ポケモン暮しの庭   作:ゲーマーN

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一年目 春の月
1日/1F ほの暗い森


 ――???

 

 ほの暗い森の奥、そこには底をのぞき込んでも闇しか見えない深い穴があった。穴の内壁から伸びる木の根は、長い年月をかけて大地を抱え込むように張り巡らされている。そして、そのすぐ前には、一匹のポケモンが微動だにせず横たわっていた。

 

「⋯⋯」

 

 全体的に青を基調とした体色で、目元や胸元、両脚は黒く、首回りの体毛だけが薄い黄色をしている。また、両手の甲には、白い突起物がひとつずつぺたんと付いている。イヌ科の獣人――それも幼い子犬を思わせるその姿は、紛れもなく、はどうポケモンのリオルのものだった。

 鳥のさえずり。虫のざわめき。木々の隙間を吹き抜ける、不気味な風の音。倒れていたリオルの身体がぴくりと動いた。何度か身じろぎしたあと、リオルはゆっくりと身を起こす。

 

「⋯⋯ここ、どこ?」

 

 その疑問に答えてくれるものは、何もなかった。どうして自分がこんな森の中にいるのか。ここへ来る前に何をしていたのか。考えてみても、何ひとつ思い出せない。わからない。何もわからない。

 けれど――ひとつだけ、わかっていることがある。

 今、やらないといけないこと。それだけは、なぜかちゃんとわかっていた。

 

「……行こう」

 

 リオルは小さく尻尾をぱたと一度振ると、森の外へ向かっておもむろに歩き出した。

 

 

 

 ――ほの暗い森 1F*1

 

「⋯⋯ここって、もしかして不思議のダンジョン?」

 

 しばらく森の中を歩いていると、やがて視界が開けた。四角い広場の奥には、通路のように細い獣道が続いている。それを見つめていると、頭の奥からひとつの知識が湧き上がってきた。

 不思議のダンジョン。入るたびに地形や落ちている道具が変わる、名前の通り不思議なところ。野生のポケモンも暮らしていて、外から入ってきたポケモンには容赦なく襲いかかる。いざとなったら戦うしかない。

 

「えっと⋯⋯まずは階段、だよね?」

 

 記憶通りなら⋯⋯先に進むためには、次の階層へ通じる「階段」を見つける必要があるらしい。ただ、階段といっても、本当に階段の形をしているとは限らない。裂け目だったり、吊り橋だったり、崖下や崖上へ続く自然の坂道だったりすることも、珍しくはないみたいだ。

 この森の階段がどんな見た目をしているのかは、まだわからない。だけど、ほかの通路とは違うと、ひと目でわかる何かがあるはず。曖昧な知識を頼りに、リオルは獣道を慎重に進んでいく。

 

「あ」

 

 次の部屋へ入ると、早速、一匹のポケモンが眠っているのを見つけた。まるねずみポケモンの分類通り、丸くずんぐりした体型をしており、口からは前歯が出ている、つぶらな目をしたビーバーのポケモン。

 

「ビッパだ」

 

 よほど図太い性格をしているのか、グースカと寝息を立てているビッパだが、傍を通ればすぐに目を覚ますだろう。位置的に避けて進むのも難しい。ここは先手必勝。全ての物質が持つ固有の振動。いわゆる気やオーラと呼ばれる力――波導。それを練り上げ、両の掌の間に青白い光球を作り上げる。

 

「”はどうだん”!」

 

 足音と気配でビッパも気づいたようだが、もう遅い。リオルは一気に距離を詰め、ゼロ距離まで駆け寄ると、掌の間に集めた波導の力を、ビッパへ正面から叩きつけた。

 

「ビパッ!?」

 

 ――こうかは ばつぐんだ!

 

 青白い波導がビッパの胴を打ち抜く。ノーマルタイプのビッパに、かくとうタイプの技は効果抜群だ。不意の一撃をまともに受けたビッパは、短い悲鳴を上げて大きく吹き飛ばされた。

 そのまま地面へ転がったビッパの姿が、見る見るうちに小さくなっていく。ポケモンは戦闘などで衰弱すると、身体が小さくなる習性を持っている。おそらく、ひんし状態になったことで、本能のままに逃げ出したのだろう。

 

「うん」

 

 こくりと頷き、歩みを再開するリオル。S字状の短い通路を進んだ先に、次の部屋がある。すぐには足を踏み入れず、そっと中を覗き込むと、今度は二匹のポケモンが待ち構えていた。

 片方は小型の鳥ポケモン。むくどりポケモンのムックル。もう片方はケムッソだ。地べたに座り込んで眠っている灰色の天敵を起こさないように、赤色の毛虫は足の吸盤を器用に使って、スイスイこちらへ向かってくる。

 

「ケムッ!」

 

”いとをはく”

 

「!」

 

 敵意を示す赤い波導をあらかじめ感じ取っていたリオルに、奇襲は通じない。口から吐き出された糸を軽々と避けると、自らの身を弾丸として、”でんこうせっか”で部屋の中へと飛び出した。

 右手の甲の突起物から伸ばした波導の光剣でケムッソを切り捨て、続けざまに起き抜けのムックルへも振り下ろす。ムックルはひこう・ノーマルタイプのポケモン。弱点と耐性が相殺し合い、”はどうだん”――いや、”はどうけん”のダメージが等倍で入る。

 

「ケムッ!?」

 

「ムックル!?」

 

 それでも、この二匹を倒すには十分な威力だった。二匹の姿が消えていくのをじっと見届けたリオルは、何事もなかったかのように歩き出す。幼い雰囲気からは想像もつかない落ち着きぶりだ。

 三つ目の部屋にも、目ぼしいものは何もなかった。四つ目の部屋にも何もない。そうして五つ目の部屋――そこに、それはあった。

 

「あれかな?」

 

 鳥居……だったと思しき木製の柱が二本。足元の支えはまだ残っているものの、ところどころに苔が生えている。柱の上にあったはずの貫も途中で折れており、朽ちた木片となって地面に落ちていた。

 きっと、あれが「階段」だろう。もし違っていたとしても、ここから先へと進む道は、あそこしかない。そう考えたリオルは、迷いのない足取りで柱の間を潜り抜けた。

 

 

 

 ――ほの暗い森 2F

 

「あっ、お金」

 

 次の階層。眠っていたケムッソを倒してから辺りを見回すと、隅の方に小さな袋がひとつ。拾って中身を確認すると、15ポケが入っていた。大した額ではないが、大切なお金には違いない。なくさないよう、袋ごと肩にかけたカバンにしまっておく。

 ちなみに、このカバンは目覚めたときから身に付けていたものだ。かぶせには、白い翼を持つボールの飾りがひとつ付いている。

 

「ほかにも、何かないかな?」

 

 たった15ポケを見つけただけなのに、リオルはすっかり宝探しのような気分になっていた。次は何が見つかるのだろう。なんだかワクワクしてきた。もちろん、ここが危険な場所だということは忘れていない。足元や周りに注意を払いながら、落ちている物にも目を向けていく。

 

「!! オレンの実だ!」

 

 おかげで――普通に歩いていても見逃さなかっただろうが――リオルは、青色のミカンのような形をした木の実を発見した。弱ったポケモンの体力を回復する薬効があるオレンの実だ。

 自然の恵みが一つになった実。甘味以外の辛味、渋味、苦味、酸味……色々な味が混ざった不思議な美味しさが癖になる。皮ごと果肉をかじるのも十分美味しいが、キンキンに凍らせて冷凍オレンにするのがリオルのお気に入りだった。

 

「これもお金かな?」

 

「ケムッ!!」

 

「!?」

 

 続いて、部屋の中央に置かれた布袋に手を伸ばした次の瞬間――その手の甲に細長い針が突き刺さった。

 痛みに驚いて振り向けば、そこにいたのはケムッソだった。ちゃんと警戒しているつもりだったのに、オレンの実を拾った嬉しさで気が逸れていたらしい。波導による探知も、いつの間にか散漫になっていた。針を抜いた傷口が疼く。この感じは”どくばり”で毒状態にされたのだろう。

 

「”はどうだん”っ!!」

 

 即座に放った反撃の”はどうだん”がケムッソを捉え、ひんし状態へ追い込む。姿が消えていくのを見届けたリオルは、すぐさま左の掌を針の刺さった場所へかざした。自然の息吹を彷彿とさせる緑の輝きが傷口を包み込み、そこから感じる毒の気配が徐々に薄れていく。

 

”いやしのはどう”

 

 最大体力の半分を回復する技、”いやしのはどう”。特殊な調整がされているのか、はたまた別の要因によるものか。たった数秒で、失った体力を取り戻すだけでなく、毒の状態異常までもを癒し切った。

 

「⋯⋯気をつけないと」

 

 短く反省の言葉を漏らしたリオルは、改めて布袋を拾い上げた。中身は10ポケ。少ないけど、やっぱり嬉しい。……と、そこでブンブン首を振る。ダメダメ。嬉しいのは嬉しいけど、今度こそは気を散らさないようにしないと。自分に言い聞かせながら、探索の続きへと戻っていった。

 

 

 

 ――ほの暗い森 3F*2

 

「……なんだろう。嫌な感じがする」

 

 第三階層。これまでの部屋より広めの空間。別に変なものがあるわけではない。むしろ、何もないただの広場のはずなのに――なぜだか妙に肌がざわつく。直感が、本能が、得体の知れない不吉なものを感じていた。

 

「――コロボーシッ!!」

 

 木々の合間から飛び出してきたのはコロボーシ。先端が丸くカールした頭部の触角と首周りを覆うフード、丸い手足が付いたタキシードのような模様の胴体が特徴のコオロギ型ポケモンだ。

 しかし――リオルの目には、そのコロボーシは見るからに異常な存在として映っていた。目付きは険しく、まるで充血したかのように真っ赤に染まっており、体からは絶えず黒くドロドロとした波導を立ち昇らせている。

 

「ダークポケモン⋯⋯」

 

 その言葉が、ふと口をつく。自分でも、それが何を意味するのかまでは思い出せない。……けれども、目の前のコロボーシがダークポケモンであること。そして、自分に敵意や悪意、殺意の限りを向けていることは、記憶の多くが欠けた今のリオルにもはっきりとわかった。

 

「……うん。やるしかない」

 

 波導を全身に巡らせる。右腕を身体の横へ引き、左腕を前へ。両脚で地面を掴み、低く身を構える。

 

「コォロォ……ボォォォォシィィィィィィッ!!」*3

 

 コロボーシと言えば、二本の触覚を打ち合って木琴のような音を奏でることで知られているが、実際に上げたのは、そんな風流さなど欠片もない、聞く者の本能を震わせる禍々しい咆哮だった。身に帯びた黒い波導が強まり、ともすれば自分自身も傷つけかねない激しさで突進してくる。

 対するリオルは、得意とする”はどうだん”で迎え撃つ。掌の内に波導を凝縮させ、正面からの衝突を避けるよう半歩斜めに踏み込み、思い切り右腕を振り抜いた。

 

”はどうだん”

 

”ダークラッシュ”

 

 体勢的にはリオルの側が有利だった。迫り来るコロボーシの体重も速度も乗せて、捻り込むように渾身の掌打を打ち込んだ。自信のある一撃だった。確かな手応えもあった。だというのに――

 

「――っ!?」

 

 ――打ち負けたのもまたリオルだった。コロボーシに跳ね飛ばされたリオルは、全身を走る強烈な痛みに顔をしかめる。その痛みから、それが効果抜群の技だったのだと遅れて理解した。

 ⋯⋯本来なら有り得ない。純粋なかくとうタイプであるリオルの弱点は、ひこうタイプ、フェアリータイプ、エスパータイプの三つ。対して、体当たり系の技――”たいあたり”や”とっしん”などはノーマルタイプの技だ。効果抜群になるはずがない。

 

「コロ……コロボーシィィィィィッ!!」

 

 コロボーシは止まらない。間髪入れずに再び突進してくる。先の一合で正面から迎え撃つのは難しいと悟ったリオルは、横をすり抜けるように”でんこうせっか”で駆け抜けた。背後へ回り込んだところで振り返り、淡い紫色の輝きを額に集めて――。

 

”しねんのずつき”

 

 頭突きする。足が短く転びやすいコロボーシが、突進中に背後から衝撃を受ければどうなるか。考えるまでもない。地に伏した背中を左脚で抑え込み、躊躇せず止めの一撃を叩きつけた。

 

「やあっ!!」

 

”はどうだん”

 

 コロボーシの身体越しに、地面へクモの巣状のヒビ割れを刻み込む。同時に、赤く濁った目から光が消えた。戦闘不能。ほどなくして、他のポケモンたちと同じように姿を消すだろう。

 

「ふぅ⋯⋯」

 

 一歩、二歩とコロボーシから離れる。自分の傷を”いやしのはどう”で癒やしながら、なんとなくコロボーシの方へ目を向けた。こうして倒れている姿を見ると、さっきまで自分へ襲いかかってきた相手とはいえ、なんだか放置するのも忍びない気がする。

 

「……」

 

 少しだけ迷ったあと、リオルはコロボーシへ向けて”いやしのはどう”を飛ばした。たぶん、これで大丈夫。また襲いかかられても困るので、目を覚ます前にこの場を離れたほうがいいだろう。

 

「じゃあね」

 

 最後に一言残して、リオルは静かに部屋をあとにした。歩いているうちに、だんだん視界が明るくなっていく。もしかしたら、もうすぐこの森を出られるのかもしれない。そうだといいな。そうであってほしい――そんな期待を胸に、先へと続く獣道を進んでいった。

*1
【推奨BGM:こわそうな森】ポケモン超不思議のダンジョンより

*2
【推奨BGM:せまるきょうふ】ポケモン超不思議のダンジョンより

*3
【推奨BGM:ボスバトル! 子どもたちの冒険!】ポケモン超不思議のダンジョンより




名前 :???
性別 :メス
種族 :リオル
レベル:Lv.5 → Lv.6
タイプ:かくとう
特性 :せいしんりょく / いたずらごころ / ???
持ち物:――
元ネタ:【ほの暮しの庭】より『アメ』
    【ポケモンレンジャーバトナージ】より『”カイト”のリオル』

カバン(容量12個)
・25ポケ
・オレンの実



ポケモン紹介

名前 :ダークコロボーシ
性別 :???
種族 :コロボーシ
タイプ:むし
特性 :だっぴ

【ダークラッシュ】
タイプ:ダーク
分類 :物理
威力 :55
命中率:100
効果 :通常攻撃。
    ダークポケモン以外のポケモンに攻撃すると常に効果は抜群に、
    ダークポケモンに攻撃すると常に効果はいまひとつになる。
元ネタ:【ポケモンXD】より【ダークラッシュ】
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