第十六話
「運用」
20XX年11月18日
変様者の数は初期と比べるとかなり増えた
ただ「数えられないほど多い」わけではない
けれど「無視できるほど少ない」人数でもなくなっていた。
東京都 某高校
職員会議
議題は冬服への衣替え進路指導
そして最後に追加された一項目。
キヴォトス症候群生徒への対応について
教頭が資料を配る
「現在、本校には3名の該当生徒が在籍しています」
教室が静かになる
「出席状況に問題はありません」
「成績も変化ありません」
「生活態度も良好です」
一人の教師が手を挙げる
「制服はどうしますか」
「……」
教頭は答えに詰まる
「本校指定制服を着用できません」
「サイズが合わない?」
「それもあります」
「ですが、それ以上に……。」
資料には写真が添付されていた。
本校制服を着た変様者。
袖丈は調整できる。
スカートも直せる。
だが、頭上の光輪だけが制服と奇妙なほど噛み合わない
そして一名がトリニティ系統の生徒で羽がついていた
その為普通の制服では着ることが出来ないのだ
「本人は今の制服を希望しています」
「理由は?」
「『自分の制服だから』とのことです」
会議室に沈黙が落ちる。
何故だか誰も否定的な意見が上がらなかった
「暫定的であるが変様者の生徒はその制服を着用することを許可する」
「…良いのですか?」
「ああ、ただでさえ身体が変化して心理的にも不安なはずだ 服装で少しでも気持ちが和らぐなら許可すべきだろう」
「しかし、風紀的に問題はないのですか?」
「他の生徒も本校ではない制服を着てくるのではないですか?」
「しかしねぇ…」
・
・
・
職員会議は様々な問題を上げながら変様者の扱いに対してどう扱うか話し続けられた
問題点が多く進展はあまり進まなかったがそれでも変様者に対しての取り組みが進んだ
政府や機関のみだけでなく一般社会も少しずつ変様者に対しての問題に向き合う時が訪れ始めた
神奈川県
放課後
悠人と美咲は校門を出る
冬が近づき風が冷たい。
「寒いね」
「うん」
美咲は制服の上にコートを羽織っている
制服のままではない
ちゃんと私服も着る
マフラーも巻く
手袋もする
それでもコートの襟元から覗く制服と頭上の光輪だけは変わらない。
「……ねぇ」
美咲が立ち止まる。
「どうした?」
「私、最近ね」
「うん」
「夢を見なくなった」
悠人は首を傾げる。
「え?」
「変わる前は毎日夢見てたのに……」
「今は?」
「何もない」
「……」
「気づいたら朝なんだ」
それだけ
医師にも話した。
異常なし、脳波も正常
けれど変様者の多くが「夢を見なくなった」と証言し始めていた。
国立感染症研究所
午後三時
「夢?」
秋山はカルテを見返す。
症例者の意見
「夢を見た記憶がない」
「変様後から夢を覚えていない」
「眠った感覚だけある」
「真っ暗」
「夢がなくなった」
秋山は立ち上がる。
「先生」
教授が振り返る
「どうした」
「共通点です」
資料を渡す
教授は数分間黙って読む。
「……」
「気付かなかった」
「私もです」
今まで誰も重要視していなかった。
健康被害ではない
睡眠時間も正常、脳波も正常
だから見逃されていた
しかし全員が同じことを言っている。
匿名掲示板
【Part5】俺たちまだ戻らないんだけど
45 :風吹けば名無し
お前ら夢見る?
46 :風吹けば名無し
なんの夢だよ
47 :風吹けば名無し
将来の夢ならもうないですね
48 :風吹けば名無し
???「そこにいたんですねユメ先輩……」
49 :風吹けば名無し
草
53 :風吹けば名無し
でも最近確かに見ないな
54 :風吹けば名無し
そうか?
55 :風吹けば名無し
ポは疲れすぎて見る余裕がないゾ……
56 :風吹けば名無し
そもそも覚えてない
57 :風吹けば名無し
悲しいなぁ
58 :風吹けば名無し
でも自分も見たって感じはないな
57 :風吹けば名無し
え、普通に見た感覚はあるやろ
58 :風吹けば名無し
なんとな〜く見たんやろうなぁというのはあるけど
59 :風吹けば名無し
いや、俺は見た感覚全然ないわ
60 :風吹けば名無し
夢ごときで大げさなw
まあ去年あたりから見てないが
61 :風吹けば名無し
俺も
62 :風吹けば名無し
え、そうなん?
63 :風吹けば名無し
夢のない人達ですね
64 :風吹けば名無し
自覚は無いけと言われてみればって感じやな
65 :風吹けば名無し
そもそもそんなのに意識してない
66 :風吹けば名無し
去年までは普通だったと思う
67 :風吹けば名無し
そんなもんやろ
68 :風吹けば名無し
いや、でもなあホントに見たって感覚はない
69 :風吹けば名無し
えまた変様者関連これ?
70 :風吹けば名無し
流石に具体性がないからなんとも言えんやろ
71 :風吹けば名無し
お先真っ暗だわ
72 :風吹けば名無し
というか普通の奴でも見んやつは見んやろ
73 :風吹けば名無し
でも俺変様者だけど見たって感覚全然しない
74 :風吹けば名無し
え、俺だけじゃなかったの?
75 :風吹けば名無し
これそんなに重要か?
76 :風吹けば名無し
でも気になるやろ
77 :風吹けば名無し
たかが夢ごときで大げさなw
78 :風吹けば名無し
まあ言われん限りきにはしないことだとは思う
79 :風吹けば名無し
それでもなんか関係あるのか?
80 :風吹けば名無し
怖
81 :風吹けば名無し
というかそんなことよく気づいたな
82 :風吹けば名無し
意識しないから特別よくわからんな
83 :風吹けば名無し
でもたかが夢やん
84 :風吹けば名無し
何で今まで誰も言わなかった
85 :風吹けば名無し
困らないから
86 :風吹けば名無し
それはそう
87 :風吹けば名無し
確かに姿変わるのと比べたらねぇ
その書き込みに多くの共感の意見が付く
困らない、生活に支障はない
だから話題にならなかった。
文部科学省
内部会議
「制服についてですが……」
「はい」
「変様者が元の制服を希望した場合、認めます」
「校則違反になります」
「例外規定を作りましょう」
「……」
その瞬間一人の若い職員が何気なく呟いた。
「例外じゃなくなる日が来たらどうします?」
部屋が静まり返る
誰も答えない
「失言でした」
彼は頭を下げる。
しかしその言葉だけが会議室に残った。
秋山の研究ノート
11月18日
推定症例、◯◯◯例目前
ページをめくる
最初のページ
「原因不明形態変化症例 1例」
半年後
「◯◯◯例」
秋山はグラフを見つめる
一直線ではない
急激でもない
しかし止まっていない。
一度も、一週間も、一か月も……
増加が止まったことはなかった。
「……」
彼は定規を当てる。
このまま一年、二年、三年。
数字を書き込む
千、一万、十万
「あり得ない」
すぐに線を消す
そんな予測は非現実的だ
今までの統計が続く保証などどこにもない
それでも消しゴムの跡だけがノートに白く残った。
深夜
北海道
高校一年生、十五歳になったばかりの少年
布団に潜り込み、スマートフォンを見る
友人とのグループチャット
「明日テストやべぇ」
「赤点確定w」
笑いながら返信する
とりとめのない会話が続いている
「寝るわおやすみ」
画面を閉じる
目を閉じる
静かな夜
窓の外では雪が降り始めていた
そして翌朝
彼の部屋のドアはいつも通り母親によってノックされる。
「起きなさい」
返事はある
「……うん」
その声は昨日より少しだけ高かった。
世界はまた誰にも見られることなく静かに姿を変える。