第十二話
「慣れ」
20XX年8月8日
四か月前は一人だった。
今では約200人以上もの人数となっていた
それでも日本という国ではまだ「珍しい出来事」でしかない。
東京都 午前七時四十分
山手線の通勤ラッシュ
満員電車のドアが開く
制服姿の少女が乗り込む
光輪。
誰かがちらりと見るがそれだけ
三十秒後には全員スマートフォンへ視線を戻していた
佐々木は吊り革につかまりながら思う
(……誰ももう見ない)
四月
あの日駅員が駆け寄ってきた
職質のような質問をされた
会社でも三十分説明した
今はもう違う
「あ、あの人か」
それだけ
世界はほんの少しだけ慣れていた。
匿名掲示板
【Part3】俺たちまだ戻らないんだけど
18 :風吹けば名無し
もうPart3か
19 :風吹けば名無し
ここまで続くとはなぁ
20 :風吹けば名無し
当初はただの釣りスレだと思ってたんやけどね
21 :風吹けば名無し
政府が正式に認めたんならね
22 :風吹けば名無し
ワイもここまでの規模になるとは想定外なのであるw
23 :風吹けば名無し
長寿スレになったな
24 :風吹けば名無し
精々続いても前のスレ辺りで終わると思ってたわ
25 :風吹けば名無し
だってマジだとは思わんやん
26 :風吹けば名無し
それな
27 :風吹けば名無し
最初は誰も真面目に相手しとらんかったからな
28 :風吹けば名無し
まあ症状が症状だったから…
29 :風吹けば名無し
誰も実質TS病がほんとに起こるとは思わんやん
30 :風吹けば名無し
あっおい待てい 前のスレで女もなってたゾ
31 :スレ主
まだ戻る気配のないスレ主です
32 :風吹けば名無し
あっスレ主だ
33 :風吹けば名無し
推定初代変様者兄貴(元)オッスオッス
34 :風吹けば名無し
本人からしたら不名誉なんだよなぁ
35 :風吹けば名無し
普通に失礼すぎる
36 スレ主
慣れたから気にしてないで
35 :風吹けば名無し
そこは慣れたらダメやろw
38 :風吹けば名無し
流石にキレてもええんやで
39 :風吹けば名無し
俺、変様者やけど今日コンビニ行ったら店員が普通だった
40 :風吹けば名無し
というかもうスレ建てた奴もスレ主やないからな
41 :風吹けば名無し
おっ またなんかの経験談か
42 :風吹けば名無し
どうしたん?
43 :風吹けば名無し
店員の対応普通だった
44 :風吹けば名無し
良かったじゃん
45 :風吹けば名無し
ええことやん
46 :風吹けば名無し
良くない
47 :風吹けば名無し
え?なんで
48 :風吹けば名無し
なんかあった?
49 :風吹けば名無し
驚かれなくなった
50 :風吹けば名無し
あ〜
51 :風吹けば名無し
なるほど?
52 :風吹けば名無し
わかる
53 :3
分かる
54 :風吹けば名無し
そういうもんなん?
55 :風吹けば名無し
確かにそれはそれで嫌やな
56 :風吹けば名無し
わかるようなわからんような…
57 :風吹けば名無し
これは当事者しか分からんやつか?
58:二人目
確かに最初の反応方が現実だった
59 :風吹けば名無し
>>57いや普通に嫌やろ 元々男(女もいるが)なのにその女の姿が当然って思われるのはなんかこう、嫌じゃん?
60 :風吹けば名無し
あ〜なるほど?
61 :風吹けば名無し
これは慣れられると本当に戻れない気がする
その一文は、多くの変様者が感じていた不安だった。
国立感染症研究所
午前十時 会議室
大型モニターには全国地図
丸い赤い点が四十三個
教授が静かに言う
「増加率は」
秋山が答える
「緩やかですが右肩上がりです」
「収束傾向は」「ありません」
「死亡例」「ゼロとされてます」
「後遺症」「確認されず」
「健康状態」「元々病気だった患者を除くと全員正常」
誰かがぽつりと言う
「……病気なのか?」
部屋が静まり返る
誰も答えられなかった。
神奈川県
昼休み 高校
悠人と美咲が購買へ向かう
廊下ですれ違う一年生が言う
「加賀先輩、おはようございます」
「おはよう」
自然な挨拶に悠人が驚く
「あれ?」
「何?」
「皆もう普通なんだ」
美咲は少し笑う
「みんな優しいから」
「違うと思う」
悠人は首を振る。
「優しいだけじゃない」
「?」
「もう皆慣れて普通になってる」
その言葉に美咲の笑顔が少しだけ曇った
インターネットニュース
小さな記事
『国内で確認された原因不明形態変化は100例を超えたと政府が正式に………』
コメント欄
「また増えた」
「でも感染しないんでしょ?」
「普通に生活してるらしい」
「健康なら別に」
「かわいそうだけど仕方ない」
「研究頑張って」
以前よりかは否定よりのコメントが減った
代わりに増えたのは受け入れる言葉だった。
秋山の研究ノート
8月8日
社会の適応速度が予想以上に速い
当初は「コスプレ」「偽物」と扱われた。
現在は「そういう患者」と認識され始めている。
少し考えさらに書き加える
もし数千人になったら
一万人になったら
十万人になったら
社会はどこまで受け入れるのだろう
ペンが止まる。
最後に迷いながら一文を記す
ある日、「変様者がいる風景」の方が普通になるのではないか。
書いた瞬間自分でその考えを打ち消した。
「……いや」
そんなことはない。
まだまだ数百人だ
日本には一億人以上いる
あり得ない
そう自分に言い聞かせる。
しかしそのページだけは破かなかった。
東京都 午後九時
佐々木はコンビニで買い物を終え店を出る
信号待ちで向かい側に一人
制服姿、別の学園の制服。
見たことのないデザイン
いや、ゲームで見たことのあるような制服と光輪
その隣にもまた一人
「……。」
佐々木は思わず目を凝らす。
家族連れだった
父親、母親、そして、変様した娘
楽しそうにアイスを食べながら笑っている
ごく普通の家族でごく普通の夏休み
ただ一つだけ違うのはその娘の姿だった
青信号になりすれ違う
父親は娘に言う
「溶ける前に食べなさい。」
「はーい」
どこにでもある会話
佐々木は振り返る
家族は笑いながら去っていく
「……」
その光景を見て彼は初めて思う
世界はもしかしたら自分たちより先にこの現象を受け入れてしまうのではないか。
その考えが変様そのものとは別の恐怖として静かに胸に残り続けた。
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