第二十話
「家族写真」
20XX年2月2日
現在の変様者の数はまだ「希少」で片付けられるものであった
しかしその数の中にはそれぞれ家族がおり友人がいる
そして職場がある
その変様者数という数字よりその周囲で日常を生きる何千人もの方が少しずつ変わり始めていた。
東京都 写真館
卒業シーズンを前に家族写真の予約が増えていた
カメラマンの高橋は最近ある変化に気付いていた
「……またか」
今日の家族も
父
母
高校生の娘
小学生の弟
祖母
そのうち一人だけがキヴォトスの生徒の姿だった
最近では珍しくなくなってきた
「では撮ります」
誰も立ち位置を気にしない
「お父さん、もう少し右へ」
「おばあちゃん、笑ってください」
「お姉ちゃん、もう少し弟さんの方へ」
"お姉ちゃん"と呼ばれたのは見た目だけなら同級生ほどの少女
しかし本当は五十六歳の母親だった。
「はい、チーズ!」
シャッターが切られ家族は笑う
いつもの家族写真
違うのはアルバムを十年後に開いた時ら誰が母親なのか他の人たちは初見では分からないことだけだった。
匿名掲示板
【Part6】俺たちまだ戻らないんだけど
34 :風吹けば名無し
今日家族写真撮ってきたんだけど話聞いてね(強制)
35 :風吹けば名無し
そ、そうか
36 :風吹けば名無し
ま〜たなにかあったんだな
37 :風吹けば名無し
強制は草
38 :風吹けば名無し
唐突に自分語りされるよりはマシやろ
39 :風吹けば名無し
あ〜で、どうだったん?
40 :風吹けば名無し
話乗ってあげるのやさしい
41 :風吹けば名無し
強制も何も勝手に書けばええだけやん
42 :風吹けば名無し
スマンが流れの切出し方がおもろい
43 :風吹けば名無し
カメラマンの対応がね、変様者ありでも普通だったんや
44 :風吹けば名無し
商売やってんだからあたり前やろそれは
45 :風吹けば名無し
最近はそうだろ
46 :風吹けば名無し
まあ慣れてない所はまだおるけどな
47 :風吹けば名無し
でもあることがあったんや
あ、ちなみに変様者は俺と母ちゃんがなっとるわ
48 :風吹けば名無し
変様者は2人か
49 :風吹けば名無し
コミュ障かよお前ww
50 :風吹けば名無し
自分語りには変わらんやん結局
51 :風吹けば名無し
内の家族の一人に「お母さん笑ってください」って言ったんや
52 :風吹けば名無し
ん?別に普通やない?
53 :風吹けば名無し
語りが独特すぎる
54 :風吹けば名無し
変様した割にはこの元気さである
55 :風吹けば名無し
俺のこと言ってやってたんや
俺も母ちゃんもちょっと気まずかった
56 :風吹けば名無し
あ〜なるほど
57 :風吹けば名無し
確かにそれは気まずい
58 :風吹けば名無し
カメラマンは悪くないんよな
悪いのはこの現象なんよ
59 :風吹けば名無し
俺もそういうこと後にやらかすと思うわ
60 :風吹けば名無し
そうかぁ
61 :風吹けば名無し
見た目が女子校生だから難しいよね
62 :風吹けば名無し
ワシは父ちゃんが変様して市役所の人が「お父様はいらっしゃいますか?」ってめっちゃ気まずく聞いてきたわwww
63 :風吹けば名無し
あ〜そういう職業はそのあたりも慎重にならなアカンもんね
64 :風吹けば名無し
もうそういう時代なんだな
65 :風吹けば名無し
面倒な世の中だ
愛知県
老人ホーム 昼食
八十二歳の山本 和夫は三か月前に変様した
エプロンを付け静かに味噌汁を飲む
介護士が声を掛ける
「山本さん」
「はい」
「今日はリハビリですよ」
「分かっています」
口調も笑い方も長年この施設で過ごしてきた山本そのもの
だが、初めて面会に来た新人介護士は思わず名札を二度見した。
82歳
見た目は十五歳ほど。
車椅子を押しながら新人は小さく呟く。
「……不思議」
隣にいたベテラン介護士が答える
「最初はみんなそう言うの」
「でもね時間が経つと山本さんは山本さんになる」
国立感染症研究所
午後 症例検討会
秋山が新しい資料を映す
生活実態調査
・学生生活継続 98%
・就労継続 94%
・要介護認定変更なし 100%
教授が眉を上げる
「介護認定」
「変わりません」
「身体能力は」
「外見は変化していますが加齢による疾患や慢性疾患はそのままです。」
「つまり……」
「膝が悪い人は女子高生の姿でも膝が悪いままです」
「認知症も」
「はい」
部屋が静まり返る
一人の研究員が呟く
「若返っている訳じゃないのか」
「違います」
秋山ははっきり答える
「姿だけです」
神奈川県
悠人は美咲と駅前を歩き写真館の前を通る
ショーウィンドウには、
七五三
成人式
卒業写真
そして新しい広告
「キヴォトス症候群の方も安心してご利用いただけます」
という小さな文字があった
目立たない
けれど確かに書かれている。
美咲は立ち止まる
「……増えたね」
「何が?」
「こういうの」
悠人は広告を見る
「そうだな」
それだけだった
特別扱いではない
ただサービスの対象に加わった。
その社会の対応の仕方の自然さが少しだけ怖かった。
秋山の研究ノート
2月2日
今日は病気ではなく写真について考えた
患者の家族写真を何枚も見せてもらった
変様前、変様後
違うのは姿だけで並び方は同じ
笑顔も同じで家族の距離感も同じだ
写真を見ていると時々分からなくなる
「変わった」のは誰なのか。
患者なのかそれとも…
患者を受け入れた家族なのか
深夜
匿名掲示板
811 :風吹けば名無し
うちのばあちゃんの話あんだけと聞いて
812 :風吹けば名無し
いいよ♡
812 :風吹けば名無し
ありがと♡
813 :風吹けば名無し
やさしいせかい
814 :風吹けば名無し
や さ い せ い か つ
815 :風吹けば名無し
ここテン
816 :風吹けば名無し
草
817 :風吹けば名無し
今どきそのネタかよ
818 :風吹けば名無し
いつもの
819 :風吹けば名無し
ソイツのばあちゃんが変様者になった時の話やね
820 :風吹けば名無し
ああ、なるほど
821 :風吹けば名無し
最近色んな年代の人の話聞くな
822 :風吹けば名無し
今までは15歳に注視してばっかだったからな
823 :風吹けば名無し
で、なんの話なの?
824 :風吹けば名無し
ばあちゃんがね「人間、中身が大事」って笑ってたことがあるんだ
825 :風吹けば名無し
良いばあちゃんだな
826 :風吹けば名無し
今どきの環境なら尚更な言葉やね
827 :風吹けば名無し
実際見た目だけじゃ判断できなくなってきているからな
828 :風吹けば名無し
上司が生徒モブになってめっちゃ気まずいゾ……
829 :風吹けば名無し
わかる 俺はクラスの先生がなってて色々と大変やったわ
830 :風吹けば名無し
でね、そのばあちゃんが今日変様者になった
831 :風吹けば名無し
うわ それは色々と来るものがあるな
832 :風吹けば名無し
何歳なのお前のばあちゃん
833 :風吹けば名無し
様子大丈夫そう?
834 :風吹けば名無し
いきなり若い身体になったら色々と調子狂うやろ
835 :風吹けば名無し
羽付きやケモ耳アリだと尚更だからな
836 :風吹けば名無し
八十五歳や
今日も普通に縁側でお茶飲んでる 見た目は普通そうに見えとる
837 :風吹けば名無し
そうか
838:風吹けば名無し
まあ変わっても本人のままではあるからな
839:風吹けば名無し
でも実際変様したらしたでも生活自体は今まで通りにするだけだから
840 :風吹けば名無し
それでも精神的に来る時はくるけど
841 :風吹けば名無し
それは仕方ない
842 :風吹けば名無し
そう、見た目だけなら孫と双子みたいなんだけどね
ただばあちゃん自体も色々と思ってはいそうな感じだった
843 :風吹けば名無し
そりゃそうだろ
十五歳を恐れる家族
五十代で変様する父
八十代で変様する祖母
そして誰もが「昨日までと同じように」暮らそうとする。
世界はまだ壊れていない。
だが、人々の「家族」という当たり前の風景は、気付かないほどゆっくりと、しかし確実に形を変え始めていた。