一番星と騎士王に憑かれてる子 作:とっとこ走れないハム之助
『起きてください、ソラナ。もう少しで目的地に着きますよ。』
『ダメだよ、アルトリアちゃん!!ソラくんがこんなすやすやと寝てるところは珍しいんだから、もう少し楽しま…寝かせてあげないと。』
女性特有のかん高い声が僕…
その影響で、ぼんやりとしていた僕の脳がだんだんと覚醒してきた。
「ふわぁ〜。」
身体をぐーっと伸ばすと、思ったよりも大きなあくびが出た。
寝起き特有のぜんぜん働かない頭を回して、僕は今がどういう状況なのかを考える。
『寝たら忘れてしまったのですか?少し抜けているところが、なんともソラナらしいですね。』
『ココは木曽さんの車の中だよ〜。もうすぐ撮影現場に着くから、さっそく雰囲気作っていこー。』
僕の守護霊と背後霊がどんな状況なのかを教えてくれた。
やっぱり現代人が持つべきものは、自分のことを理解してくれる優秀な守護霊と背後霊なんだろうね。
僕が右隣に目を向けると、そこにはプカプカと浮いている背後霊こと黒髪の美女…アイ。
左隣へと目を向けると、腰に剣を携えている守護霊こと金髪碧眼の美少女…アルトリア・ペンドラゴン。
ついでに言っておくと、この二人は僕以外には見えていない。
なぜって?
〇〇霊と言っている時点で分かるかもしれないけど、二人はすでに死んでいるからだ。
アイが故人になったのはだいたい十一年前。
アルトリアに関しては何百、何千年も前の時代である。
どうして彼女たちが現世に留まれているのかは分からない。
なにか未練があるのかもしれな「久しぶりにラーメンが食べたいなぁ…。」「ラーメンとは何ですか?なんとも美味しそうな響きですが。」───うん、未練はなさそうだね。
ついでに言っておくと、僕が二人のことを見える理由もまったくわからない。
「空那くん。着いたから、先に降りてもらえるかな?行き方が分かるんだったら、先に向かっちゃっても構わないよ。」
この車を運転している人…木曽さんからそう声をかけられた。
僕はその言葉に従って、撮影現場へと向かっていく。
「おっ!!こんにちわ、空那くん。今日も可愛いねぇ。」
そう誰かが声をあげると、それを皮切りにして次々と言葉を投げかけられた。
僕はアイの教育によって身体に刻み込まれた人当たりの良い笑顔を浮かべ、アルトリアに鍛錬と称して叩き込まれた王のカリスマ的なにかを放ちながら、彼らへと言葉を返す。
あーでも、一つだけ毒を吐かせてもらおうか。
僕は、男だッッッ!!
『ここにいる人たちはソラくんの事をよくわかってるねぇ。感心感心。』
『私もアイの意見に同意です。ソラナは自己評価が低いみたいですから言っておきますが、貴方の容姿は私たちと比べても見劣りしませんよ。』
客観的に見れば、僕は男なのにも関わらず女よりの容姿をしているらしい。
雪のように白く透き通った肌に、痩せ型で小柄な体躯。
肩辺りまで伸びている濁りのない白銀の髪と海のように深い蒼の双眸。
庇護欲を加速させるような可愛らしい顔立ち。
ちなみに、これらはすべてアイの感想だ。
決して僕の自己評価というわけじゃない。
話を戻そう。
二人にそんなことを言われても、二人ともとんでもなく容姿が整ってるから嫌でも比べちゃうんだよねぇ。
言うなればアレだよアレ。
絶世の美人と一緒に生活したら、自身のちっぽけさが分かるでしょ?
『まったく伝わっていない気がしますが…今日はもう言いません。これでコンディションを悪くしてしまったらまずいので。』
僕のコンディションはアルトリアから受けたしごきのおかげで、たとえ死の淵であったとしても百パーセントにできるから気を遣ってもらう必要はないんだけど…まぁいっか。
再び僕を間に挟んで会話を始める二人の幽霊。
それは僕が撮影されている時でも変わらない。
こんなのはいつものことだから、別に気にしない。
※※※
「ただいま~。」
太陽が沈み始めた頃。
誰もいないアパートの一室の玄関口で、僕はそんな声を投げる。
当たり前のことながら、帰ってくる返事はない。
『いやー、ソラくんは今日もすごかったね。一人だけ自力でアクション芸をこなしちゃうなんて、さすがはアルトリアちゃんの弟子だよ。』
『それを言うなら、モデル撮影でのソラナもすごかったですよ。アイの教えが活きている証拠です。』
『えへへ、それほどでもないよ〜。』
幽霊少女たちが僕の背後でそんな会話を繰り広げている。
基本的にアイがまずアルトリアを褒めて、アルトリアが褒め返して、それにアイが照れるというのがいつもの流れだ。
『そういえばソラナ。』
「ん?どーしたの、アルトリア。」
『明日は高校の入学式でしたよね?準備はできているのですか?』
『そーいえば、そうだった!!明日はソラくんの晴れ舞台だったね。安心してよ。ソラくんの勇姿は、私たちがバッチリ目に焼き付けるからさ!!』
どうやらアイは忘れていたみたいだ。
まぁ僕も忘れてたから、人のことは言えないんだけど。
それはともかく…高校生活かぁ。
僕が入るのは普通の高校などではなく、芸能人の雛鳥しか入らない芸能科だ。
まぁ雛鳥だけじゃなくて、一端の芸能人も少なからずいるだろうけど。
「大丈夫だよ。なにせ僕には元トップアイドルと騎士王が憑いてるからね。」
この時の僕は知らなかった。
まさか高校で一番星の遺したモノたちと出会うことになるなんて。