第十八話
「十五歳の朝」
20XX年12月24日
クリスマスイブ当日
街は赤と緑で彩られていた
恋人たち
家族連れ
子供たち
どこも彼処も笑顔だった
そして日本のどこかでは今日も十五歳の誕生日を迎える子どももいる。
埼玉県
午前五時五十分
加賀家
美咲の母はもう起きていた
朝食の支度ではない。
廊下の先の娘の部屋を何度も見てしまう
美咲はすでに変様している
今日は違う。
今日は隣町に住む妹の娘――
美咲の従妹・琴音の十五歳の誕生日だった。
「……」
スマートフォンを見る
時刻 5:58
あと少し
(……考えすぎ)
そう思う
けれど家族全員が同じことを考えていた。
午前六時四十分
電話、妹からだった
母親は出る
数秒間母親は何も話さない
「……そう、わかった」
静かな返事で電話を切る
夫が聞く
「琴音ちゃんは?」
母親はゆっくり頷く
「……今朝」
「……そうか」
それだけだった
ただ、
「そうだったのね」
という沈黙だけが家に広がる。
匿名掲示板
【Part5】俺たちまだ戻らないんだけど
111 :風吹けば名無し
従妹が今日なった
112 :風吹けば名無し
なにに?
113 :風吹けば名無し
いや、いい加減察しろよ
114 :風吹けば名無し
十五歳?
115 :風吹けば名無し
また一人ブルアカ生徒になっていくのか
116 :風吹けば名無し
今日誕生日だった
117 :風吹けば名無し
そうか
118 :風吹けば名無し
やっぱり
119 :風吹けば名無し
なんと言うか、大変だな
120 :風吹けば名無し
ここまでくるともうわかってくるよな
121 :風吹けば名無し
15で変わり始めるってのもやらしいよな
122 :風吹けば名無し
もう報告場みたいになってるなここも
123 :風吹けば名無し
偶然じゃないよな ここまでくれば
124 :風吹けば名無し
まあほぼ確定やろ
125 :風吹けば名無し
普通に俺達も明日変わる可能性はあるからな
126 :風吹けば名無し
嫌なこと言うなよ
127 :風吹けば名無し
ある意味いつ変わるかわからん俺達の立場の方が怖くない?
127 :風吹けば名無し
15以上がボーダーラインやな
129 :風吹けば名無し
誕生日迎えるの怖いって言われた
130 :風吹けば名無し
そりゃそうだろ
131 :風吹けば名無し
誰だってそう思うわ
132 :風吹けば名無し
もう人ごとではなくなってき始めてる
133 :風吹けば名無し
家族ならなおさらそうだろな
134 :風吹けば名無し
いや一人暮らしでもキツイよ 保証してくれる人とかいないもん
135 :風吹けば名無し
おっさんの俺も急にピチピチの若い子になっても困るわ
136 :風吹けば名無し
そりゃ誰だって怖い
137 :風吹けば名無し
これのせいで歳について触れるの前よりも難しい
138 :風吹けば名無し
わかる
139 :風吹けば名無し
気軽に扱えなくなったよな
140 :風吹けば名無し
去年までは誕生日楽しみだったのにな
141 :風吹けば名無し
息子の誕生日どうしよう
誰かがぽつりと書く。
「十五歳おめでとう」が言いづらくなった
その言葉には短時間で何十もの共感のコメントが付いた。
神奈川県
終業式
悠人は美咲を見る
冬休み前でクラス写真を撮る
「はい、笑ってー!」
先生が言いシャッターをきる
後で写真を見ると美咲はいつも通り笑っていた
その隣で悠人も笑っているし誰も泣いていない
誰も暗い顔をしていない
それなのに悠人は思う。
(この写真を十年後に見たら俺は何を思うんだろう)
前と違う姿をしている美咲を見ながらそう思った。
小児科
午後 診察室
母親が質問する
「先生」
「はい」
「娘は来年十五歳なんです」
医師は少しだけ言葉を選ぶ。
「……はい」
「発症する可能性は?」
「現時点では分かりません」
嘘ではない
実際十五歳全員が変様するわけではない
確率も分からない
条件も分からない
「じゃあ」
母親は震える声で聞く
「誕生日の朝まで誰にも分からないんですか」
医師は静かに頷くしかなかった
国立感染症研究所
午後四時
秋山は新しい統計をまとめていた
十五歳到達者
↓
変様確認率
数字はまだ少ない
有意差も出ない
だがグラフは少しずつ埋まり始めていた
教授が後ろから覗く。
「社会は……」
「はい」
「十五歳を意識し始めたな」
秋山は答えない
その代わり別の資料を机へ置いた。
新聞の投書欄
『娘の十五歳の誕生日が素直に祝えません』
教授は最後まで読み静かに紙を伏せた。
「……現象は人だけじゃない」
「時間まで変えている」
インターネット
とある動画サイト
『十五歳の誕生日朝起きるまで配信します』
ライブ配信
視聴者数
◯千人
コメント欄
「頑張れ」
「変わらないでくれ」
「寝るなって言ってる奴いるけど無理だろ」
「朝が怖い」
「何も起きませんように」
配信者は十四歳
朝まで話流石に不可能らしく深夜3時で配信が終了した
「スマン、やっぱ寝るわ おやすみ」
配信終了
画面は暗転する。
翌朝の夜、配信は再開されなかった
匿名掲示板
深夜。
381 :風吹けば名無し
最近さ悩んでることあるんや 息子のことで
382 :風吹けば名無し
何だ悩みか
383 :風吹けば名無し
こんなとこで聞くなよw
384 :風吹けば名無し
どうしたんパパ
385 :風吹けば名無し
べ、別に悩みなんか聞いてあげなくてもいいんだからねっ!
386 :風吹けば名無し
逆によくここで聞くつもりがあるな
387 :風吹けば名無し
言っちゃあ悪いがここにいる連中なんか人付き合いないからそのタイプの相談は役立たずやで
388 :風吹けば名無し
ウッ
389 :風吹けば名無し
急に刺してくるじゃん
390 :風吹けば名無し
誕生日プレゼント考える時なんだけどね、思うことがあるんだ
391 :風吹けば名無し
お、おう
392 :風吹けば名無し
プレゼントか
393 :風吹けば名無し
「服」が無難って思うようになった 色んな意味で
……わかる?この感じ
394 :風吹けば名無し
あーー、なるほど
395 :風吹けば名無し
え?どういう事?
396 :風吹けば名無し
そこは察しろよ
397 :風吹けば名無し
さすかスレ民人の心がない
398 :風吹けば名無し
ここは変様者スレ あとは察しろ
399 :風吹けば名無し
なるほど、サイズ変わるかもしれないけどということか
400 :風吹けば名無し
あ、そういうこと
401 :風吹けば名無し
確かにある意味無難ではあるな
402 :風吹けば名無し
色んな意味で記念日にはなるね
403 :風吹けば名無し
確かにそれは悩むな
404 :風吹けば名無し
え?普通にゲームとかでよくない?
405 :風吹けば名無し
↑ 人の心
406 :風吹けば名無し
だから買い直せる商品券の方がいいって話になってる
407 :風吹けば名無し
う〜ん難しい話だなそれ
408 :風吹けば名無し
でもそれはそれでさみしくない?
409 :風吹けば名無し
わかるけれどもってやつだな
410 :風吹けば名無し
確かに効率的で得ではあるな
411 :風吹けば名無し
でもなんか嫌だなそれ
412 :風吹けば名無し
親としてはちゃんとした物おくりたいよな
412 :風吹けば名無し
今時の親は自分の子供の誕生日にこんだけ気を使う時代になったのか
413 :風吹けば名無し
色々とデリケートすぎて嫌んなるわ
414 :風吹けば名無し
どうしてこんなことになってしまったんやろ
415 :風吹けば名無し
こんな奇病が生まれたからですね
416 :風吹けば名無し
いやな世の中だ
417 名前
まだ世界的にはそんな数いないのにな
その一文だけが静かにスレへ流れていった。
秋山の研究ノート
12月24日
今日ある記者から質問された
「この現象は社会を変えますか」
私は答えた
「まだ◯◯◯◯人です」
それは事実だった
日本全体から見れば
その数はまだ日本全体に影響を与えるにはほとんどゼロに等しい
しかしノートを閉じる前に誰にも見せない最後の一文を書いた。
それでも人々は「十五歳の朝」という時間を恐れ始めた
現象はまだ身体しか変えていない。
だが社会の暦は、少しずつ変わり始めている。