下界の飯は悪くない   作:ボヤージュ500億

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ソマーズの笑い方ってギハハ?
キリンガムの喋り方何が正解かあ───っわかんねえよ


神の騎士団

「メフェリア宮。そろそろお時間です」

 

「まだ大丈夫」

 

朝。

 

マリージョアにあるトップマン家の屋敷。

 

メフェリアは食堂の椅子に座り、焼き菓子を食べていた。

 

朝食そのものは、とっくに終わっている。

 

残っているのは食後に用意された菓子と紅茶だけ。

 

「本日は神の騎士団の招集があると伺っておりますが」

 

「あるよ」

 

「でしたら、そろそろご出発された方がよろしいかと」

 

メフェリアは時計を見る。

 

まだ余裕はある。

 

少なくとも本人はそう思っている。

 

「パンゲア城まで近いから」

 

「ですが――」

 

「遅れないよ」

 

最後の一つを口へ入れる。

 

紅茶を飲み干した。

 

「ごちそうさま」

 

ようやく席を立つ。

 

いつもの神の騎士団としての装い。

 

腰には細身のレイピア。

 

「行ってくる」

 

「いってらっしゃいませ、メフェリア宮」

 

「うん」

 

屋敷を出る。

 

昨日、シャムロックから告げられた神の騎士団の招集。

 

現在マリージョアにいる団員が集められる。

 

何のためなのか聞いたが、シャムロックは教えてくれなかった。

 

「…………」

 

少し気になる。

 

久しぶりに顔を見る者もいる。

 

メフェリアはパンゲア城へ向かった。

 

 

パンゲア城。

 

神の騎士団本部。

 

メフェリアが扉を開ける。

 

すでに何人か来ていた。

 

普段は世界各地へ散っている神の騎士団。

 

同じ場所に何人もの団員が集まることは、それほど多くない。

 

メフェリアが中へ入る。

 

「遅い」

 

声がした。

 

軍子だった。

 

すでに席についている。

 

「まだ時間前だよ」

 

「知っている」

 

「じゃあ遅くない」

 

軍子が時計を見る。

 

「私より遅い」

 

「軍子が早いんじゃない?」

 

「そうとも言う」

 

「認めるんだ」

 

「事実だからな」

 

軍子はそれ以上何も言わず、視線を戻した。

 

メフェリアも特に気にしない。

 

「おー」

 

今度は別の方向から声が飛んでくる。

 

「帰ってたのか、メフェリア」

 

ソマーズだった。

 

椅子に深く腰掛けている。

 

「ソマーズ」

 

「久しぶりだなァ」

 

「うん。久しぶり」

 

「東の海だったか?」

 

「そう」

 

「随分長かったじゃねェか」

 

「遠かったから」

 

「そりゃ東の海だからな」

 

ソマーズが笑う。

 

「で? どうだったよ」

 

「何が?」

 

「東の海だよ」

 

「普通」

 

「くはは! 他にねェのかよ」

 

メフェリアは少し考えた。

 

「ミルクプリンが美味しかった」

 

「そっちかよ」

 

「ベルネ島の」

 

「島まで覚えてんのか」

 

「美味しかったから」

 

「任務より覚えてんじゃねェだろうな?」

 

「任務も覚えてるよ」

 

「当たり前だろ」

 

ソマーズが笑う。

 

すると。

 

「そのミルクプリンってのは、そんなにうめェのか?」

 

別の声が入った。

 

メフェリアがそちらを見る。

 

キリンガムだった。

 

「キリンガム」

 

「久しぶりだな、メフェリア」

 

「久しぶり」

 

「で、どうなんだ?」

 

「美味しいよ」

 

「へェ」

 

キリンガムが少し興味を示す。

 

「食ってみてェな」

 

「ベルネ島に行けばあるよ」

 

「東の海まで行けって?」

 

「うん」

 

「遠すぎるだろ」

 

「私もそう思う」

 

「お前は行ってきたじゃねェか」

 

「任務だったから」

 

「なら今度は持って帰ってこいよ」

 

「もう帰ってきちゃった」

 

「遅ェよ」

 

「仕方ないでしょ。キリンガムが食べたいって知らなかったもん」

 

「それもそうか」

 

「納得すんのかよ」

 

ソマーズが横から口を挟む。

 

キリンガムがそちらを見る。

 

「何だよ」

 

「いや、お前らの話聞いてると妙に力抜けんだよ」

 

「なら聞かなきゃいいだろ」

 

「同じ部屋にいりゃ聞こえんだろうが」

 

「じゃあ仕方ねェな」

 

「くはは! 何だそりゃ」

 

ソマーズが笑う。

 

軍子が少しだけ顔を上げた。

 

「そこまで美味いのか?」

 

メフェリアが軍子を見る。

 

「食べたい?」

 

「興味がある」

 

「じゃあ食べたいんだ」

 

「そうは言っていない」

 

「同じだろ」

 

ソマーズが言う。

 

軍子がそちらを見る。

 

「違う」

 

「何が違うんだよ」

 

「興味を持つことと、欲しがることは別だ」

 

「細けェなァ」

 

「貴様が雑なんだ」

 

キリンガムが口を挟む。

 

「別に食いたいなら食いたいでいいじゃねェか」

 

「私はまだ食べたいとは言っていない」

 

「じゃあいらねェのか?」

 

「…………」

 

軍子が一瞬黙る。

 

メフェリアが見る。

 

ソマーズも見る。

 

キリンガムも見る。

 

「……あれば食べる」

 

「食べたいんじゃねェか」

 

ソマーズが笑う。

 

「うるさい」

 

軍子が淡々と返した。

 

メフェリアは少し笑う。

 

「今度あったら持ってくるよ」

 

「そうか」

 

軍子は一拍置く。

 

「なら貰おう」

 

「俺のもな」

 

キリンガムが言う。

 

「分かった」

 

「俺も」

 

ソマーズが続く。

 

メフェリアはソマーズを見る。

 

「ソマーズは自分で買って」

 

「あァ!? 何で俺だけ!?」

 

「一番うるさいから」

 

「関係ねェだろ!」

 

キリンガムが笑う。

 

「自分で買えよ、ソマーズ」

 

「お前まで言うのかよ!」

 

「食いたいんだろ?」

 

「そりゃ食えるなら食いてェけどよ」

 

「じゃあ買え」

 

「何でお前らの分はメフェリアが持ってくんだよ!」

 

「知らない」

 

メフェリアが答えた。

 

「知らねェで決めてんのかよ」

 

軍子の口元がほんの僅かに緩む。

 

ソマーズがそれに気づいた。

 

「おい軍子。今笑っただろ」

 

「笑っていない」

 

「いや笑ったって」

 

「見間違いだ」

 

「俺ァちゃんと見て――」

 

「しつこいぞ」

 

「はいはい」

 

「二度言うな」

 

「そこ気にすんのかよ!」

 

今度はキリンガムも少し笑った。

 

メフェリアは空いている席へ座る。

 

「そういや」

 

ソマーズがメフェリアを見る。

 

「任務の方はどうだったんだよ」

 

「終わったよ」

 

「だから、それは知ってるって」

 

「じゃあ何?」

 

「何かあったんだろ? 東の海で」

 

「密輸組織がいた」

 

「へェ」

 

「政府の物資を流してた」

 

ソマーズの表情が僅かに変わる。

 

キリンガムもメフェリアを見る。

 

「最初からそれを追ってたのか?」

 

「違うよ。途中で見つけた」

 

「それで長引いたってわけか」

 

「うん」

 

軍子が口を開く。

 

「政府内部にも協力者がいたと聞いた」

 

「いた」

 

「処理は?」

 

「昨日、サターン聖がもう拘束したって言ってた」

 

「なら問題ないな」

 

軍子は短く答えた。

 

キリンガムが少し眉を動かす。

 

「任務の途中でそんなの引き当てたのか。面倒だったろ」

 

「面倒だった」

 

「だろうな」

 

「船も長かった」

 

「そっちもまだ言うのかよ」

 

ソマーズが笑う。

 

「長いものは長いよ」

 

「そりゃそうだけどよ」

 

メフェリアがソマーズを見る。

 

「ソマーズはどこ行ってたの?」

 

「俺? 西の海」

 

「遠いね」

 

「お前、そればっかじゃねェか」

 

「遠いから」

 

「まあ、遠いけどよ」

 

キリンガムが言う。

 

「俺は北の海だったぞ」

 

「もっと遠い?」

 

「さァな。どっちも遠いだろ」

 

「船長かった?」

 

「ああ。暇で途中から寝てた」

 

「いいな」

 

「お前も寝りゃよかったじゃねェか」

 

「寝たよ」

 

「じゃあ何が不満なんだ?」

 

「起きてから暇だった」

 

「知らねェよ」

 

キリンガムが少し笑う。

 

ソマーズも笑った。

 

「そういや昨日、五老星んとこ行ってたんだろ?」

 

ソマーズが尋ねる。

 

「うん」

 

「報告か?」

 

「そう」

 

「何か言われたか?」

 

「ウォーキュリー聖に褒められた」

 

一瞬。

 

三人の反応が止まった。

 

「へェ」

 

キリンガムが先に声を出す。

 

「そりゃ珍しいな」

 

「やっぱり?」

 

「お前もそう思ってんだろ」

 

ソマーズが笑う。

 

「うん」

 

「何と言われた?」

 

軍子が尋ねた。

 

「トップマンの名に恥じない働きだったって」

 

「随分高く買われたじゃねェか」

 

キリンガムが言う。

 

「そのあと驕るなって言われた」

 

「ギハハハハ! そっちの方がらしいな!」

 

ソマーズが笑う。

 

メフェリアも頷く。

 

「私もそう思った」

 

軍子がメフェリアを見る。

 

「だが、評価されたことには変わりない」

 

「うん。嬉しかったよ」

 

「ならいい」

 

軍子はそれ以上何も言わなかった。

 

キリンガムが椅子へ背を預ける。

 

「次も同じくらい働けってことだろ」

 

「それも言われた」

 

「大変だな」

 

「うん」

 

「そこで同情すんのかよ」

 

ソマーズが言う。

 

「大変なもんは大変だろ」

 

「お前も働いてんだろうが」

 

「だから分かるんだよ」

 

「あァ、そういうことか」

 

「ソマーズは大変じゃないの?」

 

メフェリアが聞く。

 

「俺ァいつでも大変だよ」

 

「そうなんだ」

 

「もうちょい興味持てよ!」

 

その時だった。

 

部屋の扉が開いた。

 

それまでの雑談が止まる。

 

フィガーランド・シャムロック。

 

神の騎士団団長。

 

シャムロックは室内へ入り、集まった団員たちを見渡した。

 

「揃っているな」

 

メフェリアがシャムロックを見る。

 

「ちゃんと来たよ」

 

「見れば分かる」

 

「軍子に遅いって言われた」

 

「私より遅かっただけだ」

 

軍子が言う。

 

シャムロックが時計を見る。

 

「時間前だな」

 

「ほら」

 

「だから何だ」

 

「何でもない」

 

シャムロックは席につく。

 

「始めるぞ」

 

空気が切り替わる。

 

ソマーズもシャムロックを見る。

 

軍子も姿勢を正す。

 

キリンガムも先ほどまでの緩い表情を消した。

 

メフェリアも座り直す。

 

シャムロックが一枚の書類をテーブルへ置いた。

 

「今回集めたのは、今後の任務についてだ」

 

書類がそれぞれへ配られる。

 

メフェリアも受け取った。

 

東の海。

 

西の海。

 

北の海。

 

南の海。

 

偉大なる航路。

 

各地で発生した事件が並んでいる。

 

物資の横流し。

 

海賊との裏取引。

 

政府関係者の失踪。

 

加盟国内での扇動。

 

一つ一つを見れば、神の騎士団が直接動くほど大きなものではない。

 

軍子が書類を見る。

 

「これを我々が?」

 

「全てではない」

 

シャムロックが答える。

 

「問題は個々の事件ではない」

 

メフェリアが書類をめくる。

 

その手が止まった。

 

「これ」

 

見覚えがある。

 

東の海。

 

ゴア王国。

 

つい先日まで自分が追っていた密輸事件。

 

「私が調べてたやつ」

 

「ああ」

 

「まだ何かあるの?」

 

「昨日までに追加の調査を行った」

 

シャムロックが全員を見る。

 

「その結果、各地で発生している事件の一部に共通点が見つかった」

 

ソマーズが目を細める。

 

「裏で誰か動いてるってことか?」

 

「まだ断定はできん」

 

キリンガムが書類へ目を落としたまま言う。

 

「けど、偶然で片付けるには多すぎるってわけか」

 

「ああ」

 

シャムロックが頷く。

 

「そのため、しばらく一部の任務配置を変更する」

 

軍子が短く尋ねる。

 

「我々もか」

 

「そうだ」

 

メフェリアが顔を上げる。

 

「私も?」

 

「当然だ」

 

「また東の海?」

 

「まだ決めていない」

 

「近いところがいい」

 

「お前に選択権はない」

 

「知ってる。言ってみただけ」

 

ソマーズが笑う。

 

「北の海行ってこいよ。キリンガムが詳しくなってんだろ」

 

「俺を巻き込むなよ」

 

キリンガムが返す。

 

「いいじゃねェか。案内してやれよ」

 

「俺もまた行くのか?」

 

「二人で行けば退屈しねェだろ」

 

メフェリアがキリンガムを見る。

 

「行く?」

 

「嫌だよ。俺も帰ってきたばっかだ」

 

「だよね」

 

「意気投合してんじゃねェよ」

 

「ソマーズ」

 

シャムロックが低い声で呼ぶ。

 

「……何だよ」

 

「黙れ」

 

「へいへい」

 

シャムロックがメフェリアを見る。

 

「お前もだ」

 

「はい」

 

静かになる。

 

シャムロックは話を続けた。

 

「配置については、この後それぞれに伝える」

 

そして。

 

別の書類を取り出す。

 

「もう一つある」

 

メフェリアが顔を上げた。

 

「今回、お前たちを集めた本来の理由はこちらだ」

 

室内の空気が変わる。

 

軍子の表情から僅かな柔らかさが消える。

 

ソマーズも笑っていない。

 

キリンガムもシャムロックを見る。

 

「五老星から、神の騎士団へ直接命令が下った」

 

メフェリアの目が僅かに細くなる。

 

昨日。

 

五老星の前で正式な報告を行った時には、何も聞かされていない。

 

シャムロックが書類を開いた。

 

「内容を伝える」

 

今度は誰も口を挟まなかった。

 

メフェリアも黙って、その言葉を待った。

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