第三十二話
「分布」
20XX年10月4日
朝の空気は少しだけ冷たくなった
変様者は初期よりもはるかな数を超えた
ニュース番組では「変様者」という言葉よりも「キヴォトス症候群」という呼び名の方が定着し始めていた。
国立感染症研究所
午前九時 定例会議
スクリーンに新しい統計資料が映し出される。
【変様学園別集計】
アビドス高等学校 ◯例
ゲヘナ学園 ◯◯◯例
トリニティ総合学園 ◯◯◯例
ミレニアムサイエンススクール ◯◯◯例
百鬼夜行連合学院 ◯◯◯例
山海経高級中学校 ◯◯◯例
レッドウィンター連邦学園 ◯◯◯例
ヴァルキューレ警察学校 ◯◯◯例
ハイランダー鉄道学園 ◯◯例
SRT特殊学園 ◯◯例
アリウス分校 ◯◯例
ワイルドハント芸術学院 ◯◯例
教授が資料を見ながら頷く
「偏りはあるが極端ではないな」
「はい」
秋山がレーザーポインターを動かす
「地域差もほとんどありません」
北海道で百鬼夜行
沖縄でレッドウィンター
ブラジルでゲヘナ
ドイツで山海経……
国籍も文化も関係なく学園はランダムだった
まるで誰かが無作為抽選でもしているかのように
教授は最後の一行を見る
連邦生徒会 0例
「……ここだけ、まだか」
秋山も静かに頷いた
「存在しません」
秋山の研究ノート
10月4日
統計を見ても法則性は見つからない
学園と年齢
学園と性別
学園と地域
学園と国籍…
何一つ相関しない
唯一の例外は連邦生徒会だけ確認例がない
偶然だろうか
または知られていない何かしらの法則があるのだろうか
匿名掲示板
【Part11】俺たちまだ戻らないんだけど
18 :風吹けば名無し
そういえばみんな何校?
19 :風吹けば名無し
唐突だな
20 :風吹けば名無し
というか今更w
21 :風吹けば名無し
いや、なんか気になるじゃん
22 :風吹けば名無し
まあわかるけど
23 :風吹けば名無し
でもそれ需要ある?
23 :風吹けば名無し
ある人にはある
24
今だからっていうのもあるんじゃね? 前の時よりも経っているし
25
そういうもんか
24 :風吹けば名無し
じゃあ俺から
ミレニアム
25 :風吹けば名無し
あうっいきなりはじまるのかあっ
26 :風吹けば名無し
ゲヘナ
27 :風吹けば名無し
トリニティですわ〜
28 :風吹けば名無し
百鬼夜行や
29 :風吹けば名無し
ミレニアム
30 :風吹けば名無し
山海なんとかかんとか
31 :風吹けば名無し
自分もトリニティ
32 :風吹けば名無し
ワシはゲヘナ ツノが邪魔なんや
33 :風吹けば名無し
赤冬 ただし地元は沖縄
34 :風吹けば名無し
ヴァルれ!開けロイド警察だ!
35 :風吹けば名無し
SRT 細身なのになぁ
36 :風吹けば名無し
ミレニアム やけど自分文系なんすわ
37 :風吹けば名無し
アリウス ちょっと不穏です
38 :風吹けば名無し
結構均等にはおるんやな
39 :風吹けば名無し
そらそうやろ
ちなワイはハイランダー
40 :風吹けば名無し
お、珍しい
41 :風吹けば名無し
実は鉄道好きだからちょっと嬉しい
42 名前
俺レッドウィンター
42 :風吹けば名無し
自分やないけど婆ちゃん山海経だった
43 :風吹けば名無し
自分以外もアリなんかよw
44 :風吹けば名無し
別に正確にやってるわけやないんやしええやん
45 :風吹けば名無し
そもそも突発的すぎだし正確も糞もないしな
46 :風吹けば名無し
そんなもんか
じゃあワイのオカン百鬼夜行や
着物についてなんかすげーとか言ってた
47 :風吹けば名無し
会社の課長ヴァルキューレ あくどい事しとんのに草生える
48 :風吹けば名無し
SRTだけど何か質問ある?
49 :風吹けば名無し
自分アリウスです……
50 :風吹けば名無し
ポの彼氏が変様して山海経になったゾ……
しかもロリ枠 犯罪臭がヤバすぎぃ!
51 :風吹けば名無し
ワイルドハントいる?
52 :風吹けば名無し
ワイやで
53 :風吹けば名無し
お〜初めて見た
スレッドは以前よりは穏やかだった。
「どこの学園だった?」
それはもう血液型や出身地を尋ねるような話題になりつつあった
北海道
村上は病院の待合室にいた
隣へ座った女性の制服はミレニアム
七十代くらいである
「「こんにちは」」
自然に会話が始まる
「私はレッドウィンターなんですよ」
村上が笑う
「私はトリニティです」
「違う学校ですね」
「ええ」
「同級生にはなれませんね。」
二人とも笑った
待合室にいた人も少し笑う
半年前なら絶対にあり得なかった会話だった
神奈川県
悠人は美咲と書店へ来ていた
その目的はブルーアーカイブの設定資料集
以前より売れており特設コーナーまで出来ていた
とある高校生くらいの少年が店員へ聞く
「山海経の資料ってあります?」
「こちらです」
別の女性は
「ヴァルキューレ関係ありますか?」
「申し訳ありません 今品切れです」
悠人は呟く
「ゲームの攻略本じゃなくなってる」
美咲も頷く
「自分の学校を調べる本になってる」
国立感染症研究所
新しい調査対象
「学園ごとの差異」
秋山は各変様者への聞き取りを始める
アビドス
ゲヘナ
百鬼夜行
SRT…などに同じ質問をする
「体調に違いは?」「ありません」
「食事は?」「変わりません」
「好き嫌いは?」「変わりません」
「夢は?」「……言われれば見ないですね」
あまりにも違いがない
見た目以外何も。
教授が資料を閉じる
「本当にただ姿だけなのか……?」
その問に誰も答えられなかった
深夜・匿名掲示板
511 :風吹けば名無し
そういや連邦生徒会いないよな
512 :風吹けば名無し
確かに
513 :風吹けば名無し
一人も聞かないな
514 :風吹けば名無し
バグか??
515:風吹けば名無し
変様現象にバグもエラーもないやろ(マジレス)
516 :風吹けば名無し
ただ確率低いだけじゃね
517 :風吹けば名無し
そもそも発生するのか?
518 :風吹けば名無し
なんかモブ枠で出る感じはしないよな
519 :風吹けば名無し
例外枠じゃね?
520 :風吹けば名無し
なんかそんな感じするよな
521 :風吹けば名無し
でもこんだけ居ていてゼロは逆にすごい
522:風吹けば名無し
そのうち出るだろ
523 :風吹けば名無し
出るもんなのかな
その内容については誰も深く考えてはいなかった
何となく変様の候補には存在しないのではないかという漠然とした間隔があるだけだった
しかし「存在しない」という事実よりも「まだ存在していない」という状態の方がどこか不気味だった
その夜秋山は統計グラフを見つめていた
十二の学園名が並ぶ一覧
そして一つだけ空白のままの欄
連邦生徒会 0
画面のカーソルがその数字の上で静かに点滅していた。
まるでその空欄が世界のどこかで埋まる瞬間を待っているかのように。