第十一話
「幼なじみ」
日本中に散らばる変様者達
しかし未だ大したニュースにはならない
新聞にも載らない
それでも確実に増えていた。
神奈川県 川崎市
高校一年生 石田 悠人(15)
夏休み前 終業式
教室は朝から騒がしい
「通知表どうだった?」
「終わったわ」
そんな他愛のない会話をしていた
窓際の席だけが空いている
幼なじみの席だった
加賀 美咲、十五歳
昨日が誕生日だった
「遅いな」
担任も腕時計を見る
ホームルーム開始まで五分
その時教室のドアが開く。
「……失礼します」
全員が振り返る
知らない少女が立っていた
紺色の制服、肩まで伸びた灰色の髪、白い光輪
教室が静まり返る
「転校生?」
誰かが呟く
少女は困ったように笑う
「……美咲」
その声で悠人は凍り付いた。
「……え」
担任が口を開く
「えー……」
何度も紙を見る
何度も少女を見る
「加賀……さん、です」
教室がざわめく
「え?」
「マジ?」
「昨日まで話普通だったよな……?」
美咲は俯いたまま席へ歩く
歩き方や癖、鞄の持ち方
全部昨日までの美咲だった
違うのは姿だけ
昼休みは誰も近寄れない
ただ悠人だけが席へ向かった。
「……美咲」「うん」
「本当に?」「うん」
「……」「昨日の朝」
それだけだった
説明する言葉はなかった
悠人は椅子へ座る
「痛い?」「どこも」
「苦しい?」「ううん」
「戻りそう?」
美咲は首を横へ振った
「分かんない」
その返事だけで悠人は泣きそうになった
匿名掲示板
【Part2】俺たちまだ戻らないんだけど
802 :風吹けば名無し
学校行ってきた
803 :風吹けば名無し
本当に行ってきたの?
804 :風吹けば名無し
キツイなら休んでもええんやで
805 :風吹けば名無し
で、どうだった?
806 :風吹けば名無し
俺なら休むわw
807 :風吹けば名無し
よういけたな
808 :風吹けば名無し
みんな優しかった
809 :風吹けば名無し
そもそも行ってええんか?
810 :風吹けば名無し
許可もらえたんやろ
811 :風吹けば名無し
良かったじゃん
812 :風吹けば名無し
よそよそしいよりはマシやろ
813 :風吹けば名無し
ぜってー裏で色々言われとるよ 俺が承認者
814 :風吹けば名無し
うん、まあでも……
815 :風吹けば名無し
ん?どうした
816 :風吹けば名無し
気を遣わせてる
817 :風吹けば名無し
そりゃそうだろ
818 :風吹けば名無し
皆もどうしたらええかわからなかったんやろ
819 :風吹けば名無し
自分もわからん
820 :風吹けば名無し
みんな普通に話してくれる
821 :風吹けば名無し
やさしい
822 :風吹けば名無し
ええ子たちやん
823 :風吹けば名無し
よかったね(小並感)
824 :風吹けば名無し
普通に接してくれようとしてくれるだけ有り難いやん
825 :風吹けば名無し
それが逆につらい
画面の向こうで暫く誰も返事を書けなかった
神奈川県
放課後
悠人と美咲、二人で帰る
昨日までと同じ道
コンビニ、橋、踏切、全部同じ
違うのは横を歩く幼なじみ
ランドセル姿の小学生が言う。
「あのお姉ちゃん、輪っかついてる」
母親は笑う
「アクセサリーじゃない?」
二人は通り過ぎる
美咲が小さく笑った
「アクセサリーだって」
悠人も笑う
でも笑い終わるとまた静かになった。
国立感染症研究所
午後四時 秋山
報告書のその中に初めての項目が追加される
変様者で回答を取れたものをまとめたものだ
社会生活調査
・就学継続 108例
・就労継続 67例
・退職 0例
・退学 0例
秋山はその数字を見て驚いた
「……誰も辞めない」
教授が頷く
「辞める理由がない」
「姿は変わっても」
「中身は本人だからな」
「……」
教授は少し考える
「社会の適応が早い」
「はい」
「人間は案外柔軟だ」
秋山は小さく首を振る
「違います」「?」
「社会が柔軟なんじゃない」「ではなんだ」
「本人たちが必死に昨日までと同じ生活を続けてるんです」
教授は何も言わなかった
石田家 夜
夕食
テレビでは野球中継
父が何気なく聞く
「学校どうだった」
悠人は箸を止める
「……美咲が」
「ああ」
「変わった」
父はニュースで見たことがあった。
「ああ、あの病気か」
「……うん」
「珍しいらしいな」
それだけだった
悠人は違和感を覚える。
「病気」
そう言われれば病気だ
でもあれは本当に病気なのだろうか
匿名掲示板 夜十一時
913 :風吹けば名無し
今日学校で初めて見た
914 :風吹けば名無し
うん?なにが?
915 :風吹けば名無し
普通に考えればわかるやろ
916 :風吹けば名無し
例のアレや
917 :風吹けば名無し
変様者?
918 :風吹けば名無し
そらそうやろ
919 :風吹けば名無し
同級生がなってた
920 :風吹けば名無し
知り合いか
921 :風吹けば名無し
仲いいの?
922 :風吹けば名無し
どんな感じ?
923 :風吹けば名無し
様子どうやったん?
924 :風吹けば名無し
昨日まで姿は普通だったんだ だけど今日も意外なことに普通だった ただ見た目だけが違ったんだ
その書き込みはスレッドの空気を変えた
誰も煽らない
誰も笑わない
誰もおちゃらかないしふざけようとはしなかった
画面の向こうにいる誰もが初めて「自分の隣の席」で起きた出来事を想像してしまったからだった
展開は遅かったり急になったりします