第二十七話
「印刷ミス」
20XX年7月16日
七月
学生たちは夏休みを待っていた
変様者も、変様していない人も暑さだけは平等だった。
東京都・区役所
午前 住民票の発行
女性職員がプリンターから書類を受け取る。
確認、氏名、住所生年月日…
何も問題はない、はずだった。
次の一枚
「あれ?」
職員は紙を見直した。
備考欄
普段は空白の場所である
そこに一行だけ印字されていた
所属学園:トリニティ総合学園
「……?」
職員は瞬きをする。
もう一度よく眺めてから印刷し直した
今度は空白だった
プリンターの不具合、若しくは写し元のミス、彼はそう判断した
その例の紙はシュレッダーへ直ぐ入れられる。
その一枚は誰にも見られることなく消えた。
匿名掲示板
【Part9】俺たちまだ戻らないんだけど
403 :風吹けば名無し
今日役所行った
404 :風吹けば名無し
変様者になったからか?
405 :風吹けば名無し
うん 色々と変更しなきゃいけなくなったから
406 :風吹けば名無し
大変だな
407 :風吹けば名無し
認知され始めてからはこれでも対応良くなったほうやで
408 :風吹けば名無し
初期は向こうも混乱してなんにも手がつけれてなかったからな
409 :風吹けば名無し
普通はそうや
410 :風吹けば名無し
逆に今はよう対応できてる
411 :風吹けば名無し
お前の時はどうだった?
403 :風吹けば名無し
皆の通り受け付けは何もなく進んだんやけど受付の人が一回固まったのが気になった
412 :風吹けば名無し
またか
413 :風吹けば名無し
また?なんかあんの
414 :風吹けば名無し
最近資料を二度見する人が増えてんだよ
415 :風吹けば名無し
そんなに変か?
416 :風吹けば名無し
確認するのは変じゃないやろ
417:風吹けば名無し
寧ろ最近だと増えてあたり前でもある
418 :風吹けば名無し
容姿にとらわれずに行わんといけんからな
419 :風吹けば名無し
でもそういう見方ではなかったんよ アレ?って感じのふと二度見するかんじなんよ
420 :風吹けば名無し
それお前の主観が変なだけやろ
421 :風吹けば名無し
意識しすぎっていうwww
422 :風吹けば名無し
い〜やアレはなんかあった時のヤツだったな
423 :風吹けば名無し
え〜ほんとでごさるか〜?
424 :風吹けば名無し
でも何も言われなかったんやろ
425 :風吹けば名無し
まあ……そうだが
426 :風吹けば名無し
草
427 :風吹けば名無し
やっぱ気のせいなんだって
428 :風吹けば名無し
そうかなぁ
419 :風吹けば名無し
でも最近そういうの多いよね
話題はそこで終わる
本人は知らない 備考欄に何が印字されていたかを。
国立感染症研究所
午後
秋山のもとへ一本の電話
「区役所からですが」
「はい」
「相談というほどではないのですが……」
「住民票の備考欄に一瞬だけ"所属学園"という文字が印字された現象が発生したらしいです 現在のところは再現できません」
秋山は黙る
「記録は残っていますか」
「ありません すぐ廃棄されてしまいました」
「そうですか」
電話を切る
教授が尋ねる
「どうした」
秋山は答える
「……印刷ミスらしいです」
「印刷ミス?」
そう言いながらノートには書かなかった
代わりに個人用メモへ一行だけ残す。
住民票誤印字(未確認)
神奈川県
悠人はアルバイト先のスーパーにいた。
新しいネームプレートが届く。
「佐藤 悠人」
問題ない。
隣で働く美咲も付け替える
その時新人アルバイトが首を傾げる。
「……あれ?」
「どうした?」
「いや、なんでもないです」
美咲のネームプレートを見つめる
ほんの一瞬だけ彼の目にはそのプレートに
「トリニティ総合学園」
そう見えた気がした
瞬きをするが普通のネームプレートだった
「……疲れてるな」
その新人バイトの子は誰にも言わなかった
秋山の研究ノート
7月16日
今日「印刷ミス」の報告があった
証拠なし、再現性なし……
現象として扱うには弱すぎる
だから公式記録には残さない
しかしこの半年の間で「弱すぎる違和感」が積み重なって現実になってきた。
私は最近"気のせい"という言葉を書くことが多くなり怖くなってきた
北海道
村上は古いアルバムを整理していた
去年の旅行、孫の運動会、法事
何も変わらない
ページをめくると一枚だけ写真の裏に鉛筆で文字があった。
トリニティ校舎前
「……?」
村上は首を傾げる
「こんなの書いたかな」
写真を見る
写っているのは北海道の時計台でいつもの観光写真だった
裏だけがおかしかった。
何も考えずに消しゴムでこする
それは普通に消えた
「書き間違いか…?」
彼はアルバムを閉じた
深夜・匿名掲示板
904 :風吹けば名無し
最近さ 気のせいかもしれんけど
905 :風吹けば名無し
なんだよ
906 :風吹けば名無し
変にためるなw
907 :風吹けば名無し
お?今日のかまってちゃんか?
908 :風吹けば名無し
自分語りが多すぎる
909 :風吹けば名無し
前置き怖くするな
910 :風吹けば名無し
プリントや資料とかで文字が一瞬違って見えることない?
911 :風吹けば名無し
お前の目が悪いとかでなく?
912 :風吹けば名無し
そんなんじゃない 本当に書いているのと違って見えること
913 :風吹けば名無し
なにそれ?
914 :風吹けば名無し
ちょっと言っている意味がわかりかねますね
915 :風吹けば名無し
どういう意味?
916 :風吹けば名無し
あー俺あるかも
917 :風吹けば名無し
それマジ?
918 :風吹けば名無し
え?どういう事なの?
919 :風吹けば名無し
電車の広告で一回だけなんだけど広告の内容がなんか一瞬ありえない内容に見えたんや まあほんとに一瞬だから見直したら元のヤツだったけど
920 :風吹けば名無し
うん?結局どういう事?
921 :風吹けば名無し
空見をしたってだけやろ
922 :風吹けば名無し
自分は教科書の地図であった
523 :風吹けば名無し
うん?
924 :風吹けば名無し
俺はレシート
925 :風吹けば名無し
映画館の広告で今日あった
926 :風吹けば名無し
テストの問題で一瞬よくわからん文章になってて焦ったことある
927 :風吹けば名無し
え なにそれ
928 :風吹けば名無し
集団幻覚?
929 :風吹けば名無し
ここは老眼持ちの多いインターネッツですね
930 :風吹けば名無し
疲れてるだけやろw
931 :風吹けば名無し
焦ってただけとちゃうん?
332 :風吹けば名無し
というか言いたいことがよくわからん
933 :風吹けば名無し
だよな
934 :風吹けば名無し
結局何が起こったの?
935 :風吹けば名無し
変様者の間で起きてんのかそれは
936 :風吹けば名無し
いや、俺普通だけど言ってることわかる
937 :風吹けば名無し
俺も
938 :風吹けば名無し
自分もなんとな〜くこれかなって出来事かなと
939 :風吹けば名無し
変様者だけの現象ではないのか
940 :風吹けば名無し
余計わけわからんw
941:風吹けば名無し
気のせいでなければオラには地図の地名で「ゲヘナ」って見えた
942 :風吹けば名無し
自分は資料の名前で「ミレニアム」の単語が見えた
943 :風吹けば名無し
俺だけじゃなかったのか
944 :風吹けば名無し
え?そういうことなの?
945 :風吹けば名無し
こわっ
946 :風吹けば名無し
なんか段々侵食されていってねそれ
947 :風吹けば名無し
怖いこというなよw
948 :風吹けば名無し
人類社会キヴォトス化計画ってこと!?
949 :風吹けば名無し
陰謀論やめろ
その日の深夜、秋山は研究所の窓から街を眺めていた。
交差点、コンビニ、信号、広告看板
何一つ変わっていない
それでも心のどこかでこう思ってしまう。
「本当に変わっていないのは景色の方なのだろうか」
その答えはまだ誰にも分からなかった。