第二十五話
「設定資料集」
20XX年6月3日
六月
梅雨入りで傘を差す人々が沢山いる
変様者は初期と比べてもかなりの数を超えた
ニュースの扱いも変わり始めてきた
速報ではなく社会面の一項目の扱いとなり天気予報の後でも五分ほど流される
それくらいの日常になっていた
国立感染症研究所
会議室
机の上には奇妙な光景が広がっていた。
論文、医学書、解剖図、そして……
その隣に置かれている一冊
『ブルーアーカイブ オフィシャルアートワークス』
新任研究員が思わず聞く
「……本当に使うんですか?」
秋山は頷いた
「現時点で一番まとまった資料です」
「ゲームですよ?」
「ええ」
「ですが…」
学生証、制服、校章、光輪
今のところ最も正確に描かれているのもその元ネタのゲームだった
教授がページをめくる
「ミレニアムサイエンススクール」
「はい」
「制服のボタン配置」
変様者の制服と見比べる
一致した。
「袖」 一致
「靴」 一致
「……」
教授は眉をひそめた
「ここだ」
学生証である
ゲーム画面と写真を比較する
「裏面がないな」
「はい」
「ゲームや資料では描写されていません」
「患者の学生証には?」
秋山は一枚の写真を差し出す
裏面には小さな文字で以下のことが書かれていた
細かな規則、校内連絡先、QRコード…
誰も知らない情報である
ゲームや資料には存在しないものだった
「……」
部屋が静かになった
匿名掲示板
【Part8】俺たちまだ戻らないんだけど
104 名前
お前ら学生証の裏見たことある?
105
あ、ちな変様者の例のアレの方な
106
裏側?
107
特にないな
108
あ〜色々書いてある
109
え?なんかあんの
110 名前
ある
111
ほうほうこれが裏側か
どわーっ確かになんか重要そうなこと書いてある!
112
表の自分の顔見て満足してたゾ…(池沼)
113 名前
何書いてあるの?
114 名前
校則とかルール色々
118 名前
え?それだけ?
119 名前
「授業開始五分前には着席すること」
とかあたり前のやな
120
それがどうした
121
別に異常じゃないやん
122
解ってないなぁ君たち……
校則つっても『ブルアカ』の校則やぞ
123
あー!そういうこと
124 名前
それマジ?
124
え?てことは知らん情報があるってこと!?
124
そうだよ(驚愕)
125
これマ?
126
そうだよなよく考えたらミレニアムとかの校則とか詳しく知らんよな
127
そうやどうしてそんな重要なこと書かれとんのに意識してなかむたんや
128
ただの学生証としか見てなかったせいですね
129
これかなり重要な情報やない?
130 名前
そんな設定ゲームにあったっけ?
131
詳しくは表記されてないと思われ
132
ストーリーの流れで数個くらいなら出てたんやない?主要高校ごとは知らん
133
公式設定資料にあったっけ?
134
そこまでは知らんがそんな細かくは乗ってないんやないの?
135
え?これ久々にヤバいやつじゃね?
136
普通にブルアカ本編考察に使えないそれ?
137 名前
変様者関係無しに今回はブルアカ関係ありで激ヤバやない?
とんでもない情報が突如湧きスレッドは一気に伸びる
今回の件では変様者だけでなくブルーアーカイブ関連のスレッド等も大きく伸び始めた事件となった
神奈川県
悠人は美咲の学生証を借りる
「裏、見てもいい?」
「いいよどうぞ」
裏返すと細かな文字がある
読んでみると
学生証は校内において常時携帯すること
施設利用時は提示を求められる場合があります
紛失した場合は所属学園学生自治会へ届け出ること
悠人は止まる
「学生自治会?」
「うん」
「連絡先ある」
番号やメールアドレス、そしてQRコード
「試した?」
「もちろん」
「どうだった?」
「読み込めない」
「エラー?」
「ううん」
美咲は首を横に振る
「『接続先が存在しません』って」
二人はしばらく学生証を見つめていた。
国立感染症研究所
午後
秋山はQRコードを拡大する。
解析したら偽物ではないと出た
通常規格で読み取れるしデータも存在する
しかし接続先だけが存在しない。
「……」
教授が呟く
「作りかけではない。」
「はい」
「完成している」
「はい、繋がる先だけがありません」
秋山の研究ノート
6月3日
今日はゲーム資料と比較した
一致率は極めて高い
しかし完全一致ではない。
学生証裏面
校則
設備案内
校内電話番号…
ゲームに存在しない情報が現実には存在する。
それはゲームが後付けした設定にも見えるし逆に本物を省略したデザインにも見える。
どちらなのか分からなくなるほどであった
北海道
村上は夕方近所の中学生に呼び止められる。
「すみませんちょっといいですか?」
「はい?」
「その制服ですが…」
「はい」
「ゲームのコスプレですよね?」
村上は少し考え
「……そう思います?」
苦笑する。
「よくできてますよね?」
中学生は笑う。
「完成度すごいですね。」
「ありがとう」
村上は歩き出す。
十メートルほど進んだところで小さく呟いた。
「本当に…コスプレだったら良かったんだけどね」
深夜・匿名掲示板
622 名前
例の学生証の裏読んでみた
623
い〜な〜
624
普通に気になる
625
お?気になるか?じゃあ変様者になろうか♡
626
え、遠慮しとくわ
627
切り返しが強すぎる
628
まあ期待するほど形抜かしするけどな
629
ホントに普通のことしか書かれてないぞ
630 名前
え〜?本当は何か面白いことあるんやろ?
631 名前
いやそれが校則普通だったんよ
632 名前
普通?
633 名前
めちゃくちゃ普通
634
まあ主要校ごとの特徴は出てるけどそれといった特別感はない
635
ホンマか?あのキヴォトスやぞ1個や2個くらいとんでもないのは書いてあるやろ
636
そうでもないんだよな まあ表現や描き方はキヴォトスナイズはされてはいるがまあ、普通って感じ
637
へーなんか意外や
638 名前
禁止事項とかどう??
639 名前
「授業中の私語は禁止」
「校内では節度ある行動を」
「備品は大切に」
とあまあそんなもんよ
640
ふ、普通だ……!
641
授業中銃を弾くなとかないん?
642
う、嘘だ…!ぼくらのブルアカならもっととんでもない事項がある筈や!
643
期待しすぎwただの校則なんやて
644
なんか盛り上がった割には形抜かし感凄い
645 名前
まあ結局校則やし
646
それでも各高校の規則知れるのはおもろいよ
647
わかる
648
なんかゲームの裏側を知れた感はある
649
それぞれの雰囲気とかそういう独特なのが描き方や規則に描かれてるのが良い
650
昔で攻略本見た気持ちに近い
651 名前
もっとゲームっぽいかと思った
652
>>650なんか懐いと思ったらそれや!
653
というかこれ公式(ブルアカ)として合ってるん?
654
それは流石に開発者本人に聞かんと分からんやろ
655
あの社長なら案外各高校ごとで設定まで考えてるんやない?
656
ということは意外な所からのリークってこと!?
657
場合によってはそうなるよなまあ無いと思うけどw
658
(スレが)消される!消される!
659 名前
でも改めて見ると校則からすると普通の学校なんだな
660
スレを見ることはあってもそこまではないかと…
661
まああの頭キヴォトスでも学校は学校やからな
662
そら学校として成り立たんと意味ないからな
662
でも普通に生活感感じるよな
664 名前
ある意味それが一番怖い
665
あー確かに
666
なんか薄気味悪い感じはある
667 名前
え?どういう事?
668 名前
架空の学校なのに"ちゃんと日常がある"みたいじゃん
669
あーそう考えると怖いわ
670
確かに
スレッドはそれ以降少し大人しくなった。
話題や盛り上がりはするがその薄気味悪い感覚はスレ住民の中で感じることとなった
「アビドス高等学校」
「トリニティ総合学園」
「ゲヘナ学園」
それらはゲームの中での舞台だった。
しかし変様者が持つ学生証の裏には「遅刻をするな」「備品を大切に」といった、ごく普通の学校生活が記されていた。
その何気ない校則がかえって「そこには本当に学生生活が存在しているのではないか」という説明のつかない不安を人々の心へ静かに植え付け始めていた。