第二十二話
「重さ」
20XX年3月18日
春が近くなってきておりニュースでは桜の開花予想が出る
そして花粉情報も。
卒業式
世界はいつも通り春を迎えようとしていた
神奈川県
土曜日
悠人は美咲の家へ遊びに来ていた
美咲の父が言う
「悪いんだけどこれ車まで運んでくれない?」
大きい段ボールで中身は本
見た目通りかなり重そうだった
「いいですよ」
悠人が持とうとするが
「……重っ」
思わず声が漏れる
「俺も持つよ」
美咲の父が手伝おうとするが先に美咲が横へ来る
「いや2人じゃ無理だって」
そう言い終わる前に美咲は箱を抱えた。
「……あれ?」
普通に玄関へと歩いていき階段を降りていく
そしてそのままそのまま車まで。
「置くね」
ゴトッ
静かに積み込む。
父と悠人の2人は驚く表情をした
美咲は首を傾げた。
「そんなに重かった?」
悠人は答えられない。
父親が改めて箱を持つ。
「……重いな」
二人で顔を見合わせる
美咲だけが不思議そうに笑っていた。
「私、持ち方が上手だったのかな」
その場では誰もそれ以上考えなかった。
匿名掲示板
【Part6】俺たちまだ戻らないんだけど
478 :風吹けば名無し
今日知り合いの引っ越し手伝った
479 :風吹けば名無し
引っ越しかあ
480 :風吹けば名無し
よくやるな
481 :風吹けば名無し
おつ
482 :風吹けば名無し
年食うとどうしても手伝って貰わんとキツイよね
483 :風吹けば名無し
まあその時に思ったことなんだけどさあ…ろ
洗濯機ってあんな軽かったっけ
484 :風吹けば名無し
えw
485 :風吹けば名無し
いや洗濯機は普通に重いやろ
486 :風吹けば名無し
筋トレとかした?
487 :風吹けば名無し
(何言ってんだこいつ……)
488 :風吹けば名無し
お?筋肉自慢か?
489 :風吹けば名無し
どんだけマッチョ何だよwww
490 :風吹けば名無し
いや、特にしてないんだよそれが
変様してさあ一応あの成りだから筋肉が寧ろ減ったように思ったんだけどなぁ
491 :風吹けば名無し
アドレナリンか?
492 :風吹けば名無し
運び方がよかったんでしょ
493 :風吹けば名無し
気合だろ
494 :風吹けば名無し
たまたま調子よかったんちゃう?
495 :風吹けば名無し
人手足りなかったから必死だっただけ
496 :風吹けば名無し
かなぁ
497 :風吹けば名無し
まさか身体能力もブルアカ基準だったりw
498 :風吹けば名無し
いやいやまさかそんな都合のよいことある?
499 :風吹けば名無し
だよなぁ
500 :風吹けば名無し
それだったらもっと話題にならん?
・
・
・
話題はすぐ流れその場では誰も深く考えなかった
北海道
村上は町内会の雪囲いを手伝っていた。
木材を運び柱を立てる
そしてロープを張る
近所の男性が喋る
「山本さんより力あるじゃないか」
「昔から力仕事は好きでしたから」
村上が笑う
八年前なら二人で持っていた柱だが今日は一人で持てた。
「……歳取ると不思議だ」
そう言って笑った
その時は誰も違和感を口にしなかった
国立感染症研究所
午後
秋山は症例報告を読んでいた
その中に少し変わった記述がある。
「患者本人は重い荷物を以前より楽に運べると証言」
二件目
「農作業中疲れにくくなったとの自己申告」
三件目
「筋力測定では異常なし」
「……」
秋山は止まる
筋力測定は正常。
生活では「少し楽になった」
少し矛盾している。
教授が近付く
「どうした」
「気になる報告が」
資料を渡し教授は読む。
「主観だな」
「はい」
「思い込みかもしれない」
「……そうですね」
そう結論付けるしかなかった
まだ証拠がない。
愛知県
ホームセンター
二十キロの大型の園芸用土レジ前へと運ぶため変様者の女性がカートへと積もうとする
それを見た店員が声を掛ける
「お運びします」
「あ、大丈夫です」
「かなり重いですよ」
「平気です」
女性は笑って軽そうに持ち上げる
そしてそのまま普通に車まで歩いていく
店員は首を傾げる
「最近の子って力あるなぁ」
隣の店員が笑う
「部活でもやってるんじゃない?」
その程度だった
秋山の研究ノート
3月18日
最近「重い物が軽く感じる」という証言が少し増えた
筋力測定では異常なし
血液検査も正常
骨密度も正常
気のせい、生活習慣、運動不足の改善
いくらでもそれっぽい説明はできる
それでも偶然にしては同じ内容が少し多い。
最後に小さく書き足す。
「測定方法が間違っている可能性はないだろうか」
深夜 匿名掲示板
701 :風吹けば名無し
今日バイトでめっちゃ重い荷物運んだわ
702 :風吹けば名無し
ふうんお疲れ
702 :風吹けば名無し
バイトなに?
703 :風吹けば名無し
宅配?
704 :風吹けば名無し
スーパーや
705 :風吹けば名無し
なに運んだん?
706 :風吹けば名無し
野菜かな
707 :風吹けば名無し
米30kg持った しかも一人で
708 :風吹けば名無し
へー力あるな
709 :風吹けば名無し
また力自慢かよ
710 :風吹けば名無し
30㌔はなかなか重いやん
711 :風吹けば名無し
嘘つけ俺はムリだったぞ
712 :風吹けば名無し
いやそれが思ったよりもスイスイ運べたんよ
713 :風吹けば名無し
マジ?
714 :風吹けば名無し
普通に羨ましいゾ……
715 :風吹けば名無し
腰にくるから無理するなよ
716 :風吹けば名無し
なんかやろうと思えば50も一人でいけそうなんだよな
717 :風吹けば名無し
調子乗るなよ
718 :風吹けば名無し
流石にない
719 :風吹けば名無し
図に乗るのも大概にしとけよ
720 :風吹けば名無し
盛りすぎや
701 :風吹けば名無し
ないか流石にw
702 :風吹けば名無し
でも俺も今日似たようなこと思った
702 :風吹けば名無し
え、マジw
703 :風吹けば名無し
変なとこで張り合うな
704 :風吹けば名無し
そんな重いもの運ぶ機会そんなあるか?
705 :風吹けば名無し
いや、私も最近重いものは調子いいんだよな
706 :風吹けば名無し
マジ?
707 :風吹けば名無し
なんぞそれ
708 :風吹けば名無し
え?そんなここ筋肉野郎ばっかなスレなわけ?
709 :風吹けば名無し
ちなお前変様者?
710 :風吹けば名無し
うん変様者で農家だけど肥料袋が妙に軽かった
711 :風吹けば名無し
これマジ?
712 :風吹けば名無し
偶然?
713 :風吹けば名無し
真面目に身体能力もブルアカ基準か?
714 :風吹けば名無し
それだけだと何とも言えん
715 :風吹けば名無し
身体女になって下がるって話はある?
716 :風吹けば名無し
そういう話は聞かんな
717 :風吹けば名無し
病気などは引き継ぐくらいしかないよな
718 :風吹けば名無し
う〜ん信憑性がないからなあ
719 :風吹けば名無し
もしかして銃に撃たれても平気かもよw
720 :風吹けば名無し
やめーやまだ解ってないんやから
721 :風吹けば名無し
というかここ日本ですよ?銃に撃たれる機会なんかあるわけないやん
722 :風吹けば名無し
まああくまでブルアカ基準での推測っということで
723 :風吹けば名無し
これ以上俺の身体になんかあんの嫌なんだけど
724 :風吹けば名無し
そもそも銃に撃たれたくないんですがそれは
725 :風吹けば名無し
でも身体能力が上がっているんならいいことじゃね?
726 :風吹けば名無し
極端な言い方だけどミカレベルの奴が徘徊するだけでもかなり怖いぞそれ
727 :風吹けば名無し
透き通った世界基準は現代世界だと普通にヤバいんよ
728 :風吹けば名無し
ま、まあ確証もまだないんやから……
729 :風吹けば名無し
お?今日のレスバ会場はここですか?
スレッドはその話題で少しだけ伸びた
しかし結局誰も結論は出せなかった
「気のせいじゃないか」
「今日は調子が良かっただけ」
「春だから」
そんな言葉が並び話題は別の雑談へ流れていく。
その夜。
秋山は研究所を出る前にふと自動販売機の前で立ち止まった。
缶コーヒーの箱が補充のために積まれている
業者が一人で軽々と運んでいるように見えた。
「……」
何気なく視線を向ける。
よく見るとその業者の頭上には小さく淡い光輪が浮かんでいた。
業者は鼻歌交じりに箱を運び終え汗を拭きながら笑う。
「最近は妙に体の調子がいいな」
その言葉は秋山意外の誰にも聞かれることなく春の夜風へ溶けていった。