中には【ファミリア】を操って意のままの王国を作っちゃう──というより【ファミリア】自体を王国にする──神様もいるんだけど。……王国経営ゲーム、なのだそうだ。

 

 しかしそれも、人の手で運営されて人の手で築き上げられていくものだから、神様達のルールには反していないらしい。神様が下界を好きなように弄くっているなんて陰口叩く人もいるけど、それでもそれは、王族を名乗る一部の下界の者達が望んでいたことでもある。

 

 神様は人の織りなす出来事と経過をニヤニヤと見守っているけど、結局、彼等の力は人の促進剤としての域を出ないのだ。

 

「……ごめんねぇ、こんなヘッポコな神と契約させちゃって」

 

「か、神様ぁ……別にそんな事は…。 それにッ!お祖父ちゃんよりは遥かにマシですよ!!」

 

「──ベル君ッ!! あいつに教わった事は一切合切忘れるんだ! いいね?」

 

「え…?」

 

「い・い・ね・?」

 

「…あ、はい」

 

 思いっきり机を叩き、神様は僕に向かって強く言う。

 その熱量に押され、僕は思わず“シュン”としながら神様の問いに肯定で返す。

 

 田舎から出て冒険者になろうとしていた僕は、ちょうど【ファミリア】の構成員を探しに街を回っていたヘスティア様と出会った。

 

 有名な【ファミリア】は人員も豊富で基本的に飽和しているところが多い。中小規模の【ファミリア】だって頼りなさそうな田舎臭さ丸出しの輩より、多少なりとも戦闘や専門職に心得がある人材を優先させる。“んまあ僕の場合は一からファミリアを発足して大きくしろ”という命題があった為、神様が未だ眷族がいないと聞いた時は藁にも縋る気持ちで飛びついたものだ。

 

 どうやら神様はそれに負い目を感じているようだった。

こう、世間知らずの子羊ちゃんを見事に引っかけちゃったぜ、みたいな…今回の場合は自分から引っかかりにいっているようなものだが。

 まあ、僕個人としては『恩恵』を授けてくれる独り身の神であれば正直なところ誰でもよかった。

 

 ヘスティア様は比較的最近に天界から降りてきて、僕に会うまでは友人の神様の【ファミリア】でお世話になっていたと、そう教えてくれた。多くの神様達と同様に、家でゴロゴロ転がりながら大好きな下界産の本を読み耽るという自堕落な生活を送っていたところ、勤勉なご友人の逆鱗に触れて追い出されたそうな。

 母を感じる教会の地下に設けられたこの部屋は、そのご友人の神様が贈ってくださった最後のお情けらしい。

 僕は若干運命を感じ、その日は少しだけ涙脆くなっていた。

 

 でも実際、神様達の『恩恵』の本質には差がない。これは事実。

 『恩恵』を授かる誰もが、最初は同じ出発点からスタートすることになる。そこからどう発展していくかはその人次第。

 お義母さん達も言っていた、“冒険者は『恩恵(ステイタス)』に振り回される奴が多い”。

 

 僕も冒険者になり、『恩恵』を授かってようやく理解した。

 この力は万能だ、強くなるために鍛錬すればする程強くなり、その強化率は恩恵を持たなかった頃とは別格だった。

 だからこそ、僕はここに来る前に死ぬ程キツい鍛錬を超え続けた。

 今思えば、ん? あれワンチャン偉業判定になるくね?と思うことも少なくなく、僕がいかにイカれた鍛錬を積んでいたのかは…オラリオに来て少しした頃に理解した。

 

「さぁ! それじゃあボク等の未来の為に! 今日のステイタス更新をしていこうじゃないか!」

 

「はい、神様」

 

  神様も足を振ってソファーから立ち上がった。少女の体にはありえない胸の膨らみが、たゆんっと揺れる。僕はぴくりと笑みを引きつらせたまま、そっと目を逸らした。情けない意味で、僕にとって目に毒だ。

 

 他の神様達からは『ロリ巨乳』と言われ馬鹿にされているらしい。ロリってなんだ。

 

「じゃあ、いつものように服を脱いで寝っ転がって~」

 

「わかりました」

 

 部屋の奥にあるベッドへ向かい、冒険者用のライトアーマーを外してインナーも脱ぐ。上半身を包むものが一切無くなったところで、僕はちらと後ろを振り返った。

 

 壁に取りつけられた姿見。そこに映るのは、老人のような白髪と少し色素の薄い肌を持つ僕の後ろ姿で、特筆すべきは背中にびっしりと刻まれた黒の文字群だ。

 

 これ全部、ヘスティア様が僕に刻み込んだもので、これこそが神様達の『恩恵』──『神の恩恵(ファルナ)』。

 

「はいはい、寝た寝た」

 

 神様に促されるままベッドに体を沈める。

 

 うつ伏せでいると神様はぴょんっと飛び乗り、僕のお尻の辺りに座り込んだ。

 

「そう言えば、今日はやけに稼ぎが多くないかい? まさか、また無理をしたんじゃないだろうね!」

 

「ちょっと長くなるんですけど……」

 

 口を動かしている間、神様は僕の背中を撫でた。一回、二回、と何度も同じ箇所を往復して肌を労わるように。ぞくり、とする。

 やがてチャリという金属の音が鳴った。神様が針を取り出したのだ。

 首を僅かにひねって見上げると、神様はご自身の指先に針を刺し、滲み出るその血を、そっと僕の背へと滴り落とす。

 皮膚に落下した赤い滴は比喩抜きで波紋を広げ、僕の背中へと染み込んでいく。

 

 

「なるほど…それでそのヴァレン某君に惚れてしまったと…、君も中々隅に置けないなぁ〜。だが駄目だ!君を誰かに渡す理由にはいかない!!」

 

「…んッ?! か…神様!! 何か勘違いしてませんか?!(あと…その言葉をお義母さんが聞いたら…エライことになる気が…うぅ?!“福音拳骨(ゴスペル・パンチ)”の予感が!!)」

 

「いやいや、だってさ、そんな迷宮(ダンジョン)内で突然声をかけられて、あまつさえ手を握られたんだぜ! そりゃあもう脈ありだよ!! ぐぬぬ──だから気をつけるべきだぜ!君はこう、なんというか、騙しやすそうというか、兎っぽいからね」

 

「あの…そもそもあれは僕が逃げないように…っていう意味だと思いますけど…。 というか兎っぽいってなんですか、兎っぽいって」

 

 神様は血を落とした場所を中心に指でなぞり始め、左端からゆっくりと刻印を施していった。

 

 今、僕の背中に刻まれているのが【ステイタス】──『神の恩恵(ファルナ)』。

 

 神様達が扱う【神聖文字(ヒエログリフ)】を、神血(イコル)を媒介にして刻むことで対象の能力を引き上げる、神様達のみに許された力。

 

経験値(エクセリア)】というものがある。様々な出来事を通して得られる、文字通り経験した事象だ。

 

 当然不可視で、下界の者達には手にとって利用できる代物じゃない。言わば自己の歩んできた歴史なのだから。神様達はその歴史に埋もれている、例えば『モンスターを倒した』という一つの軌跡を引き抜いて、成長の糧へと変える。

 

 なし遂げたことの質と量の値、【経験値(エクセリア)】。

 神様にはそれが見えて、更に料理することができるのだ。敵に打ち勝った偉業を称えて祝福する、っていう古代の仕来りに似ているのかもしれない。

 背中の【神聖文字(ヒエログリフ)】を塗り替え付け足し、ランクアップ、能力向上。

 この力によって神様達は下界の者達に持ち上げられる。

 

 …じゃあ、僕があの人達にボコられた軌跡も…【経験値(エクセリア)】に変えてくれないかな…と僕は【ステイタス】を更新される度に思う。

 

「んまあ、そもそも他派閥の子となんて付き合えっこないんだけどね……。 ごめんよベル君、こんな駄目駄目の神様で」

 

「いえいえ、神様は全く悪くないですよ。 そもそもお祖父ちゃんとは全然違いますしね!」

 

「…彼奴と比べられるのは本当に(しゃく)でしかないけどね」

 

 大抵、【ファミリア】に加入している者は、同じ【ファミリア】内かあるいは無所属の異性と結婚する。別の【ファミリア】の相手と結婚して子供ができると、じゃあその子供はどちらの所属になるの? という話になってしまうからだ。

 これは一例でそれだけが全てじゃないけど、とにかく別の派閥と深い繫がりを持つということは弊害が生まれやすい。規律のためにも神様達は【ファミリア】の管理だけは厳しかった。

 …お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの派閥は抜いて、一応僕は【ゼウス・ファミリア】に所属していることになるが…んまあお義母さん達の意向で【神の恩恵(ファルナ)】は刻まれてないし、まあ刻まれていたら今頃あそこで僕は毎日のようにフルボッコの刑だろうしね。

 

 

 また、神様同士の仲が悪ければ、相手の【ファミリア】はそれだけで敵対関係に当たる。構成員は不用意に【ファミリア】を危険に晒すわけにはいかないのだ。

 

 

 神様は準備した用紙に更新した【ステイタス】を書き写していた。僕は一応、お祖母ちゃんにお義母さんに【神聖文字(ヒエログリフ)】を叩き込まれた───脳みそに直接───ので、神様はそのまま用紙に【ステイタス】を写して渡してくれた。

 

 そして、【神聖文字(ヒエログリフ)】自体が暗号となり、【ステイタス】の漏洩を防いでくれる。 これが読めるのは僕と同じく神に直接教わるか、もしくは『学区』のような特殊な学術機関の専攻で学ぶ他に手段はない。

 読める人の絶対数が圧倒的に少ないが故に、これこそが最も強固な防衛方法だろう。まあ、結局最後はこの用紙を蝋燭の火に付けて燃やすんだけどね。

 

「ほら、これが君の新しい【ステイタス】だ」

 

 どうも、と差し出された用紙を手に取る。僕はそれに視線を落とした。

 

 

 

【ベル・クラネル】

 『LV.1』

≪基本アビリティ≫

 力:B761→A821

耐久:B711→B719

器用:S913→S977

敏捷:S997→SS1001

魔力:A899

≪発展アビリティ≫

≪魔法≫

【ケラウノス】

付与魔法(エンチャント)

・雷霆属性。

詠唱式:【目覚めろ(テンペスト)

≪スキル≫

雷霆血統(ゼウス・ブラッド)

・雷霆付与時、全アビリティ能力高域補正。

・雷霆付与時、『敏捷』のアビリティ高域強化。

 

 

 

 これが僕の背中に記されている【ステイタス】の概要だ。

 

 基本アビリティ──『(ちから)』『耐久(たいきゅう)』『器用(きよう)』『敏捷(びんしょう)』『魔力(まりょく)』の諸項目──は五つで、更にSからA、B、C、D、E、F、G、H、Iの十段階で能力の高低が示される。この段階が高ければ高いほど僕達の能力は強化される。

 Iに隣接する数字は熟練度。0~99がI、100~199がH、という風に基本アビリティの能力段階と連動している。ちなみに999が上限値。その分野の能力を酷使すればするほど熟練度は上昇するけど、最大値の999──アビリティ評価Sに近付くにつれ伸びは悪くなっていくらしい。

 

 

 僕の【ステイタス】の伸びは異常だ。

 神様には──「成長期だよ」などと言われたが、流石にそれはないと断言できる。

 神様が考えた上で、僕は知る必要のないスキル。

 だったら知らなくても良いか、知ったら逆に良くない…なんてこともあるかも知れないしね。

 

 

「今回は魔法を使わなかったのかい?」

 

「はい、あまり魔法に頼った戦い方になるのは嫌なので」

 

 はっきり言って、魔法に頼った戦い方になると普通に格下にも負ける恐れがある。 なので、しばらくの間は魔法を使わずに自分の力のみで戦ったほうがよい。と、もし此処にお義母さんがいたらそう言うだろう。

 

 

「君ぐらいだろうね、そんなに慎重にダンジョン内で特訓するのは」

 

「…はい、“冒険者は『恩恵(ステイタス)』に振り回される奴が多い”とお義母さんが教えてくれたので…。 だから、なるべく慢心せず、自分の力だけで戦いたいんですよね、そのほうがアビリティも上がりますし」

 

「一体どんな()()()()なんだい?君のは」

 

 ステイタスの中でも『LV.』これは一番重要ではある。 これが一つ上がるだけで基本アビリティ補正以上の強化が執行される。心身の進化と言っても決して大仰ではないのだそうだ。現に『Lv.1』と『Lv.2』の間には途方もない力の差が生まれることになる。 だけど、それらを埋め合わせるのが『技』と『駆け引き』だ、そのおかげで僕は『LV.2』相当のミノタウロスを数体撃破することが出来た。

 

 『LV.』はものすごく大事、だけどそれ以上にそれらに過信してはならず、【ステイタス】に頼らない自力の力こそが人を進化させる。っとアルフィアお義母さんは言っていた、でもあの人が修行しているところなんて一度しか見たことないし、というかそもそもあの人に出来ないことがあるなら、それは総じて僕にも出来るわけがない。

 

 

 更新された【ステイタス】をあらかた確認した僕は、壁に設置されてある時計を見上げ、それから神様の方に振り向いた。

 

「じゃあ、神様。もう夕飯の支度しましょうか? ジャガ丸くんパーティーでも、流石にそれだけじゃあ物足りないですよね?」

 

「うん、ベル君に任せるよ。 ベル君のご飯はとても美味しいからね!!」

 

「はーい。そう言ってくれると、僕に料理を教えてくれたおじさんも喜びますね」

 

 にこっと笑う神様に背を向けてキッチンへ歩む。 おじさんに習った料理だから、毎日かなり美味しいご飯を作れている。

 数少ない僕がお義母さんに勝っているもの。料理、ことお菓子作りに置いてはおじさんをも超える…まあ僕は甘い物苦手だから食べられないけどね。

 

 

………

……

 

 

 暗闇の中、蝋燭の僅かな緋色の明かりに照らされ、静謐さを纏う少年は安らかに静かな寝息を立ててソファーの上で寝ていた。

 その寝息は心配になるほどに静かで、だが呼吸の度にその胸部が上下し、生きていることをありありと証明する。

 

 本当に、こういう所は年相応なんだな、とヘスティアは

ベルの寝姿を見て考えにふけった。

 

「やっぱり…このスキルは異常だね」

 

 

 

英雄追想(メモリア・フレーゼ)

・早熟する。

・全発展アビリティの習熟が早まる。

・想いが続く限り効果持続。

・想いの丈にて効果上昇。

 

 

 

「“メモリア・フレーゼ”【英雄追想】…か」

 

 追想、つまり過去の憧憬…ってことで良いのかな? でも一体誰が…彼にとっての英雄って事でいいんだよね?

 

「(未確認のスキル……、成長増進に加えて『発展アビリティ』まで…、恐らく、下界でも発現したのはベル君ぐらいだろうね)」

 

 未確認のスキル、その上異常なまでの成長力。

 ベル君自身の素の才能…いや、努力に加えてこのスキル効果、やっぱり危険だし…教えてしまったら…恐らく悪影響を及ぼす。

 最悪、スキル自体の効果を失う…なんてこともあるかも知れない。

 

「フフ、この子にそんなに思われているなんて…一体どれ程の英雄なんだろうね」

 

 ヘスティアは心の声をそのまま言葉に出してしまった。

 

 こんな優しい子に、真っ白で、純朴そうな子供に、思われる下界の子供達が居るなんて…羨ましいし、嬉しい気持ちもある。

 

 そうしてヘスティアは、静謐さを纏う少年に覆い被さるように身を委ね、そのまま寝息を立てた。

 

 その日の夜、少年は何か途轍もないものに押し潰される夢を見たとさ……目出度し、目出度し。





 あぁ、そう言えばザルドの耐久が“S”に達してるのとランクアップ時に発現したのが『堅守』なのは毎日アルフィアの“福音拳骨(ゴスペルパンチ)”からベルを守ってたからです。
 体力も際限なく回復し続ける、まあ片足くらいは強靭な勇士(エインヘリアル)みたいなもん。

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 それでは次回まで楽しみに待っていて下さい!
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