第三話
「偶然というには」
20XX年4月22日
変様確認例:5
(一般には未公表)
スレッドは当初の思惑とは外れて残っていた。
そんなに話題になっているわけではないが住人たちは半分遊び半分で書き込み続けている。
匿名掲示板
【悲報?】俺、キヴォトス生徒になったwwww【朗報?】
812:風吹けば名無し
スレ主まだ戻らない?
813:スレ主
いる
814:風吹けば名無し
おっ帰って来た
815:風吹けば名無し
このわけわからんスレもよう残っとるな
816:風吹けば名無し
スレ主暇人かよw
817:風吹けば名無し
おい仕事はどうした
818:風吹けば名無し
確かに
819:風吹けば名無し
というか行けるのその状態で
820:風吹けば名無し
マジかもわからんのに仕事の心配とかwww
821:風吹けば名無し
未成年の成りすましスレじゃないの?
822:スレ主
仕事には行ってる
823:風吹けば名無し
行ってるのか(困惑)
824:風吹けば名無し
マジかよ
825:風吹けば名無し
いや無理があるでしょ!
826:風吹けば名無し
普通に追い出されるだけだろ
827:風吹けば名無し
お前頭おかしいよ…
828:風吹けば名無し
マジだとしても会社クビだろ
829:スレ主
普通に出勤できてる
830:風吹けば名無し
嘘松
831:風吹けば名無し
ええ…
832:風吹けば名無し
お前の会社管理ガバガバかよぉ!
833:風吹けば名無し
法的に無理がありすぎる
834:風吹けば名無し
社員です(見た目未成年コスプレイヤー)
よし通れ!
835:風吹けば名無し
新手のコントかよ
836:風吹けば名無し
草
837:スレ主
最初は勿論受付に止められた
社員証と病院でもらった証明書見せたら何とかなった
838:風吹けば名無し
そら受付は止めるよな
839:風吹けば名無し
なんか逆に安心したわw
840:風吹けば名無し
当たり前だよなぁ?
841:風吹けば名無し
取りあえず通されたの?
842:スレ主
通された
かなり渋られたが証明書と上司の許可で何とかなった
843:風吹けば名無し
まあ何とかなったんならよかったんちゃうん?
844:風吹けば名無し
【悲報】自称社員の未成年コスプレイヤーが会社に通されてしまう
845:風吹けば名無し
やwめwたwれw
846:風吹けば名無し
まあ責任は上司に発生するし
847:風吹けば名無し
ぜってー上は何かの冗談だと思ってたやろなぁ
848:風吹けば名無し
会社というか受付どういう反応やった?
849:スレ主
「佐々木さん……ですよね?」
って30分くらい確認された
850:風吹けば名無し
まあそらそうやろうなあ
851:風吹けば名無し
というかよく30分ですんだな
852:風吹けば名無し
そら他の業務もあるだろうし…
853:風吹けば名無し
結局受付の人に迷惑かけてて草
854:風吹けば名無し
というか仕事できたの?
855:スレ主
普通に会議した
856:風吹けば名無し
マジかよw
857:風吹けば名無し
相手笑わなかった?
858:スレ主
最初は困惑してたけど…最初だけだった
慣れたらいつも通りの空気だった
859:風吹けば名無し
ふうんそんなもんか
860:風吹けば名無し
まあ仕事はできてるからな
861:風吹けば名無し
世の中案外慣れるもんなんだな
その最後の慣れという一文は、誰にも印象を残さなかった。
だがこの「慣れ」というものがどんな重要になっていくかなんてスレ住民はこの時は思ってもみなかった
東京都
株式会社 東央物流
営業部 午前九時 会議室
十人ほどが座っている
その中に一人制服姿の少女
「それでは今月の売上ですが…」
誰もが目を逸らしていた いや、見ないようにしている
見れば現実だと認めてしまうからだ
部長だけが咳払いをして言った
「……佐々木君」
「はい」
「仕事は……続けられそう?」
「できます」
「…そうか」
沈黙
結局会議は何事もなく進んだ
数字も、資料も、議題も…
昨日までと同じ。
違うのは…営業部に少女が一人いることだけだった。
宮城県
高橋家
夕食
父、母、亮
三人とも無言だった。
ようやく父が口を開く。
「学校は?」
「休んだ」
「そうか」
また沈黙。
テレビではニュースが流れている
『各地で春の行楽日和となっています』
平和な映像
桜、観光客。
それを見ながら母がぽつりと言う。
「……夢じゃないのね。」
亮は答えられなかった。
SNS
「この子見た」
「秋葉原でブルアカのコスプレしてる人いた」
「完成度すごかった」
「最近流行ってるの?」
数件写真付き投稿
だが写っているのは皆別人だった。
偶然なのか、本物なのか
区別は付かない。
東京都
○○大学附属病院 内科カンファレンス
研修医が資料を映す。
「今月だけで三例です。」
教授が眉をひそめる。
「三例?」
「はい」
「全部別人です」
「家族歴」 「なし」
「薬物」 「陰性」
「遺伝」 「一致なし」
「感染症」 「陰性」
教授は腕を組む
「……似すぎている」
資料には写真が並ぶ。
五人、全員違う顔 全員違う髪 違う制服。
しかし全員が…
「キヴォトスのモブ生徒」としか表現できない姿をしていた。
若い医師が遠慮がちに口を開く。
「先生」
「何だ」
「全員……ゲームに出てきそうですよね」
教授は苦笑した。
「私はゲームはやらん」
会議室に小さな笑いが起きる。
だが誰も否定できなかった。
とある匿名掲示板
時刻 夜
902 名前:風吹けば名無し
今日駅で見た
903名前:風吹けば名無し
何を?
904 名前:風吹けば名無し
このスレみたいな子
905 名前:風吹けば名無し
コスプレだろ
906 名前:風吹けば名無し
制服着てた
907 名前:風吹けば名無し
イベント?
908 名前:風吹けば名無し
通勤ラッシュだった
909 名前:風吹けば名無し
ふうんそうなんだ
910 名前:風吹けば名無し
俺も見たかも
911 名前:風吹けば名無し
どこ?
912 名前:風吹けば名無し
新宿
913 名前:風吹けば名無し
俺は名古屋
914 名前:風吹けば名無し
お前ら便乗しすぎww
915 名前:風吹けば名無し
でも最近ちょっとそういう報告多くね?
そこから数スレ分、珍しく静かになった。
「多い」
その一言を誰も笑わなかった。
同日 午後11時41分
国立感染症研究所 当直室
若い研究員がデータベースを開く。
全国の大学病院から共有される原因不明症例
検索欄に入力する
「全身形態変化」
検索結果 5件
「……」
一件
東京
二件目
宮城
三件目
大阪
四件目
福岡
五件目
北海道
研究員は椅子にもたれた。
「……偶然?」
日本地図を開く 赤い印が五つ
互いに何の接点もない。
年齢も
職業も
性別も
生活環境も
共通するものは一つだけ
「15歳以上であること」
それだけだった。
彼はまだこの条件の意味に気付いていない
画面を閉じる前に小さく独り言を漏らす。
「少し……気持ち悪いな」
その夜、日本でどこにでもいる民間人が眠りについた。
そして翌朝、目覚めた時には——まだ誰にも知られていない新たな「キヴォトスのモブ生徒」が一人、静かに世界へ加わることになる。