一番星と騎士王に憑かれてる子 作:とっとこ走れないハム之助
『キャー!!カッコカワイイよ、ソラくん!!』
目の前のこの、元トップアイドルが幽霊でほんとに良かった。
じゃないと近所迷惑で、大家さんから死ぬほど苦情が来てたと思う。
まぁ幽霊だろうとなかろうと、僕の耳は瀕死になるんだけどね(半ギレ)。
『アイ、もう少し声を抑えてください。でないと私とソラナの耳が壊れてしまいます。』
アルトリア、君はほんとにすごいよ。
自分の耳が瀕死になったのにも関わらず、軽い注意で済ませるなんて⋯さすがは騎士だね。
『ですが、アイが叫んでしまう気持ちも少なからず分かります。見た目美少女のソラナが男用の制服を着ていることに、なんというか背徳感が湧き上がってくるような────。』
この二人が僕の入学式を見に来るのか…。
周りの人にはどうせ見えないんだろうけど───うん、チェンジで。
すぐ近くでこんな会話が繰り広げられているとか考えたら、さすがの僕でもメンタルが持ちそうにない。
それにしても、守護霊成り立ての現代文化を理解していなかったかつてのアルトリアが懐かしいよ。
今ではアイにオタク文化とか、いろいろとろくでもないことを教え込まれちゃったからね。
心が綺麗で純粋だった頃のアルトリアが恋しいなぁ。
いやまぁ今でも綺麗で純粋なんだけど…。
『おほんっ。ソラくん、準備はできたね?それじゃあ天下一の芸能人目指してレッツゴー!!』
『「お、おー。」』
ハイテンションに右手を天高く掲げるアイ。
そんな彼女を見ながら、僕とアルトリアも小さく後に続いた。
いまだにアイのテンションの振れ幅はよくわかんないな。
あっ、決して同類に見られたくないからすっとぼけてるわけじゃないよ。
ホントだヨ?
……ツッコまなかったけど、天下一の芸能人ってハードル高くないですかね?
いやまぁ、騎士王と元トップアイドルの加護もどきがあるから、妥当かと言えば妥当なんだろうけどさ。
※※※
「芸能科は……F組か。」
掲示板に載せられている案内に従って、僕は校舎内を歩く。
『ここが高校ですか。同じ格好をした人たちがこんなにも集まってるだなんて⋯驚くことしかできません。』
『アルトリアちゃんの時代には、学校ってなかったの?』
『はい。恥ずかしながら、この国のように誰もがある程度は裕福な生活ができる国にできなかったので。』
なんか一気にシリアスなムードになってきてるね。
僕がここで反応したら変人だと思われるだろうから、何を言われても絶対に返事は『さすがにソラナより可愛い女性はいませんね。』『アハハハ、さすがにソレはないよ。』───しないと誓いたいけど、その誓いを破ってでも文句が言いたい。
僕よりかっこいい男性なら分かるけど、僕より可愛い女性ってどういうこと??
僕の性別は男だよ?
そう言われるのには慣れてきたから、今日はもう何も言わないけどさ(半ギレ)!!
内心では台風のように荒ぶりながらも、表面上は無表情で芸能科の教室へと入る。
『わーお。さすがは芸能科。分かってはいたけど、やっぱり顔がイイ人しかいないね。まっ、私たちの育てたソラくんには遠く及ばないけど。』
僕の思ったことをアイが前半部分で代弁してくれる。
後半部分みたいなことは、かすかにも思っていないので。
⋯って、ちょっと待った。
私たちの育てたってどういうこと?
そんな疑問が脳裏に浮かぶ。
口に出していないその問いに答えてくれたのは、アイ曰く僕の育て親の一人である少女。
もしかしなくても、心を読んでいないかな?
『私たちはソラナが四歳の頃から一緒に過ごしていたので、アイの言う通り育て親と言っても過言ではないかもしれませんね。実際、私たちはソラナにいろいろなことを教えてきたわけですし。』
反論できないなぁ。
アイに育てられたかどうかは置いといて、アルトリアには確実にお世話になってるし。
『納得してくれたみたいで何よりです、ソラナ。それと、もうすぐ先生が来ると思いますので、席に座っておいたほうが良いですよ?』
これは心を読まれてますねぇ。
さすがは僕の育ての親だと言っておこう。
っと、冗談はここまでにしようか。
向けられる好奇の視線をいなしながら、僕は自身の席へと座る。
まぁ同じクラスに銀髪碧眼の生徒がいたら、嫌でも注目しちゃうだろうから気にしないでおこう。
ただ…男の視線のほうが多いのはなぜだろう?
解せぬ。
「ねぇねぇ、キミの名前はなんていうの?」
背後に座っている女子生徒が僕の背をちょんちょんとつついて、そんな問いを投げかけてくる。
僕は身体をねじり、視線を女子生徒に向けた。
瞬間、僕は…いや、僕たちは息を呑む。
そこにいたのは、蜂蜜色の髪とピンク色の瞳を持った少女。
さらに情報を付け加えるなら、僕の背後霊的存在であるアイに似た顔立ちの美少女である。
コレは…どういうことなのだろう?
アイに子供が居たなんて話は今でも聞いた覚えはない。
しかし僕の右後ろにいるアイの反応を見る限り、目の前の少女と何かしらの関係があるのだろう。
隠し子みたいな感じのナニカ、か。
僕の頭脳はこういう時にとんでもない勘を働かせるらしく、ほんの一瞬で結論へたどり着いた。
できるなら、今すぐにでもアイに問いただしたいが…さすがに難しいだろう。
状況的にも、アイの雰囲気的にも。
アイもこの展開を予想していなかったらしく、驚きで目を見開いている。
が、それだけではない。
恐怖からなのかどうかは分からないが、彼女は手や足をプルプルと震わせていた。
僕は視線でアイのフォローをアルトリアに頼み、目の前の少女の問いに答える。
「僕は聖成空那。キミは?」
「星野瑠美衣だよ。よろしくね、聖成さん。」
「えっ!?もしかしてあの人気モデルのソラナさんですか?」
星野瑠美衣と名乗った少女の隣に座っているピンク髪の少女がそんな声をあげた。
驚きつつも、僕は肯定の意を示す。
まさか有名だったりするのかな、僕って。
「みなみちゃん、聖成さんが誰か知ってるの?」
「知ってるも何も、ソラナさんは今をときめく人気モデルの一角やよ。年齢不明のトップモデルと同級生になれるだなんて…ほんと幸せやわ〜。───あっ、私は寿みなみって言います。」
過大評価がすごい!!
僕はそんなすごい人になった覚えはないんだけど。
そういう説明だと星野さんが勘違いしちゃうんじゃ…。
「へー。聖成さんってすごい人だったんだねぇ。まぁたしかにすごく綺麗で可愛いし、納得って言えば納得だよ。」
勘違いしちゃったよ。
僕の知名度が低いってバレたら、どうするのさ。
『大丈夫だよ!!ソラくんの知名度はソラくんが思ってる何十倍も高いからさ!!』
いつの間にか復活していたアイがそんなことを言っている。
「それにしても聞いてよ、聖成さん!!みなみちゃんがすごいんだよ!!Gだよ、G!!高校生なのにこれってすごくない?」
星野さんがなにが言いたいのかはなんとなく理解できちゃったよ。
でもさ、僕は男なんだから、そういう話はしないでほしかったな。
だってどういう反応をすればいいのかまったく分からないし。
「えっと、星野さん?僕は男だから、そういう話を振られたら困るんだけど。」
視界の端でフヨフヨと浮いているアルトリアとアイが笑っている。
君たちはとりあえず、今日のお昼を抜きにしようじゃないか。
「アハハ、冗談はやめてよ聖成さん。こんなに可愛いのに男の子なはずが、な、い……。」
だんだんと僕が男であるということが冗談じゃないと、星野さんと寿さんは理解していく。
そして次の瞬間───。
「「えぇーーー!!!!!」」
そんな大絶叫が教室に響き渡った。