第十三話
「統計」
20XX年9月2日
夏休みが終わる
学生たちは学校へ戻り会社員はいつものように電車へ乗る
テレビでは台風の進路予想
スーパーでは秋の味覚フェア
世界は相変わらず忙しい
国立感染症研究所
午前八時五十五分
秋山はいつものように全国の報告書を開く
北海道
一件追加
大阪
一件追加
沖縄
それぞれに新たな変様者が報告された
「……沖縄」
彼は日本地図を見る
赤い印は、とうとう全地方へ広がり始めていた
北海道
東北
関東
中部
近畿
中国
四国
九州
沖縄
空白だった場所がまた一つ消えた
「全国……」
誰に言うでもなく呟く
教授が部屋へ入る
「増えたか」
「はい」
「何県だ」
「沖縄です」
教授は少しだけ目を閉じた
「そうか」
その「そうか」には安堵はなかった
会議室
午後一時
全国の症例一覧が壁に映し出される
年齢分布(公式機関で記録された変様者での総数)
15歳──76人
16歳──54人
17歳──44人
18〜29歳──34人
30〜49歳──22人
50歳以上──15人
「偏りは」
「十五歳直後がやや多いですがそれ以外は年齢層全体に分布しています」
「男女比は」
「ほぼ同数です」
「職業」
「学生、会社員、自営業、無職……ばらばらです」
「居住地」
「全国です」
「生活習慣」
「共通点なし」
「血液型」
「偏りなし」
「利き手」
「なし」
「……ゲーム『ブルーアーカイブ』のプレイ歴」
「あります」
一人の研究員が顔を上げる
「共通点があるのか」
秋山は首を横に振った。
「プレイしていない人もいます」
「……そうか」
「知識がない人もいます。」
「知らない人もいると?」
「はい」
「ゲームそのものを知らない患者が73例います」
部屋が静まり返る
「ならば」
教授がゆっくりと言う
「『知っているから変わる』わけではない」
匿名掲示板
【Part4】俺たちまだ戻らないんだけど
214 :風吹けば名無し
今日病院で会った
215 :風吹けば名無し
このスレも人が増えたな
216 :風吹けば名無し
まさかここまでの規模になるとは読めなかった!このリハクの目をもってしても!
217 :風吹けば名無し
>>214誰に?
218 :風吹けば名無し
こよスレなら普通考えればわかるだろボケ
219 :風吹けば名無し
自分と同じ人
220 :風吹けば名無し
変様者?
221 :風吹けば名無し
やっぱりな♂
222 :風吹けば名無し
うん 偶然会った
223 :風吹けば名無し
なんか話した?
224 :風吹けば名無し
増えたな〜
225 :風吹けば名無し
少しだけ
226 :風吹けば名無し
どんな会話したん
227:風吹けば名無し
単純になる人が増えて病院いく人も増えてるな
228 :風吹けば名無し
いつからですか、とかそんな感じで話した
229 :風吹けば名無し
まあ普通はそんな感じやな
230 :風吹けば名無し
それで?
231 :風吹けば名無し
「五月です」って言ってた
232 :風吹けば名無し
5月かー
233 :風吹けば名無し
けっこう初期組だ
234 :風吹けば名無し
え?それだけ?
235 :風吹けば名無し
それだけ
そんなんで大体わかった
どちらも名前を聞かなかった
どっちも住所を聞かなかった
必要がなかった。
「五月です」
その一言だけでお互いに何となく理解できた。
神奈川県
昼休み
悠人は美咲と食堂へ向かう。
途中、一年生の女子が声を掛ける
「加賀先輩!」
「はい?」
「その制服、どこの学校なんですか?」
一瞬だけ空気が止まる
悪意はない
純粋な疑問だった
変様してから身体の大きさが変わってしまったため一時期の措置として学校側から起きた時に着ていた制服の着用を許可されていた
変様した者としてもわかるシンボルにもなるため様々な要因でも許可された経緯がある
美咲は困ったように笑う。
「……分からない」
「え?」
「知らないの」
女子生徒は「あー、そうなんですか」と笑って去っていく
悠人は何も言えなかった
美咲自身、今自分が着ている制服の「学校名」を知らない
ラベルも校章もある
だがその学校は現実には存在しない
ゲームの世界に存在する架空の学校であるはずだからだ
秋山の研究ノート
9月2日
制服の調査
全国の患者写真を並べる
ブレザー
セーラー服
ジャケット
コート
学園ごとに異なる意匠
胸元の校章
袖章
ネクタイ
リボン……
どれも非常に精巧だ
秋山はある写真で手を止める
「……」
校章を拡大する。
翼を模したような意匠
文字らしきもの
しかし何故か読めない。
アルファベットにも、漢字にも、ハングルにもキリル文字にも見えない
ゲームの資料の参考からどの学校であるかはわかる
しかし……
「何語だ……?」
別の症例の変様者の別の校章。
こちらも同じ
読めそうで読めない。
まるで意味を理解する直前で視線が滑るような感覚
「画像解析」
AIに読み込ませる。
結果、文字認識失敗
別のソフト、既知言語との一致なし
秋山は背筋に冷たいものを感じた
制服は現実の布だ
触れる
洗える
繊維も分析できる
だが何故かその校章部分だけがどの言語にも分類できない
「……」
彼は報告書に一文だけ加えた
制服の意匠には当たり前だか既知の教育機関との一致が見られない
高校は架空ではあるがブルーアーカイブのゲーム資料から判別は可能
しかし校章部分のみ言語解析が不可能
その一文を教授は黙って二重線で囲んだ
東京都
夜
佐々木は洗濯物を畳んでいた
制服、私服、ジャージ
そして制服。
毎日着ているはずなのに不思議なことがある
制服は傷みにくい
何度洗っても色褪せない
ボタンも取れない
裾もほつれない
「……丈夫だな」
何気ない一言
しかしその制服を繊維会社へ持ち込んだ変様者が数日後に掲示板へこう書き込むことになる
素材が分からないって返された
最初は誰も信じなかった
だがその書き込みにはいつものようなふざけたコメントは付かなかった
少しずつ、本当に少しずつ
「これは普通ではない」
という感覚が変様者だけではなく研究者や一般人たちの間にも積み重なり始めていた
ガバがあっても御愛嬌ということでオナシャス!